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ボクだけの翡翠

それは、ボクだけの翡翠。

ボクだけの。




出会いは、山じいの紹介から始まった。

「この子は、お前と同じ寮の部屋に入る相手じゃ。肺を病んでいて、時折血を吐く上に病弱じゃ。じゃが、死神になるのに申し分ない素質をもっておる」

正直、その子を見たとき、翡翠が輝いていると思った。

翡翠の瞳に白い髪の、綺麗な子だった。

「ボク、女の子には優しいよ?」

「俺は浮竹十四郎。男だ!」

浮竹と名乗った翡翠の瞳をもつ、少女でなく少年は、性別を間違えられたことに怒って違う方向を向いてしまった。

「こりゃ、十四郎。これからこの春水と一緒に生活するのじゃぞ。仲良くせんか」

「ごめんごめん。あまりに綺麗な翡翠の瞳に綺麗な顔立ちをしているから、女の子と思っちゃった。悪気はなかったんだ。許してよ」

「・・・・・許してやる。名は?」

「京楽春水。本名はもっと長いんだけど、これで通してる」

「上流貴族か」

「そうだよ」

「俺も下級だが貴族だ。だが、上流貴族だからって、命令とかしても聞かないからな」

第一印象は、最悪のようであった。

その日から、一緒に生活するようになった。

出会いの悪印象は一日で解けて、浮竹はボクの後を追ってくる、子犬みたいだった。

「京楽、次の授業とってるだろう?席をとっておくな?」

「あー次の授業は・・・・・」

「さぼりはだめだぞ。先週さぼっただろう!」

浮竹は、体が弱くて病気がちで授業を休むこともあったが、基本真面目で必須科目以外の座学もとっていた。

鬼道と木刀をもった稽古試合の実力は、目を見張るものがあった。

「次。はい、お前の負け。次!」

次々と木刀で、相手をしてくる者を叩き伏せる。

「次は、ボクだよ」

「京楽か・・・手加減はしないぞ」

「ボクだって」

何度も切り結びあい、お互い息が上がってきた。

それでも、京楽も浮竹も心の底から楽しんでいた。この相手ともっと剣を交えたい、と。

「ごほっ」

浮竹が咳き込み、血を吐いたのを京楽は見ていた。

血を吐いてもなお、木刀を落とさずに切りかかってくる。

その切っ先は、京楽の喉もと。

「参った。ボクの負けだよ」

「ふふ、あの京楽に勝ったぞ。ごほっ、ごほっ・・・・ぐ・・・・・」

ますます咳き込んで、血を吐く京楽を抱き上げて、医務室まで走る。

「すまない、京楽」

「何、負けたのはボクだしね。それにしても、発作が起きてるのにボクに勝つなんて、君、本当に才能あるね」

「鍛錬はできるだけしているからな。先生にも教えてもらっている」

この場合の先生とは、山じいのことだ。

道理で、強いわけだ。

山じいの指導は厳しくて、音を上げる者が殆どだと聞いた。

そんな中、この浮竹は山じいに教えをこい、それを紙が水を吸収するように覚えていくのだろう。

ほしい。

この翡翠が欲しい。

始めて出会った時から、胸は高鳴る一方だった。

同じ性別なので、何かの勘違いかと思っていたのだが、浮竹の一足一挙動が、京楽の心を刺激した。

医務室に行くと、担当医はおらず、ベッドに浮竹を寝かせると、布団をかけてやった。

「ごほっごほっ」

「待ってて。今、水をはったたらいとタオルもってくるから」

院生の服を赤く染める浮竹が心配すぎて、本当は離れたくなかったけれど、浮竹のためだと言い聞かせて、水をはったたらいとタオルで、口元の血を拭う。

「熱があるんじゃない?」

「ん・・・そういえば、朝から体がだるくて、少し熱っぽかった」

体温計で測ると、38度となっていた。

「完全に病人じゃない!そんな体でよくボクに勝てたね」

「熱を出すのはいつものことだ。慣れている」

浮竹は、京楽に濡れたタオルを額に置いてもらいながら、布団をかぶりなおした。

「今度から、熱が出たり出そうだったりする時はボクに言って。簡単なものだけど、回道かけるから」

「京楽、お前もう回道を使えるのか」

「山じいにしごかれて、自分でできた傷を治しているうちに、自然とね」

「俺も回道を使えるようになりたい」

「そのうち、授業で教えてくれるはずだよ」

京楽はそう言うが、浮竹は首を横に振った。

「お前が教えてくれ。少しでも、自分で治して周囲への負担を軽くしたい」

「いいよ。でも、その代わり・・・・ねぇ、ボクと同じベッドで眠って?」

「は?」

浮竹は、翡翠の瞳を見開いた。

「添い寝だよ、添い寝」

「普通、そういうのは女の子に頼まないか?お前、もてるんだろう?」

「もてるよ。でも、飽きちゃった」

「なんだ、それ」

京楽は苦笑した。

「まぁ、いいぞ。添い寝くらい。同じベッドで眠るだけなんだろう。今年の冬は寒いっていうし・・・・・・」

浮竹は、京楽に下心があるなんて、微塵も疑わなかった。

京楽は、下心で浮竹の純粋である部分を侵食していく。

出会いは桜の咲く春。

今は、冬がこようとしていた。

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