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夏残火

「あちぃ」

恋次は、夏の暑さにダウンしかけていた。

死覇装をはだけさせて、入れ墨のある肌を晒していた。

そのくせ、白哉は黒い死覇装の上に隊長羽織を羽織っているのに、涼しい顔をしていた。

「暑くないんですか、隊長」

「暑い」

「全然暑そうに見えないんですけど」

ミーンミンミン。

蝉の鳴く声がうるさい、8月の終わり。

「朽木家にくるか?」

「え、なんでです」

「氷室を開く」

「行く行く、行きます!」

つまりは、氷を食べれるのだ。現世の進化とは別に、尸魂界でも冷蔵庫はあるが、氷をたくさん作れるほどには進化していない。

仕事が早めに終わったので、2時くらい切り上げて朽木家に行った。

ルキアがいた。

氷室からとってきた氷とおぼしきもので、かき氷を作って一人で食べていた。

「かき氷を作らせる。シロップは好きなものを選べ」

シャリシャリと、清家がかき氷を作ってくれた。

「じゃあ、メロンで」

いろんな味のシロップがあった。

メロンのシロップをかけたかき氷とスプーンを手渡される。

キーンとした冷たさだった。

「あー、生き返る」

「ルキア、私には宇治金時を」

「はい、兄様」

ルキアは、白哉のために宇治金時のかき氷を用意した。

メロン味のかき氷を食べながら、恋次はふとした疑問を抱いた。

「隊長って、甘いもの好きじゃないんじゃ」

「こんな暑い時くらい、甘くてもかまわぬ」

ルキアが、斬魄刀の袖の白雪で氷を作り出し、それを冷えた麦茶にいれた。

「今年は暑い・・・・氷室の氷もつきかけておる。ルキアに頼んで、補充してもらっておるのだ」

「ルキアの斬魄刀は氷雪系っすからね」

恋次は、冷えた麦茶を飲んで、その日は自分の屋敷に帰っていった。


「あちぃ・・・・」

次の日、また暑さにダウンしている恋次がいた。

「甘味屋で、かき氷でも食べに行くか?」

「行く行く!行きます!」

白哉も、夏の暑さにいい加減嫌気をさしているのだ。

仕事を途中で切り上げて、甘味屋にいくと浮竹と京楽がいた。

「おや珍しい、朽木隊長が甘味屋だなんで」

「白哉、甘いもの嫌いじゃなかったのか?」

「かき氷を食べにきただけだ。この暑さだ・・・流石に、参る」

恋次は、かき氷を宇治金時にして白哉の分を渡した。恋次のかき氷は、昨日と同じメロン味だった。

「相変わらず、仲がいいんだな」

浮竹の言葉に、白哉が少し微笑んだ。

「兄らほどではない」

尸魂界では有名だった。京楽と浮竹はもはや夫婦、と。

去っていく二人を見ながら、恋次はいう。

「俺と隊長も、あんな風になりたいですね」

「四六時中、恋次といろということか?」

「え、嫌なんすか」

「一人の時間は大切だ」

「えー。嘘でもいいから、こういう時は「私も恋次の傍にいたい」って言ってくださいよ」

「私も恋次の傍にいたい」

めっちゃ棒読みだった。

かき氷を食べながら、ふと白哉に口づけた。

「ん・・甘い。メロンの味がする。それより、こういった往来で口づけるのはよせ」

「見せつけちまえばいいんすよ」

「私は、貴様と違ってそういう行動は好まぬ」

かき氷を食べて、幾分が涼んだ調子の白哉がいう。

「執務室でならばよい」

「かき氷、食べ終わったし、早く執務室に戻りましょう!」

切り替わり早い恋次に苦笑を零す白哉。

あまりの暑さに、その年は扇風機を出した。

だが、生ぬるい風を送ってくるだけで、一度現世にいきエアコンを体験してしまった恋次には、その年の夏は厳しいものだった。

「あー現世にいきたい。夏は現世のほうが過ごしやすい」

暑いのに、白哉を膝の上に乗せながら、恋次は生ぬるい風邪を送ってくる扇風機を占領していた。

「鍛錬を積めば、少々の暑さなどどうということはない」

「隊長、そう言いながら、最近かき氷や冷たい麦茶ばかりですね」

「今年は暑すぎる・・・・・」

恋次に口づけて、うだる暑さの中その背中に手を回すと、恋次もそれに応えてくる。

「隊長・・・好きだ、愛してる」

「私もだ、恋次。だから、この暑さをなんとかしろ」

めちゃくちゃ無理難題を押し付けられた。

「そうだ、井戸水で水浴びしませんか」

「井戸水で?」

「そう。水道水はぬるいから」

「ふむ・・・・・・」

その後、死覇装の姿のまま、お互い井戸水の冷えた水で水浴びをした。

白哉は死覇装を脱ぐと言い出したのだが、その白い肌を見ていいのは恋次だけなので、却下した。

ちゃんと、着換え用の死覇装も隊長羽織も下着も用意しておいた。

「はぁ・・・冷たいな」

体が冷えていくのが分かる。

「私はもう十分だ。着替える」

周囲に誰もいないことを確認して、建物の影で着換えさせた。

「なんなのだ」

「隊長の裸見ていいのは俺だけだから!」

「ふ・・・・・」

薄く笑って、白哉は着替えた。

髪は、濡れたままにしておいた。風が吹くと気持ちよかった。

「恋次、井戸水をたらいに入れてくれ」

「はい、隊長」

水浴びを終えたけれど、またすぐに暑くなってきたので、朽木邸の影で縁側に座りながら、足をたらいで組んだ井戸水で冷やした。

それだけでも、かなり違う。

「俺も、もう水浴びやめます」

恋次も、着替えて白哉の隣にやってきた。

「なんだ」

「あんたの足も綺麗だなぁと思って」

「世迷言を・・・・・」

井戸水で冷えた体で抱き着くと、白哉はきもちよさそうな顔をした。

「俺にも、ルキアみたいな氷雪系の斬魄刀があればいいんですけどね」

「貴様の斬魄刀は、あれでいいのだ。あれを、私は好んでいる」

「隊長の斬魄刀も綺麗だし・・・兄妹そろって、綺麗な斬魄刀ですね」

「褒め言葉として、受け取っておく」

「あんたは、千本桜の所有者にふさわしい。それくらい美しい」

「何を言っておる」

「あんたのことが、斬魄刀のも含めて好きだなと思って」

「褒めたところで、何も出ぬぞ」

「じゃあ、俺が奪っていきます」

そう言って、唇を奪ってきた。

ぱちゃんと、白哉が足に浸していた井戸水が音をたてた。

「ふあ・・・・・んんん・・・・・・」

キスに夢中になった。

「今日、あの館へ・・・・・・」

暑かったせいで、8月になって交わっていなかった。

体の芯に火をともされて、それは井戸水程度では消えなかった。

「好きです、隊長・・・・愛してる」

「恋次・・・・・私も、愛している」

ぱちゃりと、白哉の足元で井戸水がまた音を立てるのだった。







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