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京楽と浮竹と海燕と 正月

「起きろおおおおおお!!!」

「嫌だあああああああ!!!」

寒い中、毛布と布団をひっぺがされそうになって、それしがみついて離れない浮竹に、海燕は業を煮やして、ぺっと、雨乾堂の廊下にしがみ付いた浮竹ごと転がした。

「寒い!海燕の人でなしーーー!!」

がたがたと震える。

正月休みが明けたとはいえ、まだまだ寒い。

この季節は椿が見頃だなと、ふと庭に植えていた椿が見頃なのを思い出す。

浮竹は起きた。

どのみち、廊下では寒すぎて、いくら毛布と布団があっても、寝れない。

庭においてあったサンダルをはいて、庭に植えた椿のところにいくと、それを眺めて和んでいた。

「廊下でも寝ているのか、いい加減に起きろーー!!ってあれ、いない・・・・」

庭に出ている浮竹をみて、海燕の顔色が変わる。

「あんた、そんな薄着でいつまでも外うろつかないでください!」

「なんだ。ただ椿を見ていただけだぞ」

「それなら何か羽織ってからにしてください!」

寝るときの着物の恰好のままだった。

海燕は、すぐに上着をもってきて、浮竹に着せた。

「海燕は、心配性だな」

「あんたは気が緩すぎるんです。風邪ひいて熱だしますよ」

「いつものことだろう。どうせ熱だすなら、好きなことしていたい」

「馬鹿ですか!」

海燕に引きずられて、雨乾堂の中に入る。

火鉢に当たらされて、がたがたと震えていた体がやっと収まった。

「海燕ー腹減ったーご飯」

間の抜けた声で、そう言うと、海燕が朝餉をもってきた。

時計を見ると、8時50分。

今から朝餉を食べ終わったら、死神の業務開始時刻の9時を過ぎるが、いつも10時とか11時まで寝ているのだから、まだましだろう。

「なぁ、海燕」

「なんですか、隊長」

「お年玉くれ」

冗談のつもりで、そう言った。

「仕方ありませんね」

お年玉をもらってしまった。

「え、うそ。まじで?」

「いらないなら、奪いますよ」

「いや、いる!」

きっと、肩たたき券でも入ってるのだろう。でも、海燕の肩たたきやマッサージは上手いので、それはそれで嬉しい。

朝餉を食べ終わり、死覇装と隊長羽織に着替えて、お年玉の中身をみると、5千環入っていた。

つまりは、5千円だ。

「ほんとにお年玉もらえた」

500年近く生きてきて、年下からお年玉をもらうのは初めてだった。

ちなみに、今年も山本総隊長からお年玉をもらっていたりする。3万環だった。つまりは3万。

山本総隊長にとっては、息子のような浮竹と京楽の存在は特別で、いくつになってもお年玉をあげたい存在なのだろう。

ちなみに、京楽は2万だった。

1万の差を、差別だと叫んでいたが、日頃の行いの違いだと言われて、京楽はその言葉に言葉を返せないでいた。

9時半になり、仕事をはじめる。

今日は比較的書類仕事が少なくて、昼前には全て終わってしまった。

「今日は終わりだ」

「早いですね。ああほんとだ。今日は仕事があまりありませんね」

「じゃ、そういうことで8番隊に遊びにいってくる!」

「あ、まて!」

海燕の制止の声を無視して、瞬歩で8番隊の前にくると、泣いている京楽を見てしまった。

「京楽・・・・?」

「ああ、浮竹かい!天の助けだ!そこにいる猫、外に出してくれないかな。七緒ちゃんが預かったっていう猫なんだけど、僕は猫アレルギーで。涙も鼻水も止まらない・・ふぇっくしょん」

「この子か?」

「にゃーお」

京楽にすり寄っていた猫は、浮竹のところにくると甘えてきた。

「外に出して戻ってこなかったら大変だ。隊首室に入れておく。それでいいか?」

「うん、執務室に入れないようにしてくれれば、それでいいよ」

京楽は、珍しく泣いていたので、何事かと思ったら、猫アレルギーの症状だったのだ。

「こんなにかわいいのにな?」

「にゃあ」

猫用のトイレと、餌と水を入れた入れ物を、隊首室に置いておいて、扉をしめた。

「にゃあにゃああ」

外に出たがっていたが、しばらく鳴いていると、大人しくなった。

多分、寝たんだろう。

「ああもう、お陰で仕事が全然進んでないよ・・・」

「どんだけ溜めこんだ?」

「まだ2週間分くらい」

この前、七緒が京楽の耳を引っ張って、雨乾堂から連れ去ってからちょうど半月くらいだ。

それに懲りて、始めの頃はまともに仕事をこなしてきたが、そろそろさぼりの癖が出てきて、七緒に怒られたところだった。

「伊勢、お前の猫アレルギーのこと知っているのか?」

「いや、知らないんじゃないかな。知ってたら、嫌がらせで僕の部屋に入れることはあっても、仕事のある執務室に置いていったりしないよ」

「猫はあんなにかわいいのに」

「かわいいけどね。僕もできれば抱きたいよ。でもね、体が拒否反応を起こすんだ」

「俺に猫耳や尻尾をはえさせる薬飲ませて、睦み合った時は平気なのに?」

「う、それは・・・・」

半年前ほどのことだ。

まだ浮竹は根に持っていた。

「あの時は悪かったよ。もうしばらくしないから」

「しばらくってどのくらいだ」

「1年くらいかな」

「お前は、1年もたてばあんな薬をまた俺に盛るというのか!」

浮竹が怒る。

「まぁまぁ。お年玉あげるから」

ぴくりと、浮竹が反応する。

お年玉をあげることはほとんどないが、なぜかもらうことが多い。

京楽からもらったお年玉は、ずしりとしていた。札束などではない。

「何が入っってるんだ?」

中をあけると、見事に研磨された翡翠の石が入っていた。しかも大粒だ。

「売れば、けっこうな額になると思うよ」

「こんな高価なもの・・・・ああでも、どうせ要らないといえば京楽はそこらへんに投げ捨ててしまうんだろうな」

「正解。そんなの、僕が持ってても意味ないからね。適当にタンスの中にでもしまうか、下手するとゴミと一緒に出しちゃうかもね」

勿体なさすぎて、もらう以外の選択肢が出てこなかった。

「じゃあ、俺がもらう」

「ちょっと息抜き。雨乾堂に行こう」

「ああ、いいぞ」

二人で、雨乾堂に帰ってきた。

「あ、隊長。伊勢副隊長から、猫を預かってほしいと言われていたんですけど・・・隊長がいなくなったので、京楽隊長に預かってもらうって・・・・」

「ああ、それで京楽のところに猫がいたわけか。その問題なら、解決した。8番隊の隊首室で預かっている」

「京楽隊長いいな。猫、かわいいでしょ」

「海燕君、僕、猫アレルギーなんだ」

「え、まじですか」

「まじだよ・・・・」

ニヤリ。海燕が笑ったのは、気のせいではなかっただろう。

「俺んちで、猫飼い始めたんです。隊長、今度雨乾堂に連れてきていいですか?」

「ああ、勿論いいぞ」

「海燕君、君ってやつは~~~」

京楽が、海燕を追い回す。

海燕は、楽しそうに京楽の腕から逃げていた。

結局、翡翠を売りにいくと、200万環という値段がついた。

そのお金で、しばらくの間浮竹は海燕や都をおごってやったりした。

「絶対、京楽隊長からお金もらったでしょう!」

海燕の指摘に、浮竹が問う。

「何故気づいた?」

「だって、浮竹隊長は基本貧乏人ですから」

「お年玉に翡翠をもらったんだ。200万環になった」

「200・・・・俺の給料の2か月分ですね」

くらりとした眩暈を覚える。

京楽は、浮竹を甘やかしすぎだ。今度、そこのところを注意しようと思う海燕であったが、おごりの食事はありがたくいだいておくのだった。







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