エンシェントエルフとダークエルフ3
冒険者たちは、皆Sランク冒険者を目指す。
Sランク冒険者は富と名声を得られて、幸せになれる。そう思われているが、実際のSランク冒険者はいつも死と隣り合わせの世界に住んでいる。
チートみたいに規格外に強くない限り、Sランク冒険者は努力と根性でできていた。
そのSランク冒険者もそうだった。
風の旅人という名の冒険者パーティーは、Aランクの仕事を請け負った。
それは、京楽たちも受けた同じ内容の依頼で、複数で可能な仕事であった。
内容は、ワイバーンの退治であった。しかも、複数の。
Bランクの浮竹と京楽だけでは、実際きつい内容だったので、Sランクの冒険者と一緒に旅ができると知って、浮竹と京楽は喜んだ。
「Bランクになってどれくらいになる?」
「半年だ」
「ふむ。二人で半年生きていれるってことは、相当な使い手だな」
「そうでもない。相棒がよかったせいだ」
「ウッドエルフの魔法使いか」
ぎくりと、京楽が体を強張らせる。
「ウッドエルフは弓手が多いのに、よく魔法使いになれたな」
「適性があったからだよ。基本4属性魔法と氷、雷と聖属性の回復魔法が使える」
「そりゃすごい。闇も使えれば、全属性に適正ありだったろうに。惜しいな。全属性に適正があれば、宮廷魔導師も夢じゃなかったろうに」
「あははは、そこまで魔法の腕はまだないよ。修行中の身だからね。使えるのは火の上級魔法とあとの属性は中級魔法までさ」
「それでも十分にすごいぞ。パーティーで引くてあまただろうに、何故二人でペアで組んでるんだ?」
「浮竹が好きだからだよ」
「ほ、そうきたか。エルフでも、そういうのあるんだな」
「エルフの人生は長いからな。伴侶は何も異性じゃなくてもいいんだ。どのみち出生率は落ちるばかりで、エンシェントエルフもウッドエルフもハイエルフもダークエルフも、みんな数が減ってる」
「おいおい、エルフの中にダークエルフを入れるなよ。あれは魔族だろう」
風の旅人のパーティーのリーダーが、ダークエルフは魔族と言った。
浮竹は京楽の方を伺うが、特別何かを思っているようでもないので、安心した。
「ダークエルフでも、いい奴はいる」
「まぁ、たまに旅人のダークエルフを見ることはあるが、みんな毛嫌いするから、旅をしにくそうだったがな」
ダークエルフから話を逸らそうと、浮竹はSランクの冒険者たちに質問をした。
「ドラゴンを退治したことはあるか?」
「いや、まだないな。ドラゴンを倒せるとは思うが、きっと死人が出る。だから、まだ挑戦しない」
「それも一種の手だね」
京楽も同意した。
ドラゴンは素材としても最高で、おまけに金銀財宝を集めるのが趣味で、倒せば一攫千金だ。
馬車で10日かけて出発して、目的地に辿りついた。
馬は狙われやすいので、ワイバーンの出る場所よりも遠くで降りた。
「馬はここに置いていこう」
「大丈夫か?他の魔物に襲われる危険はないか?」
浮竹の言葉に、風の旅人のパーティーリーダーは、魔道具を設置した。
「魔よけの札と香だ。これがある限り、どんな魔物にも襲われない」
「高いんだろうな」
「何、1つ金貨30枚程度だ」
「さ、30枚・・・金貨が30枚・・・・・」
京楽は、Sランク冒険者の金銭感覚についていけずに、眩暈を起こしそうになっていた。
「さて、ではワイバーンの討伐に出発だ」
Sランクのパーティーの重荷にならぬように、浮竹と京楽は魔法で攻撃することに決めた。
「GYARUUUUUU!!」
ワイバーンの群れが現れた。
頭上をバサバサと飛んでいくワイバーンに、まずは風の旅人の弓使いが弓を射て、目をつぶした。
「あんな遠くにまで矢を・・・すごいな」
浮竹は素直に関心していた。
「僕も魔法で援護するよ!フレイムロンド!」
「じゃあ俺も。ウォータースパイラル!」
京楽と浮竹は、それぞれ火と水の魔法で、ワイバーンの翼を攻撃して、地面に落とした。
地面に落ちてきたワイバーンにトドメをさすのは、風の旅人のリーダーである剣士と、斧使いだった。
風の旅人のパーティーは、リーダの剣士、サブリーダーの弓使いに、斧使い、魔法使い、僧侶でできた、均整のとれたパーティーだった。
一方の浮竹と京楽は、魔法剣士に、癒しの魔法も使える魔法使いの京楽だ。
火力に乏しいことはないが、癒し手が攻撃魔法も使うので、常に癒し手が守っているSランクのパーティーより危険度は増す。
「フレアスピア!」
「アイシクルロンド!」
ちなみに、浮竹は火と水と聖魔法を使えるが、聖魔法は剣にエンチャントするだけで、火と水は中級までなら使えた。
浮竹と京楽は、次々とワイバーンの翼を魔法で破り、地面に落としていく。
気づくと、空にワイバーンはいなくなっていた。
「すごい火力だな。魔法でワイバーンをここまで落とせるなんて、Aランク冒険者でもなかなかいないぞ」
褒められて、浮竹も京楽もはにかんだ笑みを零した。
「お前たちの腕がいいからだ。一度もこちら側に攻撃を許さなかった」
「うん。僕も、自由に魔法が使えたよ。詠唱してる間、ずっと弓使いの人がこっちを狙ってくるワイバーンの目をつぶしていたし」
こうして、一向は怪我することもなく、ワイバーンの討伐を終えた。
さすがにSランクの冒険者だけあって、ワイバーン程度では怪我をすることもなかった。
「ワイバーンの鱗や爪、牙は素材になる。ドラゴンよりも劣るが、そこそこの値段がするはずだ。ワイバーンはちょうど14匹いた。一人2匹ずつで分けるのどうだろう」
風の旅人のリーダーの言葉に、浮竹も京楽も頷いた。
「正直、倒したわけじゃないのでちょっと気が引けるけど」
「京楽、もらえるものはもらっておこう。資金をためて、一戸建てを買うんだろ」
「そうだったね。じゃあ、2匹のワイバーンをもらうね」
京楽は、アイテムポケットにワイバーンの死体を2匹分収納した。
浮竹も、アイテムポケットにワイバーンの死体を2匹入れた。
「お、そっちのアイテムポケットはBランクの割に収納量が多いんだな。俺も買い替えたが、ワイバーンだと10体が限界だ」
十分だろうと思う浮竹と京楽であるが、Sランク冒険者はダンジョンの最深部までもぐる。
ドラゴンはそうそういないが、素材になるモンスターをつめこんでいけばすぐに満杯になってしまう。だから、素材として必要な部分だけ斬り分けて、収納するのが普通だった。
「ワイバーンは肉も食えるし、魔石もある。解体費用はかかるが、それでも十分に黒字だろうさ」
風の旅人のリーダーの言葉に、浮竹も京楽もアイテムポケットの中にいれたワイバーンの肉は、少しだけ手元に置くことにした。
自分たちで食べる分を。
一行は、帰り道で闇夜の森で迷い、浮竹と京楽以外のパーティーはばらばらになった。
そこに、剣士らしい京楽が現れて、デュラハンとスケルトン退治に同行することになった。
剣士らしい京楽は、怪しげな妖刀を手に、何か妖刀に話しかけていた。
「じゃあ、スケルトンの退治はこの子たちに任せて、ボクはデュラハンをなるべく相手にしようか」
そんなことをぶつぶつ言いだすものだから、エルフの二人はびっくりした。
「あ、ごめんね。こっちの話。あんまり気にしないで。独り言をいう癖があるから」
妖刀に精霊が宿っているなて、知られたくなかった。
こちら側の京楽は、正体がダークエルフとばれて警戒して威嚇していたが、浮竹が害をもたらす存在ではないと諭すと、少し気を緩めてくれた。
スケルトンを魔法と剣で片づけていくと、剣士の京楽はデュラハンに向かって突っ込んでいった。
「助けなくていいのかい?」
「大丈夫だ。多分、Sランク冒険者よりも強い」
一撃でデュラハンを仕留めた剣士の京楽は、また何かを妖刀に向けて話しかけていた。それに、浮竹が待ったをかける。
「モンスターを倒したことだし、この森をぬけたんだが」
浮竹の問いに、剣士の京楽は笑ってばいばいと手を振った。その肩に乗っていたスライムまで、ばいばいと手をふって
結局、闇夜の森で転送魔法陣に乗せられて、気づくと冒険者ギルドの前にいた。
風の旅人のメンバーたちも無事で、馬も荷馬車も無事だった。
「何かわからなかったけど、助かったな、京楽」
「うん・・・でもあいつ、俺の種族を知ってた。できればもう会いたくない」
「そんなこと言うなよ。お前の種族を知っていても、差別的な言動はしなかっただろう?」
「まぁ、それはそうなんだけど」
冒険者ギルドに入ると1階は酒場になっているので、ちょうど夕刻の時間で、飯を食べにきた冒険者で溢れかえってきた。
「解体を頼みたい。ワイバーンを4匹」
「あいよ。1匹につき解体量銀貨5枚かがるが、いいかね?」
「ああ、構わない」
4匹分で金貨2枚だった。
「あ、肉は少し残しておいて。僕らで食べるから」
解体屋は、別に殊更驚きもせずに了承してくれた。
金のない初級者ランクの冒険者は、狩った獲物食べたりするのが普通だった。
Bランクより上になると、そうそうモンスターに肉を口にする者はいなくなるが、ワイバーンの肉はうまいので需要があった。
「じゃあ、2時間後にきてくれ。解体をすませておくから」
「分かった。行こう、京楽」
浮竹と京楽は、近くの喫茶店で時間をつぶした。
コーヒーだけを飲む京楽と違って、浮竹はジャンボアイスパフェを注文したりして、スイーツが大好きなので、さらに苺ショートケーキとか注文していた。
「よくそんな量が入るねぇ」
「スイーツは別腹だ」
「別腹すぎて、僕は会計が怖いよ」
結局スイーツは金持ちの食べ物なので、金貨1枚と銀貨5枚の出費となった。
約束の2時間がたち、解体工房へいくと、ワイバーン4匹の解体は終わっていた。
「爪と牙と鱗で、1匹金貨15枚。肉が1匹あたり金貨4枚。今回は1匹の半分の肉を残したので4匹あわせて、合計で金貨74枚だ」
「おお、けっこういったな」
「うん、嬉しいね。あと、ギルドで討伐達成の報酬金ももらわないと」
二人は置いておいてもらったワイバーンの肉をアイテムポケットに入れると、解体工房を後にして、冒険者ギルドにやってきた。
もう夜になっているので、夕刻ほ喧噪はなかったが、それでも冒険から帰ってきた者たちが食事をしたり酒を飲んだりしていた。
「Aランクのワイバーン退治の討伐の証の魔石が4つ。確認してほしい」
受付嬢は、すぐさま鑑定眼鏡をもちだして、それがワイバーンの魔石であることを確認して、報酬金金貨45枚をそれぞれくれた。
「さすがAランク。報酬金も高いね」
「ああ。BランクからAランクにあがるのに、積極的にAランクの依頼を受けていると早く昇級できるらしい」
「じゃあ、また今度もAランクの依頼、受けよっか」
「ペアで行くのはだめだぞ。まだ実力不足だ。相手の敵が群れじゃなかったらいいが、1匹だけだとユニークモンスターとかで強かったりするしな」
「ふむ。じゃあ、Aランクの仕事を請け負うときは、誰かと一緒のほうがいいのかな」
「そうなるな。まぁ二人でいけなくもない依頼を探そう」
その日はもう終わりにして、宿屋に帰った。
宿屋では朝食は出るが、夕食は出ない。
なので、宿屋の中庭で料理器具をかしてもらう、ワイバーンのバーベキューをした。
「うん、確かにおいしいね」
「だろう?一度食べてみたかったんだ」
浮竹はワイバーンの肉を食べてみたくてうずうずしていたらしい。
「このじゅわっと溢れる肉汁がたまらないな」
「このソースにつけると、余計においしいよ」
ソースをつけながら、浮竹はワイバーンの肉を口にした。
「うん、うまい」
「そうそう、あの僕にそっくりな剣士、スライムを持ってたでしょ」
「ああ、それがどうした?」
「僕も、何か使い魔をもってみようかと思って」
「お、いいな」
浮竹は、何を使い魔にするのか楽しそうだった。
「実は、すでに捕まえているんだ」
「なんの動物かモンスターを使い魔にするんだ?」
「黒リスさ」
「お、かわいいな」
籠の中に入っていたのは、黒い小型のリスだった。
その周囲に円陣を描き、京楽は従魔契約を行った後に、使い魔としての契約を行った。
従魔であれば、戦闘の時も役に立つかもしれない。
せいぜい、敵の気を引く程度かもしれないが、それでもないとあるとは大きな差があった。
「名前は?」
「黒いからクロ」
「そのまんまだな」
京楽はクロを森に逃がした。
「逃げないのか?」
「いざとなったら、転送魔法陣でこっちに戻ってくる。食事とかは自分ですませて欲しいから、いつもは森に放っておくよ」
「そうか」
こうして、ワイバーン討伐は終わり、その日の冒険も終了するのだった。
Sランク冒険者は富と名声を得られて、幸せになれる。そう思われているが、実際のSランク冒険者はいつも死と隣り合わせの世界に住んでいる。
チートみたいに規格外に強くない限り、Sランク冒険者は努力と根性でできていた。
そのSランク冒険者もそうだった。
風の旅人という名の冒険者パーティーは、Aランクの仕事を請け負った。
それは、京楽たちも受けた同じ内容の依頼で、複数で可能な仕事であった。
内容は、ワイバーンの退治であった。しかも、複数の。
Bランクの浮竹と京楽だけでは、実際きつい内容だったので、Sランクの冒険者と一緒に旅ができると知って、浮竹と京楽は喜んだ。
「Bランクになってどれくらいになる?」
「半年だ」
「ふむ。二人で半年生きていれるってことは、相当な使い手だな」
「そうでもない。相棒がよかったせいだ」
「ウッドエルフの魔法使いか」
ぎくりと、京楽が体を強張らせる。
「ウッドエルフは弓手が多いのに、よく魔法使いになれたな」
「適性があったからだよ。基本4属性魔法と氷、雷と聖属性の回復魔法が使える」
「そりゃすごい。闇も使えれば、全属性に適正ありだったろうに。惜しいな。全属性に適正があれば、宮廷魔導師も夢じゃなかったろうに」
「あははは、そこまで魔法の腕はまだないよ。修行中の身だからね。使えるのは火の上級魔法とあとの属性は中級魔法までさ」
「それでも十分にすごいぞ。パーティーで引くてあまただろうに、何故二人でペアで組んでるんだ?」
「浮竹が好きだからだよ」
「ほ、そうきたか。エルフでも、そういうのあるんだな」
「エルフの人生は長いからな。伴侶は何も異性じゃなくてもいいんだ。どのみち出生率は落ちるばかりで、エンシェントエルフもウッドエルフもハイエルフもダークエルフも、みんな数が減ってる」
「おいおい、エルフの中にダークエルフを入れるなよ。あれは魔族だろう」
風の旅人のパーティーのリーダーが、ダークエルフは魔族と言った。
浮竹は京楽の方を伺うが、特別何かを思っているようでもないので、安心した。
「ダークエルフでも、いい奴はいる」
「まぁ、たまに旅人のダークエルフを見ることはあるが、みんな毛嫌いするから、旅をしにくそうだったがな」
ダークエルフから話を逸らそうと、浮竹はSランクの冒険者たちに質問をした。
「ドラゴンを退治したことはあるか?」
「いや、まだないな。ドラゴンを倒せるとは思うが、きっと死人が出る。だから、まだ挑戦しない」
「それも一種の手だね」
京楽も同意した。
ドラゴンは素材としても最高で、おまけに金銀財宝を集めるのが趣味で、倒せば一攫千金だ。
馬車で10日かけて出発して、目的地に辿りついた。
馬は狙われやすいので、ワイバーンの出る場所よりも遠くで降りた。
「馬はここに置いていこう」
「大丈夫か?他の魔物に襲われる危険はないか?」
浮竹の言葉に、風の旅人のパーティーリーダーは、魔道具を設置した。
「魔よけの札と香だ。これがある限り、どんな魔物にも襲われない」
「高いんだろうな」
「何、1つ金貨30枚程度だ」
「さ、30枚・・・金貨が30枚・・・・・」
京楽は、Sランク冒険者の金銭感覚についていけずに、眩暈を起こしそうになっていた。
「さて、ではワイバーンの討伐に出発だ」
Sランクのパーティーの重荷にならぬように、浮竹と京楽は魔法で攻撃することに決めた。
「GYARUUUUUU!!」
ワイバーンの群れが現れた。
頭上をバサバサと飛んでいくワイバーンに、まずは風の旅人の弓使いが弓を射て、目をつぶした。
「あんな遠くにまで矢を・・・すごいな」
浮竹は素直に関心していた。
「僕も魔法で援護するよ!フレイムロンド!」
「じゃあ俺も。ウォータースパイラル!」
京楽と浮竹は、それぞれ火と水の魔法で、ワイバーンの翼を攻撃して、地面に落とした。
地面に落ちてきたワイバーンにトドメをさすのは、風の旅人のリーダーである剣士と、斧使いだった。
風の旅人のパーティーは、リーダの剣士、サブリーダーの弓使いに、斧使い、魔法使い、僧侶でできた、均整のとれたパーティーだった。
一方の浮竹と京楽は、魔法剣士に、癒しの魔法も使える魔法使いの京楽だ。
火力に乏しいことはないが、癒し手が攻撃魔法も使うので、常に癒し手が守っているSランクのパーティーより危険度は増す。
「フレアスピア!」
「アイシクルロンド!」
ちなみに、浮竹は火と水と聖魔法を使えるが、聖魔法は剣にエンチャントするだけで、火と水は中級までなら使えた。
浮竹と京楽は、次々とワイバーンの翼を魔法で破り、地面に落としていく。
気づくと、空にワイバーンはいなくなっていた。
「すごい火力だな。魔法でワイバーンをここまで落とせるなんて、Aランク冒険者でもなかなかいないぞ」
褒められて、浮竹も京楽もはにかんだ笑みを零した。
「お前たちの腕がいいからだ。一度もこちら側に攻撃を許さなかった」
「うん。僕も、自由に魔法が使えたよ。詠唱してる間、ずっと弓使いの人がこっちを狙ってくるワイバーンの目をつぶしていたし」
こうして、一向は怪我することもなく、ワイバーンの討伐を終えた。
さすがにSランクの冒険者だけあって、ワイバーン程度では怪我をすることもなかった。
「ワイバーンの鱗や爪、牙は素材になる。ドラゴンよりも劣るが、そこそこの値段がするはずだ。ワイバーンはちょうど14匹いた。一人2匹ずつで分けるのどうだろう」
風の旅人のリーダーの言葉に、浮竹も京楽も頷いた。
「正直、倒したわけじゃないのでちょっと気が引けるけど」
「京楽、もらえるものはもらっておこう。資金をためて、一戸建てを買うんだろ」
「そうだったね。じゃあ、2匹のワイバーンをもらうね」
京楽は、アイテムポケットにワイバーンの死体を2匹分収納した。
浮竹も、アイテムポケットにワイバーンの死体を2匹入れた。
「お、そっちのアイテムポケットはBランクの割に収納量が多いんだな。俺も買い替えたが、ワイバーンだと10体が限界だ」
十分だろうと思う浮竹と京楽であるが、Sランク冒険者はダンジョンの最深部までもぐる。
ドラゴンはそうそういないが、素材になるモンスターをつめこんでいけばすぐに満杯になってしまう。だから、素材として必要な部分だけ斬り分けて、収納するのが普通だった。
「ワイバーンは肉も食えるし、魔石もある。解体費用はかかるが、それでも十分に黒字だろうさ」
風の旅人のリーダーの言葉に、浮竹も京楽もアイテムポケットの中にいれたワイバーンの肉は、少しだけ手元に置くことにした。
自分たちで食べる分を。
一行は、帰り道で闇夜の森で迷い、浮竹と京楽以外のパーティーはばらばらになった。
そこに、剣士らしい京楽が現れて、デュラハンとスケルトン退治に同行することになった。
剣士らしい京楽は、怪しげな妖刀を手に、何か妖刀に話しかけていた。
「じゃあ、スケルトンの退治はこの子たちに任せて、ボクはデュラハンをなるべく相手にしようか」
そんなことをぶつぶつ言いだすものだから、エルフの二人はびっくりした。
「あ、ごめんね。こっちの話。あんまり気にしないで。独り言をいう癖があるから」
妖刀に精霊が宿っているなて、知られたくなかった。
こちら側の京楽は、正体がダークエルフとばれて警戒して威嚇していたが、浮竹が害をもたらす存在ではないと諭すと、少し気を緩めてくれた。
スケルトンを魔法と剣で片づけていくと、剣士の京楽はデュラハンに向かって突っ込んでいった。
「助けなくていいのかい?」
「大丈夫だ。多分、Sランク冒険者よりも強い」
一撃でデュラハンを仕留めた剣士の京楽は、また何かを妖刀に向けて話しかけていた。それに、浮竹が待ったをかける。
「モンスターを倒したことだし、この森をぬけたんだが」
浮竹の問いに、剣士の京楽は笑ってばいばいと手を振った。その肩に乗っていたスライムまで、ばいばいと手をふって
結局、闇夜の森で転送魔法陣に乗せられて、気づくと冒険者ギルドの前にいた。
風の旅人のメンバーたちも無事で、馬も荷馬車も無事だった。
「何かわからなかったけど、助かったな、京楽」
「うん・・・でもあいつ、俺の種族を知ってた。できればもう会いたくない」
「そんなこと言うなよ。お前の種族を知っていても、差別的な言動はしなかっただろう?」
「まぁ、それはそうなんだけど」
冒険者ギルドに入ると1階は酒場になっているので、ちょうど夕刻の時間で、飯を食べにきた冒険者で溢れかえってきた。
「解体を頼みたい。ワイバーンを4匹」
「あいよ。1匹につき解体量銀貨5枚かがるが、いいかね?」
「ああ、構わない」
4匹分で金貨2枚だった。
「あ、肉は少し残しておいて。僕らで食べるから」
解体屋は、別に殊更驚きもせずに了承してくれた。
金のない初級者ランクの冒険者は、狩った獲物食べたりするのが普通だった。
Bランクより上になると、そうそうモンスターに肉を口にする者はいなくなるが、ワイバーンの肉はうまいので需要があった。
「じゃあ、2時間後にきてくれ。解体をすませておくから」
「分かった。行こう、京楽」
浮竹と京楽は、近くの喫茶店で時間をつぶした。
コーヒーだけを飲む京楽と違って、浮竹はジャンボアイスパフェを注文したりして、スイーツが大好きなので、さらに苺ショートケーキとか注文していた。
「よくそんな量が入るねぇ」
「スイーツは別腹だ」
「別腹すぎて、僕は会計が怖いよ」
結局スイーツは金持ちの食べ物なので、金貨1枚と銀貨5枚の出費となった。
約束の2時間がたち、解体工房へいくと、ワイバーン4匹の解体は終わっていた。
「爪と牙と鱗で、1匹金貨15枚。肉が1匹あたり金貨4枚。今回は1匹の半分の肉を残したので4匹あわせて、合計で金貨74枚だ」
「おお、けっこういったな」
「うん、嬉しいね。あと、ギルドで討伐達成の報酬金ももらわないと」
二人は置いておいてもらったワイバーンの肉をアイテムポケットに入れると、解体工房を後にして、冒険者ギルドにやってきた。
もう夜になっているので、夕刻ほ喧噪はなかったが、それでも冒険から帰ってきた者たちが食事をしたり酒を飲んだりしていた。
「Aランクのワイバーン退治の討伐の証の魔石が4つ。確認してほしい」
受付嬢は、すぐさま鑑定眼鏡をもちだして、それがワイバーンの魔石であることを確認して、報酬金金貨45枚をそれぞれくれた。
「さすがAランク。報酬金も高いね」
「ああ。BランクからAランクにあがるのに、積極的にAランクの依頼を受けていると早く昇級できるらしい」
「じゃあ、また今度もAランクの依頼、受けよっか」
「ペアで行くのはだめだぞ。まだ実力不足だ。相手の敵が群れじゃなかったらいいが、1匹だけだとユニークモンスターとかで強かったりするしな」
「ふむ。じゃあ、Aランクの仕事を請け負うときは、誰かと一緒のほうがいいのかな」
「そうなるな。まぁ二人でいけなくもない依頼を探そう」
その日はもう終わりにして、宿屋に帰った。
宿屋では朝食は出るが、夕食は出ない。
なので、宿屋の中庭で料理器具をかしてもらう、ワイバーンのバーベキューをした。
「うん、確かにおいしいね」
「だろう?一度食べてみたかったんだ」
浮竹はワイバーンの肉を食べてみたくてうずうずしていたらしい。
「このじゅわっと溢れる肉汁がたまらないな」
「このソースにつけると、余計においしいよ」
ソースをつけながら、浮竹はワイバーンの肉を口にした。
「うん、うまい」
「そうそう、あの僕にそっくりな剣士、スライムを持ってたでしょ」
「ああ、それがどうした?」
「僕も、何か使い魔をもってみようかと思って」
「お、いいな」
浮竹は、何を使い魔にするのか楽しそうだった。
「実は、すでに捕まえているんだ」
「なんの動物かモンスターを使い魔にするんだ?」
「黒リスさ」
「お、かわいいな」
籠の中に入っていたのは、黒い小型のリスだった。
その周囲に円陣を描き、京楽は従魔契約を行った後に、使い魔としての契約を行った。
従魔であれば、戦闘の時も役に立つかもしれない。
せいぜい、敵の気を引く程度かもしれないが、それでもないとあるとは大きな差があった。
「名前は?」
「黒いからクロ」
「そのまんまだな」
京楽はクロを森に逃がした。
「逃げないのか?」
「いざとなったら、転送魔法陣でこっちに戻ってくる。食事とかは自分ですませて欲しいから、いつもは森に放っておくよ」
「そうか」
こうして、ワイバーン討伐は終わり、その日の冒険も終了するのだった。
PR
- トラックバックURLはこちら