呼び声
「もしも・・・俺が、目覚めないような状態になったら、俺の名を何度も呼んでくれ。きっと、お前の元に帰ってくる」
「やだなあ、そんな縁起の悪いこと言わないでよ」
「本気なんだがなぁ」
「冗談にしては性質が悪いよ」
雨乾堂で、浮竹と京楽はおはぎを食べながら、そんなことを話していた。
ここ3カ月、浮竹は発作という発作も起こさず、熱をだしても微熱程度で健康状態は比較的良かった。
「天気もいいし、散歩にでもいかないかい?」
「ああ、いいな」
おはぎを食べ終わり、仕事も片付いて暇をもてあました浮竹は、了承した。
京楽はというと、また仕事を溜めこんでいるらしいが、あまりに溜まると七緒が問答無用で連れ去っていくので、今はまだセーフの状態なのだろう。
春の季節になっていた。
ぽかぽかした陽だまりがきもちよくて、二人はふらりと少し早い桜の咲く並木道を、二人並んで歩いていた。
「今年も満開だな」
「そうだね。今度、花見しようよ。山奥のいいところ知ってるんだ」
「ああ、いいな。弁当をつくってもらって、酒も用意して二人でばーっと騒ぐか」
「うん」
他愛ない会話を交わして、その日は別れた。
次の日、浮竹は肺の病を急激に悪化させて、血を大量に吐いて倒れた。
3席である小椿が、見つけた時にはすでに血を吐いた後で、意識を失っている浮竹をすぐ、4番隊の救護詰所に連れて行き、浮竹は集中治療室に運ばれた。
容体はかなり悪かった。
下手をすると命が危うい状態だった。
「浮竹・・・・・・」
集中治療室の外で、ガラスごしに京楽は、昨日まで屈託なく笑っていた浮竹の、柔らかな笑みを思い出す。
「花見・・・絶対に、行こうね」
浮竹は、一週間たっても、二週間たっても、目を覚まさまなった。
点滴の管が痛々しい。
まだ集中治療室にいるので、面会はできない。
京楽は、毎日ガラスごしに浮竹に会いにきていた。
「浮竹、桜の枝をもってきたよ」
ガラス越しに京楽は、浮竹に見せるかのように、見事な枝ぶりの桜をもってきていた。
集中治療室に飾ってもらった。
「ねぇ、浮竹。僕はもう何度も君の名を呼んでいるよ?なんで、君は起きてくれないの?僕を一人にしてしまうの?」
このまま浮竹が亡くなってしまうかと思うと、気が気ではない。
最近は仕事もままならない。
そんな日々を送っていると、浮竹の容体がよくなって、個室に移された。
「浮竹・・・・帰ってきて」
元々細いのに、点滴だけで栄養をとっていたので、また細くなってしまった浮竹の頬に手で触れる。
「帰ってきて、浮竹」
浮竹の返事はない。
「また、桜の枝もってきたよ」
もう、満開の季節を過ぎて散り気味の桜の枝だったが、殺風景な個室の病室に飾るには申し分ななかった。
「ねぇ、浮竹。帰ってきて」
浮竹の唇に唇を重ねる。
「きょうら・・・・く?」
ゆっくりと、翡翠色の瞳が開かれていく。
「浮竹!」
「苦しい・・・そんなに・・・・抱き着くな」
「浮竹、ああ、よかった。このまま君が死んでしまうんではないかと思った」
浮竹は、少し生気の戻った顔で弱弱しく微笑んだ。
「川を渡っていたんだ・・・・きっと、三途の川だ。亡くなった祖父が、俺を呼ぶんだ。でも、京楽の俺を呼ぶ声がずっと聞こえていて・・・・川を、渡らなかった」
「名前を呼んだら帰ってきてくれるって、本当だったんだね」
「心配をかけたな・・・・・」
浮竹は、実に三週間もの間、眠り続けていた。
京楽は、仕事を片付けて毎日浮竹に会いにいっていた。
「お前の声は、毎日届いていた」
「うん。毎日、呼んでいたから」
「ありがとう、京楽」
「卯ノ花隊長に、連絡しないと」
京楽は、卯ノ花隊長に浮竹の意識が回復したことを報告した。
浮竹の容体はかなり落ち着いて、一時期は命を危ぶまれたが、危機を脱して快方に向かっていた。
京楽は、浮竹が退院するまで毎日病室を訪れた。
「花見、今年はできなかったね」
「何、また来年すればいいさ」
「君が意識を失ったら、僕は君の名を呼び続けて傍にいるよ」
「仕事、放置するなよ」
「ちゃんと片付けてからきてるから、大丈夫」
退院した浮竹を抱き上げる。
「うわ!」
「体重、軽くなったね。美味しいものいっぱい食べて、体力つけようね」
「京楽、一人で歩ける」
「だめ。さっき少しふらついたでしょ」
「お前には、本当に何も隠せないな」
浮竹は肩をすくめて、京楽の首に手を回した。
「愛してる、春水」
「僕も愛してるよ、十四郎」
そのまま、京楽は瞬歩で浮竹を抱きかかえて、雨乾堂まで戻ってきた。
「うわー、仕事たまってるなぁ」
「仕事はまだしちゃだめだよ。ちゃんとご飯食べて睡眠とって、もっと元気になってからだよ」
「でも、仕事がどんどんたまるだろ」
「君のとこには優秀な3席が2名いるじゃないか」
3席の子椿と虎徹は、優秀だ。たまった仕事も、片付けるのを手伝ってくれるだろう。
ただでさえ、書類仕事を寝込んでいる時になど任せているのだ。
浮竹がいない間、多忙すぎて書類仕事にまで手を出せないでいたみたいだが、浮竹の復帰で声をかける前から書類仕事をこなしてくれているようだった。
「京楽・・・・もしもまた、俺が倒れたら、名を呼んでくれ。絶対に、帰ってくるから」
「何度でも呼ぶよ。愛しい君を。できるなら、もうそんなことにならないことを祈るよ」
浮竹は、京楽の呼び声で死の淵から帰ってきた。
浮竹は、これからも倒れることがあるだろう。
けれど、その度に京楽が名を呼んで、現実世界に帰ってくるように促すのだ。
それは、一種の魔法に似ていた。
浮竹は、酷い発作をおこしても、京楽がすぐ傍にいるとましになる。
京楽は、浮竹にとって一種の薬のようなものだった。
愛し愛され。
二人は、二人三脚で人生を歩んでいくのだった。
「やだなあ、そんな縁起の悪いこと言わないでよ」
「本気なんだがなぁ」
「冗談にしては性質が悪いよ」
雨乾堂で、浮竹と京楽はおはぎを食べながら、そんなことを話していた。
ここ3カ月、浮竹は発作という発作も起こさず、熱をだしても微熱程度で健康状態は比較的良かった。
「天気もいいし、散歩にでもいかないかい?」
「ああ、いいな」
おはぎを食べ終わり、仕事も片付いて暇をもてあました浮竹は、了承した。
京楽はというと、また仕事を溜めこんでいるらしいが、あまりに溜まると七緒が問答無用で連れ去っていくので、今はまだセーフの状態なのだろう。
春の季節になっていた。
ぽかぽかした陽だまりがきもちよくて、二人はふらりと少し早い桜の咲く並木道を、二人並んで歩いていた。
「今年も満開だな」
「そうだね。今度、花見しようよ。山奥のいいところ知ってるんだ」
「ああ、いいな。弁当をつくってもらって、酒も用意して二人でばーっと騒ぐか」
「うん」
他愛ない会話を交わして、その日は別れた。
次の日、浮竹は肺の病を急激に悪化させて、血を大量に吐いて倒れた。
3席である小椿が、見つけた時にはすでに血を吐いた後で、意識を失っている浮竹をすぐ、4番隊の救護詰所に連れて行き、浮竹は集中治療室に運ばれた。
容体はかなり悪かった。
下手をすると命が危うい状態だった。
「浮竹・・・・・・」
集中治療室の外で、ガラスごしに京楽は、昨日まで屈託なく笑っていた浮竹の、柔らかな笑みを思い出す。
「花見・・・絶対に、行こうね」
浮竹は、一週間たっても、二週間たっても、目を覚まさまなった。
点滴の管が痛々しい。
まだ集中治療室にいるので、面会はできない。
京楽は、毎日ガラスごしに浮竹に会いにきていた。
「浮竹、桜の枝をもってきたよ」
ガラス越しに京楽は、浮竹に見せるかのように、見事な枝ぶりの桜をもってきていた。
集中治療室に飾ってもらった。
「ねぇ、浮竹。僕はもう何度も君の名を呼んでいるよ?なんで、君は起きてくれないの?僕を一人にしてしまうの?」
このまま浮竹が亡くなってしまうかと思うと、気が気ではない。
最近は仕事もままならない。
そんな日々を送っていると、浮竹の容体がよくなって、個室に移された。
「浮竹・・・・帰ってきて」
元々細いのに、点滴だけで栄養をとっていたので、また細くなってしまった浮竹の頬に手で触れる。
「帰ってきて、浮竹」
浮竹の返事はない。
「また、桜の枝もってきたよ」
もう、満開の季節を過ぎて散り気味の桜の枝だったが、殺風景な個室の病室に飾るには申し分ななかった。
「ねぇ、浮竹。帰ってきて」
浮竹の唇に唇を重ねる。
「きょうら・・・・く?」
ゆっくりと、翡翠色の瞳が開かれていく。
「浮竹!」
「苦しい・・・そんなに・・・・抱き着くな」
「浮竹、ああ、よかった。このまま君が死んでしまうんではないかと思った」
浮竹は、少し生気の戻った顔で弱弱しく微笑んだ。
「川を渡っていたんだ・・・・きっと、三途の川だ。亡くなった祖父が、俺を呼ぶんだ。でも、京楽の俺を呼ぶ声がずっと聞こえていて・・・・川を、渡らなかった」
「名前を呼んだら帰ってきてくれるって、本当だったんだね」
「心配をかけたな・・・・・」
浮竹は、実に三週間もの間、眠り続けていた。
京楽は、仕事を片付けて毎日浮竹に会いにいっていた。
「お前の声は、毎日届いていた」
「うん。毎日、呼んでいたから」
「ありがとう、京楽」
「卯ノ花隊長に、連絡しないと」
京楽は、卯ノ花隊長に浮竹の意識が回復したことを報告した。
浮竹の容体はかなり落ち着いて、一時期は命を危ぶまれたが、危機を脱して快方に向かっていた。
京楽は、浮竹が退院するまで毎日病室を訪れた。
「花見、今年はできなかったね」
「何、また来年すればいいさ」
「君が意識を失ったら、僕は君の名を呼び続けて傍にいるよ」
「仕事、放置するなよ」
「ちゃんと片付けてからきてるから、大丈夫」
退院した浮竹を抱き上げる。
「うわ!」
「体重、軽くなったね。美味しいものいっぱい食べて、体力つけようね」
「京楽、一人で歩ける」
「だめ。さっき少しふらついたでしょ」
「お前には、本当に何も隠せないな」
浮竹は肩をすくめて、京楽の首に手を回した。
「愛してる、春水」
「僕も愛してるよ、十四郎」
そのまま、京楽は瞬歩で浮竹を抱きかかえて、雨乾堂まで戻ってきた。
「うわー、仕事たまってるなぁ」
「仕事はまだしちゃだめだよ。ちゃんとご飯食べて睡眠とって、もっと元気になってからだよ」
「でも、仕事がどんどんたまるだろ」
「君のとこには優秀な3席が2名いるじゃないか」
3席の子椿と虎徹は、優秀だ。たまった仕事も、片付けるのを手伝ってくれるだろう。
ただでさえ、書類仕事を寝込んでいる時になど任せているのだ。
浮竹がいない間、多忙すぎて書類仕事にまで手を出せないでいたみたいだが、浮竹の復帰で声をかける前から書類仕事をこなしてくれているようだった。
「京楽・・・・もしもまた、俺が倒れたら、名を呼んでくれ。絶対に、帰ってくるから」
「何度でも呼ぶよ。愛しい君を。できるなら、もうそんなことにならないことを祈るよ」
浮竹は、京楽の呼び声で死の淵から帰ってきた。
浮竹は、これからも倒れることがあるだろう。
けれど、その度に京楽が名を呼んで、現実世界に帰ってくるように促すのだ。
それは、一種の魔法に似ていた。
浮竹は、酷い発作をおこしても、京楽がすぐ傍にいるとましになる。
京楽は、浮竹にとって一種の薬のようなものだった。
愛し愛され。
二人は、二人三脚で人生を歩んでいくのだった。
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