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始祖なる者、ヴァンパイアハンター7

青年の名は、志波海燕。

かつて7千年前、始祖浮竹の血族となり、浮竹に愛され、浮竹を愛したヴァンパイアであった。

その海燕は、今ではヴァンパイアであるのに、ヴァンパイアを狩るヴァンパイアハンターになっていた。

今の海燕に、浮竹の血族であり、浮竹を愛し愛されていた頃の記憶はない。

聖女シスター・ノヴァを守護する、四天王の一人だった。

四天王といっても、聖女シスター・ノヴァがそう言っているだけで、4人いるが別に彼女を守っているわけではない。

実際、聖女シスター・ノヴァは怒りに暴走した浮竹に、一度殺されている。

殺されても死なない聖女シスター・ノヴァに、護衛などいらなかった。

四天王の一人である志波海燕の他は、人間の石田雨竜、井上織姫、茶渡泰虎であった。

四天王の名前だけもっていて、それぞればらばらに動いていた。

石田雨竜は滅却師というモンスター討伐の専門家で、井上織姫は神殿の巫女であり、茶渡泰虎は冒険者だった。

「ああ、瞳が痛い・・・この呪詛は、なぜなくらないの。もういいわ、新しい体に転生しましょう」

聖女シスター・ノヴァは自害した。

そして、その魂は別の神族の少女に宿った。

「今日から、わたくしが聖女シスター・ノヴァです」

呪詛は、転生先にまできたが、痛みは消えた。

光を失った金色の瞳で、もうこれ以上転生を繰り返しても、呪詛は魂に刻まれていて、光を取り戻すことはできないと覚悟して、始祖を憎んだ。

素体となった少女の両親は、泣いて喜んだ。

聖女シスター・ノヴァの転生先に選らばれたのは、貧しい農民の次女だった。

聖女に転生したことで、富を与えられた。

莫大な富を与えられた、その日を食べていくのも難しいはずの農民の一家は、貴族となった。

神族の暮らす聖帝国は、痩せた不毛の大地だ。オアシスを有する作物が育つ地域は、皇族直轄か、貴族の領地になっている。

神族のほとんどが農民だった。奴隷のように働かされて、涙を流すことを強制させられた。

涙を宝石にできるといっても、買い取ってくれる相手がいないと、何の意味もない。

聖帝国は、神族を外に出さないようにしていた。表向きは、鎖国ということになっている。

血の帝国と秘密裏に貿易をして、宝石の代わりに新鮮な食料と水をもらっていた。

その食料は配給制で、農民たちは苦しい生活を強いられた。

聖帝国を逃げ出す者は、後を絶たなかった。

でも、逃げ出した先で待っているのは、人間によって奴隷にされる結末であった。

自由ではあるが、常に飢えているか、自由ではないが、飢えてはいないか。

それだけの差であった。

聖女シスター・ノヴァは聖帝国と人間社会の行き来を許された、特別な存在であった。

時折、聖女シスター・ノヴァは人間の手で奴隷に落とされた者たちを買い上げて、人間の土地での平和な生活を保障した。もっとも、彼らが流す涙の宝石は聖女シスター・ノヴァの財産として扱われた。

人々は彼女こそ、神の御子、聖女であると崇めた。

聖女シスター・ノヴァは大金をもらっては、死者を蘇らせて、重篤の病の者を癒した。

時折気が向けば、平民の治療もしたが、それは名声を得るため。

聖女シスター・ノヴァの聖なる癒しの能力は、大金持ちか王侯貴族のものであった。

そんな世界の中で、四天王の一人である、井上織姫が小さな聖女として名をあげていた。

平民だけでなく、貧しい者からも一切金を取り立てないで、傷を癒した。その能力は聖女・シスター・ノヴァには至らぬものの、四肢の欠損を補うほどの治癒術をもっていた。

いずれ、聖女シスター・ノヴァに静粛されるだろう。

人々はそんなことを言って、井上織姫を守ろうとした。

結果、井上織姫に待っていたのは、幽閉であった。

けれど、そこにも貧しい者たちがおしかけて、織姫をさらい行方不明となっていて、現在は四天王は3人になっていた。

「まったく四天王なのにわたくしを裏切るなんて。孤児であったのを、育ててやった恩を仇で返すなんて信じられないわ」

井上織姫は孤児でスラム街出身であった。同時に、茶渡泰虎も同じ孤児でスラム街出身である。

だが、聖なる奇跡を起こせる織姫は、神殿の巫女として受け入れられて、高い戦闘力を有する茶渡泰虎は、時折四天王として聖女シスター・ノヴァの護衛につきながら、冒険者をやっていた。

同じ四天王の石田雨竜は、聖女シスター・ノヴァが活動する王国の王子であった。

「俺には、あんたの存在が信じられないけどなぁ。血の帝国の女帝、ブラッディ・ネイのように死しては転生を繰り返すなんて」

「わたくしは始祖の神族よ。下等なヴァンパイアなどと一緒にしないでちょうだい」

「ヴァンパイアハンターであるが、その前に俺は一人のヴァンパイアだ。あんまりコケにしてると、四天王の座を去って、血の帝国側につくぞ」

「嘘よ!今のは全部嘘!わたくしには、もうあなただけなの、海燕」

甘い声を出すが、見た目はドブスなので、海燕は少しもときめかなかった。

「このブス!いろいろ隠してるくせに」

「あら、この下まつ毛どばどば男。わたくしを疑うの?どうでもいいから、早く始祖を殺しに行きなさい」

「言っとくが、あんたの命令でいくんじゃないからな。始祖のヴァンパイアマスターを討伐できると思うと、腕が疼く」

「失敗は許さないわよ。わたくしは、お前のコアを握っているのだから」

志波海燕の命は、聖女シスター・ノヴァが握っている。

コア、即ち人間でいうところの心臓は、聖女シスター・ノヴァの手の中だった。志波海燕は、すでにこの世から死去している。

それを、聖女シスター・ノヴァが呪術で、奴隷であった神族の青年の体を依代にして、蘇らせたのだ。

神族の青年は、志波海燕として復活したが、生前の記憶はなかった。依代はヴァンパイア化を成功させていた。呪術は大成功だった。

ただ、刷り込まれるようにヴァンパイアハンターであると教えられた。

対始祖の浮竹用に、聖女シスター・ノヴァが作り出した、兵器であった。

海燕は、呪術で生き返ったが、聖なる力を宿した呪術だったので、ヴァンパイアにとって猛毒である聖女シスター・ノヴァの祈りの聖水は、効かなかった。

ただ、始祖のヴァンパイアを討ち取るために、銀の弾丸に祈りの聖水をひたし、固形化したものを弾丸の中身とした。

持っていくものは、銀の銃と聖女の血でできた血の剣、それと聖女の祈りの聖水を小瓶にいれたものをたくさん。

「待っていろ、始祖ヴァンパイア。俺が、必ず殺してみせる」


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「そして、八岐大蛇(やまたのおろち)を愛した青年は、八岐大蛇に愛されて、幸せに暮らしました」

子供向けの絵本や物語を、浮竹に読んできかせていた。

京楽は、たまに本を浮竹に読み聞かせる。

浮竹は小難しい古代の呪術書や魔法書を読むが、絵本や物語などは読まない。

そんな浮竹に、本を読んで聞かせるのが、京楽の趣味になっていた。

「八岐大蛇ってなんだ?どんなモンスターなんだ」

「これは極東の島国の話らしいけど、ヒドラみたいに複数の首をもつドラゴンもどきらしいよ」

「ドラゴンもどき?」

「大蛇ってついてあるから、蛇のモンスターなんだと思う」

「ジャイアントスネークみたいなものか。食べれるのか」

浮竹が顔を輝かせた。

「なんでそこで食べれるとかでてくるの。幸せになりましたの終わりで、いいじゃない」

「いや、食べれたら食べたいだろう」

「愛したモンスターだよ?それを食べたいの?」

「モンスターと人間は普通共存できない。それに、時にはモンスターも貴重な食料だ」

「ああ、この前食べた猪のモンスターの肉のこと?」

「あれは美味しかった。蛇も食べてみたい」

「げてもの食いになるから、やめておきなさい。普通の肉屋で蛇の肉なんて売ってないよ」

「じゃあ、今度町の冒険者ギルドで依頼を受けて、ジャイアントスネークを退治しよう。食べてみたい」

極東の島国の物語を読み聞かせたら、浮竹の興味は食のほうへと向いてしまった。

「八岐大蛇・・・・実在したら、討伐してシチューにでもするんだがな」

「食あたりおこしそうだから、実在しても食べさせないよ」

京楽は呆れていた。

ハッピーエンドものでも、悲恋ものでも、浮竹は意外な反応を示して、それが京楽の楽しみの一つでもあった。

「明日は、苺狩りに行こうよ。山の木苺が実って熟している季節だ。農家の苺でもいいけど、木苺のほうがヴァンパイアだってばれる可能性はないし、安全だから」

「ああ、いいな。明日は戦闘人形に命令して、お弁当を作ってもらおう。ハイキングも兼ねて、木苺を取りに行こう」

「いいね。じゃあ、今日はもう暗いから、おやすみ、浮竹」

京楽は、ちゅっとリップ音をたてて浮竹の額にキスをして、室内の照明を落とした。

浮竹は、寝息をたてて寝るふりをした。

そして、京楽が去っていったことを確認して、窓を開けた。

ホウホウ。

白い梟が飛んできて、浮竹の肩に止まった。

足にくくられている文をとり、読む。

「ヴァンパイアによるヴァンパイアハンター・・・・名前は、志波海燕・・・・・」

浮竹は、梟を森に返した。

町にいるヴァンパイアからの情報であった。

「ばかな。志波海燕は死んだはず。俺の腕の中で、息を引き取った。遺体は火葬したし、灰は海にまいた・・・・・まさか、反魂の!?」

浮竹が、唇を噛む。

反魂は、呪術の中でも高位で、浮竹にさえできない。

聖なる魔力をもっていないと無理だ。

普通の魔力で反魂を行うと、術者が命を落とす危険性もあったし、ただのアンデッドができあがる。

「聖なる魔力の反魂・・・聖女シスター・ノヴァ?でも、魔眼の呪いもあるし、気にしすぎか。
志波海燕をの名を語るヴァンパイアは今までもいた。きっと、気のせいだ」

そう自分に言い訳をして、浮竹はベッドに戻ると眠りについた。

その日見た夢は、懐かしいものだった。

かつて7千年前、浮竹が血族にして愛した男の夢を、一晩中見た。

朝起きると、最悪だった。

忘れていた男への恋心が復活していて、京楽にばれないように、記憶を封じこめる。


「浮竹、準備できた?ハイキング兼木苺狩り、行こうよ」

京楽は、すでに準備ができているようで、山登りに適した服装に運動靴を履いていた。

「ああ、ちょっと待ってくれ。運動靴はどこにしまったかな・・・」

「こっちでしょ」

京楽が、クローゼットを開ける。

「ああ、あった。この靴が運動靴の中では気に入っているんだ」

浮竹が休眠から復活し、活動しだしたのはここ100年と少し前くらいの出来事だ。

埃がつまっていた古城を、戦闘人形に掃除させてぴかぴかにすると、もっていた金のインゴットやら宝石やらを売り払って、人が住める状態にした。

家具は全部、人間に運んでもらったが、帰る時には記憶を消して、古城の主が美しい白い青年だということを忘れさせた。

衣服や靴は長くはもたない。

数百年の眠りについていた間にボロボロになっていて、全て買い換えた。

保存の魔法を使うこともできたが、休眠から起きる気はなかったので、保存の魔法はかけていなかった。

最近は、古城に幽霊が住んでいる、という設定になっている。

子供が悪戯心で遊びにこないように、森から古城にくる道に、阻害の魔法をかけていた。

実力のある人間、例えばヴァンパイアハンターなどが、森を抜けて古城までくることができた。

時折、阻害の魔法を乗り越えて古城にくる人間もいたが、そういう時は古城での記憶を消して、森の外で寝かせた。

モンスターに食べられないように、すぐに人が発見されやすい場所に置いたり、魔物よけの護符を与えたりもした。

「浮竹とデートだ!」

「え、ハイキングってデートになるのか?」

「なるよ。二人きりで出かけるんだもん。町をデートするのも楽しいけど、浮竹は町はあんまり好きじゃないでしょ」

「人間は、好きじゃない」

「僕は元々人間であったせいか、人間はそれなりに好きだけどね。さぁさぁ、準備ができたら出発しよう」

朝の早いうちから、戦闘人形に頼んでお弁当を2人分作ってもらっていた。

そのお弁当と、木苺を摘むたのめ籠を手に、二人は山に登って行った。


「お、生ってるね。どれどれ」

京楽が、早速見つけた木苺を摘み取って食べた。

「うん、甘くていいかんじ。浮竹、向こうにも実ってるから、まずは今食べる分を取ろう」

ハイキングも兼ねていたので、運動はそこそこしたはずだ。

浮竹は、食べる分だけと言われたのに、大量に木苺を摘んだ。

「そんなに摘み取って、どうするのさ。持って帰るの、大変だよ」

「いや、アイテムポケットあるだろう」

ぽんと、京楽が掌を手で叩いた。

「その手があったか。アイテムポケットに入れればいいんだね」

「摘んだままいれるなよ。ちゃんと籠とかに入れてから収納しろよ。そのまま入れると、他のアイテムポケットに入っているのとごちゃ混ぜになる」

浮竹は、アイテムポケットから、いくつかの空の籠を出して、代わりに木苺でいっぱいになった籠をアイテムポケットに収納した。

「木苺のタルト、ケーキ、ジュース、ジャム。いろいろ作れそうだね」

京楽は、暇なので家事をしはじめていた。

最近の夕食は、デザートだけでなくメインディッシュも、京楽が調理したものが出てくる。

シェフの腕をもつ戦闘人形にいろいろ教わって、いろんなメニューを作れるようになっていた。

二人では摘み取り終わるのに日が暮れてしまうと、浮竹は戦闘人形を作りだして、木苺を摘み取らせた。

「この辺にしておこう。全部とってしまうと、生態系に影響がでそうだ」

まだたっぷりと木苺は残っていたが、動物やモンスターのために残すことにした。

「けっこう摘み取ったね。1年は、木苺に困らないんじゃない?」

アイテムポケットの中身は、時間の経過が止まっているので、アイテムポケットにいれた木苺が腐ることはない。

「毎日木苺は飽きるから、毎日はやめてくれよ」

「えー。せっかく収穫したんだから、しばらくは木苺のメニュー、食べてもらうから」

「仕方ないな。もう日が暮れる。帰りは、空間転移魔法で帰ろう」

「浮竹、空間転移魔法も使えるなら、はじめからここに来ればよかったのに」

そんな京楽の言葉に、浮竹は首を横に振った。

「一度訪れた場所じゃないと、空間転移魔法は使えない。それに、消費魔力が多すぎて、1日1回が限度だ」

「じゃあ、今日はもう戻ろうか」

「ああ」

浮竹も京楽も知らなかった。

留守を任せていた、戦闘人形がヴァンパイアハンターに殺されていたなんて。


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「どうなっている!生きている戦闘人形はいないのか!」

血まみれになって倒れている、戦闘人形のリーダーの元へ駆けつけた。

リーダーの戦闘人形は、意思をある程度もち、会話が成り立つ。

「どうしたんだ!」

「志波海燕様が・・・・・」

「海燕が、どうしたんだ!」

「ヴァンパイアであられるのに、ヴァンパイアハンターでした。気をつけてください、マスター。あの方は、もう昔の・・・・・」

ことり。

戦闘人形は、それだけを口にすると腕を地面に落として、息絶えてしまった。

「海燕・・・やはり、お前はヴァンパイアハンターなのか!」

「海燕って誰、浮竹」

「京楽、嫉妬はするな。7千年前、俺が愛して血族にしたヴァンパイアだ」

「君は、ブラドツェペシュ以外にも、そんな人がいたの?」

「俺は8千年を生きている。5千年は休眠して過ごしたが、あとの3千年は生きて過ごしていた。孤独に堪え切れず、血族にしたのは5人。そのうちの一人が志波海燕だ。ブラドツェペシュは血族していなかったので、入っていない」

「君は僕のものだよ!」

京楽は、浮竹を抱き寄せた。

「分かっている。今は、お前だけだ」

京楽を抱きしめ返す。

「戦闘人形を皆殺しにしたってことは、それなりの力のあるヴァンパイアハンターだね。ヴァンパイアでありながら、ヴァンパイアハンターだなんて。例え、昔の浮竹の恋人でも、僕は容赦しないよ」

「いやあ、そのほうがありがたいな」

志波海燕だった。

聖女シスター・ノヴァの血、それも祈りの聖水を含んだものを、刃にした剣で、浮竹は心臓を突きさされていた。

「海燕・・・・お前は・・・・ごほっ」

大量に吐血する浮竹を見て、京楽の血の暴走が始まる。

「海燕クンだっけ?死んでよ」

血でできた真空のカマイタチを、海燕に向かって放つ。

それを、海燕は聖女の剣で弾き飛ばした。

「浮竹!」

浮竹は、血の結界をはって、携帯していた人工血液剤を噛み砕き、心臓の傷を癒していた。

「大丈夫だ・・・急所だが、俺は死なない」

空間転移魔法で、魔力をごっそり持っていかれていたが、心臓を貫かれ時、必死で血の膜をはって、直撃を避けた。

「へぇ、始祖ってほんとに死なないんだな。でも、聖女の祈りの聖水を浴びれば、やけどをするよな?」

浮竹のはった結界を無理やりこじ開けて、海燕は聖水の入った小瓶を破壊して、浮竹に浴びせた。

「ああああ!!!!」

じゅうじゅうと、肉の焼ける匂いがした。

「いい匂い。うまそうだ。殺す前に、血を飲んでやろうか」

「俺は死なない。何をされても死なない」

「始祖ってのは厄介だなぁ」

海燕は、我を忘れて切りかかってくる、京楽の血の刃を後ろから受けて弾いた。

「許さない。浮竹を傷つけた。僕は君を許さない。死んでよ」

白哉の時とは比べ物にならない魔力が、京楽の手に集まる。

「ヘルインフェルノ!」

「な、お前、魔法が使えたのか!?聖女シスター・ノヴァの話では、身体強化とエンチャント系の魔法なだけのはずだ!」

「へぇ、君、聖女シスター・ノヴァの知り合いなんだ。ますます許せない」

「聖女シスター・ノヴァの四天王、志波海燕だ」

「どうでもいいよ、そんなこと」

京楽は、自分に宿った浮竹の魔力で、浮竹の代わりに魔法を放つ。

暴走状態に陥らなくてもできるが、暴走状態のほうが魔法は使いやすい。

「ボルケーノトライアングル!」

火の魔法を受けて、炭化してしまった左腕を自分で切り落として、海燕は聖女の剣で京楽と切り結びあう。

火花が何度も散った。

「ヘルコキュートス!」

浮竹は、あくまで火の魔法が得意なだけであって、全属性の魔法を操れた。血族である京楽は、浮竹の使う魔法を使えた。

大地に足を凍らされて、海燕が舌打ちする。

自分の足を砕く。

炭化していた左腕と、砕いた足が再生していく。

凄まじい再生スピードであるが、守りががら空きだった。

京楽は、浮竹を血の結界で護りながら、微笑んだ。

「浮竹を愛していないんだね。そんな血族、いらないよね、浮竹」

「京楽、一思いに殺してやれ。反魂で生き返らされた、彷徨う亡者だ、彼は。俺が愛した志波海燕じゃない」

「反魂?なんの話だ・・・・・・」

京楽は、浮竹の流した血をボウガンの形にして、浮竹の血を弓矢にして、それは複数の形となって海燕の腹と心臓を貫いていた。

「心臓を貫いても死なない・・・浮竹の血で死なないなんて、心臓つまりはコアが違うところにあるのかい?」

始祖の血は、莫大な力を注ぎ込む。けれど、使う者次第で、猛毒にもなった。

海燕は、大量の血を吐きながら、それでも京楽に斬りかかった。

「俺は、こんなところでは死なない!俺には愛する人がいるんだ!」

海燕の傷口は、再生しなかった。

始祖の血が、海燕の再生を拒んでいるのだ。

「もう楽になってしまいなよ」

京楽は、海燕の心臓をまた刺していた。大量の血を流すが、まだ海燕が息絶える気配はない。

海燕は、せめてと、聖女の剣についた始祖の血をなめて口にした。

光が煌めいた。

「俺は・・・そうか。反魂か。愛していた、浮竹・・・・」

「海燕?」

血の結界から出ようとする浮竹を、京楽が押しとどめる。

「せめて、お前の手で葬ってくれ」

「海燕、お前、まさか記憶が戻ったのか?」

「浮竹、だめだよ!危ない!」

浮竹は京楽の血の結界を破り、海燕を抱きしめた。

「愛していたよ、海燕。俺の、血族よ」

「俺も愛していた、浮竹。俺は、もう死んでいるんだな。ここにいるのは、反魂で生き返らされた、俺の亡霊か。肉体の元になっているのは、神族の青年か。かわいそうだが、一緒にいこう」

「京楽、これは俺の我儘だ」

浮竹は、京楽に微笑みを向けて、海燕がもつ聖女の剣で、自分ごと海燕を刺していた。

「ごふっ・・・・。だめだ、俺の心臓であるコアは、聖女シスター・ノヴァの手の中だ。こんなんじゃ、死なない」

「灰になれば、死ぬか?」

「ああ。愛していた浮竹――――」

「ヘルインフェルノ!」

浮竹は、自分ごと海燕を地獄の業火で燃やした。

残ったものは、灰になった海燕と、やけどを負った浮竹。

「浮竹・・・・・・」

「絶対に許さない、聖女シスター・ノヴァ。死者を弄ぶだなんて」

しゅうしゅうと、傷ついた体を再生させながら、浮竹は泣いていた。

「泣かないで、浮竹」

「京楽。今だけは、今だけは他の男のことを想い、涙する俺を許してくれ」

「うん。許すよ」

「うわあああああ」

浮竹は泣いた。

今まで生きてきた中で、泣いたことはあるが、誰かのために泣くことは少なかった。

「愛していたんだ。お前を。海燕。俺の初めての血族であり、俺の恋人だったお前を」

それを、京楽は複雑な気持ちで見ていた。

そっと抱きしめると、浮竹は涙を流したまま京楽に抱きついた。

「京楽。お前は、こんなことにはなるな。お前だけは、俺の傍にいてくれ」

「うん。約束するよ。僕はずっと君の傍にいる。僕が死ぬ時は、浮竹、君も、死んで?」

死んだ海燕のために涙する浮竹を、強く抱きしめた。

嫉妬の感情は、不思議と沸いてこなった。

「約束だ」

唇を重ね合った。

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「ああもう、どいつもこいつも!使えない!ええい、石田雨竜はいるか!茶渡泰虎でもいい!」

聖女シスター・ノヴァは、砕け散ってしまった海燕のコアを、その破片を踏みつけていた。

「あーあ。兄様を怒らせちゃったねぇ、聖女シスター・ノヴァ」

「ブラッディ・ネイ!?ばかな、血の帝国から出られないはずだわ!今のお前は、赤子!」

「うふふふ。ボクはねぇ、兄様のことが大好きだけどさぁ、兄様を助けるつもりはないんだけど、今回はねぇ。ちょっと、ボクも海燕のこと、好きだったからさぁ。だから、ねぇ?」

神族の少女に降臨したブラッディ・ネイは、聖女シスター・ノヴァに血でできた短剣を向けた。

「転生しても、転生しても、醜い姿で生まれてくるのは、ボクのせいだよ」

「何!」

「ボクが、兄様に恋慕する君に、呪いをかけたのさ。何度生まれ出でても、同じ姿形になるように。今度は、もっと醜くくなればいい。そうだね、しわくちゃのお婆さんになっちゃいないよ」

「ぎゃああああああああああ」

全身を焼く呪いの炎。ブラッディ・ネイは、血の刃の短剣を、聖女シスター・ノヴァの心臓に突き立てた。それは呪いの言霊をなって、聖女シスター・ノヴァの全身を巡っていった。

炎の後には、醜いしわくちゃの老婆が立っていた。

呪いが強すぎて、浮竹の呪いの魔眼は上書きされていた。

光を戻した聖女シスター・ノヴァは鏡で自分の姿を見た。

老婆、しかも醜い。

「いやああああ!!わたくしの、わたくしの顔が、体が!若いわたくしの体が!」

「あははははは!ざまーないね、聖女シスター・ノヴァ。せいぜい、信者に愛想つかされないように、がんばるんだよ」

ブラッディ・ネイがかけた呪いは、転生しても転生しても醜い老婆になる呪い。

ブラッディ・ネイの降臨が終わった神族の少女は、ヴァンパイアになっていた。

「ああ、美味しい、美味しい」

「いやあああ、わたくしの血を吸わないで!こんな体では、魔法が!」

聖女シスター・ノヴァの悲鳴を聞いて駆けつけてきた者が見たのは、しわくちゃの醜い老婆の干からびた死体だった。

ヴァンパイアになった少女は、銀の武器で殺された。


「あはははははは!」

赤子の姿のまま、血の帝国の後宮で、ブラッディ・ネイは笑っていた。

「醜いね、なんて醜いんだろう、聖女シスター・ノヴァ」

自らの子に転生させられたブラッディ・ネイは、狂ったように笑い続けた。

「兄様。愛してるよ、兄様。兄様は、ボクだけのものだ」

ブラッディ・ネイの狂気にあてられて、後宮の少女たちは次々と意識をなくしいくのだった。


----------------------------------------------------


「愛してるよ、十四郎」

「あ、春水」

浮竹と京楽は、同じベッドの上睦みあっていた。

「あ、あ、愛してる、春水、春水」

愛しい血族の男は、愛しい始祖を貫きながら揺すぶった。

「あ、あ、あ、だめぇ、奥はだめ!」

「奥、ごりごりされるの、大好きでしょ?」

「だめぇ!」

浮竹の蕾に入り込んだ京楽の熱は、浮竹の前立腺をすりあげながら、最奥の結腸をまで入り込んでいた。

「ああああ!!」

揺さぶられて、突き上げられて、浮竹は吐精していた。

「やっ!いったから、いったからもう!」

「そういえば、吸血まだ今日はしてなかったよね」

海燕のせいで負った怪我は、治りにくい聖女の祈りの聖水でできいた。

京楽は、自分の血を滴らせて、浮竹の傷を治癒した。

浮竹の白い肌には、やけどの痕も、剣で斬られた痕も残っていなかった。

「あ、今日はだめ!血を失いすぎたから、だめぇ」

「人工血液、ちゃんと準備してあるから大丈夫」

京楽は、浮竹の心臓の位置に牙を突き立てた。

深く牙を突き立てて、心臓の血を嚥下する。

「あ、あああ、心臓が、焼ける!」

焼けるような快感を与えられて、どちゅんと最奥を突きあげられて、浮竹はオーガズムでまたいっていた。

「出すよ。君の中に僕のザーメンたっぷり出すから、孕んでね」

「あ、孕んじゃう!やだ、やぁっ」

ドクドクと、大量の京楽の精液を胎の奥で受け止めながら、浮竹は京楽の首に手を回した。

「ん?」

「お返しだ」

京楽は、浮竹に首筋を噛まれ、大量に吸血されて、貧血に陥った。

二人仲良く、人工血液を口にした。

「僕は君と違って、すぐには人工血液を自分の血液に還元できないんだよ。少しは容赦してよ」

「俺の体を散々弄んでおいて」

「いや、ごめん。でも愛してるよ、十四郎。君になら、体中の血液だってあげる」

「そんなものいらん。意趣返しで噛みついて吸血しただけだ。血族の血を飲んで生き延びるほど、乾いていない」

浮竹は、頬を膨らませてすねていた。

「どうしたの、浮竹」

「木苺のタルトが食べたい」

「はいはい、すぐ作ってあげるから」

「木苺の入った果物の蜂蜜漬けも食べたい。あと、木苺100%ジュースが飲みたい」

「注文が多いねぇ」

「腹が減った」

ヴァンパイアは人の食べ物も食べる。

渇きを覚えた時だけ、人工血液や人間の血を口にした。

「隠し味は、処女の血がいい」

「ちょっと、無理言わないでよ。さすがにこんな時間に町をうろついて、孤児の子らの血を抜いていてたら、見つかってしまう」

「冗談だ」

嘘とも冗談ともとれる言葉に、京楽はため息をついた。

浮竹はその気はなかったのだが、京楽が海燕のことをまだ思う浮竹の中の海燕に嫉妬して、浮竹を自分のものだと分からせるために、強制的に抱いたせいであった。

頬を膨らませて、飯を強請る浮竹は可愛かった。

「今作るから、ちょっとまってて」

「寝ておく。完成したら、起こせ」

「分かったよ。まったくもう、仕方ないね」

きょらくは、浮竹に甘い。浮竹もまた京楽に甘いが、今日だけは浮竹は京楽に抱かれたくなかったのだ。

否が応にも、海燕と体を重ねた記憶が蘇った。

京楽が残したキスマークを指で辿りなはら、浮竹は眠りへと落ちていく。

浮竹が今愛する者は、京楽ただ一人。

それを、京楽もまた理解していた。

外では、雨が降っていた。

久しぶりの、嵐にになりそうだった。


-----------------------------------------


「え、海燕君が死んだ!?それに聖女シスター・ノヴァ。その体はなんですか。本当に聖女シスター・ノヴァなのですか!」

石田は、突然の訃報に、立ち上がっていた。

「女帝ブラッディ・ネイに呪詛を受けた。その結果がこれだわ」

しわくちゃの醜い老婆は、神聖な力を見せた。

その力は、確かに聖女シスター・ノヴァのものであった。

「その呪詛を解く方法はないのですか」

「同じ聖女の血。血の帝国の聖女、朽木ルキアの生き血がいるわ」

「僕が、血の帝国に赴いて、聖女朽木ルキアをさらってきましょう」

「たのむわよ、雨竜。もう、わたくしにはお前くらいしか、頼れる者がいないのです」

石田雨竜は、ヴァンパイアロードを退治したこともある、凄腕のモンスターハンターであった。

人間の雨竜にとって、ヴァンパイアもまたモンスターであった。












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