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やちるⅡ

「ごほっごほっ」

その日も肺の病の発作が起こった。いつもの雨乾堂でなく、たまたま遊びに来ていた11番隊の道場でだった。

「うっきー、大丈夫?」

更木をはじめ、一角や弓親が訓練に精を出すのを、ただ静かに見ていた。

13番隊でも、こういった竹刀をもった訓練をさせるのもいいかもしれないと。

「ごほっごほっ・・・・・・・・・・」

苦し気に身を捩る浮竹に、11番隊の面子も心配そうな顔をする。

「うっきー、今すぐもじゃりん呼んでくるから!」

やちるとて、死神だ。瞬歩くらいは使えた。

8番隊のところにいくと、執務室にいたもじゃりんこと、京楽を引っ張った。

「どうしたのやちるちゃん」

「もじゃりん、うっきーが発作起こして大変なの!」

「ええっ、何処でだい!?」

雨乾堂でなら、仙太郎と清音が気づいてくれえる可能性は非常に高い。

でも外だと・・・・・。

「11番隊の道場だよ!」

やちるを肩に乗せて、京楽は瞬歩で11番隊の道場にやってきた。

「浮竹!」

「ごほっごほっごほっ・・・・・・・・」

何度か吐血を繰り返し、最後に大きく吐血して、浮竹は気を失った。

「どいて!4番隊綜合救護詰所まで運ぶから!」

「今、死神の一人が4番隊に走って行きました」

弓親がそういうが、京楽は首を振った。

「僕の瞬歩の方が早い!」

軽い浮竹を抱き上げて、瞬歩で
4番隊隊綜合救護詰所にやってくると、4番隊の隊長卯ノ花が、回道で応急手当てをしてくれた。

「発見が早かったから、大事に至りませんでしたが・・・数日は、入院することになると思います」

「ありがとう、卯ノ花隊長。いつもいつも、世話になるよ」

「浮竹隊長は病人ですから。病人を看護するもの、4番隊の責務です」

そのまま、浮竹は緊急入院が決まった。

「早く、元気になっておくれ」

意識のない浮竹の手をとってにぎると、生きている証の温かみがあって、それに安堵する。

しばらくしてから、やちるがやってきた。

「うっきー、大丈夫?」

「大丈夫だよ、やちるちゃん。心配してくれて、ありがとうね」

「もじゃりんも、あんまり根気つめないでね」

浮竹の肩によじ登って、その頭を撫でてくる。

今回はやちるに救われた。

4番隊にいって、人を呼んでくる間に、浮竹の病状が悪化する可能性があった。

やちると卯ノ花のお陰で、無事浮竹は命を取り留めた。もっとも、浮竹は発作をおこしてて死にそうになることは何度かあったが、いつも無事なので、心の何処かで安堵していたのだ。

いけないいけない。

浮竹の肺の病は、酷いのだと自分に言い聞かせた。

「うっきー、あんなに血を吐いて大丈夫かな?」

「浮竹は肺を患っているからね」

「肺の病になると、血を吐くの?」

「浮竹の病気はね。でも他人にうつる心配もないし。他にも肺の病はあるけど、吐血する病気は一部だけかな」

「よくわかんない」

やちるは幼い。

幼子に、病気の難しいことを言っても理解不能だろう。

「早くうっきーが元気になるといいね!」

「そうだね」

それから、やちるは毎日のように浮竹の病室にきた。仕事を病室にもちこみ、病室で寝泊まりしている京楽を真似て、1日だけ
綜合救護詰所で寝泊まりをして、帰っていった。

「うっきー、目さまさないね?このまま死んじゃうのかな?」

「大丈夫、もうすぐ意識が戻るよ」

それは、感に似た思い。いつも肺の病で倒れ、意識を失うと1週間くらいで意識を取り戻した。

「ここは・・・・・・」

浮竹が、翡翠の瞳を開く。

「浮竹?大丈夫?」

「ああ・・・・」

点滴の管が痛々しかったが、浮竹は意識を取り戻した。

半身を起こして、浮竹はやちるの存在に気づいて、驚いていた。

「草鹿副隊長?」

「やっほー。うっきー目が覚めてよかったね!」

「どうして草鹿副隊長がここに?」

「君を心配して、毎日見舞いにきてくれていたんだよ」

「そうか・・・・・ありがとう、草鹿副隊長」

「どういたしまして!剣ちゃんが、最近心配してるから、これで戻るね!うっきーともじゃりんは、早くあつあつに戻ってね!」

やちるにまで、浮竹と京楽の仲は知られているようで、二人はしばし無言で・・浮竹など、朱くなって顔を手で覆っていた。

健康だったら、きっとベッドの上でごろごろして、照れ隠しの行動をとっていただろう。

「卯ノ花隊長を呼んでくるね」

「ああ・・いつも、すまないな」

「もう慣れっこだよ」

そう残して、京楽は卯ノ花を呼びにいった。

それから3日ほど安静にと命じられて、病室で静かに過ごしていた。京楽は、相変わらず毎日やってきて、仕事を病室で片付けて、常に傍にいてくれた。

「もう大丈夫でしょう。退院手続きをしますね」

卯ノ花が、浮竹の様子を見てそう言ってくれた。

「仕事、たまってるだろうなぁ」

浮竹が、1週間以上も仕事ができなかったことに、心配げだった。

「3席の子たちが、頑張ってたみたいだよ」

「そうか。仙太郎と清音が・・・・・」

何はともあれ、浮竹は退院した。瞬歩で抱き上げて移動するかいという、京楽の問いには否と答えた。

「少しでも、体力を取り戻さないと。雨乾堂には、歩いて帰る」

けっこうな距離を、休憩をはさみつつ歩く。

雨乾堂でも、しばらくの間無理はさせれない。京楽が浮竹にキスをすると、それに応えてはくれるが、とてもそういう気分にはなれなかったし、無理できないので、しばらくの間はずっとお預けだ。

「もっと元気がでたらな・・・・・・」

「約束だよ」

もう、半月以上浮竹に手を出していない。

退院したばかりの浮竹に無理はさせれないし、京楽は笠ををとって、浮竹の白い長い髪に口づけた。

「早く元気になってね」

「ああ・・・・・」

浮竹と京楽は、やっと雨乾堂に戻ってきた。

「隊長!」

「うわーん隊長!」

仙太郎と清音が、抱き着いてきた。

何度か病室に訪れてきていてくれたらしいが、浮竹の不在を預からなければならないし、貯まっていく仕事を片付けないといけないので、長いこと病室にはいれなかったのだ。

「二人とも、心配をかけたな」

「もう大丈夫なんですか、隊長!」

「このくそ女の言う通りです!無理はくれぐれもしないでください!」

きっと、仙太郎は京楽を睨んだ。

「浮竹隊長に無理をさせたら許しません!」

「まぁまぁ、仙太郎。京楽も、ちゃんと分かってくれているから」

「そうだよ。いくら僕でも、病み上がりの浮竹に無理はさせないさ。もう半月以上お預けくらってるのに、現に手をだしていないでしょ?ただ、キスやハグはさせてほしいな」

「それくらいなら・・・・・」

「浮竹隊長、体力が戻るまで、その気にさせられてものってはいけませんよ!」

清音が、浮竹に釘をさす。

それに苦笑を零して、浮竹は雨乾堂に入っていった。

「はー。10日ぶりの我が家だ・・・・」

「寝ている間、体をふいてもたったり、髪を洗ってもらたりしていたけど、まずは湯あみでしょ?」

「ああ!早く入りたい」

雨乾堂備え付けの浴槽に湯をはって、二人で湯あみをした。

「入院してると、長い髪は洗いにくいからな・・・・・でも、切るとお前が悲しむだろう?」

「そうだよ。浮竹は長い髪が似合っているんだから」

白桃の湯の元をいれているので、湯船からいい匂いがした。

「君の甘い花の香もいいけど、白桃の湯の甘い香りも僕は好きだな」

「俺も好きだな」

互いの髪を洗いあい、背中を流しあって、やっとさっぱりした浮竹は、湯あみが終わると京楽にドライヤーで髪を乾かしてもらった。

それから、もつれあうように布団に横になった。

京楽はキスをしたり抱き着いたりするだけで、それ以上は何もしてこなかった。

「夕餉、食べていくだろう?」

「うん。泊まってく」

浮竹は、京楽とこうやって何気ない日常を過ごすのが少し久しぶりなので、はしゃいでいた。

「夜は酒盛りをしよう」

「大丈夫なの?」

「少々なら、酒くらい大丈夫だ」

二人は、寄り添いあいながら、他愛ない時間を共有するのだった。






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