始祖なる者、ヴァンパイアハンター8
「助けてくれ、浮竹さん、京楽さん」
「浮竹、京楽、力を貸してくれ」
ある日突然、古城にやってきたのは、一護と冬獅郎だった。
全身に怪我とやけどを負っていて、やけどは聖女シスター・ノヴァの聖水によるものだとすぐに分かった。
「どうしたんだ、一護君、冬獅郎君」
「ルキアが!ルキアが攫われた!」
「なんだって!」
「本当なのかい、一護クン冬獅郎クン」
京楽が、指を噛み切って二人の傷に血を注ぎ、再生を促しながら問いかけた。
「ああ。なんでも、聖女シスター・ノヴァの四天王とかいう、石田雨竜っていう人間にやられた」
「あいつ、ルキアを盾にとりやがった。卑怯なやつだぜ」
一護も冬獅郎も悔しそうであった。守護騎士でありながら、むざむざ守るための者を攫われてしまったのだ。
「一護君も、冬獅郎君も相当な手練れだろう。それを手傷を負わせるなんて。その石田雨竜って人間、もしかして滅却師かい?」
「ああ。滅却師だと言っていた」
「厄介だね」
最近、滅却師のモンスターハンターが、ヴァンパイアロードを狩っていると耳にしたのだ。
「京楽、ルキア君の居場所は分かるか?」
「多分、聖女シスター・ノヴァのところじゃないかな。聖女としてのルキアちゃんの血が必要なんだろう。高等な呪詛を解呪するには、聖女の血がいる。聖女シスター・ノヴァにかけられた呪詛は、自分の血では解呪できないから。それに、聖女シスター・ノヴァの四天王なら、主の元に帰還するはずだ」
「俺が、聖女シスター・ノヴァに魔眼の呪いをかけたせいだろうか」
「浮竹のせいじゃないよ」
浮竹を抱きしめる京楽に、一護がこほんと咳払いをした。
「あ、いちゃついてる場合じゃなかったね」
「そうだぞ、京楽。ルキア君を助けるための策を練らないと」
「浮竹さん、京楽さん、無理を承知で頼みます。ルキアを助けてください」
「浮竹、京楽。ルキアは友人だろう。無論、助けるのに協力してくれるな?」
「一護君も冬獅郎君も慌てない。聖女の血が必要であれば、殺されたりはしないはずだ」
「でも、ルキアを傷つけるんだろう!血が必要ってことは!」
「高等な呪術に対する解呪に必要なのは、聖女の生き血だ。それほど怪我は負わせられないはずだ。それに、ルキア君に何かあったら、ご執心のブラッディ・ネイが許さないだろう」
ごくりと、一護も冬獅郎も唾を飲みこむ。
ブラッディ・ネイの力は強大だ。血の帝国を8千年にわたって繁栄し続けさせており、太陽の光を通さない空の血の結界は、ブラッディ・ネイの魔力によって維持されていた。
彼らは知らなかった。
ブラッディ・ネイが聖女シスター・ノヴァに、転生しても醜くなる呪詛をかけているなど。まして、醜悪な老婆の姿にさせられたなど。
------------------------------------------
「ん・・・・・」
ルキアは気がついた。
「一護、冬獅郎!」
がばりと起き上がると、天蓋つきのベッドで寝かされていた。
「ここは・・・?」
「ここは、聖女シスター・ノヴァの住む館。君は、僕が血の帝国から攫ってきた。一護と冬獅郎とやらは無事だ。無駄に血を流すのは好まないタイプだからね、僕は」
「貴様、私を血の帝国の第3皇女、朽木ルキアと知っての所業か!」
「血の帝国の皇族だろうとなんだろうと関係ない。聖女シスター・ノヴァがあなたの血を欲している」
「起きたのかしら」
入ってきたのは、醜い老婆であった。
取り巻く清浄のな聖なる力を知って、それが聖女シスター・ノヴァであることが分かった。
「聖女シスター・ノヴァ。我ら聖女の光」
ルキアは、跪いた。
「あら、あなたはちゃんと道理を弁えているのね。嫌いじゃないわ。この身に降りかかる呪詛を解呪するために、あなたの生き血を少しもらいます。いいわね?」
「はい」
聖女シスター・ノヴァはルキアに優しかった。
とても、始祖を殺そうとした者には見えなかった。
注射器をチクリと刺されて、血を抜かれていく。
聖女シスター・ノヴァにとっても、ルキアを傷つけるのは血の帝国、つまりはブラッディ・ネイを完全に敵に回すことだと分かっているので、あえて注射器にした。
抜いたルキアの生き血をガラスのグラスに入れて、老女は祈りをこめた。
真紅の血が、金色に輝いた。
それを飲み干す。
そこに、老婆の姿はなかった。
知らない間に、ブラッディ・ネイに魂に刻み込まれた、転生しても醜くなるという呪いさえも、解呪できていた。
「ルキア。あなたは私と同等の聖女なのね。ありがとう、恩に着るわ」
美しい少女がいた。
素体であった、美しい農民の次女の姿になっていた。
「うふふふ。これで、転生しても美しくいられる」
「あの、私はもう帰ってもいいだろうか。皆が心配している」
「だめよ。あなたは切り札。あなたを追って、始祖はやってくる。あなたに呪詛をかけるわ」
「どうしてだ、聖女シスター・ノヴァ!」
「心配しないで。あなたにかける呪詛は、あくまであなたには降りかからない。始祖にふりかかる」
「浮竹殿には、そんな目にあってほしくない。呪詛をかけるというなら、例え聖女の光であるシスター・ノヴァであろうと許さない」
ゆらりと、ルキアの影から血が滲みでる。
その血は、式神となって聖女シスター・ノヴァに襲いかかった。
「な、小癪な真似を!」
その間に、ルキアは窓から飛び出していた。
ヴァンパイアのもつ翼を広げて、滑空する。そのまま、ルキアは逃げた。
「何をしているの、石田雨竜!早く、ルキアを捕まえなさい!」
「もう、ルキアさんの役目は終わったはずだ。僕は、無益な争いは好まない」
「施設の孤児たちが、どうなってもいいと?」
美しい少女は、それでも中身はやはり聖女シスター・ノヴァであった。なぜこんな性格の悪い女が聖女でいられるのだろうと思いつつも、石田は孤児たちのために決意する。
「分かった、連れ戻す」
「それでいいのよ石田雨竜。あなたはわたくしの四天王の一人。わたくしだけの言葉を聞いていればいいのだわ」
石田は、魔法で空を飛んだ。
そして羽ばたいて逃げているルキアに追いつくと、魔法でできた網をかぶせて、捕まえると大地に降り立った。
「離せ!一護!冬獅郎!」
「残念ながら、君の守護騎士たちは聖女の祈りの聖水で焼いておいたから、しばらくは使い物にならないと思うよ」
「皇族の血を、なめるな!」
ルキアは、血の刃を作り出すと、自分を戒める網を斬り裂き、石田に向かって血の刃を向けた。
それを、石田は吸収してしまった。
「な!?」
「僕は人間と名乗っているけれど、実はヴァンパイアとのクォーターでね。血の武器は、吸収できる、特殊性質をもっている。僕に血の武器は効かないよ!」
「くそっ」
ルキアは舌打ちして、それでも血でできた刃を放った。
ヴァンパイアの武器は、己の血でできたもの。
一方の滅却師である石田の武器は、弓矢であった。
「悪いけど、足を撃ち抜かせてもらう。逃げられないように」
「あう!」
びゅんと風を裂いて飛んできた弓矢は、ルキアの右足を貫通していた。
すぐに、再生が始まるはずが、始まらない。
「く、聖女の祈りの聖水か!」
「ご名答。僕が扱う弓矢の全てに、聖女の祈りの聖水を降り注いである。ヴァンパイアと敵対することを今回は念頭に入れてあるからね」
「一護!冬獅郎!」
ルキアは、石田の肩に抱きかかえられて、魔法でできた縄で戒められながら、愛しい自分を守ってくる守護騎士の名を呼んでいた。
「ルキア!」
「一護!?」
天空から降ってきた影が、踊る。
一護は、石田からルキアを奪い取ると、背後に隠した。
ブラドツェペシュをオアシスに連れていく時、乗っていたワイバーンに乗って、やってきたのでであった。古城の近くに住み着いていたのだ。
そのワイバーンに浮竹、京楽、一護、冬獅郎は乗り込んで、聖女シスター・ノヴァのいるグラム王国の聖神殿を目指している途中で、ルキアの血の匂いがして、方向転換したのであった。
「ルキア、足を怪我してる!大丈夫か!?」
「大丈夫だ。これしきの傷・・・それより、貴様と冬獅郎のほうこそ大丈夫か!?聖女の祈りの聖水で酷いやけどを負っただろう!」
「ああ、京楽さんの血で治してもらった。京楽さん、浮竹さんに血を流させたくなかったんだろうな」
「一護、ルキア!」
冬獅郎がワイバーンから降りてきて、レアメアル、ミスリルでできた剣をかまえた。
「こいつに血の武器は効かない。魔法と剣でなんとかするしかない」
「く、多勢に無勢か。僕は降参するよ」
「降参だと?」
冬獅郎が、氷の魔法を発動させながら、剣で切りかかった。
それを避けながら、石田は空に飛びあがった。
「聖女シスター・ノヴァは聖神殿ではなく、近くの館にいる。煮るなり焼くなり、好きにすればいい。もう頃合いだ。聖女シスター・ノヴァの代わりに、聖神殿は井上織姫を聖女に認定し、聖神殿のシンボルとする!」
それは、このグラム王国第一王子である、石田の政治的意味を含めた言葉であった。
「待ちやがれ、てめぇ、このまま勝ち逃げする気か!」
「機会があったら、また会おう!」
そのまま、石田は一度孤児院に行くと全員を王宮で一時的に保護し、四天王の座をいらないと言って、聖女シスター・ノヴァに・・・・・いや、聖女でなくなったシスター・ノヴァにつきつけた。
「どいつもこいつも!わたくしのお陰で、この神殿があるのに!」
シスター・ノヴァは、ご隠居様として聖神殿で巫女司祭の位を与えられることになる。
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「聖女シスター・ノヴァ。覚悟は、できているだろうな?」
始祖である浮竹の静かな怒りに、聖女シスター・ノヴァは可憐な外見で泣きだした。
「許してください、始祖。わたくしは、ただ元の美貌が欲しかっただけ。今回は死者もでていません」
「お前が海燕にしたことも、忘れろと?」
「それは・・・私ではなく、井上織姫がやったことです」
「井上織姫・・・小さな聖女として、最近有名な人間の少女か」
「そうです。恐ろしいことに、わたくしの地位をねたんで、反魂の法を使いました。証拠は、ここに」
井上織姫が反魂をしている写真が数枚、ばらまかれた。
捏造されたものだと分かっていたが、そのまま浮竹は話を進めた。
「そうか。四天王の一人だったな」
「はい」
「では、お前の監督不届きということで、お前に罪がいく。それでいいな?」
「な、始祖!それはあまりに横暴な!わたくしは、海燕に無理やり抱かれていたのですよ?始祖の力を上回るためにと!」
「醜女であったお前を抱いていたと?」
「そうです」
「ますます許せないな。あれは俺の血族であった者だ。俺のものに手を出し、そして死なせた。ルキア君をさらい、血を抜いた挙句、守護騎士であった一護君と冬獅郎君を傷つけた。全部、お前のやらかしたことだ」
聖女シスター・ノヴァは、空間転移して逃げだした。
ゆらりと空間を渡ったその先には、京楽と浮竹が待っていた。
「な、何故!ここは聖神殿の聖域!わたくし以外、入れるはずがない!」
「石田雨竜という者が、ここに入る資格であるこの金の鈴をくれた」
ちりんと、金の鈴が音をたてた。
「おのれ、石田雨竜!」
「お前は、聖女でなくなるそうだ」
「な!」
聖女シスター・ノヴァは、顔を真っ赤にした。
「そんなこと、許されると思っているの!わたくしは聖女よ!神代の時代から生きる、神族の聖女!」
「聖女を続けたいなら、聖帝国にでも帰ることだ。このグラム王国で築いた富は、石田が没収すると言っていた」
「あいつ・・・くそ、確か第一王子。くそ、くそ、くそおおおお!!!」
聖女シスター・ノヴァは、祈りの聖水を渦巻かせて、それを京楽と浮竹に浴びせた。
「浮竹に傷を負わせるわけのはいかないからね」
京楽は、血の渦で祈りの聖水を相殺させた。
「死ね!お前らヴァンパイアは、みんな死ね!」
「とうとう本性をだしたね」
京楽は、血でできた鎌をもって、それでシスター・ノヴァを袈裟懸けに切った。
「痛い!あああ、祈りの聖水よ、わたくしに力を!」
祈りの聖水で、シスター・ノヴァは傷を癒した。
肌も露わな美しい少女の見た目であったが、今は醜悪な姿になっていた。
「祈りの聖水よ、汚らわしき存在を焼き滅ぼせ!」
シーン。
祈りの聖水は、反応しなかった。
「なぜだ!」
「今、君は聖女の資格を失った。そうだね、浮竹?」
「ああ。聖神殿での、聖女認定儀式が済んだんだろう。お前はもう、聖女シスター・ノヴァではなくただのシスター・ノヴァだ。聖人ではあるだろうが、聖女ではなくなっただろう」
「どいつもこいつも!わたくしのお陰で、この神殿があるのに!」
「終わりだ、シスター・ノヴァ。聖帝国で転生して、せいぜいまた聖女になる苦労を重ねることだ」
浮竹は、始祖の血を京楽によこした。
京楽は、頷いて血の剣を作り出す。
「ああああ、許さない、お前も始祖も!この命尽きる時、お前たちには呪詛が」
言葉の途中で、シスター・ノヴァは動かなくなった。
京楽が、始祖の血を混ぜた血の剣で、その首をはねたのだ。
呪詛を与える猶予も与えなかった。
「覚えてろ・・・・始祖と、その血族」
それだけ言い残して、シスター・ノヴァは死んだ。
死んだといっても、女帝ブラッディ・ネイのように転生を繰り返す。
シスター・ノヴァは転生先の農民の少女の中に芽生えた。
聖女として、嬉しがられた。
ああ。
この世界は、聖帝国ならまだわたくしを聖女として必要としてくれる。
シスター・ノヴァは泣いた。
そんな感情を抱くのは、実に5千年ぶりだった。
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「ねぇ、浮竹、いいでしょ?」
「おいこら、一護君と冬獅郎君とルキア君が見てる!」
「いいじゃない。はいアーン」
京楽は、帰還した古城で戦闘人形に交じって浮竹の夕食だけ、自分で作った。
「お前の場合、カレーかオムライスか、クリームシチューかビーフシチューしかないから、飽きるんだ!」
今日の浮竹の夕食は、クリームシチューだった。
「いいじゃない。はいアーン」
しぶしぶ口を開けると、京楽は嬉しそうに浮竹の口の中にスプーンを入れる。
それを咀嚼して、浮竹は目を瞬かせた。
「このコクのある味・・・・聖女の血か。ルキア君から、さては血をもらったな」
「細かいことはいいじゃない」
ルキアは顔を赤くしていた。
浮竹と京楽が、そういう大人の関係だと知っていたが、実際目の前でみると恥ずかしい。
京楽と浮竹は慣れているので、恥ずかしいという気持ちも大分薄れている。
「はいアーン」
「お前も自分で少しは食べろ!」
スプーンをひったくって、京楽の口に入れてやった。
「うん、流石聖女の血の隠し味。すごくおいしく仕上がってるね」
「その、浮竹殿と京楽殿は、やっぱり、その、できているのか?」
「ん?ああ、京楽は性欲の塊でな。相手をするのも苦労する」
「またまた。そんな僕のことが好きなくせに」
京楽は、浮竹の頭を撫でた。
「子供扱いするな!」
「かわいいねぇ、浮竹は」
真っ赤になってわめく浮竹を、一護と冬獅郎は冷めた視線で見つめていた。
「なぁ、始祖って男が好きなのか?」
「さぁ」
「ブラッディ・ネイも女のくせに少女が好きだよな。始祖と始祖に近い者は、同性愛者の傾向があるって聞いたけど、本当かもな」
「さぁ、どうだろな」
一護の言葉に、冬獅郎が適当に相槌を打って返していた。
「始祖って、よくわからねぇ」
冬獅郎は、頭を抱えるのだった。
そんな和やかな夕食が終わり、一護と冬獅郎とルキアは、血の帝国に帰っていった。
「ああ、ポチに夕食やるの忘れてた。ほらポチ、ご飯だぞ」
浮竹は、古城でミミックを飼っている。
名前はポチ。
性格は狂暴で、よく浮竹を食べた。
「暗いよ~怖いよ~狭いよ~息苦しいよ~~」
ポチに上半身を食われて、浮竹はいつものように叫んでいた。それを京楽が助けた。
「全く、浮竹は学習能力ってものがないねぇ。ポチに餌を与える時は、近寄りすぎないようにって言ってるじゃない」
「だって、ポチを見るとつい宝箱を漁りたくなるんだ」
「普段は宝箱の形してるからね。でもポチを倒さない限り、宝箱は・・って、その宝石は?」
「ポチの中にあった」
浮竹の手の中には、5カラットはあるかというサファイアがあった。
「ああ、ミミックの中には一定期間で宝物を変える個体がいるからね。ちょうどその時期なんだろう」
「やった、ポチから得た宝物だ!ポチ、ドラゴンのステーキだぞ」
「ちょっと浮竹!何さり気なく、ドラゴンのステーキなんてアイテムポケットから出してるの!そもそも、ドラゴン退治に行った時のステーキ、まだ残してたの!」
ついこの間、冒険者稼業でドラゴン退治をしたのだ。
E級ランクの冒険者がドラゴンを退治したと大騒ぎになった。
ドラゴンは、とにかく無駄がない。その骨や牙や爪は武器に、鱗は防具になった。
また、血は錬金術で必要となる素材として高い。肉は食用になり、霜降り和牛も目じゃない値段がつく。
ドラゴンの肉は、肉食であるのとても美味であった。
好事家は大金をはたいて、ドラゴンの肉を欲しがる。
冒険者ギルドに行った時、ドラゴンの素材を全て売り払った。ドラゴンを倒したことで、自動的にAランクになっていた。
懐が潤いまくりの二人を狙って、冒険者ギルドから出た二人を、悪そうな顔のAランク冒険者が取り囲んだ。
「その懐の金、それにアイテムポケットを置いていきな」
「断る」
「なにぃ、死にたいのか!」
「死にたいのは、お前たちのほうだろう」
浮竹は、瞳を真紅にして、冒険者を威圧した。
「なんだこいつ!普通の人間じゃない!?真紅の瞳・・・・ヴァンパイアだ!」
「ひいい、なんで日中にヴァンパイアが活動してるんだ!逃げろ、血を吸われるぞ!」
逃げようとする冒険者から、浮竹の代わりに京楽が、記憶を奪っていく。
縄でしばりあげて、冒険者ギルドに連れていくと、犯罪まがいのことをしている冒険者で、指名手配がかかっていることが分かって、報酬金金貨20枚をもらった。
それから、Aランク冒険者として依頼を請け負ってくれと言われたが、断った。
ドラゴン退治のことは、ギルド職員も冒険者たちからも記憶を奪って、忘れさせた。ただ、Aランクの冒険者がドラゴンを退治したことにはなっているが、それが浮竹と京楽であることを忘れさせた。
「ドラゴンのステーキ、美味しいんだよな」
夕食を食べた後なのに、浮竹はそう言って、ドラゴンのステーキを一枚食べてしまった。
「ドラゴンを食べるなんて・・・・もぐもぐ、ドラゴンに対する、もぐもぐ、冒涜だよ、もぐもぐ」
「ドラゴンのステーキ食いながら、何を言っている」
浮竹は、もう一枚ドラゴンのステーキを出すと、少しだけ懐いてきたポチにあげた。
ポチは、柱から繋がれた鎖の距離が大分長くなっていた。
ポチは、見事にジャンプしてドラゴンステーキだけを食べてしまった。皿は木製だったので、割れなかった。
「偉いなぁ、ポチ」
もっとくれとポチはぱかぱかと宝箱をあけて、表現するが、あいにくさっきのでドラゴンステーキは終わりだった。
「ごめんな、ポチ。またドラゴン狩ってくるから、その時はドラゴンシチューでも食わせてやるよ」
「腹ごしらえもすんだことだし、お風呂いこっか、浮竹」
「ん、ああ、そうだな」
---------------------------------------------------------------」
「やあっ」
お風呂の中で、やっていた。
京楽はその気はなかったのだが、ドラゴンステーキに精強剤の効果もあって、裸の浮竹にむらむらしてしまって、ルキアと一護と冬獅郎も帰ったことだし、ゆっくりと浮竹を味わった。
「やあ!」
背後から貫かれた結合部は、泡立っていた。
パンパンと肉のぶつかり合う音を立てて、交じりあう。
「あ、そこだめぇ!」
ごりごりと結腸にまで入り込んできた京楽の熱に、湯に浸かりながら浮竹は啼いた。
「あああ!」
浮竹は、精液をお湯の中に放っていた。
「あ、お湯が、お湯が中に!」
一度ズルリと引き抜いたものは、まだ硬さを保っていた。
すでに、2回は浮竹の中に注いでいるのに、まだ足りなかった。
「知ってる、浮竹。ドラゴンのステーキには、精強剤の効果もあるんだよ?」
「やあああ、そんなこと、知らない。やだぁっ」
「嫌だっていうわりには、ここは僕を求めてひくついているけどね?」
白い精液を垂れ流す浮竹の秘所に手を這わせる。
「やっ」
「ほら、僕を飲みこんでいく。おいしそうに」
「ああああ!」
ゆっくりと挿入される京楽の熱に、思考が麻痺していく。
「今、血を吸ってあげるから」
浮竹の肩に噛みついて、吸血した。
「ひあああ!!」
セックスの間に吸血されるのはすごい快感を伴い、浮竹は口では嫌だというが、セックス中に血を吸われるのは好きだった。
「ああ、いいね。君の中、うねって締め付けてくる」
「やぁん」
ちゃぷちゃぷと、湯が揺れる。
激しい京楽の動きに合わせて、排水溝に流れていく。
「あああ、ああ!」
ごりっと結腸をつつく熱に、浮竹は眩暈を覚えながら意識を失った。
「浮竹、浮竹?」
「あ・・・・京楽?俺はどうしたんだ」
「湯あたりだよ。のぼせちゃたみたい」
「あ、お前が!っつ!」
腰の鈍痛に、苦手である癒しの魔法をかけながら、浮竹は喉の渇きを覚えた。
「水が欲しい」
「分かったよ。今、とってくるから」
京楽は、氷の浮いた水を、コップのグラスに入れてもってきてくれた。
「あの湯、ちゃんと抜いただろうな?体液が混じった湯につかるなんて、嫌だぞ」
「もちろん抜いたよ。今、戦闘人形が掃除してる」
家事のほとんどを、浮竹の血から作り出された戦闘人形が行っていた。
浮竹は、氷の入った水を飲んだ。
「甘くて少し酸っぱい。木苺の果汁か」
「あ、よくわかったね。この前とった木苺、まだたくさん残ってるから。明日、タルトを作ってあげる」
「楽しみにしておく」
京楽の料理の腕はそこそこだ。
お菓子を作るのもうまい。もっとも、戦闘人形に手伝ってもらいながらなので、まだ自力で完全に作れるわけではなかった。
ヴァンパイアは、特に始祖とその血族は悠久を生きる。
「ドラゴンステーキか。ドラゴン退治にでも、行くかな」
浮竹は、隣国を荒らしまわっているという、ブラックドラゴンの手配書を思い出していた。
けっこうな報酬金がかかっており、Aランクパーティーが一時的にレイド、つまりは協力しあって倒そうとしたが、失敗に終わったらしい。
ドラゴンなら、たんまりと金銀財宝をもっているはずだ。
そこにいる宝箱のミミックの姿を思い描いて、浮竹は楽しそうだった。
「浮竹、京楽、力を貸してくれ」
ある日突然、古城にやってきたのは、一護と冬獅郎だった。
全身に怪我とやけどを負っていて、やけどは聖女シスター・ノヴァの聖水によるものだとすぐに分かった。
「どうしたんだ、一護君、冬獅郎君」
「ルキアが!ルキアが攫われた!」
「なんだって!」
「本当なのかい、一護クン冬獅郎クン」
京楽が、指を噛み切って二人の傷に血を注ぎ、再生を促しながら問いかけた。
「ああ。なんでも、聖女シスター・ノヴァの四天王とかいう、石田雨竜っていう人間にやられた」
「あいつ、ルキアを盾にとりやがった。卑怯なやつだぜ」
一護も冬獅郎も悔しそうであった。守護騎士でありながら、むざむざ守るための者を攫われてしまったのだ。
「一護君も、冬獅郎君も相当な手練れだろう。それを手傷を負わせるなんて。その石田雨竜って人間、もしかして滅却師かい?」
「ああ。滅却師だと言っていた」
「厄介だね」
最近、滅却師のモンスターハンターが、ヴァンパイアロードを狩っていると耳にしたのだ。
「京楽、ルキア君の居場所は分かるか?」
「多分、聖女シスター・ノヴァのところじゃないかな。聖女としてのルキアちゃんの血が必要なんだろう。高等な呪詛を解呪するには、聖女の血がいる。聖女シスター・ノヴァにかけられた呪詛は、自分の血では解呪できないから。それに、聖女シスター・ノヴァの四天王なら、主の元に帰還するはずだ」
「俺が、聖女シスター・ノヴァに魔眼の呪いをかけたせいだろうか」
「浮竹のせいじゃないよ」
浮竹を抱きしめる京楽に、一護がこほんと咳払いをした。
「あ、いちゃついてる場合じゃなかったね」
「そうだぞ、京楽。ルキア君を助けるための策を練らないと」
「浮竹さん、京楽さん、無理を承知で頼みます。ルキアを助けてください」
「浮竹、京楽。ルキアは友人だろう。無論、助けるのに協力してくれるな?」
「一護君も冬獅郎君も慌てない。聖女の血が必要であれば、殺されたりはしないはずだ」
「でも、ルキアを傷つけるんだろう!血が必要ってことは!」
「高等な呪術に対する解呪に必要なのは、聖女の生き血だ。それほど怪我は負わせられないはずだ。それに、ルキア君に何かあったら、ご執心のブラッディ・ネイが許さないだろう」
ごくりと、一護も冬獅郎も唾を飲みこむ。
ブラッディ・ネイの力は強大だ。血の帝国を8千年にわたって繁栄し続けさせており、太陽の光を通さない空の血の結界は、ブラッディ・ネイの魔力によって維持されていた。
彼らは知らなかった。
ブラッディ・ネイが聖女シスター・ノヴァに、転生しても醜くなる呪詛をかけているなど。まして、醜悪な老婆の姿にさせられたなど。
------------------------------------------
「ん・・・・・」
ルキアは気がついた。
「一護、冬獅郎!」
がばりと起き上がると、天蓋つきのベッドで寝かされていた。
「ここは・・・?」
「ここは、聖女シスター・ノヴァの住む館。君は、僕が血の帝国から攫ってきた。一護と冬獅郎とやらは無事だ。無駄に血を流すのは好まないタイプだからね、僕は」
「貴様、私を血の帝国の第3皇女、朽木ルキアと知っての所業か!」
「血の帝国の皇族だろうとなんだろうと関係ない。聖女シスター・ノヴァがあなたの血を欲している」
「起きたのかしら」
入ってきたのは、醜い老婆であった。
取り巻く清浄のな聖なる力を知って、それが聖女シスター・ノヴァであることが分かった。
「聖女シスター・ノヴァ。我ら聖女の光」
ルキアは、跪いた。
「あら、あなたはちゃんと道理を弁えているのね。嫌いじゃないわ。この身に降りかかる呪詛を解呪するために、あなたの生き血を少しもらいます。いいわね?」
「はい」
聖女シスター・ノヴァはルキアに優しかった。
とても、始祖を殺そうとした者には見えなかった。
注射器をチクリと刺されて、血を抜かれていく。
聖女シスター・ノヴァにとっても、ルキアを傷つけるのは血の帝国、つまりはブラッディ・ネイを完全に敵に回すことだと分かっているので、あえて注射器にした。
抜いたルキアの生き血をガラスのグラスに入れて、老女は祈りをこめた。
真紅の血が、金色に輝いた。
それを飲み干す。
そこに、老婆の姿はなかった。
知らない間に、ブラッディ・ネイに魂に刻み込まれた、転生しても醜くなるという呪いさえも、解呪できていた。
「ルキア。あなたは私と同等の聖女なのね。ありがとう、恩に着るわ」
美しい少女がいた。
素体であった、美しい農民の次女の姿になっていた。
「うふふふ。これで、転生しても美しくいられる」
「あの、私はもう帰ってもいいだろうか。皆が心配している」
「だめよ。あなたは切り札。あなたを追って、始祖はやってくる。あなたに呪詛をかけるわ」
「どうしてだ、聖女シスター・ノヴァ!」
「心配しないで。あなたにかける呪詛は、あくまであなたには降りかからない。始祖にふりかかる」
「浮竹殿には、そんな目にあってほしくない。呪詛をかけるというなら、例え聖女の光であるシスター・ノヴァであろうと許さない」
ゆらりと、ルキアの影から血が滲みでる。
その血は、式神となって聖女シスター・ノヴァに襲いかかった。
「な、小癪な真似を!」
その間に、ルキアは窓から飛び出していた。
ヴァンパイアのもつ翼を広げて、滑空する。そのまま、ルキアは逃げた。
「何をしているの、石田雨竜!早く、ルキアを捕まえなさい!」
「もう、ルキアさんの役目は終わったはずだ。僕は、無益な争いは好まない」
「施設の孤児たちが、どうなってもいいと?」
美しい少女は、それでも中身はやはり聖女シスター・ノヴァであった。なぜこんな性格の悪い女が聖女でいられるのだろうと思いつつも、石田は孤児たちのために決意する。
「分かった、連れ戻す」
「それでいいのよ石田雨竜。あなたはわたくしの四天王の一人。わたくしだけの言葉を聞いていればいいのだわ」
石田は、魔法で空を飛んだ。
そして羽ばたいて逃げているルキアに追いつくと、魔法でできた網をかぶせて、捕まえると大地に降り立った。
「離せ!一護!冬獅郎!」
「残念ながら、君の守護騎士たちは聖女の祈りの聖水で焼いておいたから、しばらくは使い物にならないと思うよ」
「皇族の血を、なめるな!」
ルキアは、血の刃を作り出すと、自分を戒める網を斬り裂き、石田に向かって血の刃を向けた。
それを、石田は吸収してしまった。
「な!?」
「僕は人間と名乗っているけれど、実はヴァンパイアとのクォーターでね。血の武器は、吸収できる、特殊性質をもっている。僕に血の武器は効かないよ!」
「くそっ」
ルキアは舌打ちして、それでも血でできた刃を放った。
ヴァンパイアの武器は、己の血でできたもの。
一方の滅却師である石田の武器は、弓矢であった。
「悪いけど、足を撃ち抜かせてもらう。逃げられないように」
「あう!」
びゅんと風を裂いて飛んできた弓矢は、ルキアの右足を貫通していた。
すぐに、再生が始まるはずが、始まらない。
「く、聖女の祈りの聖水か!」
「ご名答。僕が扱う弓矢の全てに、聖女の祈りの聖水を降り注いである。ヴァンパイアと敵対することを今回は念頭に入れてあるからね」
「一護!冬獅郎!」
ルキアは、石田の肩に抱きかかえられて、魔法でできた縄で戒められながら、愛しい自分を守ってくる守護騎士の名を呼んでいた。
「ルキア!」
「一護!?」
天空から降ってきた影が、踊る。
一護は、石田からルキアを奪い取ると、背後に隠した。
ブラドツェペシュをオアシスに連れていく時、乗っていたワイバーンに乗って、やってきたのでであった。古城の近くに住み着いていたのだ。
そのワイバーンに浮竹、京楽、一護、冬獅郎は乗り込んで、聖女シスター・ノヴァのいるグラム王国の聖神殿を目指している途中で、ルキアの血の匂いがして、方向転換したのであった。
「ルキア、足を怪我してる!大丈夫か!?」
「大丈夫だ。これしきの傷・・・それより、貴様と冬獅郎のほうこそ大丈夫か!?聖女の祈りの聖水で酷いやけどを負っただろう!」
「ああ、京楽さんの血で治してもらった。京楽さん、浮竹さんに血を流させたくなかったんだろうな」
「一護、ルキア!」
冬獅郎がワイバーンから降りてきて、レアメアル、ミスリルでできた剣をかまえた。
「こいつに血の武器は効かない。魔法と剣でなんとかするしかない」
「く、多勢に無勢か。僕は降参するよ」
「降参だと?」
冬獅郎が、氷の魔法を発動させながら、剣で切りかかった。
それを避けながら、石田は空に飛びあがった。
「聖女シスター・ノヴァは聖神殿ではなく、近くの館にいる。煮るなり焼くなり、好きにすればいい。もう頃合いだ。聖女シスター・ノヴァの代わりに、聖神殿は井上織姫を聖女に認定し、聖神殿のシンボルとする!」
それは、このグラム王国第一王子である、石田の政治的意味を含めた言葉であった。
「待ちやがれ、てめぇ、このまま勝ち逃げする気か!」
「機会があったら、また会おう!」
そのまま、石田は一度孤児院に行くと全員を王宮で一時的に保護し、四天王の座をいらないと言って、聖女シスター・ノヴァに・・・・・いや、聖女でなくなったシスター・ノヴァにつきつけた。
「どいつもこいつも!わたくしのお陰で、この神殿があるのに!」
シスター・ノヴァは、ご隠居様として聖神殿で巫女司祭の位を与えられることになる。
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「聖女シスター・ノヴァ。覚悟は、できているだろうな?」
始祖である浮竹の静かな怒りに、聖女シスター・ノヴァは可憐な外見で泣きだした。
「許してください、始祖。わたくしは、ただ元の美貌が欲しかっただけ。今回は死者もでていません」
「お前が海燕にしたことも、忘れろと?」
「それは・・・私ではなく、井上織姫がやったことです」
「井上織姫・・・小さな聖女として、最近有名な人間の少女か」
「そうです。恐ろしいことに、わたくしの地位をねたんで、反魂の法を使いました。証拠は、ここに」
井上織姫が反魂をしている写真が数枚、ばらまかれた。
捏造されたものだと分かっていたが、そのまま浮竹は話を進めた。
「そうか。四天王の一人だったな」
「はい」
「では、お前の監督不届きということで、お前に罪がいく。それでいいな?」
「な、始祖!それはあまりに横暴な!わたくしは、海燕に無理やり抱かれていたのですよ?始祖の力を上回るためにと!」
「醜女であったお前を抱いていたと?」
「そうです」
「ますます許せないな。あれは俺の血族であった者だ。俺のものに手を出し、そして死なせた。ルキア君をさらい、血を抜いた挙句、守護騎士であった一護君と冬獅郎君を傷つけた。全部、お前のやらかしたことだ」
聖女シスター・ノヴァは、空間転移して逃げだした。
ゆらりと空間を渡ったその先には、京楽と浮竹が待っていた。
「な、何故!ここは聖神殿の聖域!わたくし以外、入れるはずがない!」
「石田雨竜という者が、ここに入る資格であるこの金の鈴をくれた」
ちりんと、金の鈴が音をたてた。
「おのれ、石田雨竜!」
「お前は、聖女でなくなるそうだ」
「な!」
聖女シスター・ノヴァは、顔を真っ赤にした。
「そんなこと、許されると思っているの!わたくしは聖女よ!神代の時代から生きる、神族の聖女!」
「聖女を続けたいなら、聖帝国にでも帰ることだ。このグラム王国で築いた富は、石田が没収すると言っていた」
「あいつ・・・くそ、確か第一王子。くそ、くそ、くそおおおお!!!」
聖女シスター・ノヴァは、祈りの聖水を渦巻かせて、それを京楽と浮竹に浴びせた。
「浮竹に傷を負わせるわけのはいかないからね」
京楽は、血の渦で祈りの聖水を相殺させた。
「死ね!お前らヴァンパイアは、みんな死ね!」
「とうとう本性をだしたね」
京楽は、血でできた鎌をもって、それでシスター・ノヴァを袈裟懸けに切った。
「痛い!あああ、祈りの聖水よ、わたくしに力を!」
祈りの聖水で、シスター・ノヴァは傷を癒した。
肌も露わな美しい少女の見た目であったが、今は醜悪な姿になっていた。
「祈りの聖水よ、汚らわしき存在を焼き滅ぼせ!」
シーン。
祈りの聖水は、反応しなかった。
「なぜだ!」
「今、君は聖女の資格を失った。そうだね、浮竹?」
「ああ。聖神殿での、聖女認定儀式が済んだんだろう。お前はもう、聖女シスター・ノヴァではなくただのシスター・ノヴァだ。聖人ではあるだろうが、聖女ではなくなっただろう」
「どいつもこいつも!わたくしのお陰で、この神殿があるのに!」
「終わりだ、シスター・ノヴァ。聖帝国で転生して、せいぜいまた聖女になる苦労を重ねることだ」
浮竹は、始祖の血を京楽によこした。
京楽は、頷いて血の剣を作り出す。
「ああああ、許さない、お前も始祖も!この命尽きる時、お前たちには呪詛が」
言葉の途中で、シスター・ノヴァは動かなくなった。
京楽が、始祖の血を混ぜた血の剣で、その首をはねたのだ。
呪詛を与える猶予も与えなかった。
「覚えてろ・・・・始祖と、その血族」
それだけ言い残して、シスター・ノヴァは死んだ。
死んだといっても、女帝ブラッディ・ネイのように転生を繰り返す。
シスター・ノヴァは転生先の農民の少女の中に芽生えた。
聖女として、嬉しがられた。
ああ。
この世界は、聖帝国ならまだわたくしを聖女として必要としてくれる。
シスター・ノヴァは泣いた。
そんな感情を抱くのは、実に5千年ぶりだった。
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「ねぇ、浮竹、いいでしょ?」
「おいこら、一護君と冬獅郎君とルキア君が見てる!」
「いいじゃない。はいアーン」
京楽は、帰還した古城で戦闘人形に交じって浮竹の夕食だけ、自分で作った。
「お前の場合、カレーかオムライスか、クリームシチューかビーフシチューしかないから、飽きるんだ!」
今日の浮竹の夕食は、クリームシチューだった。
「いいじゃない。はいアーン」
しぶしぶ口を開けると、京楽は嬉しそうに浮竹の口の中にスプーンを入れる。
それを咀嚼して、浮竹は目を瞬かせた。
「このコクのある味・・・・聖女の血か。ルキア君から、さては血をもらったな」
「細かいことはいいじゃない」
ルキアは顔を赤くしていた。
浮竹と京楽が、そういう大人の関係だと知っていたが、実際目の前でみると恥ずかしい。
京楽と浮竹は慣れているので、恥ずかしいという気持ちも大分薄れている。
「はいアーン」
「お前も自分で少しは食べろ!」
スプーンをひったくって、京楽の口に入れてやった。
「うん、流石聖女の血の隠し味。すごくおいしく仕上がってるね」
「その、浮竹殿と京楽殿は、やっぱり、その、できているのか?」
「ん?ああ、京楽は性欲の塊でな。相手をするのも苦労する」
「またまた。そんな僕のことが好きなくせに」
京楽は、浮竹の頭を撫でた。
「子供扱いするな!」
「かわいいねぇ、浮竹は」
真っ赤になってわめく浮竹を、一護と冬獅郎は冷めた視線で見つめていた。
「なぁ、始祖って男が好きなのか?」
「さぁ」
「ブラッディ・ネイも女のくせに少女が好きだよな。始祖と始祖に近い者は、同性愛者の傾向があるって聞いたけど、本当かもな」
「さぁ、どうだろな」
一護の言葉に、冬獅郎が適当に相槌を打って返していた。
「始祖って、よくわからねぇ」
冬獅郎は、頭を抱えるのだった。
そんな和やかな夕食が終わり、一護と冬獅郎とルキアは、血の帝国に帰っていった。
「ああ、ポチに夕食やるの忘れてた。ほらポチ、ご飯だぞ」
浮竹は、古城でミミックを飼っている。
名前はポチ。
性格は狂暴で、よく浮竹を食べた。
「暗いよ~怖いよ~狭いよ~息苦しいよ~~」
ポチに上半身を食われて、浮竹はいつものように叫んでいた。それを京楽が助けた。
「全く、浮竹は学習能力ってものがないねぇ。ポチに餌を与える時は、近寄りすぎないようにって言ってるじゃない」
「だって、ポチを見るとつい宝箱を漁りたくなるんだ」
「普段は宝箱の形してるからね。でもポチを倒さない限り、宝箱は・・って、その宝石は?」
「ポチの中にあった」
浮竹の手の中には、5カラットはあるかというサファイアがあった。
「ああ、ミミックの中には一定期間で宝物を変える個体がいるからね。ちょうどその時期なんだろう」
「やった、ポチから得た宝物だ!ポチ、ドラゴンのステーキだぞ」
「ちょっと浮竹!何さり気なく、ドラゴンのステーキなんてアイテムポケットから出してるの!そもそも、ドラゴン退治に行った時のステーキ、まだ残してたの!」
ついこの間、冒険者稼業でドラゴン退治をしたのだ。
E級ランクの冒険者がドラゴンを退治したと大騒ぎになった。
ドラゴンは、とにかく無駄がない。その骨や牙や爪は武器に、鱗は防具になった。
また、血は錬金術で必要となる素材として高い。肉は食用になり、霜降り和牛も目じゃない値段がつく。
ドラゴンの肉は、肉食であるのとても美味であった。
好事家は大金をはたいて、ドラゴンの肉を欲しがる。
冒険者ギルドに行った時、ドラゴンの素材を全て売り払った。ドラゴンを倒したことで、自動的にAランクになっていた。
懐が潤いまくりの二人を狙って、冒険者ギルドから出た二人を、悪そうな顔のAランク冒険者が取り囲んだ。
「その懐の金、それにアイテムポケットを置いていきな」
「断る」
「なにぃ、死にたいのか!」
「死にたいのは、お前たちのほうだろう」
浮竹は、瞳を真紅にして、冒険者を威圧した。
「なんだこいつ!普通の人間じゃない!?真紅の瞳・・・・ヴァンパイアだ!」
「ひいい、なんで日中にヴァンパイアが活動してるんだ!逃げろ、血を吸われるぞ!」
逃げようとする冒険者から、浮竹の代わりに京楽が、記憶を奪っていく。
縄でしばりあげて、冒険者ギルドに連れていくと、犯罪まがいのことをしている冒険者で、指名手配がかかっていることが分かって、報酬金金貨20枚をもらった。
それから、Aランク冒険者として依頼を請け負ってくれと言われたが、断った。
ドラゴン退治のことは、ギルド職員も冒険者たちからも記憶を奪って、忘れさせた。ただ、Aランクの冒険者がドラゴンを退治したことにはなっているが、それが浮竹と京楽であることを忘れさせた。
「ドラゴンのステーキ、美味しいんだよな」
夕食を食べた後なのに、浮竹はそう言って、ドラゴンのステーキを一枚食べてしまった。
「ドラゴンを食べるなんて・・・・もぐもぐ、ドラゴンに対する、もぐもぐ、冒涜だよ、もぐもぐ」
「ドラゴンのステーキ食いながら、何を言っている」
浮竹は、もう一枚ドラゴンのステーキを出すと、少しだけ懐いてきたポチにあげた。
ポチは、柱から繋がれた鎖の距離が大分長くなっていた。
ポチは、見事にジャンプしてドラゴンステーキだけを食べてしまった。皿は木製だったので、割れなかった。
「偉いなぁ、ポチ」
もっとくれとポチはぱかぱかと宝箱をあけて、表現するが、あいにくさっきのでドラゴンステーキは終わりだった。
「ごめんな、ポチ。またドラゴン狩ってくるから、その時はドラゴンシチューでも食わせてやるよ」
「腹ごしらえもすんだことだし、お風呂いこっか、浮竹」
「ん、ああ、そうだな」
---------------------------------------------------------------」
「やあっ」
お風呂の中で、やっていた。
京楽はその気はなかったのだが、ドラゴンステーキに精強剤の効果もあって、裸の浮竹にむらむらしてしまって、ルキアと一護と冬獅郎も帰ったことだし、ゆっくりと浮竹を味わった。
「やあ!」
背後から貫かれた結合部は、泡立っていた。
パンパンと肉のぶつかり合う音を立てて、交じりあう。
「あ、そこだめぇ!」
ごりごりと結腸にまで入り込んできた京楽の熱に、湯に浸かりながら浮竹は啼いた。
「あああ!」
浮竹は、精液をお湯の中に放っていた。
「あ、お湯が、お湯が中に!」
一度ズルリと引き抜いたものは、まだ硬さを保っていた。
すでに、2回は浮竹の中に注いでいるのに、まだ足りなかった。
「知ってる、浮竹。ドラゴンのステーキには、精強剤の効果もあるんだよ?」
「やあああ、そんなこと、知らない。やだぁっ」
「嫌だっていうわりには、ここは僕を求めてひくついているけどね?」
白い精液を垂れ流す浮竹の秘所に手を這わせる。
「やっ」
「ほら、僕を飲みこんでいく。おいしそうに」
「ああああ!」
ゆっくりと挿入される京楽の熱に、思考が麻痺していく。
「今、血を吸ってあげるから」
浮竹の肩に噛みついて、吸血した。
「ひあああ!!」
セックスの間に吸血されるのはすごい快感を伴い、浮竹は口では嫌だというが、セックス中に血を吸われるのは好きだった。
「ああ、いいね。君の中、うねって締め付けてくる」
「やぁん」
ちゃぷちゃぷと、湯が揺れる。
激しい京楽の動きに合わせて、排水溝に流れていく。
「あああ、ああ!」
ごりっと結腸をつつく熱に、浮竹は眩暈を覚えながら意識を失った。
「浮竹、浮竹?」
「あ・・・・京楽?俺はどうしたんだ」
「湯あたりだよ。のぼせちゃたみたい」
「あ、お前が!っつ!」
腰の鈍痛に、苦手である癒しの魔法をかけながら、浮竹は喉の渇きを覚えた。
「水が欲しい」
「分かったよ。今、とってくるから」
京楽は、氷の浮いた水を、コップのグラスに入れてもってきてくれた。
「あの湯、ちゃんと抜いただろうな?体液が混じった湯につかるなんて、嫌だぞ」
「もちろん抜いたよ。今、戦闘人形が掃除してる」
家事のほとんどを、浮竹の血から作り出された戦闘人形が行っていた。
浮竹は、氷の入った水を飲んだ。
「甘くて少し酸っぱい。木苺の果汁か」
「あ、よくわかったね。この前とった木苺、まだたくさん残ってるから。明日、タルトを作ってあげる」
「楽しみにしておく」
京楽の料理の腕はそこそこだ。
お菓子を作るのもうまい。もっとも、戦闘人形に手伝ってもらいながらなので、まだ自力で完全に作れるわけではなかった。
ヴァンパイアは、特に始祖とその血族は悠久を生きる。
「ドラゴンステーキか。ドラゴン退治にでも、行くかな」
浮竹は、隣国を荒らしまわっているという、ブラックドラゴンの手配書を思い出していた。
けっこうな報酬金がかかっており、Aランクパーティーが一時的にレイド、つまりは協力しあって倒そうとしたが、失敗に終わったらしい。
ドラゴンなら、たんまりと金銀財宝をもっているはずだ。
そこにいる宝箱のミミックの姿を思い描いて、浮竹は楽しそうだった。
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