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始祖なる者、ヴァンパイアハンター6

「わたくしは美しくなりたい。始祖の血を得れば、きっと美しくなれる。ああ、待っていて信者たち。美しくなったわたくしを見て」

聖女シスター・ノヴァは神代から生きる神族。転生をくりかえし、ブラッディ・ネイのように少女の中に転生しては聖女となった。

彼女には一つの悩みがあった。

それは容姿だ。

どんなに美しい少女に転生しても、前と同じ外見になるのだ。

痩せこけた、そばかすだらけの、醜女になる。それがたまらなく嫌だった。ブラッディ・ネイから血をもらい、美しくなろうとしたが失敗した。

始祖である浮竹に、魔法で消し炭にされた。

あの恐怖を思い出しつつ、聖女シスター・ノヴァは血の帝国に行った時、暗示をかけて服従させた朽木白哉を連れていた。

「わたくしのかわいい白哉。さぁ、始祖を殺してしまいなさい」

「兄は・・。誰だ」

「わたくし?わたくしのあなたの主」

「兄のために、始祖を殺そう。愛しい兄のために」

暗示で、聖女シスター・ノヴァは、白哉の中ではルキアになっていた。

ルキアと似ても似つかぬ醜女が、ルキアに見えた。

白哉の催眠暗示は深い。

少しのことでは、解けないないだろう。


-----------------------------------


「はい、浮竹あーん」

「一人で食べれる、京楽」

「だめだよ。君、血を暴走させて力を使いすぎたでしょ。はい、あーん」

しつこい京楽に、浮竹も仕方なく口を開く。

オムライスだった。

最近の京楽は、料理に凝っている。だが、作られるメニューはオムライスかカレーかクリームシチュー、ビーフシチューのどれかだった。

「甘い・・・血か。また、町にいって孤児の少年か少女から、血を抜き取ったのか」

「うん」

「記憶を消し忘れたり、していないだろうな?」

「大丈夫だよ。それに忘れていたとしても、金貨10枚握らせてあるし。古城には悪霊が住み着いていて、入ったら呪われて死ぬって噂になってるから、まさか古城にヴァンパイアが住んでいて、そのヴァンパイアが料理の隠し味のためだけに、孤児の少年少女に金貨を与えて血を抜いているなんて思わないよ」

「人に吸血は、するなよ?どんなことがあっても」

人の血の味を知ってしまったヴァンパイアの中には、もう人の血しか受け付けなくなるヴァンパイアもいた。

そんなことがないように、人工血液は十分に栄養価が高くできており、人の血よりも甘い味がするように作られていた。

血の帝国にいるヴァンパイアたちは、皆、人工血液を口にして生きている。でも、その外の世界では、人工血液を口にせず、人を吸血して殺すヴァンパイアがいるのも事実だ。

だから、ヴァンパイアハンターがいる。

「人を吸血したり、しないよ。僕は君の血しか吸わない。ああ、僕も喉が渇いてきた。血を吸わせて?」

浮竹にオムライスを与えながら、京楽は瞳を真紅に輝かせた。

「お前、以前よりも血を欲しがっていないか。一度暴走したせいか・・・」

浮竹がヴァンパイアハンターに傷つけられて、怪我をした時、京楽は我を忘れて暴走した。自我があっただけまだましで、浮竹は自分の血を飲ませて、京楽の暴走を鎮めた。

そんな浮竹もまた、前回愛した神族の少女、ブラドツェペシュに起きたことを聞いて血を暴走させた。

もしも、京楽に何かあって暴走したら、京楽も止められるか分からない。

「今夜はカレーだから。楽しみにしておいてね」

「お前の作ったカレー、凄く辛いから蜂蜜と林檎をいれてやる」

「あ、酷い!妻の手料理に手を加えるだなんて!」

「誰が妻だ!」

「僕が妻」

自分を指さす京楽に、浮竹は眉を顰めた。

「ヴァンパイアが、血族にする場合通常は花嫁か花婿として迎える。京楽の場合、花嫁に・・・うーん、花婿?うーん・・・」

浮竹は首をひねった。

「どっちでもいいじゃない」

浮竹の白い髪をかきあげて、首筋を露わにすると、京楽は牙を伸ばして噛みついた。

「あっ」

吸血行為は快楽を伴う。

「やっ、京楽・・・まだ、飯の途中だぞ」

「待てない。君が欲しい」

ごくりと、京楽は浮竹の血を飲んだ。

コップ一杯分くらいを飲み干して、京楽は満足して浮竹から離れた。

「一気に飲みすぎだ、アホ!貧血になるだろうがっ」

「ほら、ちゃんと人工血液と人工血液剤用意してあるから。どっちがいい?」

「苦いから、人工血液剤はあまり好きじゃない。人工血液でいい」

ヴァンパイアで始祖である浮竹は、京楽に与えて失った血を、人工血液を口にすることで自分の血に還元できた。

「全く。昔はもっと遠慮していたのに・・・・あの頃のかわいい京楽は、何処へ行ったんだ」

「ここにいるよ。エロい君の体と血に惑わされて、君の虜になった」

「エロいっていうな」

「エロいよ・・・ほら、ねぇ?」

「んっ、やっ、やめっ・・・・・」

浮竹はオムライスを食べ終えていた。

「続きはベッドでしようか」

「バカ・・・・」

抱き上げられて、浮竹は京楽の肩に顔をおしつけて、真っ赤になった顔を見られまいとしていた。

「照れてる君も好きだよ。可愛い」

「男に向かって、可愛いはないだろ」

「そんなことはないよ。君は可愛いし綺麗だ」

どさりと、寝室の天蓋つきのキングサイズのベッドに横たえられて、浮竹は目を閉じた。

「好きだよ、十四郎」

「んっ」

京楽の舌が、浮竹の唇を舐める。

浮竹は、自分から口を開いた。

ぬめりとした京楽の舌が入ってくる。舌を絡めとられて、牙で少しだけ傷つけられて、吸血された。

「んあああ!」

「エロいね・・・・・」

「血を、吸うなっ」

「無理いわないで。僕は君の血で生きてる。君のものであり、君は僕のものだ」

「始祖である俺を、自分のものだというのはお前くらいだ」

「だって、それだけ十四郎を愛しているから」

服を脱がされて、全裸にされた。

胸のあたりにキスマークを残していく京楽は、浮竹をあおむけにして、その綺麗な背骨のラインを指でたどる。

「翼、出せる?」

「ああ・・・・・」

ヴァンパイアは、真紅や黒の翼をもつ。皮膜翼で、蝙蝠のそれに似ていた。

浮竹は、ばさりとヴァンパイアの翼を広げた。

真紅の立派な大きさの翼だった。

京楽は、久しぶりにみる浮竹の大きな翼に感嘆しながらも、翼に噛みついた。

「んんっ」

浮竹は、翼を消してしまった。

血は吸えたので、京楽はペロリと唇を舐めた。

「浮竹の翼の血って、濃いから好き」

「翼は敏感なんだ。血を吸われ続けたら、病みつきになるからしない」

「病みつきになってもいいのに。僕は、どんな浮竹でも好きだよ」

「ばかっ」

浮竹は赤くなっていた。

あおむけのまま、秘所にトロリとローションが垂らされる。

「んっ、なにこれ、冷たい」

「すぐ暖かくなるよ。ローションっていって、人間社会で最近流行ってるやつ。試しに買ってみた。通販で」

「通販って、どこから!」

「血の帝国の。古城まで届けてくれたよ」

「最近こそこそしていたのは、そのせいか」

「うーん、そうかもね。他にも、大人のグッズがいっぱいあったけど、興味なかったから、このローションってたつだけ買ってみた」

「薔薇の匂いがするな。この匂いは、嫌いじゃない」

甘い薔薇の香りがして、浮竹は心が洗われるのを感じていた。

「ちょっとだけ、媚薬成分入ってるから、気をつけてね?」

「あ!」

ローションが、京楽の指と一緒に体内に入ってきたのと同時に、スイッチを押されたかのように体が火照りだした。

「あつい、春水・・・・・・」

「あれ、もう効いてきたの?」

「春水、早く」

ぐちゅぐちゅと蕾を解していたが、いつもの潤滑油よりぬるぬるで、これなら痛みもなくするりといけそうだと判断して、京楽はそそり立つ己のものを、浮竹の蕾に押し付けた。

「あ、あ、意地悪しないでくれ」

「股閉じて?」

「ん・・・素股か?」

「最初はね。ちょっと僕も一発抜いてから、浮竹の中に入りたい」

「んっ、こうか?」

太ももを閉じた浮竹に、京楽は一物を押し付けて、強弱をつけて出し入れした。

パンパンと音がした。

「んっ、いいよ、十四郎。その調子」

「あっ、春水、俺のも触って!」

「うん、一緒にいこうか?」

「あああーーー!!」

京楽は、浮竹の太ももに精液を散らして、浮竹は京楽の手でこすられて、京楽の手の中で精を放っていた。

「まだ、体が熱い・・・」

「今、あげるからね」

正常位になり、浮竹の右足を肩にかついで、京楽は浮竹の蕾を己で抉っていた。

「ひああああ!」

浮竹は体が柔らかい。

少々の無理な体位も、受け入れた。

「んっ、ローションのせいでぬるぬるだね、お互い」

「後で、風呂にいれないと、承知、しない、から・・・ああああ!」

ズチュズチュと挿入を繰り返す。

浮竹の前立腺をすりあげて、京楽は最奥の結腸にまで入りこみ、浮竹をわざと乱暴に揺すぶった。

「あ、あ、深い、だめぇっ」

「ここ、好きでしょ?」

結腸にぐりぐりと熱をあてると、浮竹の内部が締まった。

「ああ、あ、あ・・・・」

中いきしていた。オーガズムでいっている最中の浮竹の首に噛みついて、仕上げだとばかりに吸血してやった。

「いやああああ、あああああ!!」

セックス中の吸血は気持ちよすぎて、浮竹は首を左右に振る。

白い髪が乱れて、シーツの上を泳ぐ。

「あ、あああああ!!」

浮竹は、触られずに射精していた。

昔は、触らないといけなかった。今では、オーガズムによる中いきも覚えてしまって、おまけに吸血を同時にされると快感に支配されて、意識を飛ばすこともしばしばあった。

「春水・・・」

「ん?」

浮竹は、牙を伸ばして、愛しい男の手に噛みついて吸血した。

「ああ、気持ちいいね。君の血肉になれるなら、僕は全ての血液を君にあげるよ」

「バカ、お返しに吸血してやっただけだ」

「もっとする?」

「お前は、慣れていないだろう。また今度でいい」

「ローションはどうだった。媚薬、ちょっと入ってたみたいだったけど」

真っ赤になりながら、浮竹はぼそぼそと呟いた。

「何、聞こえないんだけど」

「だから、き、きもちよかったと言っている!いつもより感じた」

「買ってよかったよ。大人のグッズは・・・十四郎、そういうの好きじゃないでしょ」

「当たり前だ。俺で遊んだら、禁欲一カ月は覚悟しておけ」

「一カ月はきついねぇ」

くすくすと、京楽は笑う。

そして、京楽の中からずるりと引き抜いた。

「あっ」

浮竹の太ももを、ローションとお互いの体液がまじった白い液体が流れていく。

「よっと」

京楽は、シーツごと京楽を抱き上げた。

「お風呂、いこうか」

「一回しかしてないが、風呂で盛るなよ」

「それは分からないなぁ」

二人は、風呂でもう二回やってしまうのであった。


------------------------------------------


リンリン。

結界内に、侵入者がきた。

鈴の音に、迷いこんできた人か、遊びにきたヴァンパイアかと、思案を巡らせる。

音は古城の地下からしていて、誰かが血の帝国から空間転移魔法を使い、やってきたようだった。

「ルキアちゃんや一護クンたちかな?」

「何かあった時は、最初に式を放ってくると思うから、ただ遊びにきただけじゃないのか」

式は、本当にやってきた。

そこには、乱暴な文字で「兄様を止めてください」と書かれてあった。

「この文字、血でかかれてるね。兄様ってことは、白哉クンか」

「白哉が?白哉が、どうかしたのか?」

浮竹にとって、白哉は実の息子か弟のような存在だ。

古城の地下にいくと、人影があった。

「兄の首を、もらいにきた」

リィン。

音がした。

そこにいたのは、朽木白哉だった。

「散れ、千本桜・・・・・」

血でできたその刀は、無数の血の花びらとなって、浮竹と京楽に襲い掛かった。

「危ない!」

京楽が展開したシールドで、血の花びらを弾く。

「白哉!?どうしたんだ、白哉!」

「どうやら、正気じゃないようだね。操られているのかも!」

「白哉、俺だ、白哉!」

「危ない!」

浮竹を抱き抱えて、地面を飛んだ。

「兄を殺す。邪魔をするなら、血族の兄も殺す」

「白哉・・・・・・」

自分を殺そうとする白哉が信じられなくて、浮竹は血を躍らせると、白哉の全身を包み込み、動けないようにした。

いや、したつもりだった。

じゅうううと、血が焼ける音がした。

「くぅ、聖女シスター・ノヴァの祈りの聖水か!厄介な!」

白哉にとっても、毒である。

聖水がつまった小瓶を、いくつも白哉は浮竹に向かって投げた。

回避すると、白哉は血の花びらで浮竹の元へと誘導して、小瓶を破壊した。

「く・・・・・・」

じゅうじゅうと、やけどを負った。

それを見た京楽が、鳶色の瞳を真紅に変えた。

「よくも僕の浮竹を・・・・・許さない」

「京楽、相手は白哉だ!」

「誰であれ、浮竹を傷つける者は許さない」

京楽は、血の結界をはって、浮竹がこれ以上けがをしないように、閉じ込めた。

「京楽、ここから出せ!」

「だめだよ、白哉クンは君を狙っている。多分、聖女シスター・ノヴァに操られているんだろう。近くに気配はないから、暗示か何かにかかっているんだと思う」

京楽は、血の刃をいくつも作りだして、白哉の千本桜と切り結び合った。

「さすが、純血の皇族。浮竹と同じ血を、色濃く引き継いでいるだけあるね」

白哉は、生粋の皇族だ。

皇族のはじまりは、初代ブラッディ・ネイの子から続くもの。

今は同性しか愛せないブラッディ・ネイであったが、神代の頃に同じく生まれ出でた始祖に近いヴァンパイアと番になり、子をもうけた。

その子供の血が、皇族のはじまりであった。

だから、白哉もまた浮竹の血を引いていることにもなる。

ブラッディ・ネイは血を浮竹と分け合っていて、実の兄妹である。浮竹とブラッディ・ネイは同じ神から生み出された。

一方は始祖ヴァンパイアとして、永遠の死ねぬ呪いを身に受けて。もう一方は、始祖の次のヴァンパイアとして、死すれば転生することのできる呪いを受けて。

「白哉、正気に戻れ!」

浮竹がいくら叫んでも、白哉は顔色一つ変えない。

「やめろ、京楽!こんな戦い、俺は見たくない!」

「でも、ここで白哉クンを止めないと、君に危害を加える。それだけは、僕が許せない」

何度も、血の刃と血の花びらで、火花を散らした。

「白哉クン、ごめんね」

浮竹の血を媒介に、大きな鎌を血で作り出すと、それで白哉の体を斬り裂いた。袈裟懸けに斬られた体は、大量の血を流した。

「兄は・・・兄は、ルキアを殺そうとした。殺す」

しゅうしゅうと、傷口が塞がっていく。

ヴァンパイアは再生力が高いが、血の刃で負わされた怪我は再生が遅い。それが瞬時に再生することは、聖女がいる証。ルキアはいないようなので、除外されて残るは聖女シスター・ノヴァ。

「いないようで、いるのか。聖女シスター・ノヴァ!」

「うふふふふ。さぁ、存分に殺し合ってちょうだい」

「お前は、確かにあの時殺したはず!」

「あら、浮竹、忘れたの?わたくしは始祖の神族。始祖は死が遠いのよ」

同じ始祖であるが、神族の始祖は死なないわけではない。死は限りなく遠いが。何度死んでも、また同じ神族の少女の中に転生して、復活する。

「始祖の血が欲しいの。浮竹、再生するのに時間がかかるくらい、ずたずたになるといいわ。同じヴァンパイアなら、それも友なら、殺せないでしょう?」

「甘いね、聖女シスター・ノヴァ」

京楽は、白哉を血の糸で戒めて、聖女シスター・ノヴァ、正式にはその分身体に血の刃を飛ばした。

それは、分身体の首を落としていた。

「あははは、この分身体は特別製なの。わたくしの分身体を傷つけても、本物のわたくしは傷一つ負わない。さぁ、殺し合いを続けてちょうだい、白哉」

「ルキアの願いだ。兄を、殺す」

「おいおいおい。こんなブスが、ルキアちゃんに見えるのかい?」

「誰がブスだ、このもじゃひげブ男!」

「ブスにブスって言っても罰は当たらないよ。白哉クン、しっかりして。ルキアちゃんは、こんな醜女じゃないよ」

「白哉!浮竹はいいから、先にこの京楽を始末しなさい」

「分かった、ルキア。散れ、千本桜」

血でできた、桜の花びらが散っていく。

数億の血の花びらを、京楽は血のシールドで防ぎ、血の刃で白哉の心臓を貫いた。

「白哉!」

浮竹が叫んだ。

ビクンと、白哉の体がはねて、心臓の鼓動を止める。

「な、早く立ち上がって京楽を殺しなさい!白哉!」

「京楽、俺の血だ!早く白哉に飲ませろ!」

浮竹は、血の結界をこじあけて、自分の血がつまった小瓶を京楽に渡した。

白哉は、今仮死状態にあった。

京楽は、白哉の口に浮竹の血を数滴注いだ。

かっと、白哉が目を見開く。

「私は・・・・何を。ルキアは?ルキアはどこだ?」

「白哉、早く浮竹を殺してその血をわたくしにもってきなさい!」

聖女シスター・ノヴァは白哉が一度肉体的に死に、暗示が解けてることに気づいていなかった。

「兄は・・・そうか。私は兄に操られて・・すまぬ、浮竹、京楽」

「ちい、どいつもこいつも使いものにならない!こうなったら、わたくしの聖水で全部もやして・・・・・・ぎゃあああああああああああ」

浮竹の魔力を宿した、京楽が立っていた。

始祖は、血族にその力を与えることができる。

「ヘルインフェルノ」

京楽が、血の結界の中にいる浮竹の代わりに、魔法を放っていた。

「な、京楽、何故、浮竹の魔法を・・・・・・・」

「浮竹は始祖だからね。その気になれば、僕に力を宿すこともできる。浮竹、呪いの魔眼でいいのかい?」

「ああ。分身体をそれで呪えば、本体にも呪いはうつるはずだ」

浮竹は、呪術にも長けていた。

呪いの魔眼。相手の目を焼いて、未来永劫光を奪う呪詛であった。

それを、京楽は聖女シスター・ノヴァの分身体にかけようとした。

「やめて!違うの、これは、そ、そう、ブラッディ・ネイに命令されたの!信者たちを殺されたくなければ、浮竹を殺せって!」

「残念、今のブラッディ・ネイは赤子だよ。赤子でなくても、実の兄を手にかけるような愚行までする妹じゃない、ブラッディ・ネイは」

浮竹が、京楽の張った結界から出されて、一人取り残されたボロボロな、泣きじゃくる聖女シスター・ノヴァの元にやってきた。

「聖女シスター・ノヴァ。今後、俺たちに二度と関わらないと約束するなら、呪いの魔眼は・・・・」

「あはははは!死ね、死ね、死ね!」

聖女の祈りの聖水で作りあげた短剣で、聖女シスター・ノヴァは浮竹の腹部を刺していた。

「あははは、手に入れた。始祖の血だ!」

ぺろぺろと自分の手をなめる聖女シスター・ノヴァには、もう光は見えていなかった。

「いやああああああ、目が、目がああああ!何も見えない!焼けるように熱い!」

浮竹は、残像であった。

腹部を貫かれたのは、幻の浮竹。

「ヘルインフェルノ」

「アイスコキュートス」

浮竹の炎の煉獄で身を焼かれた後は、白哉の氷の魔法で凍てつかされた。

「あああ・・・・許さない。神の寵児であるこのわたくしを呪うなんて。いつか、呪いはお前を殺すだろう・・・ああ、口惜しい」

「頑丈だな。死ね」

スパン。

浮竹は、血の刃で聖女シスター・ノヴァの首をはねていた。

それでも、聖女シスター・ノヴァは動いた。

体は炭化し、氷ついているのに、まだ動いた。

「始祖の力を、なめるなよ、浮竹」

「それはこちらの台詞だ」

浮竹は、聖女シスター・ノヴァの体をみじん切りにしていた。

さすがに、もう言葉もしゃべれない。

それをさらにヘルインフェルノで焼いた。

「ああ、古城の地下がぼろぼろだ。魔法陣は幸いなことに無事だが」

京楽と白哉のぶつかりあいで、古城の地下は上の階と同じ煌びやかな空間であったが、壁にひびは入るわ、絨毯は焼け焦げて炭化しているわで、ボロボロだった。

「すまぬ、浮竹、京楽。迷惑をかけた。聖女シスター・ノヴァの傀儡にされるなど・・・・」

「白哉は悪くない。悪いのは聖女シスター・ノヴァだ。今頃、呪いでもだえ苦しんでいるだろうが。ざまぁないな」

浮竹は、意地の悪い笑みを浮かべた。

「私は、確かに死んだ。なのに、何故生きている?」

「京楽が、俺の血を切っ先に乗せた刃で、心の臓を貫いて、一時的に鼓動を止めさせた。仮死状態にして、俺の血を与えることで鼓動は復活する。これも、呪術の一種だな」

「浮竹は、呪術も使えるのか」

「伊達に、神代の時代から生きてるわけじゃあないからな」

「そうそう、あっちも凄くて・・・・・・」

京楽の悪乗りに、浮竹は顔を真っ赤にして、京楽を殴り倒した。

「何するの!?花嫁に向かって!」

「そうか、そんなプレイをしていたのか。すまぬ、気づかなかった」

「いや、違うからな、白哉!こら、京楽も何か言え!」

「あ、式がきたよ。ルキアちゃんたちがくるらしい」


--------------------------------------------


「兄様、無事でよかった!」

白哉は失踪した後、一度血の帝国に戻り、ルキアと一護と冬獅郎を殺そうとした。

だが、白哉は暗示をかけられて操られながらも、愛しいルキアとそれを守る守護騎士を殺せなかった。

ルキアは血を流したが、術で一護と冬獅郎と自分を治癒した。

そして、浮竹を殺すといっていたので、急いでいたので血文字で兄様を止めてくださいと書いて、浮竹と京楽に向かって式を飛ばした。

「白哉、これをもっていけ」

「これは?」

「俺が作ったアミュレットだ。俺より下の者に、呪われたり操られたりしなくなる」

浮竹は、蒼い宝石のついたアミュレットを白哉に渡した。

「もらっておこう。恩に着る。今回は、迷惑ばかりをかけた。すまない」

「また遊びにこいよ!」

「兄も、たまにはこちら側に遊びにくるといい」

「ああ、今度血の帝国にいくさ」

「僕も一緒にね」

「京楽は、ついてこなくてもいいんだぞ」

「あ、酷い。さっきの花嫁プレイの件、まだ怒ってる?」

「知るか!」

ぽかりと、京楽の頭を殴って、浮竹は笑顔で皆を見送った。

皆が去ってから、京楽は真剣な顔つきになった。

「浮竹、ほら、脱いで!」

「な、なんだ!こんなところで盛るのか!?」

「違うよ。聖女シスター・ノヴァの聖水の中身をかけられた場所のやけど、まだ治ってないでしょ!ルキアちゃんに治してもらえばよかったのに」

「ルキアくんには、いらぬ心配をかけたくない」

「頑固者なんだから!ほら、僕の血で癒すから、服脱いで」

浮竹は、素直に上の服を脱いだ。

聖女の祈りの聖水は、始祖にとって一番の毒だ。やけどは再生しつつあったが、まだやけどとして残っていた。

「君の、シミひとつない白い肌に、やけどの痕が残るなんてごめんだよ」

京楽は、自分で指を噛み切って、滴る血で浮竹のやけどを癒した。

血族の血は、時に主にとって薬となる。始祖の血は、血族の薬ににもなる。お互いが薬になれるのだ。

どちらかが再生に間に合わぬ傷を負うと、どちらかが血を与えた。

「これで、聖女シスター・ノヴァもこりればいいんだけどな」

「どうだろうね。一層僕らを殺したがってるじゃないかな」

「聖女シスター・ノヴァ如きで散る命じゃない、俺も京楽も」

「うん。あの醜女の最期の姿、傑作だったね」

「下手な芝居ではぐらかそうとしても、見え見えだからな」

京楽は、浮竹を抱きしめた。

「京楽?」

「浮竹にやけどを負わせた、聖女シスター・ノヴァは僕が殺す」

「もう大丈夫だ。それに、俺たちは平和主義者だ。多分。一応。喧嘩を売られない限り、動くことはあまりない」

「うん。十四郎、大好きだよ。愛してる」

「俺も愛している、春水」

ベッドに押し倒されて、浮竹は目を閉じた。

啄むようなキスが降ってくる。

血族にした男の下で、始祖は喘ぎ、乱れた。


--------------------------------------------------------------------


「あああああああ!あ”あ”あ”!目が、目が見えない!目が痛い!痛すぎて何もできない!」

聖女シスター・ノヴァは人間社会にある、聖神殿の聖域で、身悶えていた。

「殺す!浮竹も京楽も白哉も!」

「そんなことがきるのか、聖女シスター・ノヴァ」

「ヴァンパイアでありながら、ヴァンパイアを狩るハンター、志波海燕ですか。あああ、痛い、痛い!」

「うるさいな、ババァ」

「きいいい!でも、初めて血族にした男が生きていて、ヴァンパイアハンターをしていると知ったら、あの綺麗な顔は歪むのでしょうね。ああ、想像するだけで濡れてきたわ。さぁ、わたくしを抱きなさい、海燕」

「醜女だから、あんまりその気にはなれないんだけどなぁ」

「愛する、始祖を思い浮かべればいいでしょう。私も始祖。種族は違えど、血の味は同じはず」

海燕は、聖女シスター・ノヴァを抱き、血を啜った。

「ああ、いい!もっと、もっと!」

「おいブス。聖水ではなく、お前の血を武器にしたい。聖女の祈りこもった聖なる血の武器。強そうじゃないか?」

「あら、それはいい考えね。ああ、痛い、痛い・・・・始祖め、今度こそ、殺して血を飲んでやる」

志波海燕。

かつて7千年前、浮竹が血族として迎え入れ、愛した男の名であった。










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