ボクだけの翡翠10
遠征は、1週間に渡って続いた。
遠征の結果は、華々しいものではなく、なんとか生きて帰ってこれたという具合だった。
「浮竹!」
包帯でぐるぐる巻きにされて、担架に乗せられた浮竹を、京楽は4番隊の総合救護詰所に連れていかれるのに、ついてきていた。
「浮竹さんの付き添いですか?」
「うん、そうです」
「非常に危険な状態です。虚と戦っている間に発作を起こして、自分を守ろうとしれくれた者を逆に庇って、背骨まで露出する怪我を負いました。4番隊で応急処置をはしましたが、手術になるでしょう」
「手術・・・・・」
「背中に、虚の卵のようなものが植え付けられていて、それを摘出する手術です。家族の方を、念のために・・・・・」
「死なない。浮竹は、こんなことでは死なない」
「京楽さん?」
「こんなところで死んでたまるか、浮竹!」
「病院内ではお静かに!」
ナースに怒られて、京楽は手洗面所にいって、冷たい水を頭からかぶった。
「ねぇ、浮竹。ボクたちは、隊長になるんでしょ?こんなところで、死なないよね?」
京楽は、面会謝絶になって集中治療室に運ばれて眠っている浮竹を、硝子ごしに見ていた。
「浮竹、愛しているよ。君は、こんなところで死ぬ男じゃない。ボクと一緒に、隊長になるんだ」
次の日、浮竹の手術が行われた。
仕事に全く手が入らない京楽を見かねて、8番隊の隊長が浮竹のところに行ってやれと言ってくれて、京楽は仕事を放棄して4番隊の総合救護詰所に行き、浮竹の手術が終わるのを待った。
手術は、無事成功した。
京楽は、ほっとして全身の力を抜いた。
「きょうら・・・・・」
「いけません、浮竹さん。まだしゃべっては・・・・」
「きょうら・・・・く、すまない、へまをした。でも、俺はこんなことでは、死なない。一緒に、隊長に・・・・・・」
がくりと、浮竹の体から力が抜けて、京楽は焦った。
「大丈夫です。意識を失っただけです」
「そう。良かった・・・・・」
「京楽さん、酷い顔ですよ。眠っていないし、何も食べていませんね?浮竹さんの部屋に仮眠用のベッドを置いておくので、よければ使ってください」
「ありがとう」
ナースの心使いに感謝して、浮竹の病室に入る。
浮竹は青白い顔をしていたが、ちゃんと息をしているし、点滴を受けているし、後は回復を待つばかりだった。
「ふふ、君がボクが止めると思って遠征教えてくれなかったの、なんとなく分かるよ。隊長になるためには、遠征くらい経験しないといけないからね。ボクは君の立場だったら、ボクは君に遠征に行くと打ち明けるけど、止めてもらっても行くだろうね」
京楽は、1週間の休みを申請して、受理された。
浮竹が目覚めるまで、その体をふいてやったり、髪を洗ってすいてあげたり、いろんな世話をした。
「ん・・・ここは?」
「浮竹!」
「京楽!そうか、俺は助かったんだな。京楽、遠征のこと、話さないまま別れてしまって、すまない」
「ううん、それはいいんだ。君が、生きて帰ってきてくれたから。無事に、とは言えなかったけど、手術も成功して、意識も戻ったし、後は療養して退院を待つばかりだね」
「こんな時間から、詰所にいるのはどういうことだ?」
「ああ、1週間の休暇をとったの。君の傍にいたくて」
「ほんと、お前は俺に関係すると唐突なことをするな」
浮竹は苦笑していた。
「だって、君が心配なんだもの。もしも、ボクのいない時に君が息を引きとったらどうしようって、悪夢を見るからあまり眠れなくて、8番隊のほうではミスばかりして、心配してくれた隊長が、1週間の休暇を許してくれたんだ」
「休暇の後の仕事は、きついぞ?」
「君が生きて、ボクの隣にいる。それだけで、ボクはばりばり仕事できそう」
「仕事の時は、俺はまだ救護詰所だからな。退院まで、半月はかかるだろう」
浮竹の言葉に、京楽は頷く。
「毎日、様子見に来るから!」
「いや、仕事があるだろう?」
「それでも、毎日顔を出す!」
「ほどほどにな」
浮竹は、京楽が本当に毎日顔を出してくるので、少し心配だった。8番隊に使いを送ったが、ちゃんと仕事は終わらせて会いにきているらしい。
「俺って、愛されてるなぁ」
「そうだよ」
「わ、びっくりした。霊圧を消して近づいてくるなよ」
「ふふ、君を驚かせたくてね」
「明日、退院だそうだ」
「ほんとに!?」
「ああ。リハビリに少し通うことはあるが、傷は塞がった。手術で摘出されたものは、本当に虚の卵だったそうだ。あのまま朽ちていたら、虚の餌になっていただろうな」
「後遺症はないの?」
「ああ。心配をかけた」
「じゃあ、浮竹はしばらくボクの屋敷で生活してね?」
「は?」
「は?じゃないよ。怪我なおったからって、体力が落ちてるんだから、今までみたいな一人暮らしきついでしょ?」
京楽は、浮竹が自分の屋敷で暮らすのを、さも当たり前のことのように言う。
「それはそうだが・・・・でも、お前の世話になりっぱなしというのも」
「じゃあ、侍女つけようか?でも、エロい気分になって、抜こうとしても侍女がいて邪魔でできないよ?」
「ああもう、お前の屋敷で暮らす!これでいいんだろう?」
「もう、いっそのことボクの屋敷に引っ越してくれば?」
「でも、周囲が・・・・・」
浮竹が、顔を伏せる。
「そんなの、ボクが金と実力で黙らせる」
「こわ!」
浮竹は、ニンマリ笑う京楽の金の力というものに恐れを抱いた
いかに両親に放り出されといっても、上流貴族だ。それも、4大貴族に近い。
結局、その日を境に、浮竹は京楽の屋敷に引っ越すことになった。
もう、互いの帰りを心配して、すれ違いのようになることはない。
同じ場所に帰ってくるのだから、いない時は寂しいが、朝起きる時は一緒なのだ。出勤も一緒で、それぞれ途中で8番隊隊舎と13番隊隊舎で別れた。
穏やかな日常が戻ってくるかに見えた。
京楽の両親が、京楽に見合いをさせると言い出すまでは。
遠征の結果は、華々しいものではなく、なんとか生きて帰ってこれたという具合だった。
「浮竹!」
包帯でぐるぐる巻きにされて、担架に乗せられた浮竹を、京楽は4番隊の総合救護詰所に連れていかれるのに、ついてきていた。
「浮竹さんの付き添いですか?」
「うん、そうです」
「非常に危険な状態です。虚と戦っている間に発作を起こして、自分を守ろうとしれくれた者を逆に庇って、背骨まで露出する怪我を負いました。4番隊で応急処置をはしましたが、手術になるでしょう」
「手術・・・・・」
「背中に、虚の卵のようなものが植え付けられていて、それを摘出する手術です。家族の方を、念のために・・・・・」
「死なない。浮竹は、こんなことでは死なない」
「京楽さん?」
「こんなところで死んでたまるか、浮竹!」
「病院内ではお静かに!」
ナースに怒られて、京楽は手洗面所にいって、冷たい水を頭からかぶった。
「ねぇ、浮竹。ボクたちは、隊長になるんでしょ?こんなところで、死なないよね?」
京楽は、面会謝絶になって集中治療室に運ばれて眠っている浮竹を、硝子ごしに見ていた。
「浮竹、愛しているよ。君は、こんなところで死ぬ男じゃない。ボクと一緒に、隊長になるんだ」
次の日、浮竹の手術が行われた。
仕事に全く手が入らない京楽を見かねて、8番隊の隊長が浮竹のところに行ってやれと言ってくれて、京楽は仕事を放棄して4番隊の総合救護詰所に行き、浮竹の手術が終わるのを待った。
手術は、無事成功した。
京楽は、ほっとして全身の力を抜いた。
「きょうら・・・・・」
「いけません、浮竹さん。まだしゃべっては・・・・」
「きょうら・・・・く、すまない、へまをした。でも、俺はこんなことでは、死なない。一緒に、隊長に・・・・・・」
がくりと、浮竹の体から力が抜けて、京楽は焦った。
「大丈夫です。意識を失っただけです」
「そう。良かった・・・・・」
「京楽さん、酷い顔ですよ。眠っていないし、何も食べていませんね?浮竹さんの部屋に仮眠用のベッドを置いておくので、よければ使ってください」
「ありがとう」
ナースの心使いに感謝して、浮竹の病室に入る。
浮竹は青白い顔をしていたが、ちゃんと息をしているし、点滴を受けているし、後は回復を待つばかりだった。
「ふふ、君がボクが止めると思って遠征教えてくれなかったの、なんとなく分かるよ。隊長になるためには、遠征くらい経験しないといけないからね。ボクは君の立場だったら、ボクは君に遠征に行くと打ち明けるけど、止めてもらっても行くだろうね」
京楽は、1週間の休みを申請して、受理された。
浮竹が目覚めるまで、その体をふいてやったり、髪を洗ってすいてあげたり、いろんな世話をした。
「ん・・・ここは?」
「浮竹!」
「京楽!そうか、俺は助かったんだな。京楽、遠征のこと、話さないまま別れてしまって、すまない」
「ううん、それはいいんだ。君が、生きて帰ってきてくれたから。無事に、とは言えなかったけど、手術も成功して、意識も戻ったし、後は療養して退院を待つばかりだね」
「こんな時間から、詰所にいるのはどういうことだ?」
「ああ、1週間の休暇をとったの。君の傍にいたくて」
「ほんと、お前は俺に関係すると唐突なことをするな」
浮竹は苦笑していた。
「だって、君が心配なんだもの。もしも、ボクのいない時に君が息を引きとったらどうしようって、悪夢を見るからあまり眠れなくて、8番隊のほうではミスばかりして、心配してくれた隊長が、1週間の休暇を許してくれたんだ」
「休暇の後の仕事は、きついぞ?」
「君が生きて、ボクの隣にいる。それだけで、ボクはばりばり仕事できそう」
「仕事の時は、俺はまだ救護詰所だからな。退院まで、半月はかかるだろう」
浮竹の言葉に、京楽は頷く。
「毎日、様子見に来るから!」
「いや、仕事があるだろう?」
「それでも、毎日顔を出す!」
「ほどほどにな」
浮竹は、京楽が本当に毎日顔を出してくるので、少し心配だった。8番隊に使いを送ったが、ちゃんと仕事は終わらせて会いにきているらしい。
「俺って、愛されてるなぁ」
「そうだよ」
「わ、びっくりした。霊圧を消して近づいてくるなよ」
「ふふ、君を驚かせたくてね」
「明日、退院だそうだ」
「ほんとに!?」
「ああ。リハビリに少し通うことはあるが、傷は塞がった。手術で摘出されたものは、本当に虚の卵だったそうだ。あのまま朽ちていたら、虚の餌になっていただろうな」
「後遺症はないの?」
「ああ。心配をかけた」
「じゃあ、浮竹はしばらくボクの屋敷で生活してね?」
「は?」
「は?じゃないよ。怪我なおったからって、体力が落ちてるんだから、今までみたいな一人暮らしきついでしょ?」
京楽は、浮竹が自分の屋敷で暮らすのを、さも当たり前のことのように言う。
「それはそうだが・・・・でも、お前の世話になりっぱなしというのも」
「じゃあ、侍女つけようか?でも、エロい気分になって、抜こうとしても侍女がいて邪魔でできないよ?」
「ああもう、お前の屋敷で暮らす!これでいいんだろう?」
「もう、いっそのことボクの屋敷に引っ越してくれば?」
「でも、周囲が・・・・・」
浮竹が、顔を伏せる。
「そんなの、ボクが金と実力で黙らせる」
「こわ!」
浮竹は、ニンマリ笑う京楽の金の力というものに恐れを抱いた
いかに両親に放り出されといっても、上流貴族だ。それも、4大貴族に近い。
結局、その日を境に、浮竹は京楽の屋敷に引っ越すことになった。
もう、互いの帰りを心配して、すれ違いのようになることはない。
同じ場所に帰ってくるのだから、いない時は寂しいが、朝起きる時は一緒なのだ。出勤も一緒で、それぞれ途中で8番隊隊舎と13番隊隊舎で別れた。
穏やかな日常が戻ってくるかに見えた。
京楽の両親が、京楽に見合いをさせると言い出すまでは。
PR
- トラックバックURLはこちら