始祖なる者、ヴァンパイアマスター15前編
微睡んでいた。
幸せな夢を見ていた。
愛した血族に愛され、また自分も血族を愛していた。
その男の名は京楽春水。
元々はただの人間。
血族に迎え入れえて、いつしか愛し合うようになっていた。
その微睡みの中に、ノイズが走る。
藍染惣右介。
俺の愛しい血族。
はて、愛しいはずの血族はそんな名前だったろうか?
いつもよく睦み合っていた。
はて、確か黒髪に鳶色の瞳だったはず。
こんな焦げ茶色の髪と目ではなかったはず。
「お前は誰だ。京楽はどこだ」
目の前にいた男、魔族の始祖藍染惣右介はため息を零した。
「記憶をいじったのに、まだ完全じゃないのか。全く、大したものだ」
浮竹は、何処か分からない広いが暗い部屋に閉じ込められていた。
お風呂やトイレはついているが、あるのはベッドだけ。
そのベッドに、腰かけていた。
浮竹は頭痛が酷くなり、一度意識を手放した。
次に気づくと、京楽がいた。浮竹が愛した、血族がいた。
「愛しているよ、十四郎」
藍染は、京楽の姿を形どり、浮竹に愛を囁いた。
浮竹をベッドに押し倒した。
「どけ。虫唾が走る。お前は京楽じゃない。俺が愛しているのは、本物の京楽だけだ。魂が、違う」
「魂のレベルまで、繋がっているのか」
口づけてくる、京楽の姿をした藍染に、浮竹は冷酷な目を向けて、伸ばした爪でその顔を引っかいた。
首に鎖が巻かれていて、魔法が使えなかった。
ただ、血は操れた。
しゅるるるる。
血を鎌の形に変えて、藍染に向けると、体が強張った。
「なん、だと」
「ちょっと、君に呪いではない、祝福を与えたよ。呪いには耐性があるみたいだから」
「祝福?」
「魔族にも聖女がいる。その子に頼んで、人の命を奪えない祝福を与えた」
「呪いと、ほとんど同じじゃないか」
「でも、聖女がかけたんだから、祝福になるんだよ。まぁ、今の君には解けない祝福だ。血を暴走でもしない限りは」
藍染は笑った。
それが、浮竹にはとてつもなく気に入らなかった。
「さて、どうして君を手に入れたものか。君を抱こうにも、君の血族の姿をしてもだめ、強姦しようとしたら、休眠状態一歩手前までいかれてしまった」
あの微睡みは、休眠に入ろうとしていたからだったのだろうか。
「まぁ、君が手に入らなくても、君の血があればこちらはそれでいい」
藍染は、浮竹から血を抜いた。
「ここはどこだ」
「さぁね?」
「俺を誰だと思っている」
「始祖ヴァンパイアの、浮竹十四郎」
さらに血を抜こうとする藍染に、呪いが侵食した。
同時に、浮竹の思考も、呪いに侵食される。
「俺は神の寵児。この世界で一番最初に、創造神ルシエードの子、始祖ヴァンパイアとして生まれ落ちた命。絶対存在」
浮竹の魂には、呪いがあった。
不老不死の呪い。
絶対に死ねない呪い。その呪いは、命に何かが起きようとすれば、発動する。その呪いが、藍染を侵食しようとしていた。
その呪いは、それは神の愛。
どうか、同じ時間を生きてくれという。
けれど、浮竹は捨てられた。
創造神ルシエードは、浮竹を置いて違う世界へ行ってしまった。
浮竹には心があった。
でも、神に心はなかった。
愛した我が子を捨て去り、違う世界へと旅立った。
神々は、絶対存在と呼ばれた。
そして、世界で一番最初に生まれた始祖も、絶対存在であった。
藍染は世界に3番目の始祖として、2番目には神族のシスター・ノヴァがそれぞれ違う神々によって、生み出された。
創造神の仕事は、世界を作り出すこと。
元々、命を吹き込むのは別の神の仕事だった。
気まぐれに、同じ絶対存在として、始祖のヴァンパイアを作ってみた。それが浮竹十四郎。
その世界を去る間際に、浮竹の妹として、ブラッディ・ネイを作った。不老不死ではなかったが、それに限りなく近くすることはできた。
「これは・・・・魂の呪いか。厄介な。君の魂にかけられた呪いの正体は、神の愛か」
「神の、愛?」
浮竹は、首を傾げた。
敵に捕らわれている状態ではあるが、命の危険はとりあえずなさそうであった。
もっとも、殺されても死なないが。
「そう、神の愛。私やシスター・ノヴァなどがもつのは、不老不死の呪い。私たちの呪いは、ただの不老不死の呪いだ。でも、君の呪いは神の愛だ。神と同じ時間を生きろという、創造神の愛の呪い」
「創造神の、愛の、呪い・・・俺は、神に、捨て、られ、て・・・・・・」
しゅるるるるる。
浮竹の血でできた鎌が消えていく。
そのまま、静かに浮竹はベッドに寝転がった。
「ははははは。そうか。これは、神の愛か」
狂ったように、笑い出した。
「ははははは。神に愛されていたのか。だから、死ねないのか。ただの不老不死の呪いでは、なかったのか。創造神は、俺に神と同じ時間を生きろと、いうのか」
「今日は、とりあえずこの分だけ血をもらっていく。これ以上、君の神の愛の呪いを受けるのは嫌なのでね。神の愛は、魂に刻まれている。どの聖女でも、解けないだろう」
「そんなこと、始めから知っている」
「死ねない同じ呪いを持つ身としては、羨ましいけれどね。魂の呪いの真実が神の愛だなんて」
「俺には、最悪だ。ただの呪いと思っていた。神の愛だなんて、お前の戯言として受け取りたい気持ちだ」
生まれ落ちた時、創造神を父のように思った。同じ絶対存在であるのが嬉しかった。違う世界に行かれて、もう愛されていないのだと思っていた。
あの神が、俺を愛していた。
同じ時間を生きてほしくて、神の愛の、不老不死の呪いを受けさせられた。
本当は、短い時間を生きる人間が妬ましかった。
不老不死であることを呪った。
でも、その魂に刻まれたものは神の愛。呪いではなかった。
ただの呪いがよかった。
それなら、神に捨てられても何も思わない。
でも、同じ時を生きてほしい。それは、即ち、あるはずのない心で、神は俺を愛していたのだ。
あの神には、心があったのだ。
「京楽・・・・会いたい。愛している。だから、俺を愛してくれ。俺を、捨てないでくれ」
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「イグル大陸の魔都サラテアルに行きたい」
そう言いだした京楽を、ブラッディ・ネイが睨んでいた。
「キミがいながら、兄様が魔族の始祖なんかに拉致された。君は、主を守れなかった。血族失格だ」
京楽の心に罅が入った。
「まだ、間に合うはずだよ!ブラッディ・ネイ、力を貸して!」
「無理だ。兄様を攫ったのは許せない。でも、相手は始祖魔族。ボクたちと魔族は、お互い不可侵の条約を結んでいる。ボクが行ったら、政治的な問題が起こる」
「では、兄の代わりに私が行こう」
「白哉クン!」
「俺もいくっす。浮竹さんには、いろいろ世話になりましたから」
「恋次クンも!」
京楽は、涙が出そうになっていた。
一人でとても行ける場所ではないのだ。だから、ブラッディ・ネイの力を借りようとした。ブラッディ・ネイのことは大嫌いだ。でも浮竹の存在がかかっているから、頭を下げた。
でも、政治的な問題でいけないという。
一人で辿り着けるだろうか。そう悩みはじめた矢先の出来事だった。
「兄と、恋次と、私で、イグル大陸の魔都サラテアルに行こう。血の帝国からイグル大陸への船が出ている。それに乗ってイグル大陸にまでついたら、恋次が竜化して、その背にのって魔都サラテアルまでいこう。片道一週間ほどかかかるが、それは仕方あるまい」
「本当に、一緒に来てくれるんだね?」
「男に二言はない」
「上に同じ」
京楽一人の力では、あの始祖魔族に太刀打ちできないだろう。
でも、そこに白哉と恋次の力が加わればどうだろう?
「白哉がそこまで言うなら仕方ない。行っておいで。ただし、絶対に兄様を連れ戻して。2カ月経っても戻ってこなかったら、ボクはもう、不可侵条約を破棄して、魔族に戦争をふっかけるから」
血の帝国を巻き込んでの争いになる。
そんなこと、浮竹は絶対望んでいない。
そうして、京楽と白哉と恋次は、旅の支度を慌ただしくして、血の帝国からイグル大陸まで出ているはずの定期船を丸ごと買いこんで、本当は月に2回の渡航なのだが、無理やり渡航させた。
白哉と恋次が風の魔法で帆に風を送り、船を強制的に早く進ませた。お陰で、2日時間を短縮できた。
「ここがイグル大陸か・・・」
「あちいなぁ」
「こっちの大陸では、夏のようだな」
血の帝国のあるアステア大陸は春の気候だった。
近くの街で、夏ものの服を買い込んで着て、人気のない場所で恋次に竜化してもらい、その背に乗って、魔都サラテアルを目指した。
途中で、何度か休憩し、夜を明かして、また飛んだ。
24時間飛び続けることはできないし、それをさせたら恋次が倒れてしまう。この三人の中では、多分一番恋次の力が強い。
その恋次を白哉が倒したというのだから、詳しくは分からないが。
とにかく、戦力は多いにこしたことはない。
血の帝国を飛び出して、4日半で魔都サラテアルについた。
それなりに繁栄をしていて、魔族領土ではあるが、ヴァンパイアの姿もたまに見受けられた。
「さて、ここからどうするかが問題だ」
「僕に任せて。浮竹の魔力を探知できる」
「この人ごみとこの大きな都市で、それが可能なのか?」
白哉の言葉を耳にしながら、浮竹は目を閉ざし、集中した。
白いフードを被って、正体がばれないようにしていた。
「こっちだよ!」
京楽は、強く感じた。
浮竹の魔力だった。
それも数十体。
京楽と白哉と恋次がきた場所は、リハビリ施設だった。
「こんなとこに、浮竹さんがいるのか?」
「でも、微弱だけど浮竹の魔力を感じた」
「これは・・・・確かに、浮竹の魔力を宿しているが、多分抜いた血を注射させたのだと思う」
白哉が答えた。
リハビリ施設の中にいたのは、限界まで筋力を膨らませた魔族の戦士たちだった。
見つからないように、部屋を探したが、魔族の兵士ばかりで、肝心の浮竹の姿がなかった。
「見つかったか?」
「いや、いねーっす」
「こっちも見つからないね。こっちが発見されたら厄介だ。一度、建物の外に出よう」
京楽の心の罅は、深くなっていく。
浮竹が攫われて、もう5日になる。
いつ血が暴走しても、おかしくない状況だった。
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「また、食べてないのかい。でも、人工血液は飲んでもらうよ」
藍染に、浮竹は無理やり人工血液を飲ませられて、血に変換させられた。
藍染の目的は、浮竹の血を使った魔族の最強な兵士の誕生だった。
そんな戦士を何百人と作り上げて、まずは聖帝国を踏みつぶそうとしていた。すにでリハビリ施設やその近くの屋外で戦闘訓練をくませた兵士50人ばかりを、聖帝国への突入部隊として送り込んだ。
「ぐっ、ごほっ、ごほっ」
人工血液が器官に入って、浮竹はむせた。
「君が、私の計画に素直に協力してくれるのなら、こんな手荒な真似はしないのだがね」
「俺の血で、戦士を強化して聖帝国と戦争だと?ばかげている」
「しかし、君の血は実に戦士たちを強くしてくれた」
「そりゃ、一応始祖のヴァンパイアだからな。俺の血は、血族にする者の飲ませるか、怪我を癒すために少し与えるか程度で、濃い血液を大量に与えたら、ただの戦闘人形のなりそこないになる」
「君は、自分の血で戦闘人形を無数に作れるんだったね。その力も欲しい」
「はっ、無理だな。俺の意思じゃないと作り出せない」
「じゃあ、京楽君の命がかかっているとすれば、どうかね?」
藍染は、水鏡を持ってきた。
そこに映っていたのは、京楽と白哉と恋次の姿だった。
「バカな、何故この魔都にいる!?」
「それは、愛しい君を助けたい一心で、駆け付けたんだろうさ。私が指示を出したら、この3人は、血まみれになるよ?」
「あいつらは、そこまで弱くない」
浮竹は、血の刃で日にちをかけて、魔法を使えなくしている首に巻かれた鎖を削っていた。
毎日、人工血液を大量に与えられて、大量に血を抜かれた。
こんな生活を、他のヴァンパイアが行っていると、確実に死んでいるだろう。
神の愛の呪いをもつ浮竹は、苦しかったが生きていた。拉致されて5日になるが、とにかく苦しかった。
いっそ、死んで楽になりたいと思った。
そうだ。
自分を、殺してみよう。
ふと、浮竹はそう思った。
自分を殺したら、どうなるのか。
知りたかった。
神の愛が、暴走するのだろうか。
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京楽は、浮竹が捕らわれているであろう館を見つけた。
白哉も恋次も、確かにその屋敷から、微弱ではあるが浮竹の存在がすると言ってくれた。
気になったのは、浮竹の魔力が少ないというか、ほぼないことだった。
あと、濃厚な血の匂いがした。
浮竹の血の匂いを、京楽が間違えるはずなかった。
「突入するよ!」
「ああ」
「おう」
三人は、その存在が藍染にばれているとも知らずに、館の中へ入った。
館の中は、無人だった。
ただ、濃い血の匂いがした。
「浮竹・・・・?」
館全部を探したが、浮竹の姿はなかった。
地下室だけが残った。
「多分、地下だ」
「そうみたいっすね」
「浮竹の血の匂いが酷い。何かあったようだ」
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「あああああ!!」
始祖の藍染が、絶叫していた。
あろうことか、始祖の浮竹十四郎は、魔法を封じる鎖を解き放ち、同時に自分の首を血の鎌ではねたのだ。
毒でもある呪い、神の愛が発動した。
「何故、死ねない・・・・・」
首は、くっついていた。血の暴走がはじまっていた。
魔族の始祖、藍染は、全身の体から血を抜かれてもがいていた。
「こんなはずは・・・・・これが、神の愛の呪いなのか」
血の暴走は、部屋を満たした。
いくつもの血の刃を作り、浮竹はそれで部屋中をめちゃくちゃにした。
血を全身から抜かれ、干からびた藍染は、しかし不老不死。肉体は再生を始める。
血を再生する傍から、吸われた。
「不味い。人工血液のほうがましだ」
浮竹は、真紅になった瞳で、藍染を見下ろした。
「この程度か。魔族の始祖」
「く、こうなったら仕方ない。お前を殺す」
藍染は、禁呪の闇魔法を浮竹に浴びせた。
浮竹は、その魔力ごと、魔法を血の渦で吸収してしまった。
「浮竹!助けにきたよ!」
そこに、本物の京楽が現れた。
浮竹は、神の愛の呪いで、思考が混濁していた。
「俺は、捨てられた。血族など、もういらない」
「浮竹・・・?」
京楽は、浮竹の「血族など、もういらない」という言葉に、精神を、心を崩壊させていく。
「何言ってるの、浮竹。僕は、君を愛しているよ?」
「愛など、目に見えぬもの。そんなもの、信用できない」
「浮竹、愛してるんだ」
「俺は、愛していない」
京楽は、瞳を真紅に染め上げて、血を暴走させていた。
「ちょ、二人そろって暴走だって?」
「恋次、ひとまず逃げるぞ。ここにいては、私たちは足手まといの上に、餌にされてしまう」
「白哉さん、なんとかする方法ないんすか!」
「あればとっくにしている!」
白哉と恋次は、地下室を後にして、館の外に出た。
「いらない。俺は、もう何もいらない。愛している。誰を?分からない」
浮竹は、神の愛の呪いで、自分が創造神の子供であった頃に心が戻っていた。
「僕は君のものだ。君がいらないといっても、君のものだ。君は僕のものだ。君がいらないといっても、僕のものだ」
二人は負の感情を連鎖させて、血の暴走を起こしていた。
浮竹は京楽を、京楽は浮竹を攻撃していた。
「こんな、化け物・・・・・・・・」
藍染は、やっと再生した体で二人の化け物がぶつかり合うのを、目撃していた。
血の渦に飲まれ、互いの血で体を喰らい合う。
そのそばから、肉体は再生を始める。
浮竹の神の愛の呪いは、血族である京楽も巻き込んでいた。
「いらない・・・愛など。俺は、誰も愛さない」
「愛してる、愛してる、愛してる・・・・・」
狂ったように愛を囁く京楽と、愛を否定する浮竹。
何度もお互いの体を食い合い、20分ほどが経った。
ふっと、真紅の瞳だった京楽の瞳が鳶色に戻った。我に返ったのだ。心はまだ痛く、ズタボロだったが、愛する浮竹の暴走を見ていられなかったのだ。
そして酷い状態の浮竹を見て、涙を零して浮竹を抱きしめた。
「僕は、君を愛している。たとえ君が僕をいらなくなっても。僕は、君だけを愛している」
京楽は、気休めだとは思ったが、エリクサーを口にして、中身を口移しで浮竹に飲ませた。
「俺は誰も愛さない・・・・愛さな・・・・愛されていた。創造神に。京楽に。たくさんの人たちに」
浮竹の真紅の瞳が、翡翠色に戻っていく。
「おかえり、浮竹」
「・・・・・・ただいま、京楽」
奇跡が起こった。
神の呪いに、エリクサーが効いたのだ。
神の愛の呪いに、エリクサーが応えてくれた。
「ひいいいい」
藍染は、二人の化け物に、見下ろされていた。
「ヘルインフェルノ」
「ぎゃあああああああ!!」
魔力と血を吸われた藍染は、もはや始祖魔族の力をあまりもっていなかった。
地獄の業火で焼かれ、生きたまま火あぶりにされた。
「よくも浮竹を・・・・・・」
京楽は、腰に帯びていたミスリル銀の剣で、藍染の四肢を切断した。
「ああああ、私の足が、腕が!!ぎゃあああああああ!!」
「封印する?」
「念のため。でも、魔族にも聖女がいるから、きっと救い出される」
浮竹は、始祖魔女を封印した時と同じ魔法を使った。
「エターナルアイシクルワールド!」
「この私が、封印など、されても、無意味だと」
「アイシクルランス」
「ぎゃあああああああああ!!」
浮竹は、氷の槍で藍染の心臓を突き刺した。藍染は、封印の魔法に完全に取り込まれて、その活動を停止した。
「浮竹、血を抜かれいたんでしょ!?大丈夫!?」
「ああ。全てが嫌になって、自分の首を自分ではねたら、神の呪いが発動して、血の暴走を起こしてしまった」
「!!!」
京楽は、ぎゅっと浮竹を抱きしめた。
「もう、そんな真似絶対しないで!いくら不老不死でも、しないで!」
「ああ。もうしない。約束だ」
浮竹と京楽は、唇を重ね合わせた。
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「兄様、無事でよかった!」
ブラッディ・ネイに抱き着かれて、いつもなら拒絶する浮竹であったが、今回ばかりは妹の好きなようなさせていた。
調子に乗ったブラッディ・ネイが、ロゼと浮竹の中身を交換させようとしたので、とりあえずブラッディ・ネイを殴った。
「ちぇっ。兄様は、やっぱり兄様だ」
「白哉、恋次君、俺を助けに来てくれてありがとう」
あの後、皆は竜化した恋次の背に乗って、港町まで移動して、そこからアステア大陸の血の帝国に入る船を見つけて、乗り込んだ。
後はもう帰るだけだったので、急がなかった。
浮竹は、式を飛ばしてブラッディ・ネイに自分が無事であることを知らせた。
何気にまじで魔族と戦争をおっぱじめようとしていたので、家臣たちは安堵した。
「浮竹も、本当に迷惑をかけた」
「いいよ、そんなこと。僕と君の仲でしょ?」
「ああ、そうだな」
「兄様、いちゃつくなら、古城に戻ってからにしてね」
「いちゃついてなんて!」
白哉も恋次も、目を合わせてくれなかった。
「うー」
浮竹は、京楽を抱きしめた。
「ああ、いちゃついてる!」
「いちゃついてやる!」
「僕は大歓迎だね!」
ぎゃあぎゃあ言い争いあって、とりあえあず無事を確認したので、ブラッディ・ネイは玉座に戻った。そこに、ロゼやキュリアなどの寵姫が侍った。
「お前は、相変わらず肉欲の塊だな」
「いやだなぁ、兄様。ちゃんと政治もしてるよ?」
「まぁ、そうなんだろうな。そうでなきゃ、血の帝国が8千年も続くはずがない」
「うん、そうだね、兄様」
「とりあえず、俺と京楽は古城に戻る。何かあれば、式をよこしてくれ」
「はーい」
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「さぁ、おいで十四郎」
「春水・・・その、この格好は、ある意味裸より恥ずかしいのだが」
京楽は、浮竹にサイズの大きなシャツを着せて、いわゆる彼シャツをさせていた。
「ああ、かわいいね、十四郎。黒いシャツだから、君の白い肌と髪を引き立てる」
「んあっ」
服の上から愛撫されて、浮竹は啼いていた。
下着は、つけていなかった。
「やん」
尻をさわられ、撫でられて、浮竹はこれから起こることにごくりと唾を飲みこんだ。
「あっ」
ローションを纏わせた指が、体内に入ってくる。
「はう!」
いきなり前立腺を刺激されて、浮竹のものは緩く勃ちあがった。
それを、京楽が口に含む。
「やっ!」
「いいの、間違いでしょ?」
「やん!」
浮竹も、勇気を出して京楽のものを触った。
「ああ、いいね。もっと先端を触って?そうそう、そこをこすって」
言われた通りにすると、京楽のものは精液を吐き出して、それは浮竹の顔にかかった。
「ごめん、顔しゃしちゃったね」
「ん・・・・・」
京楽がティッシュをとり、浮竹の顔をふいた。
そして、京楽は浮竹のものをジュルジュルと吸い上げる。
「ああああ!」
浮竹は、京楽の口の中に、精液を吐き出していた。
「あ・・・・」
浮竹は、期待で情欲にまみれた翡翠の瞳で、京楽を見つめていた。
「春水、今日はこのシャツを着たままするのか?」
「うん。見えそうで見えないのが、すごくいい」
「分かった・・・・」
京楽に押し倒されて、浮竹はローションを纏わせた指を入れられていた。
「ああ!」
前立腺をわざと刺激ばかりしてくるしつこい動きに、また浮竹のものが勃ちあがる。
「僕のことはいいから、いくといいよ」
「や、春水と一緒がいい!」
「全く、君はかわいいねぇ」
「んあ・・・・・」
ズチュリと、京楽のものが侵入してきた。
「あああ!」
最奥をこじあけるように、突き上げてくる。
その熱さに、どうにかなってしまいそうだった。
「あ、あああ、あ!」
きゅうきゅうと締め付けてくる結腸に、京楽は眉を顰める。
「もっと君を味わいたいけど、僕も限界みたい」
「あ、出せ。俺の胎の奥で、春水のザーメンいっぱい飲みたい」
「えっちなこという子だねぇ。どこでそんな言葉覚えてきたの」
「エロ本」
「誰の」
「ブラッディ・ネイの」
「あの同性愛者、異性のものでも集めてるの?」
「ううん。俺と京楽の情事を描いた、エロ本だった」
「なんてものもってんだい、ブラッディ・ネイ!今度借りないと!」
「春水?」
「ああ、ごめん、続きしようか」
「あ!」
内部でまた大きく硬くなったものに、浮竹が反応する。
「や、奥ごりごりしないでぇ」
「それが好きなんでしょ?」
「やあああ!!」
結腸にまで入りこんで、ごりごりと奥を圧迫する京楽のものに、最奥までえぐられて、浮竹はオーガズムでいっていた。
「ひああああ!!!」
「ああ、僕もいくよ。僕のザーメン、受けとめてね?」
「んああああ!!」
情事後、けだるそうな浮竹を抱き抱えて、風呂に入った。睦み合う前も入るが、睦み合った後も入るのが日課だった。
「京楽が咲かせた花が、いっぱいある」
硝子に映る、自分の鎖骨から胸にかけてのキスマークに、浮竹は頬を赤くした。
「浮竹、なーにキスマークで赤くなってんの」
「だって・・・・京楽のものだっていう証だから、俺は嬉しい」
そんなことを言う浮竹がかわいくて、京楽はむらむらして、風呂場でももう一回交わってしまうのだった。
---------------------------------------------------
「おのれ、おぼえてろ、浮竹十四郎、京楽春水!」
魔都サラテアルで、藍染は、屈辱に震えていた。
浮竹に封印されたが、魔族の聖女によって封印は解かれた。
「何はともあれ、聖帝国への侵攻を開始する!」
浮竹の血で教化された魔族の戦士たちは、全部で400名。
先に50名を送り込み、すでに戦争は始まっていた。
聖帝国の聖帝は、誰に助けを求めればいいのか分からず、手あたり次第に援軍をよこせと手紙を書いた。
血の帝国にも、それをよこした。
「俺の血で、狂暴になった戦士たちだ。俺たちで、なんとかしよう」
「えー。兄様、真面目すぎ。それに、聖帝国と国交をしてるとはいえ、戦争に参加するのは」
「俺と京楽と、白哉や恋次君、ルキア君に一護君、冬獅郎君の面子でどうだ」
「あーもう、仕方ないねぇ。兄様は、一度決めたら聞かないんだから。許可するよ。ブッディ・ネイの名において、友軍として聖帝国に派遣するものとする!」
浮竹は知らなかった。
シスター・ノヴァが黒魔術の司祭になっていて、浮竹の命を狙っていることなど。
幸せな夢を見ていた。
愛した血族に愛され、また自分も血族を愛していた。
その男の名は京楽春水。
元々はただの人間。
血族に迎え入れえて、いつしか愛し合うようになっていた。
その微睡みの中に、ノイズが走る。
藍染惣右介。
俺の愛しい血族。
はて、愛しいはずの血族はそんな名前だったろうか?
いつもよく睦み合っていた。
はて、確か黒髪に鳶色の瞳だったはず。
こんな焦げ茶色の髪と目ではなかったはず。
「お前は誰だ。京楽はどこだ」
目の前にいた男、魔族の始祖藍染惣右介はため息を零した。
「記憶をいじったのに、まだ完全じゃないのか。全く、大したものだ」
浮竹は、何処か分からない広いが暗い部屋に閉じ込められていた。
お風呂やトイレはついているが、あるのはベッドだけ。
そのベッドに、腰かけていた。
浮竹は頭痛が酷くなり、一度意識を手放した。
次に気づくと、京楽がいた。浮竹が愛した、血族がいた。
「愛しているよ、十四郎」
藍染は、京楽の姿を形どり、浮竹に愛を囁いた。
浮竹をベッドに押し倒した。
「どけ。虫唾が走る。お前は京楽じゃない。俺が愛しているのは、本物の京楽だけだ。魂が、違う」
「魂のレベルまで、繋がっているのか」
口づけてくる、京楽の姿をした藍染に、浮竹は冷酷な目を向けて、伸ばした爪でその顔を引っかいた。
首に鎖が巻かれていて、魔法が使えなかった。
ただ、血は操れた。
しゅるるるる。
血を鎌の形に変えて、藍染に向けると、体が強張った。
「なん、だと」
「ちょっと、君に呪いではない、祝福を与えたよ。呪いには耐性があるみたいだから」
「祝福?」
「魔族にも聖女がいる。その子に頼んで、人の命を奪えない祝福を与えた」
「呪いと、ほとんど同じじゃないか」
「でも、聖女がかけたんだから、祝福になるんだよ。まぁ、今の君には解けない祝福だ。血を暴走でもしない限りは」
藍染は笑った。
それが、浮竹にはとてつもなく気に入らなかった。
「さて、どうして君を手に入れたものか。君を抱こうにも、君の血族の姿をしてもだめ、強姦しようとしたら、休眠状態一歩手前までいかれてしまった」
あの微睡みは、休眠に入ろうとしていたからだったのだろうか。
「まぁ、君が手に入らなくても、君の血があればこちらはそれでいい」
藍染は、浮竹から血を抜いた。
「ここはどこだ」
「さぁね?」
「俺を誰だと思っている」
「始祖ヴァンパイアの、浮竹十四郎」
さらに血を抜こうとする藍染に、呪いが侵食した。
同時に、浮竹の思考も、呪いに侵食される。
「俺は神の寵児。この世界で一番最初に、創造神ルシエードの子、始祖ヴァンパイアとして生まれ落ちた命。絶対存在」
浮竹の魂には、呪いがあった。
不老不死の呪い。
絶対に死ねない呪い。その呪いは、命に何かが起きようとすれば、発動する。その呪いが、藍染を侵食しようとしていた。
その呪いは、それは神の愛。
どうか、同じ時間を生きてくれという。
けれど、浮竹は捨てられた。
創造神ルシエードは、浮竹を置いて違う世界へ行ってしまった。
浮竹には心があった。
でも、神に心はなかった。
愛した我が子を捨て去り、違う世界へと旅立った。
神々は、絶対存在と呼ばれた。
そして、世界で一番最初に生まれた始祖も、絶対存在であった。
藍染は世界に3番目の始祖として、2番目には神族のシスター・ノヴァがそれぞれ違う神々によって、生み出された。
創造神の仕事は、世界を作り出すこと。
元々、命を吹き込むのは別の神の仕事だった。
気まぐれに、同じ絶対存在として、始祖のヴァンパイアを作ってみた。それが浮竹十四郎。
その世界を去る間際に、浮竹の妹として、ブラッディ・ネイを作った。不老不死ではなかったが、それに限りなく近くすることはできた。
「これは・・・・魂の呪いか。厄介な。君の魂にかけられた呪いの正体は、神の愛か」
「神の、愛?」
浮竹は、首を傾げた。
敵に捕らわれている状態ではあるが、命の危険はとりあえずなさそうであった。
もっとも、殺されても死なないが。
「そう、神の愛。私やシスター・ノヴァなどがもつのは、不老不死の呪い。私たちの呪いは、ただの不老不死の呪いだ。でも、君の呪いは神の愛だ。神と同じ時間を生きろという、創造神の愛の呪い」
「創造神の、愛の、呪い・・・俺は、神に、捨て、られ、て・・・・・・」
しゅるるるるる。
浮竹の血でできた鎌が消えていく。
そのまま、静かに浮竹はベッドに寝転がった。
「ははははは。そうか。これは、神の愛か」
狂ったように、笑い出した。
「ははははは。神に愛されていたのか。だから、死ねないのか。ただの不老不死の呪いでは、なかったのか。創造神は、俺に神と同じ時間を生きろと、いうのか」
「今日は、とりあえずこの分だけ血をもらっていく。これ以上、君の神の愛の呪いを受けるのは嫌なのでね。神の愛は、魂に刻まれている。どの聖女でも、解けないだろう」
「そんなこと、始めから知っている」
「死ねない同じ呪いを持つ身としては、羨ましいけれどね。魂の呪いの真実が神の愛だなんて」
「俺には、最悪だ。ただの呪いと思っていた。神の愛だなんて、お前の戯言として受け取りたい気持ちだ」
生まれ落ちた時、創造神を父のように思った。同じ絶対存在であるのが嬉しかった。違う世界に行かれて、もう愛されていないのだと思っていた。
あの神が、俺を愛していた。
同じ時間を生きてほしくて、神の愛の、不老不死の呪いを受けさせられた。
本当は、短い時間を生きる人間が妬ましかった。
不老不死であることを呪った。
でも、その魂に刻まれたものは神の愛。呪いではなかった。
ただの呪いがよかった。
それなら、神に捨てられても何も思わない。
でも、同じ時を生きてほしい。それは、即ち、あるはずのない心で、神は俺を愛していたのだ。
あの神には、心があったのだ。
「京楽・・・・会いたい。愛している。だから、俺を愛してくれ。俺を、捨てないでくれ」
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「イグル大陸の魔都サラテアルに行きたい」
そう言いだした京楽を、ブラッディ・ネイが睨んでいた。
「キミがいながら、兄様が魔族の始祖なんかに拉致された。君は、主を守れなかった。血族失格だ」
京楽の心に罅が入った。
「まだ、間に合うはずだよ!ブラッディ・ネイ、力を貸して!」
「無理だ。兄様を攫ったのは許せない。でも、相手は始祖魔族。ボクたちと魔族は、お互い不可侵の条約を結んでいる。ボクが行ったら、政治的な問題が起こる」
「では、兄の代わりに私が行こう」
「白哉クン!」
「俺もいくっす。浮竹さんには、いろいろ世話になりましたから」
「恋次クンも!」
京楽は、涙が出そうになっていた。
一人でとても行ける場所ではないのだ。だから、ブラッディ・ネイの力を借りようとした。ブラッディ・ネイのことは大嫌いだ。でも浮竹の存在がかかっているから、頭を下げた。
でも、政治的な問題でいけないという。
一人で辿り着けるだろうか。そう悩みはじめた矢先の出来事だった。
「兄と、恋次と、私で、イグル大陸の魔都サラテアルに行こう。血の帝国からイグル大陸への船が出ている。それに乗ってイグル大陸にまでついたら、恋次が竜化して、その背にのって魔都サラテアルまでいこう。片道一週間ほどかかかるが、それは仕方あるまい」
「本当に、一緒に来てくれるんだね?」
「男に二言はない」
「上に同じ」
京楽一人の力では、あの始祖魔族に太刀打ちできないだろう。
でも、そこに白哉と恋次の力が加わればどうだろう?
「白哉がそこまで言うなら仕方ない。行っておいで。ただし、絶対に兄様を連れ戻して。2カ月経っても戻ってこなかったら、ボクはもう、不可侵条約を破棄して、魔族に戦争をふっかけるから」
血の帝国を巻き込んでの争いになる。
そんなこと、浮竹は絶対望んでいない。
そうして、京楽と白哉と恋次は、旅の支度を慌ただしくして、血の帝国からイグル大陸まで出ているはずの定期船を丸ごと買いこんで、本当は月に2回の渡航なのだが、無理やり渡航させた。
白哉と恋次が風の魔法で帆に風を送り、船を強制的に早く進ませた。お陰で、2日時間を短縮できた。
「ここがイグル大陸か・・・」
「あちいなぁ」
「こっちの大陸では、夏のようだな」
血の帝国のあるアステア大陸は春の気候だった。
近くの街で、夏ものの服を買い込んで着て、人気のない場所で恋次に竜化してもらい、その背に乗って、魔都サラテアルを目指した。
途中で、何度か休憩し、夜を明かして、また飛んだ。
24時間飛び続けることはできないし、それをさせたら恋次が倒れてしまう。この三人の中では、多分一番恋次の力が強い。
その恋次を白哉が倒したというのだから、詳しくは分からないが。
とにかく、戦力は多いにこしたことはない。
血の帝国を飛び出して、4日半で魔都サラテアルについた。
それなりに繁栄をしていて、魔族領土ではあるが、ヴァンパイアの姿もたまに見受けられた。
「さて、ここからどうするかが問題だ」
「僕に任せて。浮竹の魔力を探知できる」
「この人ごみとこの大きな都市で、それが可能なのか?」
白哉の言葉を耳にしながら、浮竹は目を閉ざし、集中した。
白いフードを被って、正体がばれないようにしていた。
「こっちだよ!」
京楽は、強く感じた。
浮竹の魔力だった。
それも数十体。
京楽と白哉と恋次がきた場所は、リハビリ施設だった。
「こんなとこに、浮竹さんがいるのか?」
「でも、微弱だけど浮竹の魔力を感じた」
「これは・・・・確かに、浮竹の魔力を宿しているが、多分抜いた血を注射させたのだと思う」
白哉が答えた。
リハビリ施設の中にいたのは、限界まで筋力を膨らませた魔族の戦士たちだった。
見つからないように、部屋を探したが、魔族の兵士ばかりで、肝心の浮竹の姿がなかった。
「見つかったか?」
「いや、いねーっす」
「こっちも見つからないね。こっちが発見されたら厄介だ。一度、建物の外に出よう」
京楽の心の罅は、深くなっていく。
浮竹が攫われて、もう5日になる。
いつ血が暴走しても、おかしくない状況だった。
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「また、食べてないのかい。でも、人工血液は飲んでもらうよ」
藍染に、浮竹は無理やり人工血液を飲ませられて、血に変換させられた。
藍染の目的は、浮竹の血を使った魔族の最強な兵士の誕生だった。
そんな戦士を何百人と作り上げて、まずは聖帝国を踏みつぶそうとしていた。すにでリハビリ施設やその近くの屋外で戦闘訓練をくませた兵士50人ばかりを、聖帝国への突入部隊として送り込んだ。
「ぐっ、ごほっ、ごほっ」
人工血液が器官に入って、浮竹はむせた。
「君が、私の計画に素直に協力してくれるのなら、こんな手荒な真似はしないのだがね」
「俺の血で、戦士を強化して聖帝国と戦争だと?ばかげている」
「しかし、君の血は実に戦士たちを強くしてくれた」
「そりゃ、一応始祖のヴァンパイアだからな。俺の血は、血族にする者の飲ませるか、怪我を癒すために少し与えるか程度で、濃い血液を大量に与えたら、ただの戦闘人形のなりそこないになる」
「君は、自分の血で戦闘人形を無数に作れるんだったね。その力も欲しい」
「はっ、無理だな。俺の意思じゃないと作り出せない」
「じゃあ、京楽君の命がかかっているとすれば、どうかね?」
藍染は、水鏡を持ってきた。
そこに映っていたのは、京楽と白哉と恋次の姿だった。
「バカな、何故この魔都にいる!?」
「それは、愛しい君を助けたい一心で、駆け付けたんだろうさ。私が指示を出したら、この3人は、血まみれになるよ?」
「あいつらは、そこまで弱くない」
浮竹は、血の刃で日にちをかけて、魔法を使えなくしている首に巻かれた鎖を削っていた。
毎日、人工血液を大量に与えられて、大量に血を抜かれた。
こんな生活を、他のヴァンパイアが行っていると、確実に死んでいるだろう。
神の愛の呪いをもつ浮竹は、苦しかったが生きていた。拉致されて5日になるが、とにかく苦しかった。
いっそ、死んで楽になりたいと思った。
そうだ。
自分を、殺してみよう。
ふと、浮竹はそう思った。
自分を殺したら、どうなるのか。
知りたかった。
神の愛が、暴走するのだろうか。
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京楽は、浮竹が捕らわれているであろう館を見つけた。
白哉も恋次も、確かにその屋敷から、微弱ではあるが浮竹の存在がすると言ってくれた。
気になったのは、浮竹の魔力が少ないというか、ほぼないことだった。
あと、濃厚な血の匂いがした。
浮竹の血の匂いを、京楽が間違えるはずなかった。
「突入するよ!」
「ああ」
「おう」
三人は、その存在が藍染にばれているとも知らずに、館の中へ入った。
館の中は、無人だった。
ただ、濃い血の匂いがした。
「浮竹・・・・?」
館全部を探したが、浮竹の姿はなかった。
地下室だけが残った。
「多分、地下だ」
「そうみたいっすね」
「浮竹の血の匂いが酷い。何かあったようだ」
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「あああああ!!」
始祖の藍染が、絶叫していた。
あろうことか、始祖の浮竹十四郎は、魔法を封じる鎖を解き放ち、同時に自分の首を血の鎌ではねたのだ。
毒でもある呪い、神の愛が発動した。
「何故、死ねない・・・・・」
首は、くっついていた。血の暴走がはじまっていた。
魔族の始祖、藍染は、全身の体から血を抜かれてもがいていた。
「こんなはずは・・・・・これが、神の愛の呪いなのか」
血の暴走は、部屋を満たした。
いくつもの血の刃を作り、浮竹はそれで部屋中をめちゃくちゃにした。
血を全身から抜かれ、干からびた藍染は、しかし不老不死。肉体は再生を始める。
血を再生する傍から、吸われた。
「不味い。人工血液のほうがましだ」
浮竹は、真紅になった瞳で、藍染を見下ろした。
「この程度か。魔族の始祖」
「く、こうなったら仕方ない。お前を殺す」
藍染は、禁呪の闇魔法を浮竹に浴びせた。
浮竹は、その魔力ごと、魔法を血の渦で吸収してしまった。
「浮竹!助けにきたよ!」
そこに、本物の京楽が現れた。
浮竹は、神の愛の呪いで、思考が混濁していた。
「俺は、捨てられた。血族など、もういらない」
「浮竹・・・?」
京楽は、浮竹の「血族など、もういらない」という言葉に、精神を、心を崩壊させていく。
「何言ってるの、浮竹。僕は、君を愛しているよ?」
「愛など、目に見えぬもの。そんなもの、信用できない」
「浮竹、愛してるんだ」
「俺は、愛していない」
京楽は、瞳を真紅に染め上げて、血を暴走させていた。
「ちょ、二人そろって暴走だって?」
「恋次、ひとまず逃げるぞ。ここにいては、私たちは足手まといの上に、餌にされてしまう」
「白哉さん、なんとかする方法ないんすか!」
「あればとっくにしている!」
白哉と恋次は、地下室を後にして、館の外に出た。
「いらない。俺は、もう何もいらない。愛している。誰を?分からない」
浮竹は、神の愛の呪いで、自分が創造神の子供であった頃に心が戻っていた。
「僕は君のものだ。君がいらないといっても、君のものだ。君は僕のものだ。君がいらないといっても、僕のものだ」
二人は負の感情を連鎖させて、血の暴走を起こしていた。
浮竹は京楽を、京楽は浮竹を攻撃していた。
「こんな、化け物・・・・・・・・」
藍染は、やっと再生した体で二人の化け物がぶつかり合うのを、目撃していた。
血の渦に飲まれ、互いの血で体を喰らい合う。
そのそばから、肉体は再生を始める。
浮竹の神の愛の呪いは、血族である京楽も巻き込んでいた。
「いらない・・・愛など。俺は、誰も愛さない」
「愛してる、愛してる、愛してる・・・・・」
狂ったように愛を囁く京楽と、愛を否定する浮竹。
何度もお互いの体を食い合い、20分ほどが経った。
ふっと、真紅の瞳だった京楽の瞳が鳶色に戻った。我に返ったのだ。心はまだ痛く、ズタボロだったが、愛する浮竹の暴走を見ていられなかったのだ。
そして酷い状態の浮竹を見て、涙を零して浮竹を抱きしめた。
「僕は、君を愛している。たとえ君が僕をいらなくなっても。僕は、君だけを愛している」
京楽は、気休めだとは思ったが、エリクサーを口にして、中身を口移しで浮竹に飲ませた。
「俺は誰も愛さない・・・・愛さな・・・・愛されていた。創造神に。京楽に。たくさんの人たちに」
浮竹の真紅の瞳が、翡翠色に戻っていく。
「おかえり、浮竹」
「・・・・・・ただいま、京楽」
奇跡が起こった。
神の呪いに、エリクサーが効いたのだ。
神の愛の呪いに、エリクサーが応えてくれた。
「ひいいいい」
藍染は、二人の化け物に、見下ろされていた。
「ヘルインフェルノ」
「ぎゃあああああああ!!」
魔力と血を吸われた藍染は、もはや始祖魔族の力をあまりもっていなかった。
地獄の業火で焼かれ、生きたまま火あぶりにされた。
「よくも浮竹を・・・・・・」
京楽は、腰に帯びていたミスリル銀の剣で、藍染の四肢を切断した。
「ああああ、私の足が、腕が!!ぎゃあああああああ!!」
「封印する?」
「念のため。でも、魔族にも聖女がいるから、きっと救い出される」
浮竹は、始祖魔女を封印した時と同じ魔法を使った。
「エターナルアイシクルワールド!」
「この私が、封印など、されても、無意味だと」
「アイシクルランス」
「ぎゃあああああああああ!!」
浮竹は、氷の槍で藍染の心臓を突き刺した。藍染は、封印の魔法に完全に取り込まれて、その活動を停止した。
「浮竹、血を抜かれいたんでしょ!?大丈夫!?」
「ああ。全てが嫌になって、自分の首を自分ではねたら、神の呪いが発動して、血の暴走を起こしてしまった」
「!!!」
京楽は、ぎゅっと浮竹を抱きしめた。
「もう、そんな真似絶対しないで!いくら不老不死でも、しないで!」
「ああ。もうしない。約束だ」
浮竹と京楽は、唇を重ね合わせた。
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「兄様、無事でよかった!」
ブラッディ・ネイに抱き着かれて、いつもなら拒絶する浮竹であったが、今回ばかりは妹の好きなようなさせていた。
調子に乗ったブラッディ・ネイが、ロゼと浮竹の中身を交換させようとしたので、とりあえずブラッディ・ネイを殴った。
「ちぇっ。兄様は、やっぱり兄様だ」
「白哉、恋次君、俺を助けに来てくれてありがとう」
あの後、皆は竜化した恋次の背に乗って、港町まで移動して、そこからアステア大陸の血の帝国に入る船を見つけて、乗り込んだ。
後はもう帰るだけだったので、急がなかった。
浮竹は、式を飛ばしてブラッディ・ネイに自分が無事であることを知らせた。
何気にまじで魔族と戦争をおっぱじめようとしていたので、家臣たちは安堵した。
「浮竹も、本当に迷惑をかけた」
「いいよ、そんなこと。僕と君の仲でしょ?」
「ああ、そうだな」
「兄様、いちゃつくなら、古城に戻ってからにしてね」
「いちゃついてなんて!」
白哉も恋次も、目を合わせてくれなかった。
「うー」
浮竹は、京楽を抱きしめた。
「ああ、いちゃついてる!」
「いちゃついてやる!」
「僕は大歓迎だね!」
ぎゃあぎゃあ言い争いあって、とりあえあず無事を確認したので、ブラッディ・ネイは玉座に戻った。そこに、ロゼやキュリアなどの寵姫が侍った。
「お前は、相変わらず肉欲の塊だな」
「いやだなぁ、兄様。ちゃんと政治もしてるよ?」
「まぁ、そうなんだろうな。そうでなきゃ、血の帝国が8千年も続くはずがない」
「うん、そうだね、兄様」
「とりあえず、俺と京楽は古城に戻る。何かあれば、式をよこしてくれ」
「はーい」
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「さぁ、おいで十四郎」
「春水・・・その、この格好は、ある意味裸より恥ずかしいのだが」
京楽は、浮竹にサイズの大きなシャツを着せて、いわゆる彼シャツをさせていた。
「ああ、かわいいね、十四郎。黒いシャツだから、君の白い肌と髪を引き立てる」
「んあっ」
服の上から愛撫されて、浮竹は啼いていた。
下着は、つけていなかった。
「やん」
尻をさわられ、撫でられて、浮竹はこれから起こることにごくりと唾を飲みこんだ。
「あっ」
ローションを纏わせた指が、体内に入ってくる。
「はう!」
いきなり前立腺を刺激されて、浮竹のものは緩く勃ちあがった。
それを、京楽が口に含む。
「やっ!」
「いいの、間違いでしょ?」
「やん!」
浮竹も、勇気を出して京楽のものを触った。
「ああ、いいね。もっと先端を触って?そうそう、そこをこすって」
言われた通りにすると、京楽のものは精液を吐き出して、それは浮竹の顔にかかった。
「ごめん、顔しゃしちゃったね」
「ん・・・・・」
京楽がティッシュをとり、浮竹の顔をふいた。
そして、京楽は浮竹のものをジュルジュルと吸い上げる。
「ああああ!」
浮竹は、京楽の口の中に、精液を吐き出していた。
「あ・・・・」
浮竹は、期待で情欲にまみれた翡翠の瞳で、京楽を見つめていた。
「春水、今日はこのシャツを着たままするのか?」
「うん。見えそうで見えないのが、すごくいい」
「分かった・・・・」
京楽に押し倒されて、浮竹はローションを纏わせた指を入れられていた。
「ああ!」
前立腺をわざと刺激ばかりしてくるしつこい動きに、また浮竹のものが勃ちあがる。
「僕のことはいいから、いくといいよ」
「や、春水と一緒がいい!」
「全く、君はかわいいねぇ」
「んあ・・・・・」
ズチュリと、京楽のものが侵入してきた。
「あああ!」
最奥をこじあけるように、突き上げてくる。
その熱さに、どうにかなってしまいそうだった。
「あ、あああ、あ!」
きゅうきゅうと締め付けてくる結腸に、京楽は眉を顰める。
「もっと君を味わいたいけど、僕も限界みたい」
「あ、出せ。俺の胎の奥で、春水のザーメンいっぱい飲みたい」
「えっちなこという子だねぇ。どこでそんな言葉覚えてきたの」
「エロ本」
「誰の」
「ブラッディ・ネイの」
「あの同性愛者、異性のものでも集めてるの?」
「ううん。俺と京楽の情事を描いた、エロ本だった」
「なんてものもってんだい、ブラッディ・ネイ!今度借りないと!」
「春水?」
「ああ、ごめん、続きしようか」
「あ!」
内部でまた大きく硬くなったものに、浮竹が反応する。
「や、奥ごりごりしないでぇ」
「それが好きなんでしょ?」
「やあああ!!」
結腸にまで入りこんで、ごりごりと奥を圧迫する京楽のものに、最奥までえぐられて、浮竹はオーガズムでいっていた。
「ひああああ!!!」
「ああ、僕もいくよ。僕のザーメン、受けとめてね?」
「んああああ!!」
情事後、けだるそうな浮竹を抱き抱えて、風呂に入った。睦み合う前も入るが、睦み合った後も入るのが日課だった。
「京楽が咲かせた花が、いっぱいある」
硝子に映る、自分の鎖骨から胸にかけてのキスマークに、浮竹は頬を赤くした。
「浮竹、なーにキスマークで赤くなってんの」
「だって・・・・京楽のものだっていう証だから、俺は嬉しい」
そんなことを言う浮竹がかわいくて、京楽はむらむらして、風呂場でももう一回交わってしまうのだった。
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「おのれ、おぼえてろ、浮竹十四郎、京楽春水!」
魔都サラテアルで、藍染は、屈辱に震えていた。
浮竹に封印されたが、魔族の聖女によって封印は解かれた。
「何はともあれ、聖帝国への侵攻を開始する!」
浮竹の血で教化された魔族の戦士たちは、全部で400名。
先に50名を送り込み、すでに戦争は始まっていた。
聖帝国の聖帝は、誰に助けを求めればいいのか分からず、手あたり次第に援軍をよこせと手紙を書いた。
血の帝国にも、それをよこした。
「俺の血で、狂暴になった戦士たちだ。俺たちで、なんとかしよう」
「えー。兄様、真面目すぎ。それに、聖帝国と国交をしてるとはいえ、戦争に参加するのは」
「俺と京楽と、白哉や恋次君、ルキア君に一護君、冬獅郎君の面子でどうだ」
「あーもう、仕方ないねぇ。兄様は、一度決めたら聞かないんだから。許可するよ。ブッディ・ネイの名において、友軍として聖帝国に派遣するものとする!」
浮竹は知らなかった。
シスター・ノヴァが黒魔術の司祭になっていて、浮竹の命を狙っていることなど。
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