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オメガバース京浮シリーズ「記憶というもの」

最近、尸魂界内で問題が起きていた。

貴族階級のΩが、攫われて売られていくのだ。

行く先は、流魂街。性奴隷として、売られていくのだ。

浮竹は上流貴族ではなく下級貴族出身であるが、学院でも数少ないΩとして有名だった。

「浮竹、大丈夫だとは思うけど、帰り道には気をつけてね」

「大丈夫、俺の強さ、知ってるだろう?」

「うん。知ってるけど、もしヒートになったりして動けなくなったら、すぐに助けを呼んでね」

運命の番になったが、ヒート自体がなくなったわけではない。ただ、京楽にしかフェロモンが効かなくなるだけで、浮竹のフェロモンは他のαやβには無害になっていた。

京楽は、浮竹の帰りが遅いので、心配して学院までの夜道を歩いた。

浮竹の鞄だけが、落ちていた。

「浮竹・・・・・?」


---------------------------------------------


「浮竹、浮竹どこだい!?」

京楽は、浮竹を探し回った。浮竹が突然姿を消した。

次の日には、同じ特進クラスの者も浮竹を探すのを手伝ってくれた。

しかし、ようとしてその足がかりは得られることはなかった。


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流魂街67地区。

「今日の獲物は上玉だぜ。番がいるみてぇだが、薬を打てばどうせ何もわかりゃしない」

長い白髪の、麗人だった。

「高い値段がつきそうだな」

浮竹は意識を失っていた。即効性の麻酔薬をかがされたのだ。

「ん・・・・・」

「気が付いたか?」

浮竹は、ガンガンと頭痛を訴える頭を動かした。

「ここは?」

「流魂街67地区の奴隷売り場さ。お前は、これから性奴隷として売られていくのさ」

「な!」

自分の恰好を見ると、肌も露わな襦袢姿にされて、鬼道を封じる枷が両手につけられていた。

「やめろ、俺は性奴隷じゃない!」

「Ωだろ?立派な性奴隷さ」

「Ωは、そんな存在じゃない!」

「うるせー。おい、こいつの口封じておけ。あと、薬投与するの忘れるなよ。おい、嬢ちゃん。お前には、番がいてもフェロモンを他のβやαに出す特別な薬を打つ。なぁに、最初は怖いだろうが、後は気持ちよくなって誰とでもセックスし放題の、性奴隷になるだけさ」

ぶるりと、浮竹は身を震わせた。

怖い。

注射器が目の前に光る。

浮竹は目をつむった。

(京楽!)

口にタオルをつっこまれて、悲鳴も京楽を呼ぶ声も出なかった。

ちくりと、何かを打たれた。

かっと、体が熱くなった。

番ができたΩに、無理やり発情させるための薬なんだと、遠ざかっていく意識の上で認識した。

次に気づくと、誰のものかも分からぬ精液をぼたぼたと垂らしている裸の自分の恰好だった。

ザーザーと、意識にノイズが混ざる。

正気を、保っていられない。

「きょう・・・ら・・・く・・・・」

それが誰の名であるのかさえ、思い出せない。



「あの子はいい。いい声で啼くし、見た目もいい。ただ、体が弱いな。このまま客をとらせるより、誰かに大金で身請けさせたほうが稼げるかもしれん」

そんな声が、また遠ざかっていく意識の中で聞こえた。


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人身売買を行っている組織は、ほどなくして死神に捕縛された。

誰がどこに売られていったという書類をもとに、花街から、売られていったΩたちが助け出されていく。


「浮竹・・・・・?」

「誰・・・・?」

浮竹は、ふと浮かんだ意識のはざまで、京楽を見た。

「きょう・・・・らくに似てる。京楽って誰だっけ・・・・ああ、もっと子種が欲しい。誰か、抱いてくれ・・・・・・・」

京楽は、ボロボロと涙を零して、変わり果てた姿の浮竹を抱きしめた。

「浮竹、浮竹!」

「抱いて・・・旦那様、どうかいけない俺に、お慈悲を」

京楽にしなだれかかり、欲情する浮竹を強く抱きしめた。

「何もかも、洗い流そう」

京楽は浮竹を抱き上げると、瞬歩で自分の館に戻り、湯浴みをさせた。アフターピルも飲ませる。

浮竹は、実に1カ月もの間行方不明となり、花街で春を売らされていたのだ。上客が何人もいた。

京楽は、浮竹になんとか食事をさせると、それからすぐに四番隊の救護詰所に連れていった。

「記憶を、消すのですか?」

「はい」

「都合のいいように、いらない記憶だけを消すことはできません。あなたのことを忘れることになったとしても、いいのですね?」

「はい」

京楽は、涙を零しながら、卯の花と話をしていた。

打たれた薬は麻薬に似ていて、抜けるのに時間がかかると言われた。

浮竹は、いつもうとうとしていた。

それが、Ωとして自分の身を守るために得た知識であった。

微睡んでいれば、誰に抱かれても大丈夫。大好きな--------のことは、絶対に忘れない。

--------------と、愛し合った記憶を。

かわした約束を。

---------------は、いつも愛してるといってくれた。

名前は。

名前は確か・・・・・。

だめだ、思い出せない。自分がΩであり、番がいたことしか、思いだせない。

浮竹は薬物中毒ですぐに入院となった。

そして、京楽の強い願いで、花街で春を売らされていた記憶を消去してもらった。

京楽のことも忘れる可能性が大いにあった。

だが、浮竹は奇跡を起こしてくれた。


「京楽、春水。俺の番で、俺の最愛の人・・・・・・・・・」


浮竹は、綺麗に花街でいた頃の記憶だけ消えた、真っ白ではない浮竹に戻っていた。忘れていた京楽のことを思い出した。

真っ白になれば、京楽のことも忘れていただろう。

記憶のリセットは難しい。

自分との記憶も忘れてもいいと、京楽は望んだ。

真っ白になったら、また一からやり直せばいいと。

でも、そんなのエゴだ。

浮竹は、つらいだろうにふわりと笑った。

「俺はもう大丈夫だから。いい加減、泣き止め京楽」

京楽はぼたぼたとたくさんの涙を零していた。

「僕を、覚えているんだね・・・・」

「覚えている。運命の番で、俺の伴侶。学院を卒業したら、結婚するんだろう?安いが、手作りのビーズ細工の指輪をあげた」

「浮竹、愛しているよ!もう君を離さない。君は、僕だけのものだ」

「ああ。俺は、京楽のものだ」

浮竹は、帰ってきた。

実に1カ月ぶり以上の再会だった。

麻薬の成分が抜けるまで、入院となったが、さしたる問題ではなかった。

運命の番、だからだろうか。

一度失ったはずの京楽の記憶を、浮竹は思い出していた。




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