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何度でも

君と出会えて、よかった。

君を愛せて、よかった。


「愛してるよ・・・・浮竹」


そっと、白百合に満たされた棺の中に横たわる、最愛の人の冷たい頬に手をあてた。

ふわりと、甘い匂いが鼻孔をくすぐった。

ぐすぐすと、死神たちの泣きじゃくる音が聞こえる。特にルキアはたくさん泣いていた。清音と仙太郎も。

京楽は、3人を抱擁して、ぽんぽんと頭を撫でた。

京楽は涙を零さなかった。

泣いてはいけない。

総隊長なのだから・・・・・。

「さよなら」

白い百合の横におはぎを添えて、そっと棺の蓋を閉じた。


荼毘に、ふされていく。

真っ赤に踊り狂う火を、ただ見ていた。


大空は快晴だった。

ユーハバッハの手によって、未曾有の被害を出した尸魂界。

散っていった命は、もう戻ってこない。

浮竹もまた、死神としての矜持をもって、死んでいった。

「さよなら・・・・・・」

天に昇っていく煙を見る。不思議と、涙は零れなかった。

浮竹が死んだ日に泣きすぎて、もう涙は出ない。


-------------------------


「総隊長、総隊長聞いているんですか!」

「ん、あ、何、七緒ちゃん」

「この書類、明日までに目を通しておいてください!目をあけながら寝ないでくださいね!」

「うん、分かったよ」

浮竹が死んで、いろいろ変わった。でも、総隊長なのだからと、歩みを止めることはなかった。

根を詰めすぎているのかもしれない。

息抜きにと、取り壊されることが決まった雨乾堂まで足を運ぶことにした。

「ああ・・・・懐かしいなぁ。もうここには君はいないのに」

がらりと戸をあけると「よお、京楽」と気軽に声をかけてくる君の幻影を見る。

「ふ。君はもういないのにね」

浮竹の遺品は、京楽が引き取った。

院生時代からあふれた、浮竹の誕生日に毎年いろいろなものをあげていたけど、そんなものがたんすの奥に大切そうにしまわれていた。

心が、じくじくと痛んだ。

思い出の品が多すぎた。

京楽の屋敷の一室に、遺品は整理されておかれている。

京楽の手の中には、いつも浮竹がもっていた翡翠のお守り石があった。

これだけは、浮竹のぬくもりがそこに留まっている気がして、身に着けておきたかった。

「ここにね、君の墓を建てようと思うんだ。ここなら、池が見えるでしょ?」

生前、浮竹が大切にしていた池の鯉が泳いでいるのが、目に止まる。

餌をやると、鯉はパクパクと口をあけた。

ふと金色に光る鯉を見て、ああ、やちるちゃんが朽木隊長の庭の池から連れてきた鯉なのだろうと、薄く笑みが浮かんだ。

やちるも、もういない。

「あーあ。君がいないと本当に人生がつまらないねぇ。仕事だけしか残らない」

そういって、一番隊の執務室に戻った。


その日の夜、夢を見た。

浮竹の夢だった。

「京楽、元気か」

「浮竹!会いたかったよ!」

ふわりと、腕の中に麗人を抱き込めば、花の甘い香りがした。

浮竹は、ふわふわと白く、京楽に抱きしめられて幸せそうな顔をしていた。

「俺に会いたいか」

「会いたいよ。すごく会いたい」

「あと100年待ってくれと言ったら、待ってくれるか?」

「何百年でも待つよ。君に会えるなら」

クスリと、浮竹が笑った。

「でも、君を待つよりもお迎えがくるほうが早いかもね」

「京楽、お前は生きろ。俺の分まで」

「浮竹・・・・・」

ふわふわの白い浮竹に、口づける。

綿あめみたいな、甘い味がした。

「いつか、また会いに行く。じゃあな!」

そういって、浮竹は降り始めた雨の中で溶けていった。

ふっと、目が開く。

ああ、夢か。

しとしとと、雨の音がする。

浮竹は綿あめだった。雨に溶けてしまった。

今振っている雨にだろうか。

でも、幸せだった。

夢の中でだとしても、また君に会えたのだから。


--------------------------------


それから、100年近くが経った。

尸魂界は平和で、小競り合いの争いはあったものの、比較的平和だった。

しとしとと、雨の降る6月の季節だった。

笠をかぶって、浮竹の墓参りに来ていた。

酒を墓石にそそぐと、いつものように杯に中身を注ぎ、あおる。

「・・・・・・・・」

真っ白な髪に、翡翠の瞳をした少年が、目の前に立っていた。

「誰だい?」

「・・・・・・」

少年は、ふわりとほほ笑んだ。

「京楽、また会えた」

「え・・・・・」

抱きしめられて、その暖かさと甘い花の香りに、かつての想い人が重なった。

「今の名は十四郎。苗字はない。生まれは流魂街の西地区。親兄弟もいない」

「浮竹・・・・・?」

京楽は、いつの間にか涙を零していた。

「浮竹、なのかい?」

「京楽・・・・・また、会えた。何度でも俺はお前と出会う」

京楽は、力強く十四郎と名乗った白い少年を抱きしめた。

涙が止まらなかった。

「君を・・・・何度でも愛するよ・・・・君がいない世界は色がないんだ・・・」

「今は?」

「世界が色づいている。紫陽花がこんなに綺麗な色をしているなんて忘れていた」

ふと目にとどまった紫陽花の色を確認して、モノクロになりかけていた世界が、艶やかに色を取り戻していく。

「愛しているよ、十四郎」

「愛している、春水。また、会えた・・・・」


何度でも、何度でも。

また、めぐり合う。

どちらかの命が果てたなら、また違う命で。

何度でも、何度でも。

リフレイン。



雨は、しとしととずっと降り続けていた。





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