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始祖なる者、ヴァンパイアハンター4

ギィィィ。

キィィィン。

浮竹が古城の周囲にはった結界に、引っかかる者がいた。

侵入者だった。

普通の人間が迷い込んできたりした場合は、古城での記憶を消して、森の外で寝かせた。冬の季節なら、毛布もかけるし雨が降っていたら、洞窟に置いた。

浮竹と京楽は、人を襲わない。

京楽が時折、孤児の少年少女から注射器で血をもらい、大金を渡すことはあったが、そんな場合は少年少女からヴァンパイアを見たという記憶を消していた。

他のヴァンパイアが侵入してきたことはあったが、その場合はただの人間の時と同じで、リンリンと鈴がなるような音がする。

京楽は、浮竹の血を啜って、浮竹の存在に近くなっているせいか、結界の音が頭に響いてどうしようもなかった。

キィィイン。

眩暈を覚えるような警告音に、浮竹の元に急ぐ。

浮竹は、普段温厚な翡翠の目を。血と同じ真紅に輝かせていた。

「だめだ、戦闘人形たちがやられた」

浮竹は、悔しそうな顔をしていた。

そんな顔を見るのは初めてで、京楽は驚いた。

「君の戦闘人形って、バトルドールたちだろう?戦いのプロフェッショナルじゃないの」

浮竹の血でできた戦闘人形、バトルドールたちは、普段はメイドとして働いているが、その時になれば主である浮竹を守るための戦闘特化タイプになる。

「一応、もう一度戦闘人形を放つ。それでもだめなら」

「僕がいくよ」

「だめだ。俺もいく」

浮竹も京楽も、侵入者がきた古城の一階にやってきた。

十代後半の少年だった。

「ヴァンパイアよ、滅びよ!」

銀の十字架を掲げる。

浮竹も京楽も、銀など効かぬ。

平気な顔で攻撃すると、ヴァンパイアハンターは顔色を変えた。

「ブラドツェペシュの、言った通りか」

「わけのわからないことを!」

浮竹が血の刃で斬りかかると、ヴァンパイアハンターは銀でできたダガーで浮竹の首を切った。

その傷は、けれどすぐに再生した。

「この化け物どもが!」

ダァン。

音がした。

浮竹の肩から、血が滴っていく。

浮竹は、肩を撃ち抜かれた。

銀の弾丸は、始祖ヴァンパイアには効かない。

だが、その銀の弾丸の中身は、この世界の聖女の祈りのこめられた聖水を固めたものでできていた。

始祖の唯一の弱点、それは銀でも普通の聖水でもなく、清らかる乙女、聖女シスター・ノヴァの祈りがこめられた聖水。

聖女シスター・ノヴァはブラッディ・ネイに似ている。

死しては年端もいかぬ少女の体に宿り転生し、また聖女になった。

聖女の奇跡は素晴らしいもので、時に死者を蘇らせ、時には重篤な病の患者を完全に治療した。

教会は聖女を象徴として、信者数を増やして、寄付金で成り立っていた。教会の上位の者は寄付金を横領したりしていたが、聖女シスター・ノヴァには関係のないことだった。

聖女は、聖水だけで生きている。

聖女は、浮竹と同じ始祖の神代(かみよ)の時代に生まれた神族であった。

真の神の子である。同じ神の寵児とされた浮竹とは正反対の位置にいた、穢れを知らぬ清らかなる者。

浮竹は、始祖ヴァンパイアとして憎悪と殺戮と恐怖の象徴として生まれ出でた。

同じ始祖であるので、シスター・ノヴァと似ていながら、対極の存在であった。

「浮竹、しっかりして!」

京楽が、浮竹の傷を見た。

普通なら、すぐに再生が始まるはずの傷が、再生しない。

あふれ出す浮竹の血は、甘美な匂いを放っていたが、それどころではない。

「大丈夫だ京楽、これしきの傷・・・・っつ」

動脈を貫通していた。

血が止まらなければ危うい。そう判断した京楽は、自分の指を歯で噛みちぎって、鮮血を滴らせた。

「京楽?」

「僕の血で、止血する」

京楽は、自分の血を浮竹の傷口に滴らせて、強制的に止血をした。それでも血はあふれ出してこようとする。

なので、京楽はもっと深く、今度は自分の手首に噛みついて、流れ出たたくさんの血を、浮竹の傷口に滴らせた。

浮竹の傷は、なんとか血を流すことをやめた。

「よくも僕の浮竹を・・・・許さない・・・・」

ゆらりと、京楽の流れ出た血が踊る。京楽の傷口は、すでに再生していた。

京楽の血は、相手を斬り裂く刃となって、ヴァンパイアハンターを襲う。

「この程度!神族の血を引く俺に通用すると思っているのか!」

ヴァンパイアハンターが、シールドを展開して、血の刃を防ぐ。

ヴァンパイアハンターは、ただのヴァンパイアハンターではなかった。

ヴァンパイアは分類上、魔族になる。その対極に位置する、聖女シスター・ノヴァと同じ神族と人間の間に生まれたハーフだった。

「神族であろうと人間であろう、浮竹を傷つける者は、許さない」

京楽の脳裏に、処刑されて死んでいった両親の顔がちらついた。

その顔が、浮竹になっていた。

「許さない・・・・・」

「京楽、落ち着け。血が暴走している。落ち着け!」

京楽の血の暴走は止まらない。

影が踊る。

「な!」

ヴァンパイアハンターの影に潜んだ京楽は、真紅の血を鎌の形にして、ヴァンパイアハンターを斬り裂いた。

ヴァンパイアハンターは、自分の傷口に聖女シスター・ノヴァの聖水をふりかけた。

白い煙を出しながら、傷が再生する。

それでも、失った血までは戻せなくて、ヴァンパイアハンターは青白い顔で叫んだ。

「神族とのハーフである、この俺が、この程度で殺せると思っているのか!」

「神族の血を引いていることが、随分自慢なんだね。殺す・・・殺す。浮竹を傷つける者は、全部殺す」

「京楽!」

浮竹の必死の声も、京楽には届かない。

浮竹は、失ってしまった血を取り戻すかのように、人工血液剤を噛み砕いた。

ヴァンパイアハンターは、銀の弾丸を撃ってくる。京楽も浮竹もそれを血で作り出したシールドで弾いた。

「許さない。殺す」

京楽は、始祖の血を毎日のように飲んでいる。

始祖を守ろうと、体と心が勝手に動くのだ。

「京楽、血に飲みこまれるな!しっかりしろ!」

「は、血で暴走したヴァンパイアごときに・・・・・・」

ザシュリ。

京楽はその血の存在自体が、刃となっていた。

浮竹の流した血と交じりあった血が、杭の形となってヴァンパイアハンターの腹を貫通した。

「ごふっ!」

血を吐き出す、ヴァンパイアハンターの体を蹴り転がす。

「京楽、元に戻れ、京楽!」

京楽は、浮竹を押しのけて、ヴァンパイアハンターのところまでやってきた。

「何か言い残すことはあるかい?」

「けっ、滅んじまえ。お前も、お前の主も」

ぼきり。

京楽は、怪力でヴァンパイアハンターの首をもぎ取った。

その血を口にする。

神族の血は、甘い。

「甘い・・・。でも、浮竹ほどじゃない」

死体を弄ぶように、息絶えたヴァンパイアハンターの四肢を、血の刃で切断する京楽の姿を見ていられなくて、浮竹は口の中を切って血で満たすと、京楽に口づけた。

ごくり。

京楽の喉が、浮竹の血を嚥下する。

京楽の血の暴走が、収まっていく。

「あれ、僕は何を?」

「京楽、よかった!暴走したまま、戻ってこないのかと思った!」

浮竹にぎゅっと抱き着かれて、京楽は目をぱちぱちさせた。

血が暴走していた間の記憶がないらしい。

「京楽は、俺が怪我をして血を流したことで、我を失って暴走していたんだ」

「僕が、暴走?」

「そう。俺が主だから、眷属のお前は主を守ろうとする。俺の血の中に含まれた潜在的なものに取り込まれたんだ。元を言えば、怪我をした俺のせいだ。すまない」

「浮竹、傷は!?」

はっとなって、浮竹の肩の傷を見る。

ゆっくりではあるが、再生していた。

「聖女シスター・ノヴァの聖水を織り交ぜた弾丸なんて思わなかった。ただの銀の弾丸なら、貫通してもすぐに傷が再生する。シスター・ノヴァとは昔何度か話したことがある」

「そんな、昔の人なの?」

「ああ、神族でな。俺と同じ、不死の呪いを持っている。ブラディ・ネイに似ていて、ある程度年齢を重ねたら、死して幼い少女の中に転生して、また聖女となる」

「げ、ブラッディ・ネイにそっくり・・・・・」

「ああ、だからあまり彼女のことは好きじゃないんだ。父が・・・創造神が、俺のヴァンパイアとしての弱点として作り出したのが彼女だったから」

「兄弟姉妹になるの?」

「いや、父が自分で作り出した神族の子として生まれてきた。神族の始祖だ。俺と同じような存在ではあるし、よく眠りについて活動していない期間もある」

「そういうところは、浮竹に似ているね」

「聖女シスター・ノヴァの血は美味かった。あれに勝る味は、まだ出会ったことがない」

「僕の血は?」

「お前の血もうまいぞ。シスター・ノヴァの次くらいに美味い」

「浮竹、手当てしよう。肩の傷、まだ完全に再生してないでしょ」

「それより、この血をなんとかしないと。始祖と、それに連なる者の血の塊だ。何かのモンスターが口にしたら、狂暴化して手に負えなくなる」

「じゃあ、燃やす?」

「そうだな。ヴァンパイアハンターの死体ともども、塵をなってもらおう。ヘルインフェルノ!」

ごおおおおおおおおお。

浮竹が生み出した地獄の炎で、ヴァンパイアハンターの遺体は灰になっていく。浮竹と京楽の血も蒸発して、後に残されたのは焦げたヴァンパイアハンターの持っていた、ロケットペンダントだけだった。

そのロケットペンダントの中身を見て、浮竹が目を見開いた。

「6代目のブラッディ・ネイだ」

「え?」

何故、ヴァンパイアハンターがブラッディ・ネイの写真をロケットペンダントに入れていたのか。

謎が残った。


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平穏な生活が戻ってくる。

浮竹と京楽は、一護とルキアと冬獅郎に、ダンジョンに潜らないかと、誘いの文を持たせた式を放った。

半日遅れて、ルキアと一護と冬獅郎の姿が、古城のダイニングルームの中にあった。

夕食を、五人で食べた。

戦闘人形にフルコースを作らせて、デザートだけはルキアが作った。

「ルキア君の手作り・・・なんだろう」

「どうせ、白玉餡蜜だろ」

「ああ」

一護と冬獅郎が、興味なさそうに紅茶を啜った。

「どうせとはなんだ、どうせとは。食わせんぞ」

「あ、わりぃ。悪い意味でいったんじゃねぇ」

「一護の分は、俺がもらってやろう」

「あ、冬獅郎、ずるいぞ」

ギャーギャー言い合う二人を、ルキアは見守っていた。

「けっこういけるな」

「うん、おいしいよ、ルキアちゃん」

「ありがとうございます。始祖の浮竹殿と、その眷属である京楽殿にそう言ってもらえるのは、兄様に褒められた時と同じくらいうれしいです」

頬を赤らめるルキアは可愛かった。

「ここに、俺の開発した、自動皿洗い機がある!一護君、モニターになってくれないか」

ふと、突然浮竹が変な機械を取り出した。

「嫌っすよ!バチバチ言ってるじゃないっすか!」

「何、静電気のようなものだ」

浮竹は、かぽっとヘルメットのようなものを一護にかぶせた。

「あああああ、感電するううううう」

ばちばちと音をたてて、自動皿洗い機は動きだした。

洗っては置いて、洗っては置いての繰り返しで、ずっと洗っていた。

「浮竹さん、痺れるうううう」

「この発明は、どうやら失敗だったようだ。この前、ダンジョンで潜った時に見つけた、静電気で感電死する魔法からヒントを得て、魔力を静電気にして、その静電気を電気にして動かす機械だったんだが」

「ややこしいんだよ!」

一護が、やってられるかと、ヘルメットを地面に叩きつけた。

「よし、じゃあダンジョンに潜ろうか!」

これもまた突然だった。

「いいのですか、浮竹殿。今は夜。あなた方にとっては、眠りの時間では」

「いや、たまには夜更かしもいいかなと思って」

「単に暇なだけなんだよね、浮竹も僕も」

武器は手にしていない。

「宝箱~宝箱~♪」

浮竹は、早速わくわくしていた。

A級ダンジョンにやってきた。

夜なので、見張りの兵士はいなかった。

3回層までいったことがあるので、セーブポイントを経由して空間転移する。

4回層にきていた。

オーガやコボルトが出た。

一護と冬獅郎に任せた。

「おい、おっさんらも手伝え」

「僕と浮竹は、オーバーキルになるから」

「俺たちでもオーバーキルだぞ」

冬獅郎の言葉を、浮竹も京楽も聞いていなかった。何故なら、また浮竹が宝箱だと勝手にあけて、それがミミックだったのだ。

「怖いよ~暗いよ~狭いよ~息苦しいよ~」

「ああもう、浮竹はミミックが好きだね。いっそのこと、ミミックと結婚すれば?」

京楽が呆れ気味に、ミミックに浮竹を押し付ける。

ミミックはおえっとなって、浮竹を吐きだした。

「ミミックと結婚したら、京楽が泣くだろう?ファイアアロー」

ギィィイ。

断末魔を残して、ミミックは死んだ。

ポンっと音をたてて、宝物が出現する。

古代の魔法書だった。

浮竹は古代から生きているが、眠っている時間が長すぎたために、古代文明の魔法は知らない。

「神代の・・・憤怒を治す魔法?・・・・呪いを解呪する魔法かな?」

「え、なんですかそれ。新しい解呪の魔法ですか?」

ルキアが身を乗り出した。

「神聖魔法のようだ。俺は使えないし、一護君も冬獅郎君も使えないだろうし、もちろん京楽も使えない。ルキア君にあげる」

「わぁ、ありがとうございます。早速・・・・誰か、憤怒のステータス異常になってくれ」

「いや、無理でしょ」

京楽の言葉に、浮竹がにんまりとした。

「ここに、俺の開発した、すぐ怒るゾウ君がある。さぁ、京楽これを被って・・・・・」

「ムキーー!もう怒った!浮竹のおたんこなす!」

憤怒の状態ではあるが、低俗な状態で、一護と冬獅郎は笑っていた。

「ムキーー!ムキムキーーー!!」

「解呪!」

ぱぁあぁと白い清浄な空気が舞い降りてきて、「すぐ怒るゾウ君」で憤怒状態に無理やりさせられた京楽は我を取り戻した。

「ちょっと、浮竹!暇だからって、変な発明しないでよ!それを許可なく使わないでよ!」

「いいじゃないか。まだまだあるぞ。この全自動魔力洗濯機や、全自動散髪きるきる君、全自動耳かきかきくけこ君、それに・・・・・」

ごそごそと、アイテムポケットからわけのわからない発明品を出す浮竹を、京楽は全て破壊して床に投げ捨てた。

「酷い!」

ルキアに抱き着いて、さめざめと泣くふりをする浮竹に、京楽はやりすぎたかと、猫なで声をだす。

「浮竹、僕が悪かったから。ほらほら、ミミックの宝箱だよ」

小さなミミックの宝箱を見せられて、浮竹は宝箱をあけた。

「指をはさまれたあああ!」

「指、つっこんだら?」

その通りにしたら、ミミックがおえっとなった。短剣でしとめると、ぼふんと音をたてて、指輪になった。

「装飾品か。珍しいな」

「どれどれ・・・・永久の命を啜る、魔力増加の指輪。なにこれ」

「どうやら、神代時代のアクセサリーだ。古いけど、まだ動いてる」

京楽と浮竹は、顔を見合わせた。

「ヴァンパイアなんかがつけるには、もってこいだな」

「僕はやだよ。呪われてそうだもの」

「俺がつけよう・・・・と見せかけて、京楽にはめる!」

「ぎゃあ!あれ、なんにも起こらない・・・・あ、ぎゃああ、血、血吸われてる。ちょっとだけだけど、この指輪血を吸った!」

「元々ヴァンパイアの持ち物だな。血を吸わせることで、魔力をあげるんだろう。京楽は魔力はあるけど、あんまり魔法が使えないから、俺がつけておこう」

京楽から指輪をぬきとって、浮竹は自分の指にはめた。

ちゅるるるる。

音をたてて、指輪は浮竹の血を吸って、真紅色に輝いた。

「ファイアアロー」

念のために魔法を唱えてみると、威力が若干あがっていた。

「これ、結構使えるな。装備しておこう」

「呪いとか、大丈夫なのかな?」

「見た感じでは、呪いはありません」

ルキアの言葉に、京楽も浮竹もほっとした。

つけておいて、呪いがあったなんて、笑い種にもならない。

冬獅郎と一護は、そんな面子を残して、どちらがより多くモンスターを倒せるかで競いあっていた。

「冬獅郎、一護、どこまでいくのだ」

「あっちにコボルトの群れがある!あ、そっちに一匹いったぞ」

一護が殺し損ねたコボルトが一匹、ルキアたちがいる方に向かってきた。

「ルキアちゃん、危ないよ!」

「なんのこれしき。聖なる力よ集いて槍となれ!ホーリースピア!」

神聖魔法の攻撃魔法を喰らって、コボルトは灰になった。

まるで、浮竹のヘルインフェルノ並みの威力だった。

「ルキア君は、ただの聖女じゃないな。聖女シスター・ノヴァも、こんな聖女だったら、仲良くなれたんだがな。あれは、全自動癒しのイヤシマッス君に、性悪のブラッディ・ネイを混ぜたようなものだから・・・・・・」

浮竹が、感慨深げに腕を組む。

「聖女シスター・ノヴァと既知なのですか!?」

浮竹に詰め寄るルキアの首根っこを、モンスターを退治してきた一護が掴んだ。

冬獅郎は、討伐数で負けて悔しそうな顔をして、一護の足を踏んでいた。

「って、冬獅郎、てめぇなぁ!」

「ふん」

「それより、聖女シスター・ノヴァは、種族を問わず聖職者の憧れ。浮竹殿は、その存在に触れられたことが?」

「ああ。神代の時代から生きる知人だ。性格が歪んでいたから友人にはならなかったが。始祖の神族だぞ」

「え、神族?」

「俺たち、ヴァンパイアは分類されると魔族だ。神族は、その正反対だな」

一護が言った。

神族に知り合いは聖女シスター・ノヴァ以外いないが、あまりいい噂は聞かない。

血の帝国のように、聖帝国に神族は住んでいて、聖帝国は鎖国している。神族と知り合いの人間は少ないが、ヴァンパイアに至っては神族の天敵ともいわれているので、まず会う機会がないし、会っても駆除される。

血の帝国は、一度だけ聖帝国と戦争を起こしたことがあった。

聖帝国とは、引き分けで終わった。

ヴァンパイアたちは、神族の血を啜り、特にブラッディ・ネイは神族の少女を気に入って血を与えて眷属にした。

その眷属となった幼い少女は成長したが、十代前半の容姿を保ったままで、今もブラッディ・ネイの後宮に住んでいる。

少女の名は、ブラドツェペシュ。

かの有名な串刺し王と同じ名だった。


結局、一行は10回層まで潜って、浮竹の眠気がピークに達したので、ダンジョンから地上に戻った。

朝焼けが、黄金色に輝ていた。

「怖いよ~暗いよ~狭いよ~息苦しいよ~」

浮竹はミミックをかぶったまま、地上に出てきていた。

「もう、君って子は!」

京楽が、深いため息をついて、浮竹をミミックに押し付けようとして、やめた。

「京楽?いるんだろ、助けてくれ」

「自分でミミックをもっと喰い込ませれば、出れるでしょ」

「それもそうか」

えいというかけ声と共に、浮竹はミミックに頭突きをかました。

「いてぇ!」

ミミックが、人語を話して、浮竹からポロリと落ちる。

「やい、てめぇ、俺を誰と思ってやがる!かの有名な大悪魔メフィストフェレス様だぞ!」

「京楽、これ飼っていい?」

「いいけど、ちゃんと世話するんだよ。ミミックの餌って、残飯でもいいのかな?」

浮竹は、人語をしゃべるミミックに驚きはしたが、これなら飼えるかもと、ドキドキしていた。

「おいきけよこのケツの青いガキどもが!あ、やめて、宝箱漁らないで!あはん!」

「宝物はもっていないか。やっぱ倒さなきゃ、落とさないのかな」

「あはん!うふん!俺を倒せるものか!俺は大悪魔ヴェルゼブブ」

「さっき、メフィストフェレスとか言ってなかった?」

一護が、ミミックを見下ろした。

「しゃべれるモンスターはほら吹きが多いからな」

冬獅郎が、そのミミックを蹴った。

「暴力反対!」

「そうだぞ。ポチは、古城の飼い犬ならぬ飼いミミックになるんだ」

浮竹は、よいしょとポチと名付けたミミックを、アイテムボックスに収納する。

「おいこら、暗いぞ何も見えないぞ!俺は大悪魔サタン・・・・・・・」

完全にアイテムボックスに収納されて、ポチの声は聞こえなくなった。


パーティーは、そのまま解散ということになった。

古城で、ルキア、一護、冬獅郎は三日ほど滞在した後、血の帝国に帰って行った。

古城の地下には、血の帝国に通じる空間転移魔法陣があるので、会おうと思えばいつでも会いにいける。

古城の一階に、ミミックのポチは鎖で柱につなげられていた。

「ほーら、えさの残飯だぞ、ぽち」

「がるるるるる」

「怖いよ~暗いよ~狭いよ~息苦しいよ~」

ミミックに食われて、浮竹は足をばたばたさせていた。

「浮竹、またやってるのかい。ポチの餌は僕があげるから」

「いやポチに食われることで、一日の始まりを体験しているからいいんだ」

「じゃあ、放置でいいのかな」

「ああっ!京楽、助けてくれ!」

「仕方ないなぁ」

ここ数日、浮竹は毎日のように朝になるとミミックのポチに食われていて、それを助けるのが京楽の日課になっていた。




血の帝国の後宮で、少女は金色の瞳で月を見上げた。

少女の名は、ブラドツェペシュ。

聖帝国、26代目皇帝ブラドウェルイの愛娘。

「シスター・ノヴァ。それにブラッディ・ネイ・・・・・。私は、どちらを選ぶのだろう」

神族でありながら、ヴァンパイアでもある少女は、クスリと笑って、金色の瞳を閉じた。




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