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翡翠の想い

「君が、色街の女ならどんなに良かったか・・・・・・・」

大金を積んで、身請けして自分のものにしていたのに。

京楽の頬をはたいて、出て行ってしまった浮竹の跡を追う気はなかった。追ったとしても、きっと立ち止まってくれない。

「僕はばかだな・・・・・」

大切な存在に、気持ちを確かめもせずに手をだして。

でも、キスくらいならいいんじゃないと思ったのも、本当だ。だが初心(うぶ)な浮竹には、そのキスさえ許せるものではなかったのだろう。

何時間たっても帰ってこないので、京楽は浮竹が心配になって部屋を出た。

すると、部屋の外の扉の前で、浮竹は眠りについていた。

「こんな場所で・・・・風邪ひくよ」

すっかり眠ってしまっている浮竹を抱き上げて、部屋にいれるとベッドに寝かせて、毛布と布団をかけてやった。

結局、次の日浮竹と顔を合わせたが、昨日のことがなかったように振る舞われて、京楽も昨日のことをなかったことにした。



季節は過ぎていく。

夏になり、蒸し暑い季節になった。

浮竹と京楽の仲に進展はなく、お互いを親友として仲良くしていた。

夏の途中に何度か直射日光に浮竹が倒れたり、肺の病の発作で血を吐いて倒れるようなことはあたが、その看病を京楽がしていると、自然と浮竹が倒れると京楽の名が呼ばれた。


ある日の午後。

「京楽、浮竹がまた倒れたんだ!」

もう何回目になるかもわからない。

熱を出した浮竹を寮の部屋に寝かせて、氷水でぬらしたタオルを浮竹の額にのせる。

「京楽・・・・・・」

浮竹は、熱にもうろうとした意識の中で、京楽を求めていた。

「浮竹?僕はここにいるよ」

浮竹の手をにぎって、ぬるくなったタオルを氷水にちゃぷりと浸し、しぼって浮竹の額に乗せた。

「京楽・・・いくな・・・・・」

「僕はここにいるよ。何処にもいかない」

「京楽・・・傍に、いて?」

珍しく、浮竹が甘えてきた。
熱にうなされて、潤んだ瞳に見上げられて、京楽は浮竹に口づけていた。

「んうっ・・・・・・」

「浮竹・・・!」

「やっ・・・・・・」

浮竹の瞳から、涙が零れ落ちる。

京楽は、その涙を吸い上げて、浮竹の少し長くなった髪に口づけた。

出会った頃から、浮竹に白い長い髪が綺麗だから伸ばせばいいと囁いていた。浮竹は、京楽に言われてから、髪を切ることを止めてしまった。

「この髪・・・僕のせいかい?」

「そうだ・・・・京楽のせいだ」

熱に潤んだ瞳で、京楽の漆黒の瞳を射抜く。

「お前の想いは知っている」

ぎくりと、体を強張らせる。でも、何度も口づけた。浮竹の意識がない時、何度もその唇に唇を重ねた。さっきも口づけた。

「俺が好きなんだろう?」

「そうだよ。翡翠の瞳をした太陽が欲しいと思ったんだ。君の存在は、太陽そのもので・・・・翡翠の瞳をしていた」

「誰かの影を、重ねているんだろう?」

「最初はそうだった。でも、今は浮竹、君が好きだ」

浮竹が熱にうなされているのをいいことに、何度も口づけた。浮竹は拒絶しなかった。

首筋を吸い上げると、怒られた。

「痕を、残すな・・・・・・」

「ごめん」

いつの間にか、浮竹のベッドに腰かけて、浮竹の頬に手を寄せていた。

「お前の手・・・・冷たくて、気持ちいい」

すり寄られて、京楽は声もなく浮竹の唇をふさいだ。今までにしたことのない、大人の口づけ。

舌と舌を絡ませあい、逃げていく浮竹の舌を追った。口内を好きなだけ蹂躙すると、浮竹の口から飲み込み切れなかった唾液が、つっと糸をひいた。

ドクン。

京楽の鼓動が高鳴る。

「ああ、もう!」

京楽は、浮竹の細い体を抱き寄せた。

「君は、狼の僕の前であまりにも無防備すぎる!」

「でも、無理やりはしてこないだろう?」

「大切な君を、そんなことで失くしたくない!」

今すぐにでも、浮竹を抱きたいのは事実だった。熱をもった自分自身を、京楽は持て余していた。

「キスとハグと・・・・もう少し先のところまでは、許してやる。でも、俺も男だ。抱かれる覚悟がない」

「君、僕のこと、受け入れてくれるのかい?」

「そうじゃなきゃ、こんなこと言ってないし、お前の行動を許していない。多分お前のことが好きなんだ・・・京楽」

多分と言われたが。

京楽は、拳を握っていた。

「よっしゃーー!」

口調も、珍しく変わる。

「僕は君が好きで、君も僕が好き・・・・・・それで、いいんだね?」

「ああ・・・やぁっ」

浮竹に覆いかぶさって、衣服の襟元をくつろげて、鎖骨のあたりにキスマークを残した。

「や、京楽・・・・・やあっ」

細いが、しなやかな筋肉のある体の輪郭を確かめる。全身にキスの雨を降らせて、でもそこで終わらせた。

これ以上は、熱のある浮竹には負担がかかりすぎるし、浮竹の意思を無視して抱くことなどできない。

「君が、僕の全てを受け入れてくれるまで、いつまでも待つから」

「京楽・・・・・」

その日、熱が収まらない京楽は、久しぶりに蒼を買った。

「どうしたの、京楽の旦那。えらく、機嫌がよさそうだけど」

「ああ、蒼・・・・君を買うのも、そろそろ終わりかもしれない」

「なんだって!?あたし以外に、いい人でもできたのかい!?」

蒼にとって、死活問題だった。

「浮竹と、想いが通じ合ったんだ」

「え・・・・・」

「まだ京楽を抱けないから、蒼を買いにくるかもしれないけど、京楽が僕の想いをすべて受け入れてくれたら、もう色街にはこない」

蒼は、歯ぎしりをした。

せっかくの上客をなくしてなるものかと。

蒼は思案する。どうすれば、京楽が自分のものになるかを。

色街から帰ってくると、浮竹がふてくされていた。

「また、色街にいってきたんだろう」

「ああ・・・確かに女を抱いた。でも、君が嫌ならもうやめる」

「俺が、抱かせないせいだろう?俺の覚悟ができるまで、女を買うことは許してやる」

「ごめんね、浮竹」

浮竹に口づける。浮竹からは、いつも甘い花の香がした。それがまた京楽を刺激する。

「はぁ・・・・浴室に、いってくる」

京楽は若い。蒼を抱いたくらいでは、まだ満足できないでいた。浮竹はどうなんだろう?一人で処理しているのだろうか?

もしそうなら、処理の手伝いをしてやろうとほくそ笑む、京楽がいた。




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