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僕はそうして君におちていく9

「では、以上をもって、京楽春水を8番隊隊長に、浮竹十四郎を13番隊隊長に任命するものとする!」

厳かな声が響き渡った。

ばさりと、隊長羽織を羽織った2人を、他の隊長副隊長が祝ってくれた。

「2人とも、あっぱれじゃ。よくも、学院を卒業してから、僅か50年で隊長にまで昇りつめたものじゃ。真によい」

山本総隊長は、愛弟子である2人が、学院卒業以来初の隊長ということに、学院を建設した意味を見いだせたと、嬉し気であった。

浮竹を隊長にすると推薦した時、病で臥せがちなのでは、という声もあったが、院生時代からもつ高すぎる霊圧も、隊長に見合うものだった。

何より、若いが卍解を使える。

2人とも隊長になるまで、50年かかった。

その間、2人は別れることなく、親友としての地位を築きあげたまま、寄り添いあっていた。比翼の鳥のようであった。

2人の仲が良すぎると訝しむ者も中にはいたが、院生時代からの親友であると知ると、そうか、と納得した。


「なぁ、浮竹。今日の夜、空いているかい?」

「空いているぞ」

隊長に就任した祝いの座を早々に引き払って、2人は雨乾堂という、山本総隊長が浮竹のために、療養地であり、仕事場であり、生活の場である立派な建物を建ててくれたその廊下にいた。

「じゃあ、お酒をもっていくから、いろいろと語りあかそう」

「ああ」

夜になって、京楽はこれまた高い酒をもってきていた。

おつまみだと、さきいかを出すと、京楽は酒を飲みながら、さきいかを口にした。

上流貴族の口にあうものではないだろうに、京楽はそんなこと気にしていないようだった。

「今日は満月か。月見にもいいかもな」

「満月か。風情があっていいね」

空には、銀の涙を地上に零す満月が浮かんでいた。

酒の力もかりて、京楽はいよいよだと覚悟を決めた。

「僕はね、浮竹、ずっと君のことを好きだった」

「え」

「ずっとずっと、君のことを愛していた。君を何度、頭の中で汚しただろう。こんな僕は、気味悪いよね。僕のこと、親友じゃないって言ってくれても・・・・・」

「俺も!」

「?」

「俺も、ずっと京楽が好きだった!」

「え」

お互い、顔を見合わせた。

「僕たち、相思相愛なまま、時間だけかけてたってこと?」

「そう、なるな。ちなみに、お前が院生時代の頃から好きだった」

「僕もだよ。君と出会った瞬間に一目ぼれして、恋に落ちていた」

「俺は一目ぼれじゃなかったけど、優しくしてくれるお前に甘えて、いつの間にか好きになっていた・・・・・・」

「こんな僕でいいの?」

「そういうお前こそ、俺は男だぞ。女好きの名が廃るぞ。俺でいいのか?」

「君じゃないと、意味がないんだよ」

「俺も、お前じゃないと意味がない」

2人は、距離を縮めて、そっと触れるだけの口づけを交わし合った。

布団をしいて、ごろごろと横になり、どちらが上か下かも分からないくらいごろごろと転がりあった。

口づけを交わしあい、もつれる。

浮竹の白い髪が、京楽の黒い髪にからまる。

京楽は鳶色の瞳で、浮竹は翡翠の瞳で互いを見て、目を閉じて口づけした。

ごそごそと、浮竹の隊長羽織を脱がそうとする京楽の手に、浮竹が待ったをかけた。

「ん・・・・ま、待ってくれ」

「嫌だよ。君を僕のものにする」

浮竹は、京楽をどけて起き上がった。

「だから、ちょっと待て!何故俺が下なんだ」

「え」

「え」

「君、僕を抱きたいの?それならそれで、構わないけど」

京楽のまんざらでもなさそうな態度に、浮竹は軽い眩暈を覚えたが、首を横に振る。

「いや、多分お前に抱かれたい」

「じゃあいいじゃない」

京楽は、浮竹を再び押し倒して、隊長羽織を脱がした。

「待て待て!そういうことをするとは、聞いていない!」

「だめだよ。50年以上も待ったんだよ。これ以上は待てない」

「待てと言っている!」

ばきっ。

殴られて、京楽もようやく浮竹の上から完全にどいた。

「お前とそうなるとは思っていなかったから、その・・・・準備とか、してないから」

「あー。男同士だと、準備いるもんね」

「ああ、だから・・・その、こういうのは、今度の休みの時にしよう」

「約束だよ。逃げないでね。逃げたら、その場で犯すから」

「なっ」

浮竹は真っ赤になった。

「お前は・・・・俺を、院生時代からそんな目で見ていたのか?」

「そうだよ。抜く時だって、君をおかずにしてた。君の温もりを思い出して、君をあられもない目にあわせて・・・・・」

「ああもう、それ以上言わなくていい!」

「ごめん。でもこれだけは言わせて。愛してるよ、十四郎」

「俺も愛している、しゅ、しゅ、春水・・・・・・・・」

深い口づけを交わしあった。

京楽が、浮竹の舌をからめとると、びくんと浮竹の体がはねた。

そんな反応を楽しみながら、浮竹の口腔を犯した。

「ふあっ・・・・・」

「ふふ、いい顔。とろとろになってる。きもちいい?」

こくこくと、浮竹は頷いた。

「じゃあ、続きはまた今度」

「ああ。その、準備とか、ちゃんとしとくから・・・・」

「自分で指でやらないでね。君の初めては、全部僕がもらうから」

「・・・・・・っ」

浮竹は、真っ赤になって布団をかぶって出てこなかった。

それにクスリと笑って、京楽は子守唄を歌った。

懐かしい旋律だった。

院生の頃、熱を出して横になった浮竹の傍で、よく京楽は子守唄を歌ってくれた。

「春水、好きだ」

「僕もだよ、十四郎」

別れる間際に、浮竹はもぞもぞと布団からはい出てきて、京楽に抱きしめられて、触れるだけのキスをする。

「君はもう、僕のものだ」

「じゃあ、お前も俺のものだ」

「うん」

「なんだか、夢みたいだ」

「それはこっちの台詞だよ。君と相思相愛になれるなんて、本当に夢みたいだ」

抱きしめる腕に、互いに力を込めた。

「じゃあ、また今度・・・・」

「ああ・・・・・・」

2人は、そうして別れた。


「よお、早いな」

隊首会で、浮竹は京楽に声をかけた。

昨日のことを思い出して、浮竹は赤い顔をしながらも、京楽を見つめていた。

京楽は、浮竹の額に触れる。

若干高い体温に、眉を顰める。

「昨日、あれからちゃんと寝れたかい?」

「いや、緊張して嬉しくて、あんまり眠れなかった」

「奇遇だね。僕もなんだ」

お互い、隊首会だというのに、あくびをしながら山本総隊長が来るのを待った。

その耳元で、そっと囁く。

「今度こそ、君を僕のものにするよ」

浮竹は耳まで赤くなりながら、ただ頷くのだった。


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