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始祖なる者、ヴァンパイアマスター29

魔女アリスタシアは、魔国アルカンシェルにいた。

藍染の花嫁として迎え入れられた。

魔国アルカンシェルは、魔女の里の安全を保障した。

そんな保障、始祖浮竹の手にかかえれば何の意味もないのだが。

少なくとも、今浮竹が魔女の里に何かをしかけてくることはなかったし、至って平穏のように見えた。

魔女の里は、事実上魔族の支配下に置かれた。

魔女たちは、魔族のために肉体を強化するなどという薬を作らされていた。

助けを呼ぼうにも、魔女の里は閉鎖的すぎて、仲の良い国などなかった。

血の帝国ならばあるいは、という希望を見出した者もいたが、同胞である魔女や始祖魔女が、ヴァンパイアの始祖である浮竹に行った行為を思い出すと、到底助けてもらえなさそうだった。

事実、今魔女の里が魔族に支配されていると知っても、女帝ブラッディ・ネイはそれがなんだという顔をするし、始祖浮竹に至っては自業自得と思われていた。

魔国アルカンシェルに同盟国はない。

一方、栄えている血の帝国は、聖帝国をはじめとして、いくつかの人間国家と同盟を結んでいた。

血の帝国は、歴史上類を見ないほど長く栄え、今なおそれが続こうとしていた。


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「はぁ・・・」

今日何度目かのため息を、浮竹はついていた。

結婚記念日というか、浮竹が京楽を血族に迎え入れて120年と3年が経とうとしていた。

ヴァンパイアに結婚の概念はない。

血を与えることで、同族を増やすことがあるので、結婚というものを何度もしなければならない時があるからだ。

浮竹はご機嫌だった。

愛しい男と血族になった記念の日だった。

戦闘人形に頼らず、自分の手で料理を作ろうと思った。

メニューは、カレーライスのはずだった。

まず、錬金術に使う釜を使っている時点で終わっていた。

じゃがいも、人参、たまねぎ。

全部、洗うだけで丸ごといれた。

隠し味に、処女の血ではなく、ドラゴンの血を入れた。しかも、大量に。

ドラゴンの血をベースに、疲労回復と魔力回復のポーションを入れる。

鍋でぐつぐう煮込み、死の悲鳴をあげるマンドレイクをぶちこんだ。

辛みをつけるために、レッドスライムの粉末をぶちこんだ。

カレーのルーを大量にぶちこんで、味見をする。

「少し辛さが足りないか」

タバスコとレッドペッパーを大量に放り込んだ。

ぐつぐつとまた煮る。

棚に干してあった、毒薬を薬草と間違えてぶちこんで、また煮た。

カレーらしい匂いのまざる、ツンとした刺激臭の何かができあがった。

「京楽できたぞ。食え」

ガタガタガタガタ。

京楽は震えていた。

過去に浮竹の料理を食べて、倒れなかったことなど一度もなかった。

それほどに壊滅的なのだ。

ご飯は普通だった。

白飯に、緑色の震えて動く物体を出された。

「ねぇ、これ何?」

「見てわからんのか。カレーだろう」

「カレーは普通黄土色だよ!茶色だよ!なんで緑なの!?」

「ドラゴンの血を入れたから」

「あああ、そんな高級な錬金術で使うものを入れないで!しかもこの釜、錬金術の釜だよね!?

「それがどうした」

浮竹は、自分が料理できないなんて、思っていなかった。

料理はできると思い込んでいた。

「なんで震えて動いてるの!?」

「マンドレイクを生きたままぶちこんだせいじゃないか?」

「マンドレイクの死の悲鳴は、普通聞くと死ぬよ!?」

「俺は神の愛の呪いで不死だからな。関係ない。あと、体力つくように疲労回復と魔力回復のポーションをぶちこんでおいた」

京楽は、頭をかきむしった。

こんなもの食えるかと、突き返してやりたかったが、わくわくしながら料理をした浮竹にそんなことをすると、切れるというより本気で泣かれる。

「あああああああ」

「早く、食え」

「君、味見した?」

「したぞ。辛かった」

京楽は、かっと目を見開いて、一気にかきこんだ。

「ぐふっ」

京楽は、倒れそうになるをなんとか踏みとどまった。

「デザートもあるんだ。りんごを使ったケーキだ」

浮竹は、ケーキを切り分けた。

スポンジの中心に丸ごとりんごが入っている、豪快なケーキだった。

それを、京楽は勢いのまま食べた。

「辛い!?どうしてケーキが辛いの!」

「それは俺が、砂糖とタバスコを間違ったからだ」

えっへんと威張る浮竹を、京楽は今にも昇天しそうな魂で見つめる。

どこをどうしたら、砂糖とタバスコを間違えるのだろう。砂糖と塩なら分かるが。

ケーキも平らげて、京楽はぶっ倒れた。

「京楽!?倒れるほどに俺の料理がうまいのか!?」

「僕のHPはあと3だよ・・・。頼むから、僕のアイテムポケットから、乱菊ちゃんの毒消しのポーションと胃腸薬だして、飲ませて」

「分かった」

浮竹は、京楽のアイテムポケットから薬を出すと、京楽に飲ませた。

「ああああ~~~~~。生き返る。流石乱菊ちゃんの薬だ」

「HPはどこまで回復した?」

「ん、半分くらいかな」

「まだ、お替わりあるんだが・・・・・」

京楽は逃げ出した。

マッハで。

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京楽が逃げ出したことで、浮竹はがっかりした。

「やっぱり、俺が作った飯はまずいんだろうな。残りはポチにでもやるか」

ポチに残りのカレーを与えると、ポチは一瞬動かなくなった。

「ポチ、おい、ポチ!?」

「ルルルルルーーー!!!」

ポチは味に怒って、浮竹に噛みついた。

「いたた、ポチ、ごめんてば!」

「ルルルーー!」

ポチに噛みつきまくられてたけど、ポチはカレーを全部食べてくれた。

「ポチ、まずかったんだろう?」

「ルルル~~~~?」

「京楽が逃げていくくらいだ。俺の料理の腕は壊滅的なのかもしれない」

「ルル!ルルルル~~~~~!!!」

「何、元気出せって?」

「ルル!」

「ありがとな、ポチ。大好物のドラゴンステーキを2枚やろう」

「ルルルル~~~♪」

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次の日、昼食を京楽と一緒に作ることになった。

「僕の料理の手伝いからはじめよう。いきなり作らせてもできないからね」

「メニューは?」

「クリームシチューだよ」

「簡単だな」

「工程はね。でも、君には難題だ」

材料を見ていく京楽だったが、マッシュルームを忘れていた。

「おかしいなぁ。ここに、お化けきのこから採取したマッシュルームがまだ残っていたはずなんだけど」

密封されたガラスの瓶を見て、浮竹は。

「ああ、マッシュルームならポチが食べたそうにしていたからあげた」

「ええっ!あのマッシュルームは、最高級なんだよ。シチューに入れると入れないで、美味しさが全然変わるんだよ!」

「じゃあ、取りにいくか?」

「今から?」

「そう、今から」

「夕方になっちゃうよ」

「シチューを夕飯にすればいい」

京楽は、ため息をついた。

浮竹はそう言いだしら、聞かないことがある。

「分かったよ。最寄りのC級ダンジョンで採取できるから、さくっといこう」

お化けきのこのレベルは低い。

でも、お化けきのこに生えているマッシュルームはそこそこ高く売れるので、初心者から一人前の冒険者になる前のパーティーがよく退治した。

「お化けきのこ、いればいいけど・・・・・」

人気が高いので、討伐済みの可能性もあった。

ガイア王国にある、最寄りのC級ダンジョンに潜った。

パーティーが複数いて、浮竹と京楽は目立っていた。

Sランク冒険者がC級ダンジョンに来ているのだ。悪目立ちもするだろう。

そんな視線を無視して、浮竹と京楽は、6階層まで潜り、お化けきのこを探した。

「いた、お化けきのこだ!」

「そっちにいったよ!」

「ウィンドカッター!」

風の魔法で足を切ってやった。

「お、いっぱい生えてる・・・・」

マッシュルームを採取していく。

「せっかくきたんだし、できる限りマッシュルーム採取して帰るか」

「そうだね」

Sランク冒険者の腕にかかればC級ダンジョンのモンスターなんて、雑魚の雑魚である。

次々とお化けきのこを倒して、マッシュルームを採取した。

「この辺でいいか」

「そうだね。しおどきだ」

「全部狩ると、他の冒険者の迷惑にもなるしな」

十分迷惑になっているのだが、二人は気づかない。

ダンジョンを去ると、すれ違った人間から声をかけられた。

「ヴァンパイア?」

浮竹は聞こえないふりをした。それにつられて、京楽も聞かなかったことにする。

「ヴァンパイアの匂いがする・・・今夜あたり、あの古城にヴァンパイアハンターを差し向けよう」

「お前!」

浮竹が振り返るが、そこには人影はもうなかった。

「嫌な気がする。今日は古城に戻らず、町で宿をとろう」

「うん。不穏な気配だったね。ただのヴァンパイアハンターにやられる僕らじゃないけど、念には念を、ね・・・・・」

宿の食堂を貸してもらい、お化けきのこから採取したマッシュルームをふんだんに使った、クリームシチューを作り、それを食べた。

その味に、宿屋の女将がレシピをくれと京楽に頼んできたほどだった。

次の日、古城に戻ると、戦闘人形たちは全て倒されていた。

古城の中は、けれど荒らされていなかった。

「ポチ!?ポチ!?」

いつもは玄関付近にいるミミックのポチの姿が見えなくて、浮竹と京楽は必至に探した。

「るるるる~~~」

ポチは、暖炉の中に身を隠していた。

「よかった、ポチ、無事だったんだな」

「るるるーーー」

「あはははは、見----つけた」

「何!?」

浮竹は、喉の動脈を掻き切られていた。

「ぐっ!」

「あは、やっぱ再生しちゃうんだ?」

「浮竹!」

「京楽、くるな!」

京楽は首に糸を巻かれて、呼吸ができなくなった。

「ぐ、かはっ」

「僕はヴァンパイアハンターAクラスのダニエル・ロンド。さぁ、遊ぼうか」

「Aクラスの、ヴァンパイアハンターだと!?」

「そう。僕は今まで100体以上のヴァンパイアを屠ってきた。古城にヴァンパイアロードがいるって聞いて、退治しに、もとい遊びにきたのさ」

「ヴァンパイアハンター如きが・・・」

浮竹は血の刃で、京楽を戒めている糸を絶ち切った。

「わお、僕の糸を切るなんて、すごいね?」

「死ね」

浮竹は、血の渦を作り出し、ダニエルに向けた。

「これ、なーんだ?」

ダニエルが見せたのは、生首の状態の、ブラディカだった。

「貴様、離宮に侵入したのか!」

「だって、そこにしかヴァンパイアの反応がなかったんだもの。大人しくしないと、この生首の子のコアを破壊しちゃうよ?」

浮竹の動きが止まる。

「だめだよ、浮竹!」

「だが、ブラディカの命が!」

「ブラディカより、僕には君の命の方が重い!」

京楽は、ブラディカの生首を奪い取りながら、猛毒となった自分の血を、ダニエルに向けた。

「わぁ。本当に猛毒なんだ。あの人の言ってた通りだね」

確かに、心臓を貫いたはずだった。

ただの人間のはずなのに、ダニエルは生きていた。

「僕への攻撃は、みんなこの人形が肩代わりしてくれる」

それは、ブラディカに似せた人形だった。

「まさか、ダメージは全部ブラディカにいくのか!」

「正解。呪術だよ」

ダニエルは京楽の背後にくると、糸で京楽をしばりあげ、血で染め上げた。

「このまま、バラバラになっちゃいな」

「ヴァンパイアハンターが!」

京楽は、猛毒の血を燃やした。

毒ガスを吸い込み、ダニエルが怯む。

「ブラディカにかけた呪術など、跳ね返してやる!」

「そんなことできるわけ・・・・ぎゃああ、熱い!」

浮竹は、呪術も操る。

呪術の返しなど、造作もないことだった。

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