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始祖なる者、ヴァンパイアマスター外伝

「東洋の俺、強くなったな?」

古城に遊びにきた東洋の二人を迎え入れて早々、西洋の浮竹がそんなことを言った。

(え、そうか?)

「ああ。魔力ではないが・・・・妖力というのか?人外の力が強くなっている」

(ああ、川姫の一件があったからかな)

水神の白蛇として覚醒した東洋の浮竹は、その一件以来、確実に力を増していた。

(ああ、これ俺が作ったチーズケーキ。よかったら、食べてくれ)

「東洋の浮竹って、どんどん料理が上手になるね」

(そりゃ、ボクの愛の指導によるものだからね)

「僕のところの浮竹も少しはましになたったけど、砂糖とタバスコを間違えるわで、まだ一人で調理させれないよ」

(砂糖とタバスコ・・・どうやったら、そんなの間違えるの?)

「僕に言われても分からないよ。まぁ、マンドレイクを生で料理にぶちこまなくなっただけ、ましかな」

「おい京楽たち、何をぶつぶつ言ってるんだ。お茶にするぞ」

「はいはい」

(君のところの十四郎も、ちゃんと君が指導すればまともなものが作れるようになるさ)

お茶は、ダージリンとアールグレイだった。

皇室御用達の茶葉で、最高級の一品だった。

(やっぱり、西洋の俺のところの紅茶はうまいな。本格的だし、茶葉をいいの使ってるからか、俺たちの世界の紅茶より美味い)

「よかったら、茶葉を持って帰るか?」

(え、いいのか!?)

「紅茶の茶葉くらい、いくらでもくれてやる」

(やったぁ。春水、これで向こうの世界に戻っても、美味しい紅茶が飲めるぞ)

(そうだね。良かったね、十四郎)

東洋の京楽に頭を撫でられて、東洋の浮竹は嬉しそうにしていた。

「ん、このチーズケーキというのうまいな」

(そうだろ!レシピをやるから、西洋の俺も作ってみたらいい)

チーズケーキを頬張りながら、二人の浮竹はそれぞれダージリンとアールグレイの紅茶を飲んで、和んでいた。

(それより、西洋の俺、心配があって相談事をしたいじゃないのか?)

「なんで分かるんだ?」

(そりゃ、西洋の俺は大親友だし、兄弟みたいなものだから)

言いながら、東洋の浮竹はかーっと赤くなった。

釣られて、西洋の浮竹も赤くななる。

「京楽には聞かれたくない。どうしうよう」

(お使いとか頼むのはどうだ?」

「お、それいいな。おい、そこの京楽たち、実が折り入って相談が・・・・」



こうして、西洋と東洋の京楽は、古城からほど近いアラルの町に住んでいる、猫の魔女乱菊に大量のマンドレイクを納めにいくことになった。

(なんでボクまで・・・・・)

東洋の京楽は不満そうだが、西洋と東洋の浮竹だけを残していくのは心配なので、大量の黒い蛇をその陰にしこんだ。

「じゃあいこうか」

(分かったよ)

こうして、西洋と東洋の京楽は、古城を出た。



「俺のところの京楽が、再覚醒して魔力が俺と同じくらいになるまで強くなったんだが、敵に対して今までに見たこともないくらい、残酷になって、それが心配なんだ」

(あー。そういえば、西洋の春水って、俺の春水と同じくらいに力をあげてたからなぁ)

「俺に対しては優しいだ。でも敵には残酷で。その二面性が少し、怖い」

自分の体を抱きしめるようにした西洋の浮竹は、けれど東洋の浮竹に抱きしめられていた。

「東洋の俺?」

(きっと、お前の京楽は今まで力が足りなかった分、お前を守りたいと躍起になっているんだ。残酷なの面も出てしまうかもしれないが、壊れたりはしない。大丈夫だ)

「お前にそう言われると、そうなりそうで安心する」

西洋の浮竹は、東洋の浮竹に抱きしめてもらいながら、安堵の声を出した。

(そうだ、京楽たちがお使いにいっている間に、チーズケーキを二人で作ろう)

「え、俺でも作れるのか?」

(大丈夫、レシピはあるし、俺が作り方を教えてやる)

「そうか。悩みごとを聞いてもらってすっきりしたし、一緒にチーズケーキ作るか」



その頃、西洋と東洋の京楽は、猫の魔女乱菊に大量のマンドレイクを届けるついでに、二人の京楽をじろじろ見ていた。

「ふーん。世界が違うところからきた京楽さん・・・・面白いわねぇ。解剖してみたいわ」

二人の京楽は、マッハで逃げ出した。

古城への帰り際に、Aランクのヴァンパイアハンターと名乗る男に出会った。

「始祖の浮竹を葬るつもりだったが、先に血族の京楽、お前から仕留めてやる!」

「へぇ。僕の浮竹に、危害を加えるつもりだったんだ。たかが、Aランクのヴァンパイアハンターのくせに」

西洋の京楽は、ニタリと笑って、そのヴァンパイアハンターの体に猛毒である自分の血を注ぎ込んだ。

「うぐっ・・・・うわあああ」

「そう簡単に死なないでよ。ほら、ほら」

西洋の京楽は、血の刃を作り出して、息も絶え絶えなヴァンパイアハンターの体を切り刻んだ。

「あれ、もう死んじゃったの?つまんないな」

その姿に、東洋の京楽がやや引いていた。

(おい、西洋のボク。やりすぎだよ)

「だって、僕の浮竹に手を出そうとしていたんだよ。これくらいのバチは当たっても、別にいでしょ?」

(はぁ…ボク、言ったでしょ?“やりすぎ”だって)

「だって、僕の浮竹を傷つけようとしてるんだよ?だから、死んでもらわないと…」

西洋の京楽は東洋の京楽ににっこりと微笑む。

笑みは狂ったような狂気を含んでいる。

対して、東洋の京楽は金色にした目を冷たく澱ませて、西洋の京楽を見て呆れている。

(…勝手にすればいい。それで、キミの身が滅んでもボクは嘲笑うことしかできないね)

「僕は、そんなことしないよ?だって、僕には浮竹がいるしね」

そう言う西洋の京楽に興味をなくしたように、東洋の京楽は何も言わずに二人の浮竹が待つ古城へ先に向かう。

それを首を傾げて、西洋の京楽は東洋の京楽の後を追う。



「帰ってきたか、二人とも」

(割と早かったね)

「うん、ただいま」

’(ただいま)

「ん?なんかいい匂いするね」

(そういえばそうだね)

いい匂いがしてきて、それに二人の京楽は興味をもったようだった。

「実は、俺と東洋の俺で、チーズケーキを作ったんだ」

(そうそう。もう一回、お茶にしよう)

「えええ。浮竹がチーズケーキ!やばいよ、東洋の浮竹。ちゃんと作ってるシーン目撃した?」

(いいや、レシピを渡して作り方を教えて、それぞれで作った)

「あああああ」

(どうしたんだい、西洋のボクって、ああ・・・・やっぱりね)

東洋の浮竹がもってきたチーズケーキは白っぽかった、西洋の浮竹がもってきたチーズケーキは赤かった。

「浮竹、味見した?」

「するわけないだろう」

さも当然のように、西洋の浮竹は答える。

「いいから、食え!」

問答無用だとばかりに、西洋の浮竹は西洋の京楽の口の中に、一口分のチーズケーキを入れた。

「ぎゃああああ!!チーズケーキなのに辛い!君、また砂糖とタバスコ間違えたね!?」

「あれ、また間違えてしまったのか。まぁいいだろう。全部食え」

次々に口の中にチーズケーキ(激辛)を放り込まれるが、西洋の京楽は結局全部食べてしまった。

(うわお。君の西洋の十四郎への愛は本物だって、少なくとも分かったよ)

「見てないで止めてくれ、東洋の僕・・・・・」

東洋の浮竹は、赤いチーズケーキを自分で食べていく。

「辛いが、これはこれでうまいと俺は思う」

(いいね。ボクにも食べさせてよ)

東洋の京楽の分はなかったので、西洋の浮竹は、自分が食べていたチーズケーキを東洋の京楽の口に放り込んだ。

(んー。辛いけど、それがいいね。タバスコだけじゃなく、他にも香辛料いれた?)

「少しだけ」

(東洋の俺、砂糖とタバスコを間違えたのか。今度から、気をつけろよ?)

東洋の浮竹は、あわあわしていた。

「ああ、そうする」

西洋の京楽は、胃薬を飲んでいた。

「京楽。胃薬なんてなくても、俺の料理を食えるだろうが」

「簡便してよ。君ってば、料理できるようになったと見せかけて、すごい代物作ってくるんだから!この乱菊ちゃん印の胃薬がないと、僕の胃に穴があいちゃう」

「ほう。じゃあ、今晩の夕食は、俺が作ってやろうか」

額に血管マークを浮かべた西洋の浮竹の笑みに、西洋の京楽が飛び上がった。

「今夜の夕食は僕が作るから!いいね!?」

「仕方ないな・・・・」

しぶしぶ納得する西洋の浮竹に、東洋の浮竹と京楽は苦笑いするのであった。

その日の晩は、西洋の京楽と戦闘人形が作った夕食を口にして、4人は就寝した。

次の日の朝、首筋にキスマークのいっぱいついた西洋の浮竹を見て、東洋の浮竹は全てを察知して、真っ赤になった。

(その、西洋の俺。キスマークが・・・・)

それに自分がキスマークをいっぱいつけられたのだと思い出して、西洋の浮竹も赤くなる。

「あの駄犬が!」

「わああああああ」

西洋の京楽は、西洋の浮竹にハリセンを手に追いかけられていた。

(じゃあ、俺たちはこのへんで・・・・・)

(二人ととも、ほどほどにね)

「ああ、またな。待て、京楽」

「またねええええ。ぎいやあああ」

東洋の浮竹と京楽は、西洋のこんな二人の姿に、心配しすぎるのも杞憂かと思うのだった。






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