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卯ノ花の採血

「痛くありませんよーーーー」

卯ノ花は、にっこり笑って注射器を浮竹の腕に刺した。

「いっ」

痛い。

そう叫びたかったが、我慢する。

採血検査だった。血をけっこう抜かれて、少し貧血をおこした浮竹は、仮眠室で休憩をとることにした。

浮竹が起きる頃には、採血検査の結果が出ていた。

「血糖値が少し高いですが、異常はありませんでした。甘味物を食べてきましたね?そのせいで血糖値が高いのでしょう。糖尿病というわけでもありませんし、大丈夫です。でも、浮竹隊長は甘味物を人の3倍ほど食べるとか・・・・」

「あ、いや、その・・・・」

「糖尿病にはならないと思いますが、年に2回は血液検査を行いましょう」

また、血を抜かれるのかと思ったら、背筋が寒くなってきた。

卯ノ花隊長のは、血を抜くのがあまりうまくない。

それを本人に言うのも怖いので、黙っている。

回道の腕は4番隊一だが、採血の腕は後ろから数えたほうが早いかもしれない。

「では、また半年後に」

「はぁ・・・・・」

浮竹は、溜息を零して救護詰所を出た。すれ違いで、京楽が入ってくる。

「あれ、京楽?どうしたんだ、こんな場所で」

「浮竹・・・血液検査だよ。あと、多分元気だからって献血もされそう。卯ノ花隊長の注射、痛いんだよね。勇音ちゃんに変わってくれないかな・・・・」

「ばか、お前、こんなとこでそんなこと口にするな!」

京楽の口を抑えるが、時すでに遅し、卯ノ花がにこにこして背後に立っていた。

「そうですね。私の採血の腕はよくありません。でも、回道があるから、どうとでもなるのですよ」

ブラックすぎた。

京楽を引きずっていく卯ノ花。

「浮竹~助けて~~~~」

「血、たくさんとられてこいよ。お前の血液型、希少だから献血にかかせないだろうし」

「浮竹の薄情者~~ばか~~~~~」

小さくなっていく京楽の姿を見送った。

そのまま、待合室で京楽が出てくるのを待った。

京楽は、しおしおになっていた。

「ううう・・・いっぱい、血を抜き取られた。貧血になりそう」

浮竹は、京楽に健康ドリンクを手渡して飲ませた。

こころなしか、元気になった京楽は、血液検査では異常なしと言われて、喜んでいたが、京楽の血液型の輸血パックが足りないので、1週間後にまた献血に来いと言われて、真っ暗になった。

「浮竹~。僕の血がなくなるー」

「お前は健康体だし、しおしおになるまで採血されても平気だから、大丈夫だろ」

「浮竹のばか!うわああああん」

「病院内では、お静かに」

いつの間にか、背後に卯ノ花が立っていた。

心臓が止まるかと思った。

卯ノ花隊長は、菩薩の顔をもっているが、修羅にもなる。

「浮竹隊長、最近は発作は起きていませんか?」

「ああ、ここ3カ月おきていない」

「そうですか、それはよかった。もしも吐血したら、すぐに4番隊にきてください。回道をかけますので」

「ありがとう、卯ノ花隊長」

菩薩の卯ノ花は、浮竹には結構優しい。

「京楽隊長は、少しお酒を控えたほうがいいかもしれませんね」

修羅の顔で、京楽にそう言う。

「卯ノ花隊長、なんで僕と浮竹で、顔が変わるんだい」

「あら、変わっていませんよ。全部気のせいです」

修羅だったり菩薩だったり・・・・まぁ、修羅といってもにこにこ笑んでいるので、見た目は菩薩だ。でも中身が修羅なのだ。

「では、京楽隊長は来週に献血にまたきてくださいね」

「また血を抜かれるの~。僕、血を見るのあんまり好きじゃないんだけど」

「まぁ。8番隊の隊長でしょう。流血沙汰には慣れていらっしゃるでしょう?」

「他人の血はどうってことないんだけど、自分の血を見るのが無理なの。あと浮竹の血も」

「では、今度献血するときは目隠しをしましょう」

「それどんなプレイ!?」

京楽がつっこんだ。

「目隠しは黒でかまいませんか?」

「だから、どんなプレイ・・・・・」

「京楽隊長の血抜き目隠しプレイです」

そう言った卯ノ花は、さも楽し気に目隠しの色は、黒より白もいいかもしれないとか言っていた。

「逃げよう」

「同じく」

京楽と浮竹は、卯ノ花を置いて救護詰所から逃げ出した。

逃げ出しても、どうせまた今度卯ノ花と採血検査や献血で会うことになるのだが。

それでも、4番隊の卯ノ花の存在は、とても頼りになるが、時に怖いものであった。

1週間後。

京楽はまた献血をされて、しおしおになって雨乾堂を訪れる。

「卯ノ花隊長、優しいけど怖いんだよねぇ」

「それは同意見だ」

浮竹と京楽は知らない。

卯ノ花が、剣八であったことを。

血を見るのが、何より好きなのだ。それは、卯ノ花烈になっても、変わっていないのであった。

採血や献血で、血を見ては昂ぶる精神を押し殺す。

それが今の卯ノ花の生き方だった。

血に飢えた、獣。その正体が露見するのは、ユーハバッハが侵攻してきて、更木と剣を交える時だった。



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