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アイスバース京浮~京楽の場合~

世の中には、アイスとジュースというものが存在する。
アイスの特徴は、体温が冷たいこと、体が弱いこと、もう一つはジュースと結ばれると3分以内に体が溶けてしまうこと。

ジュースはアイスに好意を抱いてしまうことが多く、アイスとジュースが結ばれることはアイスの死を意味している。

ジュースは自分がジュースであるということを知らない場合がほとんどだ。

アイスもジュースも稀なので、検査などたまにしか行われなかった。

京楽は、アイスだった。

そして、浮竹はジュースだった。

京楽は、浮竹を愛していた。浮竹が好きだった。

だが、浮竹は京楽のことを親友と思っていた。

だから、京楽は浮竹に想いを伝えることはせず、一緒に隊長を続けていた。

二人は、親友として寄り添い合っていた。

「浮竹、今日の気分はどうだい?」

「ああ、京楽か。今日は熱も下がって、大分気分がいいんだ」

「でも、無理しちゃだめだよ?体を大切にしなきゃ」

京楽がが、ぎゅっと浮竹の手を握る。

「いつも思うんだが、お前の手って冷たいな」

ぎくりとした。

自分がアイスであると、ばれてしまうのではないかと思った。

「手が冷たい分、心は温かいっていうしな」

朗らかな浮竹の笑顔で、心の中の氷はじわじわと溶けていった。

ああ。

浮竹に、好きと伝えたい。

そして、想いをうけいれてもらいたい。

そうしてアイスとして溶けていけるなら、それでもいい。幸せなまま死ねるなら。

そうとさえ思った。

こんなちっぽけな命。

浮竹のために溶けていけるなら、それもいい。


統学院時代、アイスバースの検査があった。

京楽と浮竹は、正常といわれていた。

真実を知った京楽が、金の力で京楽がアイスであり、浮竹がジュースであることをもみ消したのだ。

愛していた。

愛されたかった。

でも、思いが通じあうことは、京楽の死を意味にしていた。

もしも、浮竹が京楽のことを好きになってしまえば、想いを告げた時に京楽はアイスであるから、溶けて水となって消えてしまう。

残される浮竹のことが、とても心配だった。

浮竹
のことだから、後を追うようなことはしないだろうが、きっとすごく塞ぎこんで、悲しみのドン底を味わうだろう。

それが嫌だった。

浮竹には、常に幸せでいてほしかった。

隊長になって、またアイスとジュースの検査があった。

アイスとジュースは、稀に成長した後でもなることがあるのだ。

今回は、京楽がアイスで、浮竹がジュースであることが公になった。

アイスとジュースであるということが、二人に溝を作り、いつしか二人はあまり話さないよになっていた。

というか、浮竹が強制的に京楽から引き離された。

浮竹の副官である海燕が、浮竹が悲しむのを警戒して、京楽を近寄らせなかった。

浮竹は、寂しかった。

浮竹もまた、院生時代からずっと続く友情に、疑問を抱いていた。

きっと、京楽は自分のことが好きだ。

そう思った。

何故なら、浮竹は京楽のことを好きだったから。

自分がジュースであることは知っていた。京楽がアイスであることも知っていた。

溶けて死なせてしまうことなんてできないので、想いを告げずに、告げられても受け入れるつもりはなかった。

時はたち、藍染の反乱が終わったと思ったら、その後に後に大戦と呼ばれる滅却師の襲撃があった。

始めの襲撃で、京楽は右目を失い、右耳も半分失っていた。

敵はユーハバッハ。

狙いは、霊王。

浮竹は、もしもの時のために、神掛の準備を行っていた。

護廷十三隊のために死なば本望。

やがて、霊王はユーハバッハの手で無へと還された。

浮竹の神掛のみが、世界を支えていた。

「ぐっ・・・・ごほっ」

浮竹は何度も血を吐いた。

ミミハギ様を失った肺は、病を進行させていた。

黒崎一護が、ユーハバッハを打ち倒した。

朗報を耳にして、浮竹は安堵した。

もう、残り僅かなこの命、せめて京楽のために散ろう。

そう思った。

「浮竹・・・・じっとしてなきゃだめだよ。どうしたの、一番隊のこんな場所にきて」

京楽は、眼帯をしていた。

右目の再生手術は失敗に終わり、義眼をはめてはいるが、いつも眼帯をしていた。

そんな京楽の傍にいき、京楽に口づけた。

「浮竹?」

「京楽、俺はお前が好きだ。愛している」

「うき・・・たけ・・・・・」

「お前は?お前は、俺をどう思っている?」

「僕は・・・・・」

言ってはいけない。

言っては、尸魂界を、傷ついた瀞霊廷を、たくさんの死神達を残して水になって溶けてしまう。

「京楽、楽になってしまえ。俺と一緒に、きてくれ。俺と一緒に、死んでくれ」

浮竹の命は、風前の灯だった。

「ごほっごほっ」

「浮竹!」

血を吐いて倒れた浮竹は、泣いていた。

「お前が好きだ、春水」

ああ。

もう、何もかもどうでもいい。

愛しい浮竹が、僕のことを好きで愛してくれているという。

ジュースの浮竹は、僕が想いをつげて溶けても、アイスの僕のように溶けることはないだろう。

でも、すでに浮竹は限界にきている。

命を落とすだろう。

もう、助ける方法はない。

京楽は決意する。

浮竹を抱き上げて、かろうじで残っていた雨乾堂に行き、浮竹を横たえた。

「京楽は?京楽も、俺のことを好きなんだろう?」

頬に手をあてられた。

京楽も、泣いていた。

「好きだよ。出会った頃から、ずっと好きだった。でも僕はアイスで、君はジュースで・・・想いを今まで伝えられなかった。ごめんね」

「いい。最後に、お前の全部を手に入れられた」

暖かい浮竹に抱かれながら、愛を告げて受け入れられたアイスの京楽は、浮竹に愛を注いで、溶けるまでの3分間、好きだよ愛してるよと告げて、水になって溶けてしまった。

ばさりと、8番隊の羽織が残された。

ぐっしょりと濡れた死覇装を手にして、浮竹は静かに泣いた。

そして、血を吐いた。

「京楽・・・・俺も逝く。お前と一緒に。行こう、一緒に・・・・・」

京楽春水、浮竹十四郎。

歴史では、二人とも大戦で命を失ったとされた。

愛を告げ合って、心中のように死んでいったことなど、ごく一部の者しか知らなかった。


二人は、一緒の場所にいた。

霊子の海に還り、浮遊していた。

ふとした意識の狭間で、愛を囁き合い、魂が輪廻するのを待つ。



「やぁ。僕は春(ハル)っていうんだ。君は?女の子でしょ?」

「俺は男だ!」

男の子と名乗った、白い髪のふわふわした翠色の瞳をした子は、自分の名を告げる。

「俺は白(しろ)。なんだろうな、春とは初めて会った気がしない」

「奇遇だね。僕もなんだ」


魂は、霊子へと還って輪廻を続ける。

魂がある限り、現世でいき、尸魂界にいき、また現世にいき、尸魂界にいき。

出会いは、繰り返される。


アイスとジュースを克服して、魂は廻る。










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