君に捧ぐ
ごほごほ。
雨乾堂に足を踏み入れると、咳をする辛そうな音が聞こえた。
「大丈夫、浮竹?」
「ああ・・・京楽・・・ごほっごほっ」
ぽたたた。
畳に、血が滴った。
「浮竹!」
布団で寝ていた浮竹を抱き上げて、4番隊の救護詰所まで瞬歩でやってくる。
「卯ノ花隊長はいるかい!?」
京楽に抱えられた浮竹を見て、4番隊の死神がすぐに卯ノ花を呼んでくれた。
卯ノ花に診てもらう間、京楽ははいらいらしていた。
「なぜ、もっと早くにこなかったのですか」
「いや・・・・少しの吐血だったから、大人しくしていれば大丈夫だと思ったんだ」
「始めの発作はいつですか?」
「今日の朝の7時」
「5時間は経ってますね・・・まぁ、思ったより悪化していないようでよかったですが。今度からは、発作が起きればすぐに人を呼ぶようにしてください」
「ああ、分かった」
卯ノ花から回道を受けて、薬を処方してもらい、浮竹は歩いて京楽の待っている待合室まできた。
「もう大丈夫なのかい?」
京楽は、珍しく怒っているようだった。
「京楽?」
「おけに、血をはいていたね。僕は連れてくる前にも発作起こしてたんでしょ」
「ああ・・・そうだ」
京楽は、溜息をついた。
「なんで、もっと早く助けを呼ばないの。3席の清音ちゃんなら、すぐ回道である程度癒してくれるでしょうに」
「あいにく、清音は実家に帰っている」
「それでも!人を呼ぶことくらい、できるでしょ!?」
「すまない・・・・発作があまり酷いものではなかったので、大丈夫だと慢心していた。今度から、少しの発作でも人を呼ぶようにする」
「本当に、君って子は!」
待合室で、抱き締められた。
「京楽・・・とりあえず、移動しよう」
集中する視線が痛くて、救護詰所の外に出た。
外に出ると、また強く抱きしめられた。
「君が吐血する度に、僕は恐怖する。このまま君が死んでしまうのではないかと」
「そんなことはない。病気は治ることはないが、進行することもない。死ぬことは、多分ないはずだ」
「それでも、心配なんだよ」
「すまない」
「君は、謝ってばかりだね」
「他にどう声をかけていいのか、分からないんだ」
浮竹は、困ったような顔をしていた。
そんな浮竹に、触れるだけの口づけをする。
「発作を起こしたら、本当に、少しでも人を呼ぶんだよ。苦しくてそれができないようなら、霊圧を暴走させるといい。僕が気づくから」
「京楽は、優しいな」
「当たり前でしょ。何百年君と一緒にいると思っているのさ」
「さぁ・・・もう400年をこえたあたりで、数えるのをやめた」
院生時代から隊長になるまで。
もう400年以上は経っている。
浮竹をそっと抱き上げて、京楽は雨乾堂まで瞬歩で帰った。
「いいかい、食事をしたら薬を飲んでちゃんと横になるんだよ?」
「分かっているさ」
浮竹は、過保護な京楽に苦笑を零す。
「君はすぐフラフラ何処かにいってしまいそうだから・・・今日は、僕も雨乾堂に泊まるよ」
「朽木に、料理を二人分用意してくれと言わなければな」
ルキアが、今の浮竹の副官だった。
海燕を失い、長らく空いていた副官に、ルキアがなった。
浮竹の世話にまだ慣れていないので、京楽がよく力をかしてくれた。
ルキアを呼んで、夕飯を二人分にしてくれるように頼んで、遅めの昼食をとり浮竹は大人しく布団に横になった。
薬もちゃんと飲んだ。
血で汚れた畳は、いつの間にか血の痕がぬぐわれていた。
「朽木悪いな、世話ばかりかけて」
「いいえ、隊長、そんなことありません!」
明るいルキアに、浮竹も心が和む。
「着がえのほうは、雨乾堂に置かれているもので大丈夫なのですか?」
「ああ。それで充分だ」
「悪いね、ルキアちゃん。突然泊まるとかいいだして」
「いいえ、京楽隊長は浮竹隊長の大事な方ですから!」
浮竹が朱くなった。
「浮竹、今更だよ。この程度で照れてどうするの」
「朽木は純粋培養だったのに・・・俺たちのせいで、濁ってしまった」
「浮竹隊長、濁っていいんです!京楽隊長とできているのを記録するのは女性死神協会の務め!」
「今、さらっと記録とかいったな」
「はっ!いえ、なんでもないのです!」
「まぁいい、朽木、ほどほどにな」
「はい!」
ルキアは、隊舎に下がっていった。
「寝れそうかい?」
「京楽・・・・子守唄を、歌ってくれないか。君に捧ぐという題名の、子守唄を」
「ああ・・・昔、君が寝付けない時、たまに歌ってあげたね」
「その子守唄が聞きたい。寝れるかは分からないが」
「仕方ないねぇ」
京楽が、歌の旋律を口ずさむ。
君に捧ぐ。
始めは恋歌だった。それがどう変化したのか、子守唄になった。
京楽のゆっくりと流れる子守唄を聞いていると、薬の中の鎮静剤の効果か、瞼が重くくなってきた。
そのまま目を閉じると、闇に滑り落ちていった。
「ん・・・・」
「起きたかい?」
「今何時だ?」
「夜の7時半だよ。夕餉の用意はされてあるから、君が起きたら一緒に食べようと思って」
「ああ・・・・先に食べていてくれても、構わなかったのに」:
「君だけをおいて先に食事とか、ちょっと無理だね」
発作を起こして、薬で眠っていたのだ。臥せっているのと大差ない。
「薬が大分効いたみたいだ。もう大丈夫だ」
「無理はしないでね」
夕餉を食べて、二人で風呂に入り、寝るまで時間があるので花札をした。
それから、院生時代の話題で盛り上がった。
やがて、夜の10時になる。
「早いけど、そろそろ寝ようか」
「ああ」
「また・・・君に捧ぐの子守歌、歌ってくれないか」
「いいよ。君のためなら。上手くもないだろうけど」
「いや、お前の歌はいいぞ。本当に眠たくなってくる。歌声が意外に綺麗なんだ」
「おや、嬉しいことを言ってくれるねぇ」
浮竹に近寄り、触れるだけのキスをして、二組の布団の上にそれぞれ寝転がって、浮竹は京楽の歌う子守歌に耳を傾けた。
7時半まで眠っていたので、睡魔はなかなか訪れなかったので、眠剤を飲んだ。
かわりに、今度は浮竹が京楽に子守唄を歌う。
「君の声は綺麗だね。透き通っている」
「そうか?」
子守唄を歌っていると、うつらうつらと睡魔が押し寄せてきた。
「すまない、京楽、先に寝る・・・・・」
浮竹は、眠剤の効果のせいで、深く眠ってしまった。
「君に捧ぐ・・・か。元々は恋歌なのに、何故子守歌になったんだろうねぇ」
そう言いながら、京楽も何も考えずに布団の中で寝がえりを繰り返している間に、眠りの中へ旅立っていった。
「寝すぎた」
朝起きると、10時だった。
「京楽、遅刻だ!」
揺さぶる起こされて、京楽が目を覚ます。
「浮竹・・・今日は土曜で、仕事は休みだよ」
「え、土曜?金曜と思っていた」
「そういうことだから、僕はもう一眠りするよ」
京楽は、仕事をさぼってよく昼寝をする。睡眠が浅いのかもしれない。
浮竹は、顔を洗って着替えて、朝餉をとると、京楽の寝顔を見ていた。
1時間ほどして、京楽が目覚める。
「どうしたんだい」
「お前の寝顔を見ていた」
「面白いものじゃないでしょ」
「いや、いい男だなと思って」
げっほげっほ。
お茶を口にしていた京楽は、浮竹の思ってもいない言動にむせた。
「君、ずるいよ。君こそ、寝顔はあどけなくてかわいいのに」
「京楽の寝顔もあどけないぞ。かわいいというよりは、かっこいいだな」
「全くもう」
京楽は、頭をがしがしとかいてから、浮竹を押し倒した。
「朝から、その気にさせる気?」
「いや、さすがに朝からはないな」
押し倒されたまま、深い口づけをされた。
「きゃわあああああああ!すみません、何も見ていません!昼食、ここに置いていきます」
ルキアが、そんな二人を目撃してしまった。
ルキアも土曜は休みなのだが、今日は仕事で出勤していたのだ。
「ルキアちゃんに、見られちゃったね」
「そのうち慣れるだろ。海燕みたいに」
「そうかなぁ。ルキアちゃんは、純真っぽいからね。いつまでも慣れないかもしれないよ」
「まぁ、その時はその時だ。別に睦み合っているところを見られたわけでもない」:
ルキアにとっては、それも大差なかったが。
浮竹と京楽は、関係を隠そうとしないので、ハグやキスなど、人目のある場所でもすることがある。
ルキアが慣れるまで、時間はかなりかかりそうだった。
雨乾堂に足を踏み入れると、咳をする辛そうな音が聞こえた。
「大丈夫、浮竹?」
「ああ・・・京楽・・・ごほっごほっ」
ぽたたた。
畳に、血が滴った。
「浮竹!」
布団で寝ていた浮竹を抱き上げて、4番隊の救護詰所まで瞬歩でやってくる。
「卯ノ花隊長はいるかい!?」
京楽に抱えられた浮竹を見て、4番隊の死神がすぐに卯ノ花を呼んでくれた。
卯ノ花に診てもらう間、京楽ははいらいらしていた。
「なぜ、もっと早くにこなかったのですか」
「いや・・・・少しの吐血だったから、大人しくしていれば大丈夫だと思ったんだ」
「始めの発作はいつですか?」
「今日の朝の7時」
「5時間は経ってますね・・・まぁ、思ったより悪化していないようでよかったですが。今度からは、発作が起きればすぐに人を呼ぶようにしてください」
「ああ、分かった」
卯ノ花から回道を受けて、薬を処方してもらい、浮竹は歩いて京楽の待っている待合室まできた。
「もう大丈夫なのかい?」
京楽は、珍しく怒っているようだった。
「京楽?」
「おけに、血をはいていたね。僕は連れてくる前にも発作起こしてたんでしょ」
「ああ・・・そうだ」
京楽は、溜息をついた。
「なんで、もっと早く助けを呼ばないの。3席の清音ちゃんなら、すぐ回道である程度癒してくれるでしょうに」
「あいにく、清音は実家に帰っている」
「それでも!人を呼ぶことくらい、できるでしょ!?」
「すまない・・・・発作があまり酷いものではなかったので、大丈夫だと慢心していた。今度から、少しの発作でも人を呼ぶようにする」
「本当に、君って子は!」
待合室で、抱き締められた。
「京楽・・・とりあえず、移動しよう」
集中する視線が痛くて、救護詰所の外に出た。
外に出ると、また強く抱きしめられた。
「君が吐血する度に、僕は恐怖する。このまま君が死んでしまうのではないかと」
「そんなことはない。病気は治ることはないが、進行することもない。死ぬことは、多分ないはずだ」
「それでも、心配なんだよ」
「すまない」
「君は、謝ってばかりだね」
「他にどう声をかけていいのか、分からないんだ」
浮竹は、困ったような顔をしていた。
そんな浮竹に、触れるだけの口づけをする。
「発作を起こしたら、本当に、少しでも人を呼ぶんだよ。苦しくてそれができないようなら、霊圧を暴走させるといい。僕が気づくから」
「京楽は、優しいな」
「当たり前でしょ。何百年君と一緒にいると思っているのさ」
「さぁ・・・もう400年をこえたあたりで、数えるのをやめた」
院生時代から隊長になるまで。
もう400年以上は経っている。
浮竹をそっと抱き上げて、京楽は雨乾堂まで瞬歩で帰った。
「いいかい、食事をしたら薬を飲んでちゃんと横になるんだよ?」
「分かっているさ」
浮竹は、過保護な京楽に苦笑を零す。
「君はすぐフラフラ何処かにいってしまいそうだから・・・今日は、僕も雨乾堂に泊まるよ」
「朽木に、料理を二人分用意してくれと言わなければな」
ルキアが、今の浮竹の副官だった。
海燕を失い、長らく空いていた副官に、ルキアがなった。
浮竹の世話にまだ慣れていないので、京楽がよく力をかしてくれた。
ルキアを呼んで、夕飯を二人分にしてくれるように頼んで、遅めの昼食をとり浮竹は大人しく布団に横になった。
薬もちゃんと飲んだ。
血で汚れた畳は、いつの間にか血の痕がぬぐわれていた。
「朽木悪いな、世話ばかりかけて」
「いいえ、隊長、そんなことありません!」
明るいルキアに、浮竹も心が和む。
「着がえのほうは、雨乾堂に置かれているもので大丈夫なのですか?」
「ああ。それで充分だ」
「悪いね、ルキアちゃん。突然泊まるとかいいだして」
「いいえ、京楽隊長は浮竹隊長の大事な方ですから!」
浮竹が朱くなった。
「浮竹、今更だよ。この程度で照れてどうするの」
「朽木は純粋培養だったのに・・・俺たちのせいで、濁ってしまった」
「浮竹隊長、濁っていいんです!京楽隊長とできているのを記録するのは女性死神協会の務め!」
「今、さらっと記録とかいったな」
「はっ!いえ、なんでもないのです!」
「まぁいい、朽木、ほどほどにな」
「はい!」
ルキアは、隊舎に下がっていった。
「寝れそうかい?」
「京楽・・・・子守唄を、歌ってくれないか。君に捧ぐという題名の、子守唄を」
「ああ・・・昔、君が寝付けない時、たまに歌ってあげたね」
「その子守唄が聞きたい。寝れるかは分からないが」
「仕方ないねぇ」
京楽が、歌の旋律を口ずさむ。
君に捧ぐ。
始めは恋歌だった。それがどう変化したのか、子守唄になった。
京楽のゆっくりと流れる子守唄を聞いていると、薬の中の鎮静剤の効果か、瞼が重くくなってきた。
そのまま目を閉じると、闇に滑り落ちていった。
「ん・・・・」
「起きたかい?」
「今何時だ?」
「夜の7時半だよ。夕餉の用意はされてあるから、君が起きたら一緒に食べようと思って」
「ああ・・・・先に食べていてくれても、構わなかったのに」:
「君だけをおいて先に食事とか、ちょっと無理だね」
発作を起こして、薬で眠っていたのだ。臥せっているのと大差ない。
「薬が大分効いたみたいだ。もう大丈夫だ」
「無理はしないでね」
夕餉を食べて、二人で風呂に入り、寝るまで時間があるので花札をした。
それから、院生時代の話題で盛り上がった。
やがて、夜の10時になる。
「早いけど、そろそろ寝ようか」
「ああ」
「また・・・君に捧ぐの子守歌、歌ってくれないか」
「いいよ。君のためなら。上手くもないだろうけど」
「いや、お前の歌はいいぞ。本当に眠たくなってくる。歌声が意外に綺麗なんだ」
「おや、嬉しいことを言ってくれるねぇ」
浮竹に近寄り、触れるだけのキスをして、二組の布団の上にそれぞれ寝転がって、浮竹は京楽の歌う子守歌に耳を傾けた。
7時半まで眠っていたので、睡魔はなかなか訪れなかったので、眠剤を飲んだ。
かわりに、今度は浮竹が京楽に子守唄を歌う。
「君の声は綺麗だね。透き通っている」
「そうか?」
子守唄を歌っていると、うつらうつらと睡魔が押し寄せてきた。
「すまない、京楽、先に寝る・・・・・」
浮竹は、眠剤の効果のせいで、深く眠ってしまった。
「君に捧ぐ・・・か。元々は恋歌なのに、何故子守歌になったんだろうねぇ」
そう言いながら、京楽も何も考えずに布団の中で寝がえりを繰り返している間に、眠りの中へ旅立っていった。
「寝すぎた」
朝起きると、10時だった。
「京楽、遅刻だ!」
揺さぶる起こされて、京楽が目を覚ます。
「浮竹・・・今日は土曜で、仕事は休みだよ」
「え、土曜?金曜と思っていた」
「そういうことだから、僕はもう一眠りするよ」
京楽は、仕事をさぼってよく昼寝をする。睡眠が浅いのかもしれない。
浮竹は、顔を洗って着替えて、朝餉をとると、京楽の寝顔を見ていた。
1時間ほどして、京楽が目覚める。
「どうしたんだい」
「お前の寝顔を見ていた」
「面白いものじゃないでしょ」
「いや、いい男だなと思って」
げっほげっほ。
お茶を口にしていた京楽は、浮竹の思ってもいない言動にむせた。
「君、ずるいよ。君こそ、寝顔はあどけなくてかわいいのに」
「京楽の寝顔もあどけないぞ。かわいいというよりは、かっこいいだな」
「全くもう」
京楽は、頭をがしがしとかいてから、浮竹を押し倒した。
「朝から、その気にさせる気?」
「いや、さすがに朝からはないな」
押し倒されたまま、深い口づけをされた。
「きゃわあああああああ!すみません、何も見ていません!昼食、ここに置いていきます」
ルキアが、そんな二人を目撃してしまった。
ルキアも土曜は休みなのだが、今日は仕事で出勤していたのだ。
「ルキアちゃんに、見られちゃったね」
「そのうち慣れるだろ。海燕みたいに」
「そうかなぁ。ルキアちゃんは、純真っぽいからね。いつまでも慣れないかもしれないよ」
「まぁ、その時はその時だ。別に睦み合っているところを見られたわけでもない」:
ルキアにとっては、それも大差なかったが。
浮竹と京楽は、関係を隠そうとしないので、ハグやキスなど、人目のある場所でもすることがある。
ルキアが慣れるまで、時間はかなりかかりそうだった。
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