始祖なる者、ヴァンパイアマスター外伝
「温水プールに行こう」
そう言い出した東洋の浮竹を、皆は見た。
「温水プールのあるレジャー施設を貸し切りにした。西洋の俺と京楽は、人前で肌をさらしたくないだろう?だから、貸し切りにした」
「浮竹ってば、また金塊で温水プール貸し切っちゃったんだよね」
(温水プール!プール自体、行ったことがない)
すでに目をキラキラさせている東洋の浮竹の様子に、西洋の浮竹は嬉しそうだった。
(ボクも行ったことないね。行ってみたいよ)
「もちろんだ、東洋の京楽も一緒にいこう。水着は勝手に買ってきたが、別にいいだろう?」
(変なデザインじゃなければね)
「黒の、トランクスタイプの水着だ」
(それなら、問題はないかな)
(早く行こう!温水プールとやらは、やっぱり水は暖かいのか?)
「まだ春だからね。この季節に普通のプールに入ったら、寒くて風邪ひいちゃうよ」
「ウォータースライダーとやらが長くて人気の温水プールらしいんだ。年のために浮き輪も用意している。皆で遊びに行こう」
周囲から見ると双子なので、顔を隠しながら電車で揺られること15分。
温水プールについた。
(わあ、広いなぁ)
東洋の浮竹ははしゃいで、西洋の自分の手をとって急かす。
(早く泳ぎにいこう)
「まぁまて。準備運動とかもあるし、水着に着替えないと」
(楽しみだなぁ)
4人は、男性更衣室で水着に着替えた。
東洋の浮竹の水着は、黒地にペンギンが泳いでいた。
西洋の浮竹と同じデザインであった。
(あ、この水着かわいい)
「ちなみに、京楽のものがホッキョクグマだ」
(わぁそれもかわいい)
愛しい伴侶に褒められて、東洋の京楽は手を開いて東洋の浮竹を抱きしめた。
(十四郎のほうがかわいいし、似合ってるよ)
(ちょ、春水、西洋の俺たちがみてる!)
顔を真っ赤にする東洋の浮竹を、微笑ましそうに西洋の浮竹が見ていた。
「熱々だな」
同じように、西洋の京楽が手を開いて西洋の浮竹を抱きしめようとするのだが、その頭にハリセンを炸裂させて、西洋の浮竹は先に行ってしまった。
「くすん」
一人残された西洋の京楽は、ちょっとがっかりするのだった。
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きちんと準備運動をして、温水プールの中に入った。
(うわぁ、広いし綺麗だし、水が暖かい)
「温水プールだからな。早速、ウォータースライダーに行こう!」
西洋の浮竹は、東洋の自分の手を引っ張って、ウォータースライダーまで移動すると、一気に流れ落ちた。
「うわあああああああ」
(わあああああああ)
ざぶんと落ちてきた二人に、西洋と東洋の京楽が心配そうに見る。
「大丈夫?」
(重四郎、平気?)
「やばい、面白すぎる」
(気持ちいいな!もう1回行こう!)
そんな二人を、東洋と西洋の京楽は和やかに見ているのであった。
「ひゃほーーー」
(気持ちいいーー)
二人の浮竹は、ウォータースライダーにはまったようで、何度も利用していた。
「僕らもやってみる?」
(そうだね。あんなに楽しそうなんだし、きっときもちいいよ)
西洋と東洋の京楽も、ウォータースライダーを滑り落ちてきた。
「もう1回行こう。いや、何度でもいい」
(これはいいね。爽快感がたまらない)
「そうだろう、京楽と西洋の京楽」
西洋の浮竹は、泳げないので浮き輪を使っていた。
「浮竹、君泳げないの?」
「悪いか」
「僕が泳ぎを教えてあげるよ」
「別にいらん。泳げなくても生きていける」
「まぁそう言わずに」
そう言って、西洋の京楽は西洋の浮竹に泳ぎを教える。
一方、東洋の浮竹はすいすい泳ぎでいた。
(泳ぐのうまいね、十四郎)
(ああ、まぁな)
(僕も泳ぎは得意だけどね)
蛇は、川の中でも平気で泳ぐ。
それに似て、東洋の浮竹と京楽はすいすいと水面を泳いでいく。
「浮き輪を奪うな!おぼれる!」
「浮き輪に頼ろうとするから泳げないんだよ」
「俺を溺死させる気か」
「だから、僕が教えてあげるって、浮竹!?」
「がぼがぼ・・・・・・」
西洋の浮竹は、水中にもぐると、西洋の京楽の海パンをずりおろした。
「ちょっと、何してくれちゃってるの!」
「溺死させかけた仕返しだ」
「っていうか、今、君泳いでるよね?」
「あれ?」
西洋の浮竹は、いつの間にか泳げていた。
(西洋の俺、泳げるようになったのか。一緒に泳ごう)
「そうだな。西洋の京楽は放置で一緒に泳ごう」
「ええーそんなー」
西洋の京楽は、海パンを直して、西洋と東洋の浮竹が向こう側まで泳いでいくのを、残念そうな目でみていた。
(振られちゃったね、西洋のボク)
「ああ、東洋の僕!」
(また、一緒にウォータースライダー滑り降りるかい?)
「うん。浮竹の機嫌もすぐに直るだろうし」
二人がウォータースライダーから滑り落ちてきた地点で、ちょうと西洋と東洋の浮竹が泳いでいた。
「うわ、びっくりした」
(俺もびっくりした)
「京楽、そんなにウォータースライダーが気に入ったのか?今度は俺と滑るか」
「うん、浮竹」
西洋の京楽はすでに機嫌の直っている西洋の浮竹を連れて、ウォータースライダーを滑り落ちた。
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お昼になり、空腹を覚えた東洋の浮竹の手を握って、西洋の浮竹がプールより少し離れた場所にいく。
温度は一定に保たれてはいるが、皆パーカーを着ていた。
「バーべキューだ。用意させておいた」
(バーベキュー!)
目をキラキラさせる東洋の浮竹の前で、西洋の浮竹は火をつけた。
「ファイア」
ぼっと、魔力でおこされた火が炭にいきわたる。
(わぁ、魔法は便利だな)
「本当は攻撃魔法だけどな。火力が最大限にまで落とした。海鮮バーベキューを中心にしたんだが、肉のほうがよかったか?」
バーベキューの網には、ほたてやサザエ、アワビ、海老に切り身の魚にイカなどが置かれて焼かれていた。
肉と野菜をさした串も焼かれていた・
(いや、海鮮でもいい。うまそうだ)
東洋の浮竹は、色が変わって食べごろの海老をフォークで突いた。
「それ、もう食えるぞ。調味料とタレはこっち、好きな風に食べるといい」
東洋の浮竹は、もっきゅもっきゅと口いっぱいに頬張った。
「お替わりはいくらでもあるから、急いで食べる必要はないぞ」
(あ、うん)
真っ赤になる東洋の浮竹。
そんな東洋の自分を見て、西洋の浮竹も海老を頬張った。
「海老は塩だけのほうがうまいな」
「このタレつけてもいけるよ?はいあーん」
「ん」
自然と口を開けて、西洋の京楽からタレのついた海老をもらい、味わう西洋の浮竹を見て、東洋の浮竹は真っ赤なっていた。
「どうした。これくらい、お前たちもよくやっているだろう」
(そりゃそうだけど・・・・はたから見てたら、急に恥ずかしくなってきた)
(十四郎、気にしすぎ。ホタテが焼けたよ。ほら、あーん)
(しゅ、春水)
そう言いながらも、東洋の浮竹は口をあけて、焼けたばかりのホタテを味わった。
(やばい、うますぎる。なんのタレだこれ)
「俺たちの世界の、魔女が開発した万能タレだ。素材によって味が変わる」
(なんだそれ!すごいな!)
(味が変わるタレだって・・・レシピは?)
「残念ながら、魔女の秘伝で秘密だそうだ」
(レシピを知りたいね。このタレ、本当においしい)
「魔女は閉鎖的な里にこもっているからな。たまたま魔女に友人ができて、レシピは明かせがと、タレだけもらったんだ」
(魔法といい、魔女といい、本当にファンタジー世界だな。俺はけっこう好きだぞ)
「それを言うと、お前たちの世界は機械仕掛けのからくりだらけの世界になる。でも、俺も好きだ。鉄の塊が空を飛んで、海に浮かんで、馬車の代わりに車や電車がある。便利そうだ」
(でも、もう一人の俺の世界には魔法があるじゃないか!)
「そうだな。魔法で空を飛べるし、海だって水面を歩けし、移動には空間転移が使える」
(いいなぁ。俺も魔法を使ってみたい)
「今度遊びに来た時、魔力がない者でも魔法が使える魔道具でも用意しておく」
(わぁ、楽しみだ)
そんな会話をしながらも、焼けた料理をもぐもぐと口に運んでいた。主に東洋の京楽がバランスを考えて、肉や野菜も与えていた。
一方の西洋の京楽は、こちらも東洋の京楽と同じように、自分も食べながら、焼けていったものを西洋の浮竹の皿に置く。
(なんか、焼き肉の食べ放題をしてる気分だよ)
(そんな豪華な飯ずっと前に一度だけ行ったきりだな。西洋の俺は金持ちだから、こんなバーベキューも用意してくれる。純粋に、ありがたい)
(そうだね)
「金に困っているなら、この大金貨を・・・・・」
「ちょっと、浮竹、だめでしょ!この世界の金の価値は、凄く高いんだから!」
「じゃあ、宝冠を・・・・・」
「だめでしょ!この世界で、金があることを東洋の僕ら以外にあまり知られないこと。じゃないと、お金目的で騙されちゃうよ」
(確かに西洋のボクの言う通りだよ。貸し切りにしてくれるのは嬉しいけど、お金のトラブルが起きないように、ほどほどにね?)
「むう、そちらの京楽も言うのだから、気をつける」
東洋の浮竹と京楽は、貧乏というほどでもないが、質素な生活を好んだ。
反対に、西洋の浮竹は金が湯水のようにあるで、贅沢を好んだ。西洋の京楽も、人間であった時は公爵家の貴族で、贅沢は当たり前だった。
それぞれ、正反対の位置にいる4人であるが、何故か馬が合うし一緒にいると楽しかった。
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「今日は楽しかっよ。また遊ぼうね」
「今後は花見、ピクニック、紅葉狩りなんかを計画している。どこか外出するのに希望の場所があったら、言ってくれ。他にも、したいことでもいい」
(今度までに考えておく)
(ボクは、料理教室がいいね。西洋のボクとで作りあって、そっちとこっちの十四郎に食べてもたいたい。あと、少しだけ料理の腕も身に着けてもらえると嬉しいね)
電子レンジを3回だめにしたことのある東洋の浮竹は、基本キッチン出入り禁止であった。
「そっちの浮竹って、料理駄目なの?」
(うん。もう壊滅的)
「こっちの浮竹も、料理はてんでダメなんだよね。戦闘人形や僕にばかり作らせて、この前卵焼きを作るっていって、錬金術で使う館を爆発させてた」
((うわーー))
東洋の浮竹と京楽がはもった。
(卵焼きを錬金術でとか、どうしてそうなった)
(館爆発って、被害額がすごそうだね)
「古城には5つ錬金術用の館がある。今2つ壊して、壊した館は建築中だ。俺の戦闘人形が」
被害は自分だけで、迷惑をかけていないとドヤ顔だったけど、住んでいる古城で爆発が起きれば、西洋の京楽が心配しないはずない。
「自慢だが、この1年で館を6回爆発させたぞ。エリクサーの調合ミスとかで」
「そんなことを自慢しないでよ、浮竹。錬金術の失敗で館吹き飛ぶようなことがあるなんて、普通じゃ起こらないって乱菊ちゃんも言ってたよ」
「俺はミスリルクラスだからな。既存の薬に、使ったことのない薬品を混ぜたりして、新しい薬を作ろうとして・・・・ドカーーン」
(ああ。俺の中のカッコイイ始祖ヴァンパイアのイメージが崩れていく・・・)
(十四郎、しっかりして)
「まぁ、僕の浮竹はこんなヴァンパイアだから。一緒に過ごしていて、毎日が楽しいよ」
(何気にのろけられてる)
(おなかいっぱいだね。さて、ボクらはそろそろ戻るよ)
「ああ、またな」
西洋の浮竹と京楽は、お土産にとたこ焼きをもらった。
「お土産ありがとう。古城でいただくよ」
そう言って、西洋の浮竹と京楽は、元の世界の古城に戻るのであった。
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