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僕はそうして君におちていく11


私は、彼を愛していた。

彼もまた、私を愛してくれた。

私・・・いや、俺を。

俺は世界。俺は柱。俺は霊王。


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浮竹と京楽が隊長になって、100年が過ぎようとしていた。

虚退治やら、謀反やらいろいろあったが、尸魂界には基本平和だった。

「隊長、また羽織間違てますよ!」

「え、まじか」

副官の海燕の言葉に、自分が13番隊の・・・・京楽の羽織を着ているのだと分かって、浮竹は顔を赤くした。

「そんなに照れなくても、みんな隊長が京楽隊長とできてるって知ってるんですから、大丈夫っすよ」

「でも、恥ずかしいものは恥ずかしい・・・・・」

穴があるなら入りたい気持ちだった。

「やぁ、浮竹に海燕君。遊びにきたよ。あと、浮竹、隊長羽織間違えたでしょ。もってきたよ」

「ああ、すまない。ありがとう」

瀞霊廷のおしどり夫婦と噂される仲になっていた。

京楽は浮竹を手に入れた。浮竹もまた、京楽を手に入れた。

院生時代は親友であった。

今は、恋人同士だ。

いつも傍にいた。

2人は、比翼の鳥のようであった。

持っている斬魄刀も、二対で一つのもの。

「今日は泊まっていくか?」

「うん、そうする」

京楽は、よく雨乾堂に遊びにくるだけではなく、寝泊りもした。

仕事がたまると、副官である新人の伊勢七緒に耳を引っ張られて、8番隊の執務室に強制送還される。

よくもまぁ、あれだけ仕事をためこむものだと、月に数度、京楽のいる8番隊の執務室を訪れるが、山もりになった書類の、雪崩をおこしそうなその量に開いた口が塞がらない。

「仕事、持ってきたか?」

「うん。七緒ちゃんが3日前切れて、8番隊の執務室に強制送還されて、ずっと仕事片付けてた。仮眠もしたけど、流石に疲れたよ」

「仕事を溜めこむからだ」

ふああと大きなあくびをして、京楽は雨乾堂に持ってきた書類の束を、黒檀の文机に置いた。

黒檀の机は細かな金の細工がされてあって、京楽が雨乾堂で浮竹と一緒に仕事をするためにもちこんだものだった。

これまた高そうなものをと、最初は置くことを渋っていた浮竹だったが、京楽と一緒に居れる時間が増えるならいいかと、許可を出した。

その黒檀の机だけで、多分浮竹の給料の3か月分はするだろう。

筆なんかも高級品で、墨もまた高級品だった。

上流貴族だけあって、金をいろんなところでかけていた。

そのくせ、隊長羽織の上から羽織る女ものの着物は安いものを選んでいた。

最初は、趣味が悪いと思っていた浮竹だった。周囲も、趣味が悪いと思っていた。でも、ずっと着ているうちに、それが当たり前になって貫禄の中にも風情が出た。

長くなった、緩やかに波打つ黒髪を一つに束ねて、女ものの簪をさしていた。

簪はいつも同じもので、女ものの着物だけがたまに変わった。

浮竹の長い白髪はさらさらだが、京楽の黒髪はうねっている。固そうに見えて、意外とさわり心地はよかった。

「眠そうだな。少し仮眠するか?」

「君が膝枕してくれるなら」

そうからかい半分に答えると、浮竹は「いいぞ」と了承してくれた。

「え、ほんとにいいの?」

「ただし、俺は仕事をするからな」

「うん」

浮竹の膝に頭を乗せていると、さらりと浮竹の白い髪が顔にかかった。

「ああすまない、髪が邪魔だったな」

「いんや、これでいい・・・君の匂いがする。ちょっと寝るよ。おやすみ」

京楽は、浮竹の白い髪に口づけて、目を閉じた。

いつもかぶっている笠は、黒檀の机の上だ。

浮竹は、正座したまま京楽を起こさないように、上半身だけ動かした。

「海燕、ここの数字間違ってる」

「え、ほんとですか・・・・あちゃー簡単な計算ミスですね。すみません、書いた者に後で連絡しておきます」

海燕は、その書類をもって、新しい書類をどさどさと浮竹の机の上に置いた。

「けっこうあるな」

「隊長が寝込んでた分、けっこうたまってるんで」

「俺も、京楽のことを他人事のように言えないな・・・・・」

「何言ってるんすか隊長!こんな仕事さぼり魔人と、浮竹隊長は違います!それに、隊長は好き好んで仕事をためてるわけじゃないでしょうが。臥せっている時が多いから、仕方ないです」

「本当に、この体はなんとかならないものか」

生まれて数百年。

肺の病はミミハギ様を宿らせたことで、死にそうな目にあうこともあったが、死ななかった。

「うーん」

2時間ほどして、京楽が目覚めた。

「よく寝れたか?」

「うん。君の膝枕のお陰で深い睡眠をとれた。もう眠くないよ」

京楽は起き上がり、黒檀の机の上に置いた笠をどけて、もってきた仕事の書類をどさりと置いた。

けっこうな量であった。

京楽は、普段さぼるが決して仕事ができない男ではない。

たださぼり癖が酷く、限界までため込むことが多かった。

「ちょうど、休憩にしようと思っていたところだ。海燕、茶とおはぎを用意してくれ」

「浮竹、いいの?君のためのおはぎじゃないの?」

京楽の分まで用意していなかっただろうに、浮竹は自分の分のおはぎを京楽に分けてあげた。

「今度、甘味屋行こうね。好きなだけ食べていいよ」

「好きなだけ、食べていいんだな。財布は重くしろよ」

京楽は苦笑する。

浮竹は、甘味物なら人の2~3倍をぺろりと平らげてしまう。

自然と財布の中身も軽くなる。

「仕事が終わったら、天気もいいし、ちょっと外に散歩にでもいこうか」

「ああ、今は桜が見頃だな。花見もいいかもしれない」

「じゃあ、お酒もっていこう」

「海燕に、弁当を作ってもらうように頼んでおく」

海燕は、浮竹の食事をよく運ぶ。調理係にお弁当を作ってくれと言って、海燕は京楽が浮竹と仲良く寄り添っているのを、ただ黙して見ていた。

二人の付き合いは、約150年になる。

このまま、穏やかに時が過ぎていくのを、海燕は祈った。

ミミハギ様。

それが霊王の右腕であるなど、誰も知る由もなかった。


浮竹は知らない。

ミミハギ様が霊王そのものであることを。

霊王をその身に宿し、霊王に何かあった際には、浮竹が霊王となる。

そんなこと、夢にも思わないだろう。



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私は、死神が嫌いだ。

私を封じ込めた5大貴族が憎い。

いや、今は1つ欠落して4大貴族だったか。

とにかく、私は死神が嫌いだ。

なのに、私の半身はある小さき死神に宿っている。

私は世界。私は楔。私は贄。

私は、世界の始まり。


3歳の子の命が散るのが哀れで、私は私を宿らせた。私の右腕を。

他の四肢や心臓は思い通りに動かなかった。

右腕だけが、自由に動かせた。

幼い子供は、無垢でかわいく、そして死にそうだった。

助けてあげたい。

ただそう思い、宿った。

結果、子供は命を取り留めた。

それと同時に、私を宿した。

私は世界。私は楔。私は贄。

いつか、この小さき死神に私は宿り、私と混ざり合って、私は再び霊王となり霊王宮に住まう。

私は俺。俺は私。

遠くない未来、俺は、霊王となる。


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