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春うらら

「隊長・・・・・いい匂いがする」

「白桃の湯に浸かったのだ。その匂いであろう」

「あー抱き締めたい。抱きしめていいっすか?」

念のため、承諾の許可をとる。

「好きにしろ」

そう言われたので、白哉を腕の中に抱きしめた。

「最近、ずっとこんな甘い香させてますね。食べたくなっちゃいそう」

「食べられては困る」

美しく整った顔に、少しだけ笑みが浮かんだ。

沈着冷静、鉄面皮。

表情を出さないことが多いだけで、何も感情をまるっきり外にださないわけではないのだ。

微笑む時もあるし、怒る時もある。

「そろそろ離れろ。ここは執務室だ」

「あー残念。別邸の館なら、あんたを押し倒していたのに」

その言葉に、白皙の美貌に朱がさした。

気品があり、気高く、けれど儚く、けれど強く。

白哉を表現するには、一言では無理だ。

恋次は、そんな白哉が好きだった。自分の体の下に組み敷かれて、その細く白い体で乱れる様を見るのが好きだった。

白哉を―——隊長を乱れさせるのは、自分だけと分かっているから、優越感にも浸れる。

「好きです、隊長」

「私は・・・・・」

いつも、言葉を途中で止めてしまう。

でも、抱いている時は素直に好きだといってくれる。

「隊長、今夜いいですか」

「だめだ」

「どうしてですか」

「恋次、お前は盛りすぎだ。3日前も抱いたばかりであろう」

「俺としては、毎日抱きたいんすけどね」

「私の体がもたぬ」

「優しくしますから・・・・だめ?」

「だめなものはだめだ」

その会話は終わりだとばかりに、恋次の前にどさりと書類が置かれた。

「恋次も、仕事をしろ」

「はぁ、やっぱだめか」

残念がりつつも、仕事をこなしていく。

ぽかぽかと、春の日差しが窓から入ってくる。

気づくと、うとうとしていた。よく怒られなかったものだと、白哉の方を見ると、なんと珍しいことに白哉が、眠っていた。

起こしたほうがいいのか逡巡する。

別に、最近睡眠不足というわけでもなさそうだ。ただ、春のうららかな日差しにやられてしまっているようだった。

恋次は、済に置かれていた仮眠時用の毛布を、そっと白哉の肩にかけた。

「ん・・・・・・」

起こしてしまったかと思ったが、白哉の眠りは深いようで、起きなかった。

1時間ほどして、白哉は起きた。

副官が、毛布をかけてくれていたことに驚くが、その副官が書類の上に頭を乗せて寝ているのを見て、白哉は恋次の頭をはたいた。

「起きろ。仕事をしろ」

「はっ・・・俺、寝てました?」

「よだれのあとがある」

「うわ、最悪だ。すんません、隊長。隊長も寝ていたから、お相子ですよ」

「私は、今日の分の仕事はもう全て片した後に眠ってしまったのだ。恋次の仕事はまだあるぞ」

「うわ、これ急がないと終了時刻まで間に合いそうもない」

「言っておくが、手伝わぬからな」

そんな優しい白哉ではない。

恋次は、何故寝てしまったのかと自分を呪いながら、結局残業する羽目になるのであった。

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