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恋せよ乙女

「一護は変わったな」

「そうか?」

大戦が終わり、3年が経った。

久しぶりに現世を訪れたルキアは、一護のアパートに転がり込んでいた。

「心なしか、あの頃より表情が柔らかくなった。あとは、髪型を少し変えたせいであろうか」

「まあ、平和に大学通ってるしな。死神化することもほとんどないし、斬月を振り回すこともなくなった。あの大戦はきつかったし、犠牲もいっぱいでたけど、やってきた平和はもう穏やかすぎて、二度とあんなことが起こらないように祈るだけだ」

「尸魂界では、復興が大分進んでいる。焼野原だった大地に、新しい隊舎が建てられたりして」

一護は、ルキアの言葉を聞いて安心した。尸魂界に未曽有の被害を与えたユーハバッハ。民たちは未だ霊王が存在していると思い込んでいる。

「そうか。んで、今日は何しにきたんだ?」

「理由がないと、遊びにきてはいけぬのか?」

「いや、そうじゃないけど。でも、尸魂界での復興に忙しいんだろう?」

一護の言葉に、ルキアは頷く。

「そうだ。ろくに休みもとっていなかったせいで、休暇が1か月以上もたまっておったのだ。たまには、現世で貴様の顔でも見てやろうと思ってな」

「要するに、暇なんだな」

「う・・・それより、貴様は彼女とかはいなのか?」

「今はいねーよ。だって俺にはルキアがいるから」

変わらない。

一護は、ずっとルキアを思ってくれていた。

それに振り向かないまま、3年の月日が経ち、たまに一護のアパートに遊びにくるたびに、好きだと言われた。

ルキアはまとまった休みもとれたことだし、一護と真剣に向き合おうと決めた。

「一護。私も貴様のことが、すすすすすすすきやき!」

「落ち着けよ。俺のことが好きなんだな?」

こくりと、頷くルキアを抱きしめた。

「ああ、思いが通じるってすごいな。幸福感が半端ない」

「一護、だが私は死神だ。毎日一緒にはいれぬ。せいぜい週に2日これればいいほうだ。忙しい時は月に2回ほどしか現世にこれぬかもしれぬ」

「じゃあ、その時は俺が尸魂界に行けばいいだろ?」

「一護・・・・」

ルキアの目が潤んだ。

そうほいほいと、一護が尸魂界にくるわけにはいかないが、たまにならいいだろう。

「ルキア、好きだ」

だきしめて、耳元で囁くと。

「ひゃあ」

と変な声をルキアは出していた。

「ルキア、耳弱いのか?」

「し、しらぬ。んっ」

耳を甘噛みされると声が漏れた。

一護のほうを見ると、一護はにんまりしていた。

「ルキアの弱いところ、1つ発見」

「一護!」

真っ赤になってぽかぽかと叩いてくるルキアの頭を撫でた。

それから、抱き上げた。

「俺、3年前からもう少し身長伸びたんだ。でも、ルキアは小さいままだな」

「仕方なかろう!私はこれ以上は伸びないのだ!」

むきになってくるルキアが可愛かった。

「体重軽いし・・・はぁ、ルキアの匂いがする」

抱き上げられたまま、匂いをかがれてルキアが真っ赤になった。

「お、乙女をからかうでない!」

恋せよ乙女。

そんなタイトルのくだらない恋愛漫画を、高校時代に遊子の漫画から借りて読んだことがある。

ヒロインが、愛しい人に想いを告げぬまま3年が経ち、愛しい人に愛を告げられて、お互いに想いをつげあって、ハッピーエンドになる漫画だった。

今と、状況が似ていた。

「恋せよ乙女・・・・・」

「は?」

「い、いやなんでもないのだ!それより、夕飯の時間だろう、そろそろ」

「ああ、適当になんか作ってやるから、待ってろ」

一人暮らしするようになってから、高校時代もたまに家事をしていた一護は、特に料理の面で眠っていた才能を発揮していた。

「ほらよ」

天丼をだされた。

デザートには、いつでもルキアが遊びにきていいように、白玉餡蜜を作れるようにしていたので、それもつけた。

「む・・・・美味い」

一護特定の天丼は美味しかった。

一護も、同じメニューを食べる。

「明日から、どうせ暇なんだろ?」

「う、うむ・・・・・」

「じゃあ、一緒に大学の講義でも受けるか。記憶置換はあるよな?」

「ここに、あるぞ」

「人数制の教室では、それ使ってなんとかしようぜ」

「う、うむ・・・」

恋する乙女は一直線に進んでいく。

次の日から、まるで結婚したてのような生活が始まった。

一護は朝にルキアを起こし、ルキアが朝食を作ってくれて、それを食べて大学の講義に出る。

一護はラーメン店でバイトしていた。バイト時間は大人しくラーメン店の中で待っていて、8時に仕事が終わると手を繋いで家に帰った。

次の日も、大学に行った。

「おい、黒崎、その子新しい彼女か?」

時折、一護は彼女を作った。ルキアが振り向いてくれないので、それを忘れるように彼女をつくり、愛そうとした。

でも、無理だった。

井上ともそんな関係になりそうになったが、寸でのところで一護が思いとどまった。

「そうだな。貴様には昔は彼女もいたしな・・・・・」

「ああ。ルキアのこと忘れようと思って適当に付き合ってた。すぐに別れたけどな」

この3年の間に、何人の女と付き合っただろう。見かけのよい一護はよくもてた。

「ルキアと付き合う前は、4人と付き合ってた。どれも、1か月も経たずに破局した」

「私のせい、か?」

ルキアが、一護を見つめる。

「いや、俺がルキアを忘れられなかったからで。ルキアのせいじゃない」

ふわりと、包み込むように抱き締められた。

「一護・・・どうして私は、今までこの腕をとらなかったのであろうな?」

「死神と人間だから、だろ?」

一護が、ルキアに何度もプロポーズするたびに、断る原因であることを口にする。

「そうだ。私は死神で貴様は人間・・・・でも思ったのだ。貴様と一緒に過ごし、貴様が死ねば魂魄は尸魂界にやってくる。また、やり直せると・・・・」

「おい、俺はまだ死ぬ気はないぞ」

「当たり前だ!あくまで、一緒に過ごして死んでしまったらだ!」

「死んでもルキアと一緒か。悪くねぇな」

「だからといって、早死にはするなよ!」

「しねーよ。安心しろよ」

ルキアの頭をくしゃくしゃと撫でた。

「一護!貴様、髪がぐしゃぐしゃになるではないか!」

ルキアのそんな声に笑いながら、一護と次の授業の部屋まで移動した。

その日はバイトはなかった。夕焼けの中、二人で手を繋いで歩いた。

ふと、一護が立ち止まる。

「なぁ、ルキア」

「なんだ」

「俺と、一緒に生きてくれと言ったら、生きてくれるか」

夕焼けに照らされて、一護のオレンジの髪がますます色を濃くしていた。

「よいぞ。一緒に、生きてやる」

恋する乙女は一直線。

「そうか。はははは」

ルキアを少しだけ抱き上げて、一護はくるくると回った。

「い、一護、目が回る・・・・・」

「おっとすまねぇ。そっか。一緒に生きてくれるのか」

「責任はとれよ!貴様のために、私の貴重な若い時間を与えるのだ」

「結婚しよう。尸魂界でいいから。白哉に許しをもらって・・・・」

「け、結婚!?」

「まだ先の話だけどな」

一護の言葉に、ルキアは心臓をドキドキさせっぱなしだった。

愛する者と、人間という種族の違いはあるが、結婚などできるはずもないうと、思いこんでいた。

だが、一護のことだから、きっと本当に結婚してくれるだろう。

「恋せよ乙女、だ!」

ルキアは、そう言って、夕焼けに照らされて笑っていた。あの漫画も、ハッピーエンドが結婚だった。夕焼けの中でプロポーズをされて。

「私は恋する乙女なのだ」

「乙女って年なのか?」

一護のつっこみに、脛を蹴ってやった。

「あいて!」

「まだ、十代でも通る肉体をしている!」

ルキアは、そう言って一護に思い切り抱き着いた。

「恋する乙女は一直線なのだ!」

「なんだかよくわからねーけど、ルキアは告白してからは一直線だな」

「そうであろう」

えらそうなルキアをの頭をくしゃくしゃと撫でて、夕日の中また手を繋いで歩きだす。

明日も、明後日も。そうやって、生きていくのだ。





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