京楽には分かる
隊首会があった。
ただそれだけのこと。
いつも病欠の浮竹がいた。
ただそれだけのこと。
「ああ、もう」
隊首会が終わる前に、京楽は浮竹を肩に担ぐと、瞬歩で消えてしまった。
「こりゃ、春水!」
山本総隊長が名を呼ぶが、もう遅かった。
「全く・・・十四郎のこととなると、勝手に振る舞いおって」
その十四郎は、遠く離れた雨乾堂の廊下にいた。京楽に担がれて。
「浮竹、前にも言ったよね。体調悪いときはちゃんと休みなさいって」
肩の上にいる浮竹は、申し訳なさそうに、小さな声で
「すまない」
とだけ答えた。
とさりと、静かに雨乾堂内の畳の上に浮竹の体を降ろして、布団をしいた。
そこに横たえる。
「いつ気づいた?」
「初めから」
熱があったのだ。隊首会に参加した時は微熱だった。
立ったまま話を聞いているうちに、眩暈を覚えた。体が熱くて、立っていられなくなると思ったときには、京楽の肩に担がれていた。
本当に、どうして京楽には分かるのだろうか。不思議で仕方なかった。
「どうして、お前は俺の具合が悪くなると分かるんだ」
「長年の付き合いだけど、一種の感みたいなものかな」
院生時代からそうだった。熱を出して倒れる前に、京楽は気が付き、浮竹を支えたり抱き上げたりして、運んで行った。
「お前には、かなわないな」
「いいから、ちゃんと薬のんで寝なさい」
白湯と、解熱剤を渡された。幸いにも、昼食をとった後だったのですきっ腹に薬というわけではなかった。
布団を被ると、窓から雪が入ってきた。
「窓、扉、しめるよ」
「ああ・・・・・」
毛布と布団をかぶっているのだが、寒気がしてきた。
かたかたと震えていると、布団の中に京楽が入ってきた。
「人間ホッカイロ。いる?」
「いる」
暖かい京楽に抱き着いていると、寒気も治まった。
「京楽は便利だな」
「何それ」
「まるでお母さんのようだ」
「君にだけだよ」
「うん」
体温を共有しあっていると、眠くなってきた。
「少し、眠る・・・」
「ああ、おやすみ・・・・」
浮竹が寝ると、そっと布団からでた。
女物の上着を、布団の上にかけて、山本総隊長のところにまで行った。
「山じい、今回の隊首会だけど、何か特別なことあった?」
「なんじゃ春水。今頃来よってからに」
「だって浮竹が」
「分かっておる。十四郎には、後で伝えるつもりじゃった。十四郎の副官に、朽木ルキアを置くものとする」
「ルキアちゃんが!こりゃ、浮竹も喜ぶだろうな!」
京楽も喜んだ。
「だが、十四郎のやつは、志波海燕を亡くしから、頑なに副官を置くことを拒んでおった。朽木ルキアを拒絶しないかどうかと思っておったのだが、お主の顔を見る限り、杞憂であったようじゃ」
「他に連絡事項は?」
「特にない。虚退治には11番隊を遠征にいかせることが決定したしのお」
「11番隊なら、問題ないでしょ。猛者が集っている」
更木剣八の下につく者は、みんな血を見るのが好きだ。戦闘狂ともいえる。
「じゃあ、僕はこれで戻るよ」
「春水」
「何、山じい」
「身を固めるつもりはないか?四楓院夜一との結婚話があがっておるのじゃ」
「はぁ!?何それ。夜一と僕はただの飲み友達で、そんな気全然ないよ!それに僕には浮竹がいる。夜一は・・・・そうだな、同じ4大貴族同士、朽木隊長とでも結婚させればいいんじゃないの。じゃあね」
「あ、またぬか春水!」
京楽は、これ以上戯言など聞きたくないのだと、一番隊の執務室を後にした。
雨乾堂に戻ると、浮竹はまだ眠っていた。布団の中にもぐりこみ、浮竹の暖かな温度に包まれながら、京楽も眠った。
「京楽・・・京楽・・・・」
揺り起こされて、思っていたよりも眠ってしまっいたようで、はっとなる。
「浮竹、熱は下がったんのかい?」
「ああ、お陰様で。これ、お前の着物」
布団の上に置いてあった女ものの着物をひらりと着て、京楽は浮竹に告げる。
「君の副官が決まったそうだよ」
「え・・・・」
「ルキアちゃんだ」
「本当か!?」
浮竹は、京楽の着物の裾を引っ張った。
「山じいが言ってた。決定事項だって。まさか、ルキアちゃんを副官にするのは嫌だなんて言わないだろうね」
「嫌なものか!そうか朽木か!兄妹そろって、隊長副隊長か。朽木家も、出世したなあ」
浮竹には、四楓院夜一と結婚話があがっていることは、言わなかった。
数日後、副官として雨乾堂に出入りするルキアの姿があった。
「ああ、朽木お茶をもってきてくれたのか。すまないな」
「いえ、隊長。他にすることはありませんか?」
「そうだな、この書類を6番隊の白哉のところにまでもっていってくれ」
「兄様のところにですか?」
白哉と聞いて、ルキアが顔を輝かせた。
「ああ、他に急ぐ案件はないから、白哉と話をしてきてもいいぞ」
「行ってまいります!」
ルキアは、書類をもって少し浮かれ気分で6番隊の執務室へと消えて行った。
浮竹は、ルキアがいないので自分で昼餉をとりに13番隊隊舎にやってきた。
「だ、そうだよ。ほんとなのかなぁ?四楓院家の姫と、京楽隊長が」
「でも姫といっても、今は出奔しているも同然だろう。まぁ、それでも四楓院家の名前はついてまわるか。京楽隊長と結婚するとして、浮竹隊長はどうなるんだ?」
「さあ・・・・恋人として、囲うんじゃないか?」
そんな言葉が、聞こえてきて、浮竹の体が固まった。
「あ、浮竹隊長!」
「今の話は・・・・本当か?」
「い、いえただの噂話です」
「噂話でも、そんな話が流れているだな?」
「し、失礼します!」
一般隊士たちは、蒼い顔いろになった浮竹を置いて、逃げるように去ってしまった。
「京楽・・・・・」
ずきんと、肺が痛んだ。
「いけない・・・・・」
雨乾堂に戻る前に、肺の発作を起こして、血を吐いた。
「きゃああああああ、隊長が!」
発見した一般隊士たちに、4番隊まで運び込まれた。
幸いにも発作は軽く、2~3日安静にすれば大丈夫だそうだ。
浮竹が血を吐いたと連絡を受けて、急いでやってきた京楽は、案外平気な顔をしている浮竹を見てほっとした。
でも、浮竹はいつもとどこかが違った。
「京楽。四楓院夜一との結婚話が出ているって本当か」
「あちゃー。誰が教えたの」
「教えられたわけじゃない。偶然聞いたんだ」
「もちろん断ったよ。浮竹がいるのに、結婚するわけないじゃないか。そもそも夜一とは飲み友達だ。結婚相手として見れないよ」
その言葉に、浮竹はほっとしていた。
「京楽。今度からは、そんな話があったのなら、俺にも教えてくれ」
「でも」
「知らないで他から聞くより、直接言われたほうがショックが少ない」
「分かったよ」
もう一度、山本総隊長から、夜一との結婚の打診があったが、結局夜一のほうも否定してきたので、その縁談話はお流れとなった。四楓院家の当主が、姉に身を固めてほしいということからきた我儘話だったそうだ。
「もう大丈夫だね、浮竹」
京楽が、抱き着いてキスをしてきた。
「あっ、京楽・・・・んっ」
「ここ半月、ずっとお預け食らってたんだもの。いいでしょ」
「バカ!まだ、皆が働いて・・・・誰か入ってきたら・・・・」
まだ、4時だ。6時までは死神たちは業務についている。
「雨乾堂には、君かルキアちゃんくらいしかこないよ」
「ああっ!」
「失礼します、隊長、京楽隊長、お茶をおもち・・・・・・きゃあああああ、ごめんなさいいいいいいい」
「あ」
「あ」
ルキアは、敬愛する上官の浮竹が、京楽とそういう関係であることは、女性死神協会とか他を通して知っていたが、実際に浮竹と京楽が睦みあう姿を見て、真っ赤になって悲鳴をあげて出て行った。お茶はこぼれ、ぼんも湯呑も転がっていた。
「まぁ、いいか。好きだよ、十四郎」
「ああっ、春水!」
二人の恋人は、かつて海燕がいた時のように気にせず睦みあうのだった。
ただそれだけのこと。
いつも病欠の浮竹がいた。
ただそれだけのこと。
「ああ、もう」
隊首会が終わる前に、京楽は浮竹を肩に担ぐと、瞬歩で消えてしまった。
「こりゃ、春水!」
山本総隊長が名を呼ぶが、もう遅かった。
「全く・・・十四郎のこととなると、勝手に振る舞いおって」
その十四郎は、遠く離れた雨乾堂の廊下にいた。京楽に担がれて。
「浮竹、前にも言ったよね。体調悪いときはちゃんと休みなさいって」
肩の上にいる浮竹は、申し訳なさそうに、小さな声で
「すまない」
とだけ答えた。
とさりと、静かに雨乾堂内の畳の上に浮竹の体を降ろして、布団をしいた。
そこに横たえる。
「いつ気づいた?」
「初めから」
熱があったのだ。隊首会に参加した時は微熱だった。
立ったまま話を聞いているうちに、眩暈を覚えた。体が熱くて、立っていられなくなると思ったときには、京楽の肩に担がれていた。
本当に、どうして京楽には分かるのだろうか。不思議で仕方なかった。
「どうして、お前は俺の具合が悪くなると分かるんだ」
「長年の付き合いだけど、一種の感みたいなものかな」
院生時代からそうだった。熱を出して倒れる前に、京楽は気が付き、浮竹を支えたり抱き上げたりして、運んで行った。
「お前には、かなわないな」
「いいから、ちゃんと薬のんで寝なさい」
白湯と、解熱剤を渡された。幸いにも、昼食をとった後だったのですきっ腹に薬というわけではなかった。
布団を被ると、窓から雪が入ってきた。
「窓、扉、しめるよ」
「ああ・・・・・」
毛布と布団をかぶっているのだが、寒気がしてきた。
かたかたと震えていると、布団の中に京楽が入ってきた。
「人間ホッカイロ。いる?」
「いる」
暖かい京楽に抱き着いていると、寒気も治まった。
「京楽は便利だな」
「何それ」
「まるでお母さんのようだ」
「君にだけだよ」
「うん」
体温を共有しあっていると、眠くなってきた。
「少し、眠る・・・」
「ああ、おやすみ・・・・」
浮竹が寝ると、そっと布団からでた。
女物の上着を、布団の上にかけて、山本総隊長のところにまで行った。
「山じい、今回の隊首会だけど、何か特別なことあった?」
「なんじゃ春水。今頃来よってからに」
「だって浮竹が」
「分かっておる。十四郎には、後で伝えるつもりじゃった。十四郎の副官に、朽木ルキアを置くものとする」
「ルキアちゃんが!こりゃ、浮竹も喜ぶだろうな!」
京楽も喜んだ。
「だが、十四郎のやつは、志波海燕を亡くしから、頑なに副官を置くことを拒んでおった。朽木ルキアを拒絶しないかどうかと思っておったのだが、お主の顔を見る限り、杞憂であったようじゃ」
「他に連絡事項は?」
「特にない。虚退治には11番隊を遠征にいかせることが決定したしのお」
「11番隊なら、問題ないでしょ。猛者が集っている」
更木剣八の下につく者は、みんな血を見るのが好きだ。戦闘狂ともいえる。
「じゃあ、僕はこれで戻るよ」
「春水」
「何、山じい」
「身を固めるつもりはないか?四楓院夜一との結婚話があがっておるのじゃ」
「はぁ!?何それ。夜一と僕はただの飲み友達で、そんな気全然ないよ!それに僕には浮竹がいる。夜一は・・・・そうだな、同じ4大貴族同士、朽木隊長とでも結婚させればいいんじゃないの。じゃあね」
「あ、またぬか春水!」
京楽は、これ以上戯言など聞きたくないのだと、一番隊の執務室を後にした。
雨乾堂に戻ると、浮竹はまだ眠っていた。布団の中にもぐりこみ、浮竹の暖かな温度に包まれながら、京楽も眠った。
「京楽・・・京楽・・・・」
揺り起こされて、思っていたよりも眠ってしまっいたようで、はっとなる。
「浮竹、熱は下がったんのかい?」
「ああ、お陰様で。これ、お前の着物」
布団の上に置いてあった女ものの着物をひらりと着て、京楽は浮竹に告げる。
「君の副官が決まったそうだよ」
「え・・・・」
「ルキアちゃんだ」
「本当か!?」
浮竹は、京楽の着物の裾を引っ張った。
「山じいが言ってた。決定事項だって。まさか、ルキアちゃんを副官にするのは嫌だなんて言わないだろうね」
「嫌なものか!そうか朽木か!兄妹そろって、隊長副隊長か。朽木家も、出世したなあ」
浮竹には、四楓院夜一と結婚話があがっていることは、言わなかった。
数日後、副官として雨乾堂に出入りするルキアの姿があった。
「ああ、朽木お茶をもってきてくれたのか。すまないな」
「いえ、隊長。他にすることはありませんか?」
「そうだな、この書類を6番隊の白哉のところにまでもっていってくれ」
「兄様のところにですか?」
白哉と聞いて、ルキアが顔を輝かせた。
「ああ、他に急ぐ案件はないから、白哉と話をしてきてもいいぞ」
「行ってまいります!」
ルキアは、書類をもって少し浮かれ気分で6番隊の執務室へと消えて行った。
浮竹は、ルキアがいないので自分で昼餉をとりに13番隊隊舎にやってきた。
「だ、そうだよ。ほんとなのかなぁ?四楓院家の姫と、京楽隊長が」
「でも姫といっても、今は出奔しているも同然だろう。まぁ、それでも四楓院家の名前はついてまわるか。京楽隊長と結婚するとして、浮竹隊長はどうなるんだ?」
「さあ・・・・恋人として、囲うんじゃないか?」
そんな言葉が、聞こえてきて、浮竹の体が固まった。
「あ、浮竹隊長!」
「今の話は・・・・本当か?」
「い、いえただの噂話です」
「噂話でも、そんな話が流れているだな?」
「し、失礼します!」
一般隊士たちは、蒼い顔いろになった浮竹を置いて、逃げるように去ってしまった。
「京楽・・・・・」
ずきんと、肺が痛んだ。
「いけない・・・・・」
雨乾堂に戻る前に、肺の発作を起こして、血を吐いた。
「きゃああああああ、隊長が!」
発見した一般隊士たちに、4番隊まで運び込まれた。
幸いにも発作は軽く、2~3日安静にすれば大丈夫だそうだ。
浮竹が血を吐いたと連絡を受けて、急いでやってきた京楽は、案外平気な顔をしている浮竹を見てほっとした。
でも、浮竹はいつもとどこかが違った。
「京楽。四楓院夜一との結婚話が出ているって本当か」
「あちゃー。誰が教えたの」
「教えられたわけじゃない。偶然聞いたんだ」
「もちろん断ったよ。浮竹がいるのに、結婚するわけないじゃないか。そもそも夜一とは飲み友達だ。結婚相手として見れないよ」
その言葉に、浮竹はほっとしていた。
「京楽。今度からは、そんな話があったのなら、俺にも教えてくれ」
「でも」
「知らないで他から聞くより、直接言われたほうがショックが少ない」
「分かったよ」
もう一度、山本総隊長から、夜一との結婚の打診があったが、結局夜一のほうも否定してきたので、その縁談話はお流れとなった。四楓院家の当主が、姉に身を固めてほしいということからきた我儘話だったそうだ。
「もう大丈夫だね、浮竹」
京楽が、抱き着いてキスをしてきた。
「あっ、京楽・・・・んっ」
「ここ半月、ずっとお預け食らってたんだもの。いいでしょ」
「バカ!まだ、皆が働いて・・・・誰か入ってきたら・・・・」
まだ、4時だ。6時までは死神たちは業務についている。
「雨乾堂には、君かルキアちゃんくらいしかこないよ」
「ああっ!」
「失礼します、隊長、京楽隊長、お茶をおもち・・・・・・きゃあああああ、ごめんなさいいいいいいい」
「あ」
「あ」
ルキアは、敬愛する上官の浮竹が、京楽とそういう関係であることは、女性死神協会とか他を通して知っていたが、実際に浮竹と京楽が睦みあう姿を見て、真っ赤になって悲鳴をあげて出て行った。お茶はこぼれ、ぼんも湯呑も転がっていた。
「まぁ、いいか。好きだよ、十四郎」
「ああっ、春水!」
二人の恋人は、かつて海燕がいた時のように気にせず睦みあうのだった。
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