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堕天使と天使13

今回の依頼者は、精霊サラマンダーであった。

暴走している炎の精霊イフリエルを鎮めることを希望していた。

提示された金額は白金貨500枚。

ただ、相手は精霊だけに冒険者ギルドでは手に負えなくて、浮竹と京楽のところに回ってきたパターンだった。

精霊使いや召喚士がその依頼に趣いたが、皆敗北して帰ってきて、提示金額が大きいけれど、それだけ危険度も高く、帰ってきた者たちは1年以上の療養生活を余儀なくされたという。

「炎の精霊イフリエルか。普通はイフリートなんだけどね。イフリエルは元々精霊使いの天使だった。それが精霊となり、炎の上位精霊に進化したんだよね」

「よく知ってるな。すごいじゃないか」

「だって、精霊になる前のイフリエルはかわいかったから、何度かちょっかいかけてたから」

「さっきの話は撤回しておこう」

褒めたところで、京楽は調子に乗ってすぐ昔のぼろを出す。

「とりあえず、イフリエルがいるという、炎の谷に向かおう」

精霊界に入る必要があった。

浮竹は天使なので、精霊と会話ができる。

最近仲良くなった水の精霊ウンディーネに頼んで、精霊界に入れてもらった。

天使の浮竹を入れるのは戸惑いはなかったが、堕天使の京楽も一緒だと知って、ウンディーネは自分が精霊界に入れたことを絶対にばらさないでくれと言って、京楽も入れてくれた。

精霊界は、天界と違ってまたファンタジー要素の溢れる不思議な世界だった。

最近の天界は人間界のようになってきている。

精霊界には機械はなく、完全に精霊の力で成り立っていた。

「よくきてくれた。炎の谷にイフリエルはいる。イフリートが何度か説得に向かったが、ボコボコにされて帰ってきたんだ」

人型をとっていた炎の精霊サラマンダーは、炎の谷に入るためのお札を渡してくれた。

その札がないと、高温で生き物が存在することができない。

前回と前々回にも、人間に冒険者たちにお札を渡して頼み込んだが、徒労に終わっている。

「元々が天使なら、なんとかなると思うんだ」

「天使ならば、解決してくれると信じている。そっちは堕天使のようだが、イフリエルと認識が昔あったんだろう?」

「何で分かるの」

「イフリエルが昔言っていたんだ。京楽という堕天使が関係を求めてきてしつこいと」

「京楽・・・・お前・・・・・」

「ちょっと、それは誇張すぎないかい!確かにイフリエルに少しはちょっかい出してたけど」

京楽は、首をぶんぶん横に振って、否定する。

京楽は昔のことは否定しないので、今回のことは誇張なのだろう。

「まぁ、昔のお前のことは俺がどうにかできることじゃないからな。とりあえず、イフリエルを鎮める方法を探そう」

「イフリエルは、召還者を求めている。鎮めるには、契約を交わすのが一番だろう。人間とは契約できなかった。だが、天使ならあるいは・・・」

サラマンダーは、浮竹を見て浮竹に望みを託した。

「これは、精霊香薬といって、精霊をおちつかせる薬だ。イフリエルに飲ませるといい。飲ませられるものなら」

なんだか、試練を受けている気分になってきた。

浮竹と京楽は、精霊香薬をとお札を手に、炎の谷を目指した。

徒歩で、3日かかる場所に炎の谷はあった。

徒歩の間は、精霊たちに食事を提供してもらい、宿も精霊に借りた。

「今のイフリエル、すごい怒ってるから、気をつけてね」

最後の宿を貸してくれた、土の精霊ノームに礼を言って、浮竹と京楽は炎の谷に入った。

「凄く暑いはずなのに、お札のお陰か暑さも熱さもかんじない」

「いた、イフリエルだ」

炎の中で、踊っている6枚の翼をもつ炎の精霊の娘がいた。

「イフリエル!」

「誰、私を呼ぶのは!私が精霊王の妻となるべきイフリエルと知ってのこと?」

「え、精霊王の妻になるのか?」

「いや、そんなこと何も聞いてないよ」

「炎の精霊王の妻になるために、修行していたのに、炎の精霊王はあろうことか風の精霊女王と結婚してしまった。許せるものか」

ごおおおと、浮竹と京楽を炎が襲う。

「あら、あなた天使なのね?私の心の痛さが分かるでしょう?」

「だからって、周囲に当たり散らすのはよくない。大人しく、元の精霊に戻って、現実を受け入れろ」

「やだ・・・あなた、京楽?千年前に天使だったあたしにまとわりついてたのに・・・あはは、そうなの。今は、この子があなたのいい人なのね」

「イフリエル!止めなさい!」

京楽の静止の台詞も聞かずに、イフリエルは6枚の翼で浮竹を包み込んだ。

「私のものになりなさい、ぼうや。いい夢を見させてあげる」

浮竹は、とっさに精霊香薬を口にすると、火傷をするのも構わずにイフリエルに口移しで飲ませた。

「浮竹!酷い火傷だ!」

「セイントヒール」

自分の火傷を治そうとするが、イフリエルから受けた火傷はなかなか治らなかった。

「私を・・・・火傷してまで、正気に戻そうと?」

「イフリエル、目を覚ましてくれ。暴走するのはやめてくれ」

「あたしのせいで、そんな火傷を負ったのに・・・・・あなたは、心が優しいのね。いいわ、決めた、あたし、あなたと契約するわ。そうすれば、その火傷も治るはず」

「え、ちょっと、だめだよ、浮竹には僕という存在が!」

「あら、京楽にはいい薬になるわね。どう、あたしと契約しない?精霊の力を手に入れられるわよ」

「契約しよう」

「そうこなくっちゃ。大丈夫、私生活を邪魔したりしないわ。いつもは精霊界にいるもの。呼ばれたら、出てくるだけよ」

イフリエルは、親指を噛みちぎって血を流した。

浮竹も親指を噛みちぎって血を流し、交じわせる。

「契約は完了よ。私はイフリエル。炎の上位精霊にして、イフリートの上をいく者」

「俺は浮竹十四郎。セラフの天使だ。イフリエル、お前を召還精霊にすると、今この瞬間に誓おう」

「京楽は、相変わらず浮気してばかりなのかしら?」

「こら、イフリエル!」

「ふふふ。いいじゃない、ちょっと過去をのぞいただけよ」

「イフリエル、正気に戻ったのなら、炎を収めてくれ」

「分かったわ」

炎の谷の炎は、イフリエルが出していたらしく、すぐに穏やかな気候に戻り、精霊の力のせいか、不毛だった大地に花が咲き乱れていく。

「私が行く道には花も灰となる。それでも、私と契約を続けてくれるのかしら」

「一度交わした契約だ。それに、サラマンダーも契約者をもつことを望んでいたしな」

「あら、サラマンダーの坊やには、苦労をかけたかしら。そういえば、何度か人間の冒険者パーティーが、力ずくで私と契約しようとしていたけど、こてんぱんにしてやったわね」

「それで、俺たちにお鉢が回ってきたんだ」

「あら、そうなの」

イフリエルは、精霊界にいる間、ずっと浮竹の隣にいた。

それが、京楽には面白くなくて、右側をイフリエルが、左側を京楽がそれぞれ浮竹の腕をとって歩いていた。

「君、離れてよ!」

「いやよ。あなたこと離れたらどうなの。どうせ、またかわいい精霊でも見つけて、つまい食いするんでしょ?」

「僕はね、今は浮竹一筋なの。だから、浮竹を独り占めしていいのは、僕だけなの」

「イフリエル、すまないが、少し離れてくれ」

「今回の召還者は天使・・・・しかも堕天使の印つき。面白いわね」

イフリエルは、妖艶に笑って、炎の塊となって精霊界を飛んでいった。

浮竹がイフリエルの炎で受けた火傷は、全てイフリエルと契約したことで治っていた。

「サラマンダー。無事、イフリエルの暴走をとめて、契約を交わした」

サラマンダーに事の顛末を話すと、白金貨500枚をもらった。

白金貨500枚は、正直報酬としては高すぎるのだが。

ドラゴン退治で大体白金貨3000枚を考えると、今回は実は命の危険もあったことを、後から感じれた。

「イフリエルは悪い子ではないのだ。仲良くしてやってくれ。きっと、人間界に召還されたら、もう暴走なんてしなくなる」

報酬を受け取り、人間界に戻ると、浮竹は京楽の静止の声も聞かずに、イフリエルを呼び出た。

「ああ、ここが人間界!すごい、すごいわ!」

イフリエルは人化して、浮竹と京楽と一緒に、服を買ったり、装飾品を買ったりした。

「ふふふ。あなたと契約してよかった。人間界で自由に動きまわれるなんて、夢のよう」

「その代わり、暴走はなしだぞ」

「勿論よ。呼ばれない限り、精霊界にいるから、安心して夜の営みをしなさい」

浮竹は顔を真っ赤にした。

「こら、イフリエル!」

「浮竹、京楽が嫌になったら言いなさい。私が京楽を怒ってあげるから」

「ああ、その時は頼む」

「ちょっと、僕のいないとこでそんな約束しないでよ!」

浮竹とイフリエルは笑った。イフリエルは、天使のセラフであった名残の6枚の翼を羽ばたかせて、精霊界に帰っていった。

「しばらく、夜は寝ないぞ」

「そんなぁ」

「イフリエルがのぞいていないか、確認ができたら、許可する」

「そんなぁ」

京楽の情けない声が、しばらくの間続くのであった。








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