エンシェントエルフとダークエルフ23
セイレーン。
美しい、海の魔物。
歌声で男を惑わし、食う。
そんなセイレーンは、冒険者によって絶滅させられて、残ったのは無人島なんかに住むセイレーンだけだった。
だが、ある港町でセイレーンが大量に湧き出した。
ある人物の証言によると、茶色の髪に茶色の瞳の、冷たく整った顔立ちの男が何かを海に投げ入れて、そこからわさわさとセイレーンが湧き出てきたのだという。
その男は、ギルドで指名手配されている、名も分からない暗躍者であった。
その男が召還したセイレーンは、ただ相手を惑わすだけでなく、歌声を聞くと過去のトラウマを生み出すらしい。
早速ギルドから派遣された浮竹と京楽は、耳栓をしながら、セイレーンに小舟で近づき、炎の魔法で殺していった。
セイレーンが、大きな歌声をあげだした。
それは耳栓をしていても聞こえる、魂の歌だった。
京楽は、自分を捨て去っていく灼熱のシャイターンを見ていた。そして、同胞に拾われたが、石を投げられてまた捨てられて、エンシェントエルフの族長に拾われて、牢屋に閉じ込められて・・・・・。
そこで終わりだったら、京楽はセイレーンに殺されていただろう。浮竹の顔が、脳裏をよぎり、正気に戻った京楽は、近くにいたセイレーンに炎の魔法を放った。
「フレイムロンド!」
「GIYAAAAAAAA!!」
すご叫び声をあげて、セイレーンは死んでいった。
浮竹を探すと、浮竹は小舟の上で倒れていた。
セイレーンにやられたのか、耳から血を流していた。
「ファイアワールド!」
京楽は怒って、その一帯の海の水と共に全てを蒸発させた。
浮竹は、セイレーンを倒しても、起きなかった。
心配になって、マイホームまで戻って、冒険者ギルドに報告だけして魔石は蒸発させたことを報告すると、調査員が派遣されて、セイレーンは綺麗さっぱりいなくなったとのことで、報酬金の金貨180枚を手に、浮竹の元に戻った。
けれど、浮竹は目覚めなかった。
医者に見せると、何かの夢を見て昏睡状態であると言われた。
京楽は、打てる手がなくて、師匠である剣士京楽の家の前に空間転移した。
「浮竹が、起きないんだ」
『どうしたの?』
「浮竹が、起きてくれないんだ・・・・」
京楽は、ぽろぽろと泣きだした。
夢でシャイターンに捨てられて、同胞に石を投げられまた捨てられて、エンシェントエルフに拾われて幽閉されていた時の哀しさが、何故か今のになって襲ってきて、泣いていた。
『ほら、エルフの京楽。これで涙を拭け』
「うん、突然ごめんね。浮竹が起きないんだ・・・・・」
事情を説明すると、剣士の京楽はこう言った。
『トラウマのない人間は、昏睡状態に入って幸せな夢を見てそのまま食い殺されることがあるらしい。今のエルフの浮竹は、きっと幸せな夢を見ていて起きないんでしょ』
「どうすれば起きるの?」
『精神世界に入り込むしかないな。幸い、俺ができる』
「ううん、僕が精神世界に入る。だから、その手助けを頼むよ」
剣士の京楽と精霊の浮竹は、エルフの二人のマイホームに来て、眠り続けるエルフの浮竹を見た。
『こりゃ、完全にセイレーンの世界に取り込まれてるね。君が精神世界に行きたいの?』
「うん」
『浮竹、頼めるかい?』
『ああ。一緒に精神世界にもぐって、エルフの京楽だけ好きに行動できるようにしよう』
「ありがとう」
エルフの京楽は、精霊の浮竹と手を繋ぎ合いながら、エルフの浮竹とも手を繋ぎあった。
ゆっくりとスリープの呪文を剣士の京楽にかけられて、意識が落ちていく。剣士の京楽は、魔力を維持するために、精霊の浮竹と手を繋いだ。
気づくと、そこは浮竹の精神世界だった。
色がない、モノクロの世界だった。
幼い浮竹がいた。同じように、幼い京楽がいた。
笑って、外で遊んでいる。
そんな夢だった。
「これが、浮竹の幸せな夢・・・・」
幼い京楽が閉じ込められると、その度に幼い浮竹が隠し通路を使って迎えにきてくれて、また二人で遊ぶ、そんな夢だった。
『お前との出会いが、幸せだったんだろう。この夢を、エルフの浮竹は繰り返し見ている』
「浮竹、帰ろう?」
「おじちゃん、だあれ?」
「僕は京楽取水。そっちの幼い子成長した姿だよ」
「おじちゃん、京楽なの?」
「そうだよ」
そう言って、エルフの京楽は幼い浮竹の頭を撫でた。
すると、世界が一瞬で色づいた。
幼いエルフの浮竹は、今と同じ年齢にまで成長していた。
「京楽・・・・迎えにきて、くれたのか?」
「うん、そうだよ」
「ありがとう、京楽」
精神世界で、浮竹は京楽にキスをした。
『見せつけてないで、戻るぞ。しっかり、エルフの俺の手を握ってやれ」
「うん!」
目を開けると、そこには目をあけて、涙を浮かべるエルフの浮竹がいた。
『無事、二人とも戻ってこれたようだな』
『浮竹、お疲れさま』
精霊の浮竹は、他人の精神世界に入るのは少し疲れるようで、剣士の京楽から甘めのオレンジ水をもらって、それをコクコクと飲んでいった。
「俺は・・・幸せな夢を見ていた。同じ夢を繰り返し見ていた。変わらない日々を望んでいた。
俺にもトラウマはあった。京楽の処刑が決定した日だった。でも、そんなことは完全に忘れて、ただ幸せな夢を見ていた・・・・」
エルフの浮竹が、ぽろぽろと涙を零した。
「あの日、俺が京楽を連れ出さないと、京楽は処刑されていた。それがとてつもなく怖くて、ただ幸せな夢を見ようとしていた」
『うん、それは悪いことじゃないよ』
「でも、真実から目を背けて、ただ幸せを願って・・・・俺は、我儘だ」
「浮竹、そんな我儘は誰でも持っているんだよ」
エルフの浮竹をは顔を上げると、エルフの京楽の胸に顔を埋めて、静かに泣きだした。
『じゃあ、僕らはいったん戻るね。また何かあったら、知らせて』
『伴侶を、大切にしろよ』
剣士の京楽と精霊の浮竹は、プルンを連れていたので、プルンの転移の魔法でロスピア王国の自宅へと戻っていった。
「怖かったんだ。長い長い間、お前と過ごした幼い時間が、なくなるのがすごく怖かったんだ」
「うん・・・・・」
「成長は遅いのに、でも成長は止まらなくて、お前が処刑されることを知っていたのに、俺は隠していた。ずっとずっと、幼いままでいたかった」
「うん。でも、人はいずれ変わるものだよ」
「変わるのが、怖かったんだ。お前が外の世界をもっと知って、俺の傍からいなくなるのが、怖くて怖くて、俺は・・・・・」
京楽は、静かに浮竹の唇に唇を重ねていた。
「京楽?」
「あの日、僕を助けてくれてありがとう。ずっと言ってなかったね。僕に、外の世界を見せてくれてありがとう。僕を選んでくれて、ありがとう。僕には、君だけだよ。君だけが、僕の全てだ」
「京楽・・・・・・・」
浮竹は、また泣きだした。
「ああもう、何をすれば泣き止んでくれるの?」
「くくるーーー?」
「ほら、ブルンも心配してるよ」
「うん。ありがとう、京楽。俺と出会ってくれて、ありがとう。俺を選んでくれてありがとう。たくさんのありがとうを、お前に」
「うん」
二人は、また唇を重ねあった。
「一緒に歩んでいこう。これからの人生も」
「ああ」
セイレーンの事件は、これで全て終わったのだが、今だにセイレーンを港町に召還した者の影は、分からなかった。
------------------------------------------------------
「エルフの京楽と浮竹・・・・また、面白い存在だな」
茶色の髪のその人物は、セイレーンを召還した人そのものだった。
いや、人というのが正しいの分からない。
その存在は歪(いびつ)で歪んでいた。
神になるのだ。
その人物は、悲願のために世界を渾沌に導こうとしていた。
そして、世界はゆっくりとその男の存在を受けいれていく。
弾くとしたら、剣士の京楽か、あるいは精霊の浮竹。
男は、ワインを口にした。
真っ赤なワインは、人の血と同じ色だった。
美しい、海の魔物。
歌声で男を惑わし、食う。
そんなセイレーンは、冒険者によって絶滅させられて、残ったのは無人島なんかに住むセイレーンだけだった。
だが、ある港町でセイレーンが大量に湧き出した。
ある人物の証言によると、茶色の髪に茶色の瞳の、冷たく整った顔立ちの男が何かを海に投げ入れて、そこからわさわさとセイレーンが湧き出てきたのだという。
その男は、ギルドで指名手配されている、名も分からない暗躍者であった。
その男が召還したセイレーンは、ただ相手を惑わすだけでなく、歌声を聞くと過去のトラウマを生み出すらしい。
早速ギルドから派遣された浮竹と京楽は、耳栓をしながら、セイレーンに小舟で近づき、炎の魔法で殺していった。
セイレーンが、大きな歌声をあげだした。
それは耳栓をしていても聞こえる、魂の歌だった。
京楽は、自分を捨て去っていく灼熱のシャイターンを見ていた。そして、同胞に拾われたが、石を投げられてまた捨てられて、エンシェントエルフの族長に拾われて、牢屋に閉じ込められて・・・・・。
そこで終わりだったら、京楽はセイレーンに殺されていただろう。浮竹の顔が、脳裏をよぎり、正気に戻った京楽は、近くにいたセイレーンに炎の魔法を放った。
「フレイムロンド!」
「GIYAAAAAAAA!!」
すご叫び声をあげて、セイレーンは死んでいった。
浮竹を探すと、浮竹は小舟の上で倒れていた。
セイレーンにやられたのか、耳から血を流していた。
「ファイアワールド!」
京楽は怒って、その一帯の海の水と共に全てを蒸発させた。
浮竹は、セイレーンを倒しても、起きなかった。
心配になって、マイホームまで戻って、冒険者ギルドに報告だけして魔石は蒸発させたことを報告すると、調査員が派遣されて、セイレーンは綺麗さっぱりいなくなったとのことで、報酬金の金貨180枚を手に、浮竹の元に戻った。
けれど、浮竹は目覚めなかった。
医者に見せると、何かの夢を見て昏睡状態であると言われた。
京楽は、打てる手がなくて、師匠である剣士京楽の家の前に空間転移した。
「浮竹が、起きないんだ」
『どうしたの?』
「浮竹が、起きてくれないんだ・・・・」
京楽は、ぽろぽろと泣きだした。
夢でシャイターンに捨てられて、同胞に石を投げられまた捨てられて、エンシェントエルフに拾われて幽閉されていた時の哀しさが、何故か今のになって襲ってきて、泣いていた。
『ほら、エルフの京楽。これで涙を拭け』
「うん、突然ごめんね。浮竹が起きないんだ・・・・・」
事情を説明すると、剣士の京楽はこう言った。
『トラウマのない人間は、昏睡状態に入って幸せな夢を見てそのまま食い殺されることがあるらしい。今のエルフの浮竹は、きっと幸せな夢を見ていて起きないんでしょ』
「どうすれば起きるの?」
『精神世界に入り込むしかないな。幸い、俺ができる』
「ううん、僕が精神世界に入る。だから、その手助けを頼むよ」
剣士の京楽と精霊の浮竹は、エルフの二人のマイホームに来て、眠り続けるエルフの浮竹を見た。
『こりゃ、完全にセイレーンの世界に取り込まれてるね。君が精神世界に行きたいの?』
「うん」
『浮竹、頼めるかい?』
『ああ。一緒に精神世界にもぐって、エルフの京楽だけ好きに行動できるようにしよう』
「ありがとう」
エルフの京楽は、精霊の浮竹と手を繋ぎ合いながら、エルフの浮竹とも手を繋ぎあった。
ゆっくりとスリープの呪文を剣士の京楽にかけられて、意識が落ちていく。剣士の京楽は、魔力を維持するために、精霊の浮竹と手を繋いだ。
気づくと、そこは浮竹の精神世界だった。
色がない、モノクロの世界だった。
幼い浮竹がいた。同じように、幼い京楽がいた。
笑って、外で遊んでいる。
そんな夢だった。
「これが、浮竹の幸せな夢・・・・」
幼い京楽が閉じ込められると、その度に幼い浮竹が隠し通路を使って迎えにきてくれて、また二人で遊ぶ、そんな夢だった。
『お前との出会いが、幸せだったんだろう。この夢を、エルフの浮竹は繰り返し見ている』
「浮竹、帰ろう?」
「おじちゃん、だあれ?」
「僕は京楽取水。そっちの幼い子成長した姿だよ」
「おじちゃん、京楽なの?」
「そうだよ」
そう言って、エルフの京楽は幼い浮竹の頭を撫でた。
すると、世界が一瞬で色づいた。
幼いエルフの浮竹は、今と同じ年齢にまで成長していた。
「京楽・・・・迎えにきて、くれたのか?」
「うん、そうだよ」
「ありがとう、京楽」
精神世界で、浮竹は京楽にキスをした。
『見せつけてないで、戻るぞ。しっかり、エルフの俺の手を握ってやれ」
「うん!」
目を開けると、そこには目をあけて、涙を浮かべるエルフの浮竹がいた。
『無事、二人とも戻ってこれたようだな』
『浮竹、お疲れさま』
精霊の浮竹は、他人の精神世界に入るのは少し疲れるようで、剣士の京楽から甘めのオレンジ水をもらって、それをコクコクと飲んでいった。
「俺は・・・幸せな夢を見ていた。同じ夢を繰り返し見ていた。変わらない日々を望んでいた。
俺にもトラウマはあった。京楽の処刑が決定した日だった。でも、そんなことは完全に忘れて、ただ幸せな夢を見ていた・・・・」
エルフの浮竹が、ぽろぽろと涙を零した。
「あの日、俺が京楽を連れ出さないと、京楽は処刑されていた。それがとてつもなく怖くて、ただ幸せな夢を見ようとしていた」
『うん、それは悪いことじゃないよ』
「でも、真実から目を背けて、ただ幸せを願って・・・・俺は、我儘だ」
「浮竹、そんな我儘は誰でも持っているんだよ」
エルフの浮竹をは顔を上げると、エルフの京楽の胸に顔を埋めて、静かに泣きだした。
『じゃあ、僕らはいったん戻るね。また何かあったら、知らせて』
『伴侶を、大切にしろよ』
剣士の京楽と精霊の浮竹は、プルンを連れていたので、プルンの転移の魔法でロスピア王国の自宅へと戻っていった。
「怖かったんだ。長い長い間、お前と過ごした幼い時間が、なくなるのがすごく怖かったんだ」
「うん・・・・・」
「成長は遅いのに、でも成長は止まらなくて、お前が処刑されることを知っていたのに、俺は隠していた。ずっとずっと、幼いままでいたかった」
「うん。でも、人はいずれ変わるものだよ」
「変わるのが、怖かったんだ。お前が外の世界をもっと知って、俺の傍からいなくなるのが、怖くて怖くて、俺は・・・・・」
京楽は、静かに浮竹の唇に唇を重ねていた。
「京楽?」
「あの日、僕を助けてくれてありがとう。ずっと言ってなかったね。僕に、外の世界を見せてくれてありがとう。僕を選んでくれて、ありがとう。僕には、君だけだよ。君だけが、僕の全てだ」
「京楽・・・・・・・」
浮竹は、また泣きだした。
「ああもう、何をすれば泣き止んでくれるの?」
「くくるーーー?」
「ほら、ブルンも心配してるよ」
「うん。ありがとう、京楽。俺と出会ってくれて、ありがとう。俺を選んでくれてありがとう。たくさんのありがとうを、お前に」
「うん」
二人は、また唇を重ねあった。
「一緒に歩んでいこう。これからの人生も」
「ああ」
セイレーンの事件は、これで全て終わったのだが、今だにセイレーンを港町に召還した者の影は、分からなかった。
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「エルフの京楽と浮竹・・・・また、面白い存在だな」
茶色の髪のその人物は、セイレーンを召還した人そのものだった。
いや、人というのが正しいの分からない。
その存在は歪(いびつ)で歪んでいた。
神になるのだ。
その人物は、悲願のために世界を渾沌に導こうとしていた。
そして、世界はゆっくりとその男の存在を受けいれていく。
弾くとしたら、剣士の京楽か、あるいは精霊の浮竹。
男は、ワインを口にした。
真っ赤なワインは、人の血と同じ色だった。
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