それは狂気に似た想い
起きると、布団が蒼薔薇でまみれていた。
どうしたのかと見ると、京楽がいた。
「どうしたんだ、これは」
「蒼薔薇、花束を君にあげたかったけど、10本しか購入できなかった。だから、やけになってみた」
「また、蒼薔薇なんて高いもの・・・違う色の薔薇にすればよかっただろうに」
「あ、それもそうか」
と、元のいつもの飄々とした京楽に戻って、浮竹はほっとした。
でも、すぐに京楽の機嫌は崩れた。
「知り合いのやつが・・・・もうお前には売れない、この10本が最後だからっていうから頭にきてね・・・・蒼薔薇はまだたくさんあるのに、売ってくれないから」
「そんなことで腹を立てても仕方ないだろう」
「僕は、自分でいうのもなんだけど、金の力でけっこう動かしてきたから・・・・思い通りにならないことは少ない人生を送ってきた。こんなにきっぱり拒絶されたのは、君に初めて告白をして振られた日以来かな・・・・・・」
「どんな人生だ」
思い出す。
院生時代、女遊びが激しくて、廓にまで入り浸っていた京楽に告白されて、遊ばれるのかと断ったのだ。
その後、何度もプロポーズを受けて、女遊びも廓にいくこともやめて、浮竹だけを見て、甲斐甲斐しく世話をやかれて、プロポーズを受け入れたのだ。
きっと、一時のものになると思いつつも。
それが、こんなに長い間続くとは思ってもいなかった。
京楽は浮竹に本気だったし、浮竹もそんな京楽に本気だった。
蒼薔薇をかき集めて、浮竹は微笑んだ。
「10本でも嬉しいぞ」
「浮竹・・・・・」
京楽が、抱き着いてきた。
「好きだよ、好きだよ、浮竹。ずっと傍にいてね」
「本当に、どうしたんだ京楽」
「女性だけど・・・・飲み友達だった友人が、自殺したんだ。肺の病を抱えていて、治らないからと自殺を・・・・・」
息をのんだ。
「京楽、俺は大丈夫だ。自殺したりしないし、病にも負けない」
「うん・・・・」
京楽は、その女性の自殺で酷く傷ついているようだった。
「京楽、俺の顔を見ろ」
「うん」
「この顔が、お前を置いて自殺したり、病で死んでしまいそうに見えるか?」
「ううん、見えない」
京楽を優しく抱きしめて、浮竹は言った。
「俺は、お前を置いて何処にもいかない。もしも、逝くことがあるとしたら、ちゃんとお別れをいう」
「そんなこと言わないで、浮竹」
「ああ、すまない。ちょっと、縁起が悪かったな」
京楽は、強く浮竹を抱き締めた。
浮竹も、強く京楽を抱き締めた。
そのまま、布団に横になる。お互いの体温を共有しあった。
触れるだけのキスを繰り返す。
今日の京楽は、浮竹を抱く気はないようで、浮竹も京楽の傷ついた心を癒してあげようと、京楽に優しく接した。
「なんだか、こんな風に抱き合ってごろごろしていると、院生時代を思い出すね」
「そうだな」
院生時代は、付き合うようになってから、体の関係にいくまでに3年はかかった。
仕事もせず、2時間ほど布団の上で体温を共有し合い、ごろごろしていたら、昼餉の時間になった。
「清音、いるか、清音ーー」
「はーい隊長!」
「すまないが、昼餉を二人分もってきてくれ」
「分かりました」
清音は、すぐに二人分の昼餉をもってきてくれた。
「天ぷら丼か・・・」
「おいしそうだね」
「ほら、京楽、海老をやる」
「いいの?」
いつもなら、京楽が浮竹にメニューの何かをやるのだが、今日は反対だった。
今日は、京楽の気が済むまで甘えさせてやろうと思った。
「大好きだよ、浮竹」
「俺も大好きだ、京楽」
唇が重なり合う。
やはり、今日は京楽は浮竹を抱くつもりはないようだった。
夕餉をとり、夜になった。
「何処にも行かないで・・・・」
「おいおい、明日の仕事のことを仙太郎に言いにいくだけだ」
「僕も一緒に行く」
「まぁいいが」
隊舎で、仙太郎に話をつけた。京楽は、浮竹の後ろから浮竹の腰に手を回して、抱き着いていた。
「京楽隊長、今日ちょっと変じゃありませんか?」
「ああ、ちょっと傷心気味なんだ。甘えたい気分なんだ、好きなだけ甘えさせてやってるんだ」
「そうですか」
雨乾堂まで戻ると、京楽は浮竹を強く腕にかき抱いた。
「君が、誰かをその瞳に映すのがいやだ」
「おい、京楽・・・・・はぁ、今日だけだぞ」
京楽を、甘えるだけ甘えさせた。
やはり、夜になっても京楽は浮竹に手を出してこなかった。
「君の瞳に映るのは、僕だけでいい」
「京楽、愛してる」
「僕も、浮竹、君を愛してる」
とさりと、布団の上で横になる。
体温を共有しあっていると、二人はいつの間にか、眠りに落ちてしまっていた。
次の日、朝を迎えると、京楽はつきものが落ちたような顔で、普通に接してきた。
「朝餉、食べない?」
「ああ、そうだな。おーい、仙太郎ーーー!」
朝餉は、焼いた鮭におにぎり、卵焼き、味噌汁に漬物だった。
朝のメニューは、けっこう普通で、他の隊と似たようなものだ。
夜のメニューが豪華なのだ。昼もそこそこ豪華だが。
朝餉を食べ終えると、京楽は、すっきりした顔で、8番隊執務室に帰って行った。
浮竹は、仕事を終えると、念のために8番隊の執務室を訪れた。
京楽は、七緒にお説教を受けながらも、溜まった仕事を片付けていた。
「浮竹?どうしたの、8番隊の執務室までくるなんて珍しいね」
「いや、昨日のお前の様子がおかしかったからな。今日は大丈夫だろうかと思って」
「浮竹は、いつも優しいね」
「京楽こそ、いつでも優しいぞ」
「僕はもう大丈夫だよ」
「そうか。うーん、せっかくだし、8番隊で夕餉をとって帰るか」
「ここの食事、13番隊よりは劣るよ」
「構わないさ。豪華なものを期待しているわけじゃない。お前と一緒に食べたいんだ」
その言葉に、京楽が笑顔になった。
ああ、この笑顔を見るのも、2日ぶりくらいだ。
いつも飄々としていて、そうとは分からないが、京楽はけっこう繊細なのだ。だから、女性の死のことが気になっていた。
もう、乗り越えたようで、浮竹も安堵するのであった。
どうしたのかと見ると、京楽がいた。
「どうしたんだ、これは」
「蒼薔薇、花束を君にあげたかったけど、10本しか購入できなかった。だから、やけになってみた」
「また、蒼薔薇なんて高いもの・・・違う色の薔薇にすればよかっただろうに」
「あ、それもそうか」
と、元のいつもの飄々とした京楽に戻って、浮竹はほっとした。
でも、すぐに京楽の機嫌は崩れた。
「知り合いのやつが・・・・もうお前には売れない、この10本が最後だからっていうから頭にきてね・・・・蒼薔薇はまだたくさんあるのに、売ってくれないから」
「そんなことで腹を立てても仕方ないだろう」
「僕は、自分でいうのもなんだけど、金の力でけっこう動かしてきたから・・・・思い通りにならないことは少ない人生を送ってきた。こんなにきっぱり拒絶されたのは、君に初めて告白をして振られた日以来かな・・・・・・」
「どんな人生だ」
思い出す。
院生時代、女遊びが激しくて、廓にまで入り浸っていた京楽に告白されて、遊ばれるのかと断ったのだ。
その後、何度もプロポーズを受けて、女遊びも廓にいくこともやめて、浮竹だけを見て、甲斐甲斐しく世話をやかれて、プロポーズを受け入れたのだ。
きっと、一時のものになると思いつつも。
それが、こんなに長い間続くとは思ってもいなかった。
京楽は浮竹に本気だったし、浮竹もそんな京楽に本気だった。
蒼薔薇をかき集めて、浮竹は微笑んだ。
「10本でも嬉しいぞ」
「浮竹・・・・・」
京楽が、抱き着いてきた。
「好きだよ、好きだよ、浮竹。ずっと傍にいてね」
「本当に、どうしたんだ京楽」
「女性だけど・・・・飲み友達だった友人が、自殺したんだ。肺の病を抱えていて、治らないからと自殺を・・・・・」
息をのんだ。
「京楽、俺は大丈夫だ。自殺したりしないし、病にも負けない」
「うん・・・・」
京楽は、その女性の自殺で酷く傷ついているようだった。
「京楽、俺の顔を見ろ」
「うん」
「この顔が、お前を置いて自殺したり、病で死んでしまいそうに見えるか?」
「ううん、見えない」
京楽を優しく抱きしめて、浮竹は言った。
「俺は、お前を置いて何処にもいかない。もしも、逝くことがあるとしたら、ちゃんとお別れをいう」
「そんなこと言わないで、浮竹」
「ああ、すまない。ちょっと、縁起が悪かったな」
京楽は、強く浮竹を抱き締めた。
浮竹も、強く京楽を抱き締めた。
そのまま、布団に横になる。お互いの体温を共有しあった。
触れるだけのキスを繰り返す。
今日の京楽は、浮竹を抱く気はないようで、浮竹も京楽の傷ついた心を癒してあげようと、京楽に優しく接した。
「なんだか、こんな風に抱き合ってごろごろしていると、院生時代を思い出すね」
「そうだな」
院生時代は、付き合うようになってから、体の関係にいくまでに3年はかかった。
仕事もせず、2時間ほど布団の上で体温を共有し合い、ごろごろしていたら、昼餉の時間になった。
「清音、いるか、清音ーー」
「はーい隊長!」
「すまないが、昼餉を二人分もってきてくれ」
「分かりました」
清音は、すぐに二人分の昼餉をもってきてくれた。
「天ぷら丼か・・・」
「おいしそうだね」
「ほら、京楽、海老をやる」
「いいの?」
いつもなら、京楽が浮竹にメニューの何かをやるのだが、今日は反対だった。
今日は、京楽の気が済むまで甘えさせてやろうと思った。
「大好きだよ、浮竹」
「俺も大好きだ、京楽」
唇が重なり合う。
やはり、今日は京楽は浮竹を抱くつもりはないようだった。
夕餉をとり、夜になった。
「何処にも行かないで・・・・」
「おいおい、明日の仕事のことを仙太郎に言いにいくだけだ」
「僕も一緒に行く」
「まぁいいが」
隊舎で、仙太郎に話をつけた。京楽は、浮竹の後ろから浮竹の腰に手を回して、抱き着いていた。
「京楽隊長、今日ちょっと変じゃありませんか?」
「ああ、ちょっと傷心気味なんだ。甘えたい気分なんだ、好きなだけ甘えさせてやってるんだ」
「そうですか」
雨乾堂まで戻ると、京楽は浮竹を強く腕にかき抱いた。
「君が、誰かをその瞳に映すのがいやだ」
「おい、京楽・・・・・はぁ、今日だけだぞ」
京楽を、甘えるだけ甘えさせた。
やはり、夜になっても京楽は浮竹に手を出してこなかった。
「君の瞳に映るのは、僕だけでいい」
「京楽、愛してる」
「僕も、浮竹、君を愛してる」
とさりと、布団の上で横になる。
体温を共有しあっていると、二人はいつの間にか、眠りに落ちてしまっていた。
次の日、朝を迎えると、京楽はつきものが落ちたような顔で、普通に接してきた。
「朝餉、食べない?」
「ああ、そうだな。おーい、仙太郎ーーー!」
朝餉は、焼いた鮭におにぎり、卵焼き、味噌汁に漬物だった。
朝のメニューは、けっこう普通で、他の隊と似たようなものだ。
夜のメニューが豪華なのだ。昼もそこそこ豪華だが。
朝餉を食べ終えると、京楽は、すっきりした顔で、8番隊執務室に帰って行った。
浮竹は、仕事を終えると、念のために8番隊の執務室を訪れた。
京楽は、七緒にお説教を受けながらも、溜まった仕事を片付けていた。
「浮竹?どうしたの、8番隊の執務室までくるなんて珍しいね」
「いや、昨日のお前の様子がおかしかったからな。今日は大丈夫だろうかと思って」
「浮竹は、いつも優しいね」
「京楽こそ、いつでも優しいぞ」
「僕はもう大丈夫だよ」
「そうか。うーん、せっかくだし、8番隊で夕餉をとって帰るか」
「ここの食事、13番隊よりは劣るよ」
「構わないさ。豪華なものを期待しているわけじゃない。お前と一緒に食べたいんだ」
その言葉に、京楽が笑顔になった。
ああ、この笑顔を見るのも、2日ぶりくらいだ。
いつも飄々としていて、そうとは分からないが、京楽はけっこう繊細なのだ。だから、女性の死のことが気になっていた。
もう、乗り越えたようで、浮竹も安堵するのであった。
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