始祖なる者、ヴァンパイアマスター18
古城に、訪問者がいた。
自分を、始祖精霊にして、炎の精霊王クルル・ルデール・ファイアオブファイアと言い出した。
燃えるような赤い髪に、赤い瞳の若い美青年だった。
「単刀直入に聞く。精霊王の力を、欲しくはないか」
「あ、別にいらん」
ズコー。
炎の精霊王は、ずっこけた。
今まで、魔法を極めた者は皆、精霊王を使役することを望んだ。
それを、この浮竹という始祖ヴァンパイアは、いらないのだという。
浮竹は、身に着けている、邪気を感じとることのできる水晶を見た。
濁ってはいなかった。少なくとも、敵意はないようであった。
「我を使役できれば、もっと力が増すぞ」
「いや、俺は十分に今のままでもやっていけるからな。どうせ、試練だとかいって、我を倒してみよとか言い出すんだろう?」
「ぎくっ」
「無益な争いは好まない。炎の最高位精霊フェックスを使役だけるだけでも、十分だ」
「我の誘いを断った者は、貴殿が初めてだ」
「浮竹、この子本当に精霊王なの?」
「そうみたいだぞ。宿している魔力が半端じゃない」
「うーん、僕にはわからないけどなぁ」
炎の精霊王は、自分の魔力を隠蔽していた。それを感じ取ることができるのは、精霊王を使役できる力を有している証でもあった。
「本当に、いらぬのか」
「いらん。帰れ」
「ぐ・・・・今日は帰るが、またくる」
「もうこなくていいぞ」
「うん、こなくていいよ。ばいばい」
京楽は、浮竹に近づく怪しい青年だと、警戒しているようだった。
精霊王が帰った後の訪問者に、浮竹と京楽が驚いた。
東洋の浮竹と京楽だった。
(久しぶりだな)
(元気にしてた?)
「ああ、元気にしている。水晶のペンダントありがとう。いつでも身に着けている。おかげで、邪気があるかないかが分かって便利でいい」
「うん、ありがとね東洋の僕と浮竹」
(役に立っているようならよかった)
(うん、プレゼントした甲斐があるってもんだね)
東洋の浮竹と京楽は、仲睦まじく寄り添い合っていた。
「ねぇ、浮竹・・・・」
「却下!」
「クスン」
東洋の浮竹と京楽は、お茶をしてから、西洋の浮竹と京楽の影に潜ってしまった。
蛇神であるので、影に潜むことができるのだ。
「S級ダンジョンに行こうと思っていたんだが、一護君という少年を鍛えるために、連れていこうと思っていた。一緒に行動すればややこしくなるんだが、影に潜んでいられるなら、問題ないな」
(危なくなったら、いつでも加勢するぞ?)
(うん、ボクも)
「いや、一護君の手前もあるから、なるべく姿を潜めてほしい」
(分かったよ)
(なるべく、静かにしとく)
--------------------------------------------------
「一護君、俺たちと一緒に、S級ダンジョンにもぐらないか」
浮竹の突然の訪問に驚いたのと同時に、自分を指名する浮竹に、一護は首を傾げた。
「はあ、別にいいっすけど」
「ルキア君を守りたいんだろう?もっと強くなりたいと、思わないか?」
「そうだよ。今回は、一護君を鍛える意味も兼ねているから」
「俺だけっすか?ルキアや冬獅郎は?」
「ルキアちゃんは聖女だ。別に強くなくてもいい。冬獅郎君は、ちょっと今回炎の精霊王なる者が訪ねてきたので、氷の精霊をもつ冬獅郎君とは相性が悪いだろうから、一護君だけにすることにした」
「はぁ。なんか良く分からないけど、強くなれるんなら、そのS級ダンジョンとやらに同行するっす」
こうして、浮竹と京楽と一護は、影に東洋の浮竹と京楽を潜ませながら、S級ダンジョンに行くことになった。
50階層まである、S級ダンジョンを選んだ。
攻略に3日ほどはかかるので、3人分+2人分の食料と水をアイテムポケットに入れて、テントやら布団やら寝泊まりするのに必要なものを用意した。
「東洋の君らの食事も、一応用意するからな」
「うんうん」
(ありがとう。気を使ってくれなくても、いいんだぞ?)
「でも、影に潜んでいても腹はすくし、喉は乾くだろう」
(それはまぁ・・・・)
「5人分の食料と水を、3日分ほど用意しておいた」
(ありがとう)
(感謝するよ。S級ダンジョンなるもの、見ておきたいって、十四郎が言うものだから)
(こら、春水、それは秘密だろう)
(ああ、ごめんよ十四郎。まぁもう言ちゃったものは仕方ない)
「何ごちゃごちゃ言ってるんすか?」
「ああ、一護君、なんでもないんだ。出発しようか」
「あの、なんか準備した荷物、明らかに二人分多いんですけど」
「浮竹、隠し通すのは無理だよ」
「はぁ、仕方ないなぁ。なぁ、出てきてくれ。一護君に紹介する」
「え?」
一護は、目が点になった。
「東洋の僕らだ」
「そうそう、東洋の。蛇神で、神様でもあり妖でもあるよ」
(はじめまして、こちらの世界の一護君)
(いやぁ、ボクらの世界の一護クンにそっくりだね)
「はえ?浮竹さんと京楽さんが二人?ええええ!?」
「話せば長くなるが、東洋の、極東の島国に僕らと同じ存在がある世界があるんだ。いつもは夢渡りで俺たちもいくんだが、今回はわざわざ遊びにきてくれたんだ。まぁ、陰に潜んでいてもらうし、ダンジョン攻略は基本俺と京楽と一護君で行う。いいな?」
「え、あ、なんだか分かりませんが、違う世界の浮竹さんと京楽さんでいいんすね?」
「そうだ。飲みこみが早くて助かる」
影から姿を現していた東洋の浮竹と京楽は、蛇の形になって、それぞれ自分を同じ西洋の浮竹と京楽の影に潜った。
「なんかすげぇ。影渡り・・・。影があれば移動できる。すごいっすね」
「まぁ、神様でもあるからね」
「そういう浮竹さんも、始祖だしある意味神様に近いっすよ」
「浮竹はまぁ、神々が生きてまだこの世界にいた頃から、生きているからね」
「とりあえず、出発しましょう!」
一護は、混乱することをすっかりなかったことにして、S級ダンジョンへと足を伸ばしていった。
-------------------------------------------
S級ダンジョン、第一階層。
草原が、広がっていた。
「うわぁ、ダンジョンの中に草原がある!」
「宝箱だ!」
草原のど真ん中に置いてあった、宝箱は見るからに怪しかった。
浮竹は、早速宝箱を開けた。
ミミックだった。
「暗いよ、怖いよ、狭いよ、息苦しいよ~~~」
「何してんすか、あれ」
「いや、浮竹はダンジョンで宝箱を見たら、ミミックにかじられるのが好きなんだよ」
(何してるのあれ)
(ミミックに齧られるんじゃないの?)
「浮竹、ほら、東洋の僕らも呆れているよ!君のミミック好きにも、困ったものだね」
「京楽さん、助けなくていいんすか」
「一護君が助けてごらん」
「ていや!えい!」
一護は、ミミックを蹴ったり殴ったりしていた。
「うわあああ、ミミックが更に噛んでくる!」
「俺じゃ無理みたいっす」
(ねぇ、西洋の十四郎は、本当にヴァンパイアの始祖なんだよね?全然そうは見えないんだけど)
(う、それは俺も思った)
「ほらほら、東洋の僕らが、呆れているよ」
「京楽、助けてくれー」
「仕方ないねぇ」
京楽は、浮竹の体を引っ張り出すのではなく、押し込んだ。
ミミックがおえっとなって、浮竹を離す。
「ファイアボール!」
浮竹は、ミミックを退治した。
後には、魔法書が残されていた。
「やった、魔法書だ。何々、雨の色を変える魔法。へぇ、面白そうだ」
早速、浮竹は習得する。
すると、都合のいいことに、空の天気が崩れて小ぶりの雨が降ってきた。
「ブルーレイン!」
浮竹が呪文を唱えると、雨粒が青くなった。
「レッドレイン」
今度は、赤くなった。
「なんだこれ、けっこうおもしろい。それに綺麗だ」
「いい魔法書でよかったね、浮竹」
「ああ」
浮竹はにこにこしていた。
雨は、すぐにやんでしまった。
一階層は、色違いのスライムが出た。スライムといっても、巨大な個体で、一護がジャンプしてコアのある部分に、魔剣で電撃を浴びせた。
スライムを、そんな風に倒して、2階層にまできた。
ゴースト系のモンスターが出た。
浮竹が、炎の魔法で屠っていく。
そんな調子で、5階層まで進み、ボスのワイバーン3体をやっつけると、宝物個への扉が開いた。
「金銀財宝だ!金だ!」
「うわぁ、浮竹さん世俗にまみれてる」
一護がそう言った。
うきうきと浮竹は宝物個の宝箱を開けた。
中には、金銀財宝がつまっていたが、浮竹はあからさま残念そうだった。
「どうしたの、浮竹」
「宝箱が、普通だった。ミミックじゃなかった・・・・・」
「そこ、残念がるとこなんすか!?」
(あっはははは)
(ちょっと、十四郎、笑っちゃかわいそうだよ。ぷくくく)
「俺はミミック教を布教している。信者は俺一人!だけど東洋の俺たち、ぜひミミック教に」
(うわぁ、西洋の俺少しやばいと言うかイカれているな)
(ミミック教。いくところまで、いっちゃってるね。ミミック教ってネーミングセンスもばいね)
影の中で、東洋の京楽は肩すくめていた。
「ほらほら浮竹、東洋の僕らが引いてるよ。ミミック教は君一人で楽しんでなさいな」
「残念。ミミックのかじられるあの快感が、分からないとは」
「いや、普通痛いっすよ!」
「一護君、ミミックに関したら浮竹はただのアホだから、放置してていいよ」
「アホっていうな!聞こえてるぞ」
浮竹は、炎の矢で京楽の尻を燃やした。
「あちちちち」
(仲いいのか悪いのか、分からないな)
(仲はいいでしょ。じゃなきゃ、一緒にいないさ)
「じゃあ、6階層に行こう」
浮竹は、文句を垂れながらも、財宝をアイテムポケットにしまいこんだ。
一護を中心として、敵を倒していく。
「俺、強くなってるんすかね?」
「初めの頃より、動きが綺麗だし、魔法も使えるようになってる」
そう、一護はこのS級ダンジョンにきて、初めて魔法が使えるようになっていた。
今まで、魔剣を通してしか、魔法は使えなかったし、雷系の魔法のみだった。
10階層で、水の精霊の乙女、ウンディーネを倒したことで、一護は魔剣の媒介なしに、雷と水の魔法を使えるようになっていた。
「このダンジョンに来てよかったっす。まさか、俺が魔法を使えるようになるなんて。ルキアのやつ、驚くだろうな。冬獅郎も、驚くな、きっと」
「俺も驚いている。ここまで一気に成長するとは思わなかった。一護君は、精霊を使役していなかったから、今まで使えなかっただけで、魔法の素質はあったんだろうな。10階層のウンディーネを倒した時、強制契約になったんだろう。それがきっかけで、魔法が使えるようになったんだと思うぞ」
「確かに、一護クンがもってる魔力は高いからね。魔法が、魔剣を媒介にしないと使えないと聞いて、少し不思議におもっていたんだよ。素質はあったんだね、やっぱり」
京楽と浮竹に褒められて、一護は照れ臭そうにしていた。
10階層の財宝をもっていたのは、ミミックだった。
「ミミックだ!やった!」
浮竹が、ミミックだと分かっているのに突っ込んでいく。
「いつもより痛い~。暗いよ狭いよ怖いよ痛いよ~」
「はいはい」
京楽が、浮竹を救出する。
ミミックは、ハイミミックだった。
エンシェントミミックの次に強いミミックだった。
「ウォーターボール!」
一護が、ハイミミックにトドメを刺した。
ばさりと、古代の魔法書が3冊と、金銀財宝が出てきた。
浮竹は、金銀財宝よりも、古代の魔法書に興奮していた。
「何々、髪がアフロになる魔法、どこでも耳かき棒が出る魔法、しもやけが治る魔法・・・・民間魔法ばかりか」
浮竹が、何故か熱のこもった視線で京楽を見つめていた。
「嫌だからね!僕を実験台にしないでよ!アフロになんて、なりたくないからね!」
「一護君・・・・」
「俺も嫌っす」
しゅんと、浮竹は項垂れた。
(・・・・ボクもパス)
(・・・・おれも遠慮しとく)
京楽と浮竹の影から、そんな声が聞こえてくる。
----------------------------------------------------------
(ボクの十四郎は、いっちゃたりしてないし、やっぱりボクの十四郎が一番だね)
「そんなことないよ!確かに今の浮竹はいっちゃってるけど、いつもはかわいいし、美人だし、気品があるし、強いし、頼りがいがあるし、それからそれから」
(ボクの十四郎は、更にその上をいくからね)
「僕の浮竹だって、もっともっと、いいところいっぱいあるんだから!エロいし!」
東洋と西洋の京楽の言い合いに、東洋と西洋の浮竹は真っ赤になっていた。
真っ赤になった西洋の浮竹に、同じ西洋の京楽さんは殴られた。
そして、影の中で、東洋の浮竹は同じ東洋の京楽の着物の裾を引っ張るのだった。
15階層のボス、風の精霊シルフィードを倒して、今日はその宝物庫で寝ることにした。
テントを、3つはった。
それぞれ、一護、西洋の浮竹と京楽、東洋の京楽といった感じで別れた。
一護は、西洋の浮竹と京楽にまたびっくりしながらも、ごく普通に接してくれた。
「このダンジョン・・・・少しおかしい」
「何が?」
「ボスが精霊なんて、普通はありえない。このままいけば、最下層は多分・・・・炎の精霊王だ」
「なんだって!引き返すかい?」
「いや、ここまできたんだ。精霊王が相手でも、負ける気はしない」
「浮竹さん、京楽さん、最下層が精霊王ってほんとっすか。俺じゃあ足手まといになるんじゃないっすか」
「いや、このダンジョンの潜る理由は元々一護君を成長させるためだ。一護君にも、参戦してもらう。水の魔法が弱点だろうし」
「はい!」
一護は、顔を輝かせた。
そうやって三日かけて、やがて最深部の50階層に到達した。
合計、115回浮竹はミミックにかまれていた。
「きたな」
「やっぱりいたな、炎の精霊王」
「我が名は炎の精霊王クルル・ルデール・ファイアオブファイア。さぁ、我が試練に・・・・・・」
「アイシクルランス!」
「ウォーターボール!」
浮竹と一護が、最後まで言わせず氷と水の魔法を放つ。
「ちょっと待て、話を聞け、我は・・・・・・・」
「ブリザードオブデス!」
「アクアエレメンタルストーム!」
京楽も、剣に氷の魔法をエンチャントして、精霊王に切りかかった。
「だああああ、ファイアオブファイア!」
炎の精霊王が放った魔法に、三人は飲みこまれた。
浮竹が、炎のシールドを展開して、魔法を吸収して、放つ。
「ファイアオブファイア!」
「我に、炎の魔法など効かぬ・・・・うおおおおおおおおお」
その威力に、炎の精霊王は、長い見事な赤い髪を焦がしていた。
「我の魔法より、上だというのか。創造神ルシエードの子、始祖のヴァンパイアよ」
「創造神ルシエードは俺の父。俺は始祖のヴァンパイアマスター、浮竹十四郎。喰らうがいい、エターナルアイシクルワールド!」
氷の禁呪の魔法で、炎の精霊王は体を凍てつかせていた。
「見事だ、浮竹十四郎。我は汝、汝は我。我、炎の精霊王クルル・ルデール・ファイアオブファイアは、汝を主と認めよう」
「あれ?終わったの?」
京楽が、てっきり死闘になると思っていたがのだが、割とあっけなく精霊の使役としての契約が終わったことに、驚いていた。
「京楽も一護君もお疲れ!これで、S級ダンジョンは踏破だ!」
「やったあ!」
「本当っすか!?ルキアに、自慢できる」
「我は、これより汝の力となるであろう。だが、我の召還には膨大な魔力を伴う。そのリスクを、念頭に置いておけ」
そう言って、炎の精霊王は、浮竹の中に消えていった。
(炎の精霊王を使役する始祖ヴァンパイア・・・・・くやしいけど、かっこいいな)
(確かに精霊の王を従えるなんて、凄いね)
「そうだろう、そうだろう、東洋の僕。僕の浮竹は、精霊王、神に近い存在も操れる、大陸でも類を見ない魔法の使い手なんだよ」
ここぞとばかりに、いばりちらしてくる西洋の京楽に、東洋の京楽は頷いた。
(確かに、すごいね。でも、ボクの十四郎も負けていないよ?)
(あれは俺でもできないぞ?)
(知ってるけど?・・・・行け、影蛇)
突如、東洋の浮竹の影から蛇を出す東洋の京楽に、西洋の京楽も浮竹も驚く。
(・・・・・はい、どうぞ)
(え?ああ・・・・そう言うことか)
東洋の京楽は、東洋の浮竹にそれだけ言う。すると、東洋の浮竹は全てを察し、自身の指を切り血を滴らせ蛇に与える。
すると、ぼんやりとした影であった蛇が、黒い立派な蛇へと変わり西洋の浮竹と京楽を見て首を傾げている。
「おお、凄いな。そんなこともできるのか」
「これはまた、違った意味で凄いね」
そんな西洋と東洋の浮竹と京楽のやり取りを、一護は不思議な気持ちで見ていた。
そうして、S級ダンジョンを踏破した3人と2人は、ダンジョンの外に出た。
自分を、始祖精霊にして、炎の精霊王クルル・ルデール・ファイアオブファイアと言い出した。
燃えるような赤い髪に、赤い瞳の若い美青年だった。
「単刀直入に聞く。精霊王の力を、欲しくはないか」
「あ、別にいらん」
ズコー。
炎の精霊王は、ずっこけた。
今まで、魔法を極めた者は皆、精霊王を使役することを望んだ。
それを、この浮竹という始祖ヴァンパイアは、いらないのだという。
浮竹は、身に着けている、邪気を感じとることのできる水晶を見た。
濁ってはいなかった。少なくとも、敵意はないようであった。
「我を使役できれば、もっと力が増すぞ」
「いや、俺は十分に今のままでもやっていけるからな。どうせ、試練だとかいって、我を倒してみよとか言い出すんだろう?」
「ぎくっ」
「無益な争いは好まない。炎の最高位精霊フェックスを使役だけるだけでも、十分だ」
「我の誘いを断った者は、貴殿が初めてだ」
「浮竹、この子本当に精霊王なの?」
「そうみたいだぞ。宿している魔力が半端じゃない」
「うーん、僕にはわからないけどなぁ」
炎の精霊王は、自分の魔力を隠蔽していた。それを感じ取ることができるのは、精霊王を使役できる力を有している証でもあった。
「本当に、いらぬのか」
「いらん。帰れ」
「ぐ・・・・今日は帰るが、またくる」
「もうこなくていいぞ」
「うん、こなくていいよ。ばいばい」
京楽は、浮竹に近づく怪しい青年だと、警戒しているようだった。
精霊王が帰った後の訪問者に、浮竹と京楽が驚いた。
東洋の浮竹と京楽だった。
(久しぶりだな)
(元気にしてた?)
「ああ、元気にしている。水晶のペンダントありがとう。いつでも身に着けている。おかげで、邪気があるかないかが分かって便利でいい」
「うん、ありがとね東洋の僕と浮竹」
(役に立っているようならよかった)
(うん、プレゼントした甲斐があるってもんだね)
東洋の浮竹と京楽は、仲睦まじく寄り添い合っていた。
「ねぇ、浮竹・・・・」
「却下!」
「クスン」
東洋の浮竹と京楽は、お茶をしてから、西洋の浮竹と京楽の影に潜ってしまった。
蛇神であるので、影に潜むことができるのだ。
「S級ダンジョンに行こうと思っていたんだが、一護君という少年を鍛えるために、連れていこうと思っていた。一緒に行動すればややこしくなるんだが、影に潜んでいられるなら、問題ないな」
(危なくなったら、いつでも加勢するぞ?)
(うん、ボクも)
「いや、一護君の手前もあるから、なるべく姿を潜めてほしい」
(分かったよ)
(なるべく、静かにしとく)
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「一護君、俺たちと一緒に、S級ダンジョンにもぐらないか」
浮竹の突然の訪問に驚いたのと同時に、自分を指名する浮竹に、一護は首を傾げた。
「はあ、別にいいっすけど」
「ルキア君を守りたいんだろう?もっと強くなりたいと、思わないか?」
「そうだよ。今回は、一護君を鍛える意味も兼ねているから」
「俺だけっすか?ルキアや冬獅郎は?」
「ルキアちゃんは聖女だ。別に強くなくてもいい。冬獅郎君は、ちょっと今回炎の精霊王なる者が訪ねてきたので、氷の精霊をもつ冬獅郎君とは相性が悪いだろうから、一護君だけにすることにした」
「はぁ。なんか良く分からないけど、強くなれるんなら、そのS級ダンジョンとやらに同行するっす」
こうして、浮竹と京楽と一護は、影に東洋の浮竹と京楽を潜ませながら、S級ダンジョンに行くことになった。
50階層まである、S級ダンジョンを選んだ。
攻略に3日ほどはかかるので、3人分+2人分の食料と水をアイテムポケットに入れて、テントやら布団やら寝泊まりするのに必要なものを用意した。
「東洋の君らの食事も、一応用意するからな」
「うんうん」
(ありがとう。気を使ってくれなくても、いいんだぞ?)
「でも、影に潜んでいても腹はすくし、喉は乾くだろう」
(それはまぁ・・・・)
「5人分の食料と水を、3日分ほど用意しておいた」
(ありがとう)
(感謝するよ。S級ダンジョンなるもの、見ておきたいって、十四郎が言うものだから)
(こら、春水、それは秘密だろう)
(ああ、ごめんよ十四郎。まぁもう言ちゃったものは仕方ない)
「何ごちゃごちゃ言ってるんすか?」
「ああ、一護君、なんでもないんだ。出発しようか」
「あの、なんか準備した荷物、明らかに二人分多いんですけど」
「浮竹、隠し通すのは無理だよ」
「はぁ、仕方ないなぁ。なぁ、出てきてくれ。一護君に紹介する」
「え?」
一護は、目が点になった。
「東洋の僕らだ」
「そうそう、東洋の。蛇神で、神様でもあり妖でもあるよ」
(はじめまして、こちらの世界の一護君)
(いやぁ、ボクらの世界の一護クンにそっくりだね)
「はえ?浮竹さんと京楽さんが二人?ええええ!?」
「話せば長くなるが、東洋の、極東の島国に僕らと同じ存在がある世界があるんだ。いつもは夢渡りで俺たちもいくんだが、今回はわざわざ遊びにきてくれたんだ。まぁ、陰に潜んでいてもらうし、ダンジョン攻略は基本俺と京楽と一護君で行う。いいな?」
「え、あ、なんだか分かりませんが、違う世界の浮竹さんと京楽さんでいいんすね?」
「そうだ。飲みこみが早くて助かる」
影から姿を現していた東洋の浮竹と京楽は、蛇の形になって、それぞれ自分を同じ西洋の浮竹と京楽の影に潜った。
「なんかすげぇ。影渡り・・・。影があれば移動できる。すごいっすね」
「まぁ、神様でもあるからね」
「そういう浮竹さんも、始祖だしある意味神様に近いっすよ」
「浮竹はまぁ、神々が生きてまだこの世界にいた頃から、生きているからね」
「とりあえず、出発しましょう!」
一護は、混乱することをすっかりなかったことにして、S級ダンジョンへと足を伸ばしていった。
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S級ダンジョン、第一階層。
草原が、広がっていた。
「うわぁ、ダンジョンの中に草原がある!」
「宝箱だ!」
草原のど真ん中に置いてあった、宝箱は見るからに怪しかった。
浮竹は、早速宝箱を開けた。
ミミックだった。
「暗いよ、怖いよ、狭いよ、息苦しいよ~~~」
「何してんすか、あれ」
「いや、浮竹はダンジョンで宝箱を見たら、ミミックにかじられるのが好きなんだよ」
(何してるのあれ)
(ミミックに齧られるんじゃないの?)
「浮竹、ほら、東洋の僕らも呆れているよ!君のミミック好きにも、困ったものだね」
「京楽さん、助けなくていいんすか」
「一護君が助けてごらん」
「ていや!えい!」
一護は、ミミックを蹴ったり殴ったりしていた。
「うわあああ、ミミックが更に噛んでくる!」
「俺じゃ無理みたいっす」
(ねぇ、西洋の十四郎は、本当にヴァンパイアの始祖なんだよね?全然そうは見えないんだけど)
(う、それは俺も思った)
「ほらほら、東洋の僕らが、呆れているよ」
「京楽、助けてくれー」
「仕方ないねぇ」
京楽は、浮竹の体を引っ張り出すのではなく、押し込んだ。
ミミックがおえっとなって、浮竹を離す。
「ファイアボール!」
浮竹は、ミミックを退治した。
後には、魔法書が残されていた。
「やった、魔法書だ。何々、雨の色を変える魔法。へぇ、面白そうだ」
早速、浮竹は習得する。
すると、都合のいいことに、空の天気が崩れて小ぶりの雨が降ってきた。
「ブルーレイン!」
浮竹が呪文を唱えると、雨粒が青くなった。
「レッドレイン」
今度は、赤くなった。
「なんだこれ、けっこうおもしろい。それに綺麗だ」
「いい魔法書でよかったね、浮竹」
「ああ」
浮竹はにこにこしていた。
雨は、すぐにやんでしまった。
一階層は、色違いのスライムが出た。スライムといっても、巨大な個体で、一護がジャンプしてコアのある部分に、魔剣で電撃を浴びせた。
スライムを、そんな風に倒して、2階層にまできた。
ゴースト系のモンスターが出た。
浮竹が、炎の魔法で屠っていく。
そんな調子で、5階層まで進み、ボスのワイバーン3体をやっつけると、宝物個への扉が開いた。
「金銀財宝だ!金だ!」
「うわぁ、浮竹さん世俗にまみれてる」
一護がそう言った。
うきうきと浮竹は宝物個の宝箱を開けた。
中には、金銀財宝がつまっていたが、浮竹はあからさま残念そうだった。
「どうしたの、浮竹」
「宝箱が、普通だった。ミミックじゃなかった・・・・・」
「そこ、残念がるとこなんすか!?」
(あっはははは)
(ちょっと、十四郎、笑っちゃかわいそうだよ。ぷくくく)
「俺はミミック教を布教している。信者は俺一人!だけど東洋の俺たち、ぜひミミック教に」
(うわぁ、西洋の俺少しやばいと言うかイカれているな)
(ミミック教。いくところまで、いっちゃってるね。ミミック教ってネーミングセンスもばいね)
影の中で、東洋の京楽は肩すくめていた。
「ほらほら浮竹、東洋の僕らが引いてるよ。ミミック教は君一人で楽しんでなさいな」
「残念。ミミックのかじられるあの快感が、分からないとは」
「いや、普通痛いっすよ!」
「一護君、ミミックに関したら浮竹はただのアホだから、放置してていいよ」
「アホっていうな!聞こえてるぞ」
浮竹は、炎の矢で京楽の尻を燃やした。
「あちちちち」
(仲いいのか悪いのか、分からないな)
(仲はいいでしょ。じゃなきゃ、一緒にいないさ)
「じゃあ、6階層に行こう」
浮竹は、文句を垂れながらも、財宝をアイテムポケットにしまいこんだ。
一護を中心として、敵を倒していく。
「俺、強くなってるんすかね?」
「初めの頃より、動きが綺麗だし、魔法も使えるようになってる」
そう、一護はこのS級ダンジョンにきて、初めて魔法が使えるようになっていた。
今まで、魔剣を通してしか、魔法は使えなかったし、雷系の魔法のみだった。
10階層で、水の精霊の乙女、ウンディーネを倒したことで、一護は魔剣の媒介なしに、雷と水の魔法を使えるようになっていた。
「このダンジョンに来てよかったっす。まさか、俺が魔法を使えるようになるなんて。ルキアのやつ、驚くだろうな。冬獅郎も、驚くな、きっと」
「俺も驚いている。ここまで一気に成長するとは思わなかった。一護君は、精霊を使役していなかったから、今まで使えなかっただけで、魔法の素質はあったんだろうな。10階層のウンディーネを倒した時、強制契約になったんだろう。それがきっかけで、魔法が使えるようになったんだと思うぞ」
「確かに、一護クンがもってる魔力は高いからね。魔法が、魔剣を媒介にしないと使えないと聞いて、少し不思議におもっていたんだよ。素質はあったんだね、やっぱり」
京楽と浮竹に褒められて、一護は照れ臭そうにしていた。
10階層の財宝をもっていたのは、ミミックだった。
「ミミックだ!やった!」
浮竹が、ミミックだと分かっているのに突っ込んでいく。
「いつもより痛い~。暗いよ狭いよ怖いよ痛いよ~」
「はいはい」
京楽が、浮竹を救出する。
ミミックは、ハイミミックだった。
エンシェントミミックの次に強いミミックだった。
「ウォーターボール!」
一護が、ハイミミックにトドメを刺した。
ばさりと、古代の魔法書が3冊と、金銀財宝が出てきた。
浮竹は、金銀財宝よりも、古代の魔法書に興奮していた。
「何々、髪がアフロになる魔法、どこでも耳かき棒が出る魔法、しもやけが治る魔法・・・・民間魔法ばかりか」
浮竹が、何故か熱のこもった視線で京楽を見つめていた。
「嫌だからね!僕を実験台にしないでよ!アフロになんて、なりたくないからね!」
「一護君・・・・」
「俺も嫌っす」
しゅんと、浮竹は項垂れた。
(・・・・ボクもパス)
(・・・・おれも遠慮しとく)
京楽と浮竹の影から、そんな声が聞こえてくる。
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(ボクの十四郎は、いっちゃたりしてないし、やっぱりボクの十四郎が一番だね)
「そんなことないよ!確かに今の浮竹はいっちゃってるけど、いつもはかわいいし、美人だし、気品があるし、強いし、頼りがいがあるし、それからそれから」
(ボクの十四郎は、更にその上をいくからね)
「僕の浮竹だって、もっともっと、いいところいっぱいあるんだから!エロいし!」
東洋と西洋の京楽の言い合いに、東洋と西洋の浮竹は真っ赤になっていた。
真っ赤になった西洋の浮竹に、同じ西洋の京楽さんは殴られた。
そして、影の中で、東洋の浮竹は同じ東洋の京楽の着物の裾を引っ張るのだった。
15階層のボス、風の精霊シルフィードを倒して、今日はその宝物庫で寝ることにした。
テントを、3つはった。
それぞれ、一護、西洋の浮竹と京楽、東洋の京楽といった感じで別れた。
一護は、西洋の浮竹と京楽にまたびっくりしながらも、ごく普通に接してくれた。
「このダンジョン・・・・少しおかしい」
「何が?」
「ボスが精霊なんて、普通はありえない。このままいけば、最下層は多分・・・・炎の精霊王だ」
「なんだって!引き返すかい?」
「いや、ここまできたんだ。精霊王が相手でも、負ける気はしない」
「浮竹さん、京楽さん、最下層が精霊王ってほんとっすか。俺じゃあ足手まといになるんじゃないっすか」
「いや、このダンジョンの潜る理由は元々一護君を成長させるためだ。一護君にも、参戦してもらう。水の魔法が弱点だろうし」
「はい!」
一護は、顔を輝かせた。
そうやって三日かけて、やがて最深部の50階層に到達した。
合計、115回浮竹はミミックにかまれていた。
「きたな」
「やっぱりいたな、炎の精霊王」
「我が名は炎の精霊王クルル・ルデール・ファイアオブファイア。さぁ、我が試練に・・・・・・」
「アイシクルランス!」
「ウォーターボール!」
浮竹と一護が、最後まで言わせず氷と水の魔法を放つ。
「ちょっと待て、話を聞け、我は・・・・・・・」
「ブリザードオブデス!」
「アクアエレメンタルストーム!」
京楽も、剣に氷の魔法をエンチャントして、精霊王に切りかかった。
「だああああ、ファイアオブファイア!」
炎の精霊王が放った魔法に、三人は飲みこまれた。
浮竹が、炎のシールドを展開して、魔法を吸収して、放つ。
「ファイアオブファイア!」
「我に、炎の魔法など効かぬ・・・・うおおおおおおおおお」
その威力に、炎の精霊王は、長い見事な赤い髪を焦がしていた。
「我の魔法より、上だというのか。創造神ルシエードの子、始祖のヴァンパイアよ」
「創造神ルシエードは俺の父。俺は始祖のヴァンパイアマスター、浮竹十四郎。喰らうがいい、エターナルアイシクルワールド!」
氷の禁呪の魔法で、炎の精霊王は体を凍てつかせていた。
「見事だ、浮竹十四郎。我は汝、汝は我。我、炎の精霊王クルル・ルデール・ファイアオブファイアは、汝を主と認めよう」
「あれ?終わったの?」
京楽が、てっきり死闘になると思っていたがのだが、割とあっけなく精霊の使役としての契約が終わったことに、驚いていた。
「京楽も一護君もお疲れ!これで、S級ダンジョンは踏破だ!」
「やったあ!」
「本当っすか!?ルキアに、自慢できる」
「我は、これより汝の力となるであろう。だが、我の召還には膨大な魔力を伴う。そのリスクを、念頭に置いておけ」
そう言って、炎の精霊王は、浮竹の中に消えていった。
(炎の精霊王を使役する始祖ヴァンパイア・・・・・くやしいけど、かっこいいな)
(確かに精霊の王を従えるなんて、凄いね)
「そうだろう、そうだろう、東洋の僕。僕の浮竹は、精霊王、神に近い存在も操れる、大陸でも類を見ない魔法の使い手なんだよ」
ここぞとばかりに、いばりちらしてくる西洋の京楽に、東洋の京楽は頷いた。
(確かに、すごいね。でも、ボクの十四郎も負けていないよ?)
(あれは俺でもできないぞ?)
(知ってるけど?・・・・行け、影蛇)
突如、東洋の浮竹の影から蛇を出す東洋の京楽に、西洋の京楽も浮竹も驚く。
(・・・・・はい、どうぞ)
(え?ああ・・・・そう言うことか)
東洋の京楽は、東洋の浮竹にそれだけ言う。すると、東洋の浮竹は全てを察し、自身の指を切り血を滴らせ蛇に与える。
すると、ぼんやりとした影であった蛇が、黒い立派な蛇へと変わり西洋の浮竹と京楽を見て首を傾げている。
「おお、凄いな。そんなこともできるのか」
「これはまた、違った意味で凄いね」
そんな西洋と東洋の浮竹と京楽のやり取りを、一護は不思議な気持ちで見ていた。
そうして、S級ダンジョンを踏破した3人と2人は、ダンジョンの外に出た。
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