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小説掲載プログ
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始祖なる者、ヴァンパイアハンター5

ブラドツェペシュ。

かの有名な串刺し王の名であり、少女の名であった。

少女は神族の、聖皇帝の愛娘であった。皇女であった。

その時代、聖帝国は血の帝国と戦争を起こした。勝者はどちらでもなく、引き分けに終わった。

というか、ヴァンパイアが神族に血を与えて、聖帝国から血の帝国に寝返る者が後を絶たなかった。

寝返った者を、神族は癒して元の神族に戻すことができた。

神族は攻めに転じれば、ヴァンパイアに血を与えられて同胞を失った。

防御に転じれば、ヴァンパイアは何もできず、ただ時間だけが過ぎていった。

神族の寿命は三百年。

戦を起こして、もう三十年も経っていた。

いい加減、決着をというところで、その時代の聖皇帝ブラドウェルイの愛娘であり、第一皇位継承者であった皇女ブラドツェペシュをよこすのなら、休戦してもいいと、6代目ブラッディ・ネイがそう言ってきた。

ブラッディ・ネイは幼い少女を愛する。後宮に十代前半の少女を置いて、おもちゃにして遊んでいる。

そんな話を耳にしていたので、聖皇帝は、それを却下とした。

けれど、ブラドツェペシュは聖帝国のためにと、人未御供よろしく、一人で血の帝国まで赴いた。守る者は、聖女シスター・ノヴァただ一人。

聖女シスター・ノヴァは人間の世界で生活している。それを、聖皇帝が切り札として戦争に徴収したのだ。

シスター・ノヴァは多くの血を与えられた神族を癒して、元の神族に戻した。

ブラドツェペシュは、ブラッディ・ネイと会った。

「君がブラドツェペシュか。ボクはブラッディ・ネイ。そこの聖女シスター・ノヴァの友人さ」

ブラッディ・ネイは美しかった。

ブラドツェペシュも美しかった。

だが、聖女シスター・ノヴァは見た目は普通の地味な少女だった。

「これで、契約は成立だね、聖女シスター・ノヴァ?」

「ええ。今後千年、血の帝国は聖帝国に手を出さない。6代目ブラッディ・ネイの名においての調印を、ここに」

「ただし、6代目だけだからね。ボクが死んで7代目になったら、休戦協定はなしとする」

「約束が違います!ブラッディ・ネイ!」

ブラドツェペシュは、ブラッディ・ネイに縋りついた。

「君は、ボクの下で可愛く囀っていればいいのさ」

ブラドツェペシュは、金色の瞳を潤ませた。

涙を零した。

それは宝石となった。

「オパールか。やっぱり、神族はいいね。涙が宝石になるから、荒れ果てた大地でも生きていける。鎖国していると言いながら、血の帝国と秘密で貿易してるから、どっちも潤う。血の帝国は美しい宝石を。聖帝国は貴重な食料と水を」

神族の涙は、宝石となった。

それを知った人間たちは、神族を奴隷にした。その奴隷を、ブラッディ・ネイがまるごと買い上げて保護した。

その保護した奴隷を、ブラッディ・ネイは解放せず、血の帝国の奴隷とした。

神族は涙を流すことを強制させられたが、人間の奴隷であった頃のように、犬畜生のように扱われることはなく、衣食住を保証されて、自由もあった。

血の帝国で、聖帝国出身の神族は増えていった。

そんな矢先に、聖皇帝が、ブラッディ・ネイが神族を虐げていると、戦争を起こした。

実際は、保護しているのだが。

争いは憶測を呼び、争いは鎮火することなく全土に広まった。

けれど、ブラッディ・ネイは決して保護した神族を殺さなかった。

社会的な地位を得ていた神族たちは、元の故郷に戻ることを拒んだ。

聖帝国とは名ばかりで、荒れ果てた大地が故郷だった。ろくな食べ物さえなかった。血の帝国は、穏やか気候に、太陽の光はさしこまないが、魔法の人工灯が美しい、故郷とは比べ物にならない天国だった。


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「ブラドツェペシュ。どうしても、行くのか?」

「ああ、浮竹。私は、ブラッディ・ネイのものになる」

「お前も聖女シスター・ノヴァもバカだ!あんな妹の言いなりになる必要なんてないのに!」

「浮竹十四郎。私が愛した、ヴァンパイア。記憶を、消すよ。あなたの中から、私のことの記憶を」

「やめてくれ!俺はお前を愛しているんだ!」

「私は神族、あなたは始祖ヴァンパイア。一緒になることはできない。世界が、それを許さない」

「ブラドツェペシュ。せめて、これを君に」

あげたのは、浮竹の血。

始祖の血を飲めば、始祖の血族となる。

「いつか、飲むかもしれない。でも、保留しておく」

「愛している、ブラド」

「私も愛していた、浮竹十四郎」

もう、八百年以上も前の、出来事。


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「浮竹ー起きてよ」

「んーブラドツェペシュ、愛してる・・・・んー・・・・・」

「浮竹?ブラドツェペシュって誰?」

京楽は、浮竹を起こした。

「え?誰だろう・・・なんだか、胸が痛い。頭も痛い」

「変な夢でも見たの?」

「そうみたいだ。なんだろう。悲しくないのに、涙が・・・・・」

浮竹は、翡翠の瞳から涙を零した。

それはこつんと音を立てて、エメラルドになった。

「え。どうなってるの」

「俺も分からない。涙が宝石になるのは、神族ならではのものだ」

「今の君・・・ヴァンパイアじゃないね。神族なの?」

「え・・・・・」

涙がまた流れた。

コツン。

それは音をたてて、オパールになった。

「俺は・・・ブラドツェペシュを愛して・・・ブラッディ・ネイと約束を・・・・聖女シスター・ノヴァと契約を・・・・・」

そのまま、浮竹は意識を失った。

意識を失っている間に、浮竹の体は元の始祖ヴァンパイアに戻っていた。


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浮竹は、一週間意識を取り戻さなかった。

病気か何かかとルキアを呼んでみたが、深い昏睡状態になっているだけで、異常はないという。

その昏睡状態は、ヴァンパイアの休眠に似ていて、京楽は不安になった。

「浮竹殿は、休眠に入ったのではないのですか?」

「休眠に入るなら、僕に何か言うはずだ」

何も言わず、休眠に入るほど、浮竹は薄情ではない。

「とにかく、時間が経過すれば起きるはずです。一護、例のものを」

「ほら、京楽さん」

ルキアについてきていた一護は、小瓶に入った赤い液体を京楽に渡した。

「なんだい、これは」

「私の血と、私が祈りをこめた聖水を混ぜたものです。分からない症状にも効きます。近頃、血の帝国では突然休眠に入るヴァンパイアが増えています。その者らにこれを飲ませたら、覚醒しました。浮竹殿に飲ましてやるのがよいでしょう」

「ありがとう、ルキアちゃん!」

「それより、浮竹殿の体が僅かな時間とはいえ、神族になったのが気にかかります。存在変化の呪いでしょうか・・・・・」

「それは僕も分からない」

浮竹は呪いにはかかっていないようで、実は呪いにかかっていた。でもそれが平常だし解呪できない。

不死の呪いであった。

創造神の子として生まれた始祖として、不死の呪いを魂に刻まれた。死することができぬ呪い。たとえ死んでも蘇る。肉体を失っても肉体は再生し、生き続ける。

そんな孤独に耐えきれず、浮竹は休眠を選んだ。

時折活動しては、血族の者を作って愛した。京楽もそんな愛されし血族であった。

京楽は怖かった。

いつか自分が、浮竹をおいて死んでしまうのではないか。

それは浮竹も同じだだった。

いつか自分を置いて、京楽は死んでしまうのではないか。

触れてはいけぬタブーを口にせぬまま、過ごしてきた。

一護とルキアが帰ってからも、浮竹は眠り続けた。

自然に起きるのを待つつもりだったが、一週間経った時点で我慢の限界だった。

「浮竹、起きて・・・・」

ルキアからもらった血と聖水を混ぜたものを、口移しで飲ませると、浮竹は目覚めた。

「京楽か。すまない、心配をかけた。呪いをかけられて、反射したら呪詛をかけられた。呪詛といっても、休眠に入るだけだから、原因も分からなかっただろう」

「浮竹、どうしたの。なんか変だよ」

浮竹は、いつもならすまないといって京楽に抱き着いてくるのに、京楽と距離をとろうとする。

「思い、出したんだ。俺は、ブラドツェペシュを愛していた。彼女を、救わなければ」

「ブラドツェペシュって誰。僕以外に、愛している者がいるの?」

京楽が、悲しそうな目で見つめてくる。

「違う、京楽!今はお前だけを愛している!ブラドツェペシュは八百年前に愛して、血族にしよとした神族の少女だ。今は・・・・ブラッディ・ネイの血族にされて、後宮の奥深くに閉じ込められている」

「君は、僕だけを愛してほしい」

「京楽・・・・・」

気づけば、浮竹を押し倒していた。

「んっ」

ぬるりと入り込んできた舌が、浮竹の縮こまっていた舌を絡めとる。

「京楽は、僕のものだ。僕も京楽のもの。君が他の誰かを愛するなんて、許さない」

京楽は、気が昂ったのか、元の鳶色の瞳が真紅に輝いていた。

「愛しているよ、浮竹」

「あああ!春水!」

浮竹の服を脱がして、キスマークを全身につけていく。

胸の先端を舐め転がして、牙をたてて吸血した。

「ああっ」

吸血行為はとてつもない快感を与える。

その行為だけで、浮竹はいきそうになっていた。

「あ、やっ」

「こんなにして・・・僕が、欲しいんだね?」

下着の上から、ゆるく勃ちあがっていたもの触られて、その刺激にビクンと体がはねる。

コクコクと、素直に浮竹は首を縦に振った。

「お前が欲しい・・・・」

「いいよ、十四郎。いっぱいあげる」

ぐちゃぐちゃと音をたてて、潤滑油と一緒に浮竹の蕾を解していく。

「あ、早く、春水・・・・・」

わざと前立腺を触らずに、いい場所をかすめるように指を動かした。

浮竹は我慢の限界を感じていて、京楽を求めた。

「あ、春水、もっと右・・・・」

「だめだよ、十四郎勝手に動いちゃ。これじゃあ、罰にならないでしょ?」

浮竹は、涙を流しながら哀願する。

「はやくきてくれ。そして、俺の血を啜ってくれ」

くちゅり。

音をたてて浮竹を引き裂く熱に、浮竹は恍惚とした表情をした。

美しい白いヴァンパイア。

始祖の浮竹十四郎。

「今、噛みついてあげる」

「ああああーーー!!」

最奥の結腸に入り込んできた熱に、浮竹は我慢ができずに精を放っていた。

同時に、京楽は浮竹の肩に噛みついて、血を啜った。

「あああ!」

あまりの快楽に、意識が混濁する。

「まだ、僕は満足してないよ。ほら、がんばって」

「やぁ!もう、吸血はいいから・・・春水をくれ」

セックスをしながらされる吸血は、麻薬のようで。

前立腺をすりあげて、突き上げてくる愛しい男を締め付ける。

「くっ・・・・・」

切なそうに眉を寄せる京楽に、今度が浮竹が噛みついて吸血した。

「うわぁ、これは気持ちいいいね・・・・・」

浮竹に吸血されるのは初めてだった。

吸血鬼に血を吸われるのは、快楽の塊だった。

一度その味を知ってしまうと、病みつきになりそうだ。

「ほら、もっといけるでしょ?」

「あ、あ!」

京楽は、浮竹が与えてくれる快楽を受け取りながらも、浮竹を攻め立てる。

「あああ!」

ぱちゅんと音をたてて入ってきた京楽のものは、結腸まで入り込んで、そこで濃い精液を放っていた。

「僕はまだいけるよ」

「やぁ。だめぇ」

浮竹の太ももに噛みついて吸血しながら、まだ硬い己を浮竹の腰に当てた。

「ほら、まだこんなに昂ってる」

「あ・・・・・」

吸血されて、快感にもだえながら、挿入される快感も味わう羽目になった。

「もうやっ・・・・」

「十四郎。僕だけものだ。僕も、君だけのものだ」

浮竹は、京楽に揺さぶられながら、自分の中で再び京楽が弾けるのを感じていた。

浮竹が京楽に噛みついて、吸血する。

お互い噛み傷だらけになったが、ゆっくりと再生した。

血族の血を啜ることは、ヴァンパイアにとって、愛を与えることに似ている。

互いに血を啜りあいながら、濃い朝を迎えようとしていた。


「浮竹、食事は?」

「んー。腰が痛いし、お前の血を吸ったせいで腹が減ってない」

「でも、僕は大分君の血を吸ってしまった。人工血液を飲むでしょ?」

「ああ」

「じゃあ、せめてデザートにパイナップルを切ったものを食べてよ。熟れて食べ頃なんだ」

買い物をしに町に行った時、パイナップルを二つ買ったら、男前だからと、果物屋のおばさんにカットしたものを余分にもらったのだ。

戦闘人形に頼んで、カットされたパイナップルを一口サイズに切ってもらい、それを浮竹の口に運んだ。

「はい、あーん」

「京楽、一人で食べれる」

「だめだよ、人工血液をすぐに自分の血液に還元できるっていっても、限度があるでしょ。ほら、口あけて」

素直に、浮竹は京楽の口元にもってこられたパイナップルを口にした。

「甘いな」

「そう、おいしいでしょう。此処より南の、僕の故郷だった地域の食べ物でね。ああ、この味懐かしいなぁ」

浮竹に食べさせながら、時折京楽は自分でも食べた。

二人で食べてしまうと、パイナップルはあっという間になくなった。

「もう少し食べたい」

「戦闘人形に切ってきてもらうよ」

浮竹も京楽も、基本家事はしなかった。

戦闘人形に任せておけばいい。自分たちでは、力の使い方を謝ってしまって、ものを壊すことが多かった。

浮竹の戦闘人形は本当に便利だ。戦闘に特化してるのに、家事もできる。町に買い物にもでてくれる。

簡単な意思疎通はできるが、一人で暮らすには寂しすぎた。

だから、浮竹は京楽を血族にした。

はじめは友人だった。だが、時を経るごとにその関係は変わり、主従はないものの、血の絆でしばられていた二人は、すぐに恋仲に落ちた。

浮竹は、京楽とまたパイナップルを食べながら、今後のことをどうしようかと思案していた。


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数日が経ち、浮竹は意を決して、京楽に全てを打ち明けた。

かつて、ブラドツェペシュという愛した少女がいたこと。ブラドツェペシュは血族になることを拒み、聖皇帝の愛娘で皇女であったこと。

その皇女に目をつけたブラッディ・ネイが、戦争の休止と引き換えにブラドツェペシュをよこせと言ってきたこと。調停役に聖女シスター・ノヴァを出してきたこと。

ブラドツェペシュにその愛した記憶を奪われ、今まで生きてきたこと。

そして、体が神族になる呪詛を、ブラドツェペシュは浮竹にかけた。それは時間の合図。

ブラドツェペシュの身が危ういサイン。

京楽は、冷静に聞いていた。自分以外にも愛した者はいただろうと分かってはいたが、少なからずショックを受けた。


「それで、浮竹はどうするの」

「ブラドツェペシュを、聖女シスター・ノヴァに診てもらって、神族に戻し、聖帝国に返そうと思う」

「それをブラドツェペシュが望んでいなかったら?」

「すでに、聖女シスター・ノヴァに式を飛ばしておいた。聖帝国の近く砂漠のオアシスまで来るようにと。ブラドツェペシュを連れてそこまでいくと、すでに言ってある」

ため息をついて、京楽は浮竹の長い白髪を撫でた。

「決意は変わらないんだね。僕たち、ブラッディ・ネイに指名手配されるかもしれないよ?」

今のブラドツェペシュは、ブラッディ・ネイの後宮の奥深くにいる。ブラッディ・ネイに血族にされて八百年。神族の寿命は約三百年だ。そのほぼ三倍を生きている。

もう、生きることに疲れているのかもしれない。

「あれは、俺を殺せない。俺はあれを殺せる。指名手配されたところで、あれには俺たちを止める手段はない」

浮竹は、もう決めたのだ。

ブラドツェペシュを愛したことのある、浮竹は。ブラッディ・ネイからブラドツェペシュを奪いとり、神族に戻して聖帝国に返すと。


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「行くぞ」

「うん」

古城の地下にある、血の帝国に繋がる空間転移魔法陣に、魔力を漲らせる。

二人の姿は、ふっと消えて、気づくと血の結界のドームに守られた、血の帝国の中にいた。

「浮竹殿、京楽殿!」

一護と冬獅郎を連れた、ルキアが出迎えてくれた。

式を飛ばして、事の次第はすでに知らせておいた。

「私が、ブラッディ・ネイを引き付けておきます。その間に、後宮に潜り込んでください。後宮の館の鍵は、ここに」

チャリンと、水晶でできた鍵を、ルキアは浮竹に渡した。

その鍵を手に入れられるのは、ブラッディ・ネイのお気に入りたちだけだ。

すでにいつでも後宮にきていいと言われていたルキアも、後宮の館の鍵を持っていた。

後宮は、閉鎖的な空間に見えて、案外自由はきく。その気になれば、ブラッディ・ネイの戦闘人形つきであれば、外出も許された。

だが、ブラッディ・ネイから逃げられた者はいない。

逃げ出す必要性がないからでもあるが、皆ブラッディ・ネイに魅了されて、抗う者などいなかった。

だが、ブラドツェペシュは違う。

ブラッディ・ネイを選べば永遠の血族として、悠久を生きれる。富も思いのままだ。聖女シスター・ノヴァを選べば、元の神族に戻れる。

だが、もう父も他の友人たちも、皆寿命は神族は三百年程度で、死んでしまっている。

それでも、故郷に戻りたかった。

「浮竹・・・・どうか、私を殺して」

外から見える満月を、その金色の、神族独自のがもつ瞳の光の色で見つめた後、ブラドツェペシュは瞳を閉じた。

「侵入者だ!」

そんな騒ぎを聞いて、ブラドツェペシュは微睡みから目覚めた。

もう、自分の死を悟っていた。

浮竹が神族になった。同時に、ブラドツェペシュは気づく。己がかけた呪詛が発動したということは、死が迫っていること。浮竹はすぐに始祖ヴァンパイアに戻るだろうが、呪詛が発動すれば封印していた記憶も戻っているだろう。

きっと、浮竹は私を助けに来てくれる。

「ブラドツェペシュ、助けにきた!」

入ってきた浮竹に抱き着いて、ブラドツェペシュは涙を零した。それはオパールとなって、かつんかつんと床に転がった。

「早く、私をここから出して・・・・」

後ろに京楽がいることに気付いて、ブラドツェペシュは浮竹から離れた。

「そう。もう、あなたには愛した血族がいるのね。これを返すわ」

それは、いつの日にか、浮竹が渡した、浮竹の血が詰まった小瓶であった。八百年も経っているのに、まだ中身は新鮮な血のままだった。

「いや、それはもっておけ。何かあれば、お前の身を守ってくれる」

浮竹は、京楽にブラドツェペシュを抱きかかえさせて、後宮の外に出た。


幸いなことに、ブラッディ・ネイは、ご執心であるルキアが足止めをしてくれている。

それでも、周囲を取り囲む騎士たちがいた。

「何者だ!ブラッディ・ネイ様の寵愛される寵姫をかどわかすつもりか!」

襲い掛かってくる騎士たちを、浮竹は音もなく血で斬り裂いていた。

全員、ブラッディ・ネイの血で強化されたヴァンパイアであった。ブラッディ・ネイ直属の騎士たちだ。

「その白い髪、翡翠の瞳・・・・あああ、あなた様は・・・・・」

「俺は始祖!俺は始まり!ヴァンパイア共よ、道を開けろ!俺の前に立ちふさがる者は、たとえ妹であろうとも容赦しない」

その絶対的な言葉に、隣にいた京楽以外のヴァンパイアが平伏した。

「始祖の浮竹様・・・・全ては、あなたの御心のままに」

ブラッディ・ネイの血族であっても、ブラッディ・ネイから血を与えられた強化ヴァンパイアであっても、始祖の偉大な存在に、ひれ伏すことしかできなかった。

浮竹と京楽は、ブラドツェペシュを連れて、ワイバーンを飼育している部屋にくると、ワイバーンを一匹外に出して、その背中に跨った。

浮竹、京楽、ブラドツェペシュと乗り込んで、ワイバーンは羽ばたいた。

「目的地は、砂漠のオアシスだ。頼むぞ、ワイバーン」

「きゅるるるるるる」

ワイバーンは、始祖の血を少しだけ与えられて、浮竹に服従を誓った。

そのまま、空を飛び、数刻で砂漠が見えてきた。

オアシスを近くに見つけると、少し遠いところでおりて、浮竹、京楽、ブラドツェペシュの順に降りた。

「行こう、ブラドツェペシュ。お前を神族に戻し、願い通り聖帝国に戻す」

「浮竹・・・・・」

ブラドツェペシュは、ただ浮竹を見ていた。

愛していた。でも、今の浮竹の愛は京楽のもので、今の浮竹はブラドツェペシュを愛していたという、過去形だった。

「いこう、ブラドちゃん」

京楽が、細いブラドツェペシュを抱き上げる。

長いこと運動をしていなかったため、元より体の弱かったブラドツェペシュは、咳き込んだ。

「ごほっごほっ」

「大丈夫か?これは、聖女であるルキアが処方した、血と聖水で作り上げた万能薬だ。飲んでおけ」

与えられた薬を飲みほして、やや頬に赤みを戻して、ブラドツェペシュは問いかける。

「あなたは、なんていう名なの。浮竹を愛しているんでしょう?浮竹の血族なんでしょう?」

「僕は京楽春水。浮竹は、僕のものだ」

十代前半に見えるブラドツェペシュの年齢は、846歳。

京楽は120歳くらいだった。

「私は、別にもう浮竹を愛してはいないし、浮竹もまた私のことを愛していないわ。お互い、愛いていたと、過去形よ」

京楽は、美しいブラドツェペシュは、浮竹にお似合だと思いながらも、ブラドツェペシュを抱いてオアシスまでやってきた。

「いるんだろう、聖女シスター・ノヴァ」

「はい、ここに」

「ブラドツェペシュを連れてきた。これで、契約は果たされる。ブラドツェペシュを、神族に戻してやってくれ」

聖女シスター・ノヴァは、浮竹の弱点である特殊な聖水を作り出すことができる。

京楽は、念のために聖女シスター・ノヴァを見張っていた。

「神の奇跡よ、今ここに・・・・・・・・」

ぱぁぁぁと光が満ちた。

その後に残されたのは、神族に戻り、血族ではなくなったブラドツェペシュであった。

「血の呪いがない!私は自由だ!」

ブラドツェペシュは喜んだ。

聖女シスター・ノヴァはすることは終わったと、転移魔法ですぐに人間の元に戻ろうとした。

「何故、そこまで急ぐ、聖女シスター・ノヴァ」

ふと、浮竹がそんな言葉を発していた。

「なんのことかしら。わたくしは、もうすることがなくなったので、帰還するだけですわ」

「ブラッディ・ネイに会ったな?そこでお前は聖水を神族と人間のハーフに与えて、俺にけしかけた」

「なんのことかしら」

聖女シスター・ノヴァは汗を垂らしながら、否定した。

「過去に交わした契約の中に、ブラッディ・ネイと内通するというものはなかった。そこにいるんだろう、ブラッディ・ネイ。いや、分身体というべきか」

「あははは、兄様、怒ってる?」

「ブラドツェペシュに何をした」

「ただ、血族にしただけだよ。ただ、子供を何人も産んでもらって、それをボクが食べちゃった、それだけだよ」

ブラッディ・ネイの分身体に向けて、浮竹は怒りのあまり血が暴走しようとしていた。

「だめだよ浮竹、こんなところで暴走しちゃ!」

「殺してやる、ブラッディ・ネイ。分身体を殺せば、お前本体にも相当のダメージがいくはずだ」

「いいの、兄様。ボクを今殺せば、聖女シスター・ノヴァが兄様の愛しい血族を殺すよ」

「聖女シスター・ノヴァ!ブラッディ・ネイにそこまで協力する理由はなんだ!」

「簡単なことですわ。わたくしは長生きしたい。だから、ブラッディ・ネイ様に血をもらうのです」

「聖女シスター・ノヴァが見た目通り醜女だからねぇ。僕は、その気になれないんだよ。働き次第では、血をあげるって約束したんだ」

「君ら、グルだったのか!」

京楽が、怒りに我を忘れそうな浮竹を鎮めながら、怒りに拳を震わせた。

「何人も子供を孕ませて産ませて、その赤子を食べたっていうのかい?」

「そうだよ。兄様のお気に入りの京楽春水」

「殺す。よくもブラドツェペシュを、こんな目に・・・・・・・」

「浮竹、抑えて!始祖の君が暴走したら、僕にも止められないかもしれない!」

「ブラッディ・ネイ。それに聖女シスター・ノヴァ。死ね」

浮竹は、真紅に瞳を輝かせて、血を暴走させた。

すさまじい魔力が満ち溢れる。

「あははは、兄様に殺されるなんて、はじめての体験だ!痛いね!」

「いやぁあ、助けて!」

ブラッディ・ネイは死にゆくように渦巻く魔力の中心に向かう。反対に、聖女シスター・ノヴァは失禁して、その場で蹲っていた。

京楽は、血の暴走をした浮竹から離れて、ブラドツェペシュを連れて、結界を張った。

「こんな結界、意味ないかもしれないけど」

「京楽様、あなたがあの人を鎮めてあげて」

「でも、君一人じゃ・・・・・・」

「結界を維持するくらいの力は残っています」

「分かったよ」

トルネードだった。

周囲のテントも何もかも巻き込んで、吹き飛ばされていく。

浮竹は、自分の血を刃に変えて、トルネードの中に放ち、ブラッディ・ネイと聖女シスター・ノヴァはトルネードに巻き込まれて天高く飛びあがり、血の刃で体をずたずたにされて、空から落ちてくる。

「いやああ、わたくしの、わたくしの足が、手が!」

右足と左腕をなくした聖女シスター・ノヴァに向かって、浮竹が手のひらを向ける。

「ヘルインフェルノ」

「いやあああああ、ぎゃあああああああああ」

甲高い悲鳴をあげて、聖女シスター・ノヴァは消し炭になった。

「あはははは!傑作だね、兄様!」

「ブラッディ・ネイ。俺を怒らせた代償に、魂に呪いをかける。次の転生は、後宮の十代の少女ではなく、お前と少女の間にできた子供にする。殺しても死なないお前は、赤子からやり直せ」

「いやあああ、遊べなくなるじゃない、兄様!やめてよ!たかが神族を血族にして遊んだだけじゃない!」

「俺は!俺は、ブラドツェペシュを愛していた。俺から奪った!許せない!死ね!」

びちゃっと音をたてて、ブラッディ・ネイは肉塊になった。その肉塊が蠢いて、声を出す。

「あはははは、ボクを殺したね、兄様。ボクの呪いを・・・・あれ、発動しない。なんで、なんで!」

血を暴走した状態で、浮竹は言葉を発する肉片を踏みつけた。

「消えろ。ヘルインフェルノ!」

「ぎゃああああああああ!!!」


「ぎゃああああああああ!!!」

血の帝国で、ルキアに夢中になって口説いていたブラッディ・ネイの体が、地獄の炎を身にに纏わせた。

「ぎゃあああああ、焼ける、焼ける!兄様、許して、兄様!許してぇ、兄様!」

駆けつけた騎士が見たものは、黒焦げで虫の息の女帝の姿だった。

再生がはじまらない。

ざわざわと、さざめきが広まっていく。

「どけ!」

ルキアは、これが浮竹がしたことであろうと分かっていたし、ブラッディ・ネイをこんな目に合わせるほど怒らせたと分かっていても、聖女として傷を癒す魔法をかける。

ブラッディ・ネイは治療のかいなく、死去した。

新しいブラッディ・ネイが生まれた。

8代目ブラッディ・ネイは、十代の少女のではなく、赤子だった。赤子が流暢に言葉をしゃべる。

「全く、兄様も酷いよね。ボクの転生先を勝手に決めるんて」


一方、浮竹は血の暴走が収まらなくて、自分をなんとか制御しようとしていた。

「浮竹!」

「京楽、危険だ、こっちに来るな!」

「大丈夫だよ、浮竹。僕は君に何もしない。ただ、君を愛している」

京楽は、優しく浮竹を抱きしめた。

渦巻く魔力の渦で、たくさん血を流しながら。

浮竹に口づけると、トルネードは止まった。

「京楽・・・・愛してる」

「僕も、君を愛してる」

浮竹の血の暴走は、収まった。

浮竹は、京楽の怪我に、血を与えてやりながら再生を促した。


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「もう、お前は自由だ、ブラドツェペシュ」

「ありがとう。ずっとずっと、血の帝国の後宮で夢を見ていたの。あなたに愛されていた頃の夢を」

「ブラドツェペシュ、俺はもうお前のことは・・・・・」

「もういいの。自由だわ。自由のまま、死ねる」

「え?」

浮竹が、目を見開いた瞬間のできごとだった。

ブラドツェペシュは、もってい短剣で、自分の喉を掻き切っていた。

「ごほっ、ごほっ!愛していたわ、浮竹。私が生きていた証を、あげる」

神族は、少しのことでは死なない。それはヴァンパイアに似ていた。

「私の心臓を、あげる」

ブラドツェペシュは、右手で自分の心臓をくり抜いた。

眩しい光を放ち、それは世界の三大秘宝の一つである「魂のルビー」になっていた。

金貨数百億枚の価値のある、神族の皇族だけがもつ、宝石だった。

生きたままくり抜かねばなならぬので、世界にほとんど流通していない、幻の秘宝である。

「ブラド!なんて愚かな真似を!」

浮竹が、指を噛み切って血を与えようとするが、ブラドツェペシュはそれを拒んだ。

「浮竹、逝かせてあげなさいな」

「でも!」

「彼女の心は、もうとっくの昔に死んでいたんだよ。ブラッディ・ネイの血族だから死ねなかった。ただ、死にたかったんだ」

「ブラド、嫌だ、こんな形で逝かないでくれ!」

浮竹は、涙を流した。

ブラドツェペシュも、涙を流していた。

「あなたに愛された日々は、楽しい思い出だったわ。それだけを頼りに生きてたけど、もう限界なの。もう子を産んで、食べられたくない」

「もう自由なのに!どうして!」

「私の心は、とっくの昔に死んでいたの。ああ、さよなら、私が愛した、始祖のヴァンパイア・・・・・・・・・・」

ブラドツェぺシュは、ひっそりと息を引き取った、

浮竹は、京楽に抱き着いて、ずっとずっと泣いていた。

そして、ブラドツェペシュが残した、魂のルビーを手に、ブラドツェペシュの遺体を火葬して、灰を海にまいた。

魂のルビーは、鎖穴をあけてチェーンを通して、浮竹が身に着けていた。

「さよなら、ブラド。俺が愛した、神族の少女」

浮竹は泣いた。

そっと京楽が寄り添い、その涙を拭き取る。

「お前は、俺より先に死ぬな」

「死なないよ。死ぬ時は一緒さ」

始祖のヴァンパイアである、浮竹に死はない。訪れることはない。

でも、休眠すれば、限りなく死に近い形になれた。

「お前が死んだら、俺は永遠の休眠につく」

それはほぼ死を意味していた。

「僕は、ずっと君の傍にいるよ・・・・・」

口づけを交わし合いながら、二人はいつまでも海を眺めていた。




「ちくしょう、ちくしょう!このあたくしが、ヴァンパイア如きにやられるなんて!」

神族の少女に転生した聖女シスター・ノヴァは爪を噛んだ。

今度の素体は、美しい少女であったが、聖女シスター・ノヴァが宿ると以前と同じ醜女になった。

「あああ、どうしてわたくしは美しくなれないの!覚えてらっしゃい、始祖め!」

聖女の祈りをこめた聖水を、たくさん作り出した。

「あなたの出番よ、朽木白哉」

黒髪の美しいヴァンパイアは、ブラッディ・ネイの血を引いたヴァンパイアロード。

「あなたを手に入れるために、ブラッディ・ネイと組んだのですもの。さぁ、ショーの始まりよ。ヴァンパイア同士で争うといいのだわ!」

夜色の瞳で、朽木白哉は言葉を紡ぐ。

「ルキア・・・・」

















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