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和解と離別

ライルは夢を見ていた。

「アニュー」
アニューが、花畑に囲まれて笑っている。
ライルはゆっくりと近づいていく。
「ライル。このままではダメよ。皆の意志がばらばら。私のせいでこんなことに・・・ごめんなさい」
「アニューが謝る必要はねぇよ」
ライルはアニューを捕まえた。
今にも溶けていきそうなアニュー。石榴の色の瞳が、涙で濡れている。

「許してあげて。あの子を」
「それは」
「できないって言わないで。悪いのは、全部私なんだから」
「でも、あいつはアニューの命を」
「私は、刹那に殺されなければあなたを殺していた。そっちのほうが辛いわ」
アニューは、いくつもの涙を流した。それは白い光となって消えていった。

「私の最後のお願い。わがままを、聞いてちょうだい」
「アニューは・・・どこまでも、仲間思いだな」
「あら、そうでもないわ。私がなぜラッセを撃ったかっていうと、あの人が嫌いだったから。なぜミレイナを人質にしかたというと、ずっとおつむがパーな子だって思ってたから。本当の私の全てを知ってしまえは、あなたは幻滅してしまうわ」
「どんなアニューでも、おれは愛している」
「分かり合えても、愛し合えても無理なの。私は、他のイノベイターに操作されてしまう。自分の意思なんてどこまでが嘘で本当なのかも分からない。でも、あなたを愛していたのは本当だから」
ライルは、エメラルドの瞳を閉じて、アニューに口付ける。
アニューは驚いて、でも綺麗な桜の花のような笑みを浮かべて、桜の花のように散っていく。

「アニュー、行かないでくれ!」
「あなたは、一人で歩いていかないで。みんなと一緒に歩いていって・・・・お願い、お願い」
サラサラサラ。
ピンクの花びらとなって散っていくアニュー。
桜雪。

「あなたには、ティエリアにとって刹那のような、支えてくれる存在がない。だから、一人ででも、立ち上がって。苦しい時は、みんなに言えば理解してくれるから。ね?」
アニューだった桜を、ライルはけれど必死でかき集めることはせず、ただ散っていくに任せていた。
「分かったよ・・・・」
「嬉しい・・・・・さようなら。ライル。愛しているわ」

見回すと、一面を桜の木で囲まれていた。
アニューに、見せなかったな、こんな景色。

ライルはもう泣かない。

目覚ましがなり、ライルは制服に着替えて顔を洗うとすぐに、刹那の部屋にいった。
ロックは解除されていた。
「刹那、入るぞ」
「刹那のバカ!」
入ってきた瞬間、勢いよくとんできたジャボテンダー抱き枕が顔にはりついた。

「ティエリア?」
「ライル?」

ティエリアは、刹那の部屋のベッドの上で寂しそうにしていた。
「刹那はいないのか?」
「昨日、一晩中帰ってこなかった。僕の部屋にもいなかった・・・すぐ帰ってくると思って、そのまま寝てしまったんだ」
ライルの手から、ジャボテンダー抱き枕を受け取って、顔を埋める。

「二人とも、どうした?」
「「刹那」」
「僕を放って、どこにいっていた。いい度胸じゃないか」
「ああ・・・・ブリーフィングルームで、作業をしていて気づくと眠っていた」
刹那の頬には、殴られた痣がある。口元にはガーゼがあてられていた。

「その、刹那」
「どうした、ライル。また殴りたいなら、好きなだけ殴ればいい」
「刹那!君は、もっと自分の体を大切にしろ」
ベッドから出たティエリアが何度もジャボテンダーでばしばしと刹那を殴りつける。
言ってることと行動がかみ合っていないが、そこはティエリアだ。突っ込んでも仕方ない。

「憎め。俺を。好きなだけ憎め。好きなだけ責めるといい。でも、ティエリアは責めるな。ティエリアを憎むな。全部、俺にぶつけろ」
その言葉に、ライルは8つの年の離れた、ライルからみればまだ少年である刹那がどれほど大人として、大きな器を持っているかを思い知らされた。

ティエリアは、刹那を後ろに庇う。
「刹那と僕は同罪だ、刹那だけなんて、僕が許さない。憎むなら、僕たち二人を憎め」
「ティエリア・・・」
刹那が、驚いた表情でティエリアを見る。

アニューが死んで、もう一週間。
ずっと、出会うたびにティエリアには慰められ、刹那とは言葉を交わさなかった。
ライルとて、会う度にお前のせいだと詰るほどにお子様ではない。

「その、すまなかった。刹那、ティエリア。お前たちのせいにして。特に刹那、何度も殴ったりして」
「ライル?」
上目遣いの刹那は、小動物のようにかわいくて、思わずライルは頭をぐしゃぐしゃな撫でていた。
ティエリアの頭も撫でる。

「このままじゃういけないって分かってても、なかなか言葉がでてこなくて・・・今日、夢にアニューがでてきたんだ。早く和解しろっていわれて・・・・」
ティエリアは、自分の頭をぐしゃぐしゃなでるライルの手をそっと包み込む。
「一番辛いのはあなただ。誰も責めたりはしない・・・・和解をとってくれて、ありがとう」
何度もありがとうといわれた。

ライルはアニューを失ったショックで、笑顔を浮かべることはまだできなかったけれど。
ティエリアのように、遺品を部屋に持ち込んだり、アニューの部屋にずっと篭って死者との空間に閉じこもることはなかった。
ただ、ブルーサファイアの髪飾りと、アニュの真紅のポレロだけは処分されることをさけるために、ライルの部屋にあった。
ティエリアの部屋は、ニールの遺品であふれまくっている。
ライルが正常なのだ。ティエリアが、ニールに固執しすぎているだけなのだろう。

それでも。
二人は違う。
同じように、愛した者をなくしても。
生き方も考え方も。

「また、やり直そう」
ティエリアが、白い手を出した。その上に、やや褐色がかった刹那の手が重なる。ライルは大分逡巡した後で、最後にその手の上に手を乗せた。

なぁ、アニュー。
おれ、またやり直すよ。
みんなと、歩いていくために。

アニューの綺麗な笑顔を思い出す。この場面を見てくれれば、きっと泣くほど喜んでくれるに違いない。

アニュー。
見ていてくれよな。
お前にかっこいいって言わせれるような生き方してみせるから。
アニュー。
愛しているよ。そして、さようなら。

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