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始祖なる者、ヴァンパイアマスター2

ホウホウ。

梟の鳴き声で、浮竹は目を覚ました。

京楽と同じベッドで眠っていた。窓辺には、城全体に結界を張っておいたにも拘わらず、梟が開け放たれた窓から入ってきて、浮竹の手に止まった。

足に付けられた紙をとって、梟を外の森に放つ。

窓を閉めた。

夜の肌寒い空気に、眠っていた京楽が起きた。

「寒い・・・・浮竹、どうしたの」

「いや、なんでもない。寝てくれ」

「眠いから、お言葉に甘えるけど、浮竹ももっかい寝なよ。夜明けまで、大分時間あるから」

浮竹と京楽は、ヴァンパイアであるが、朝から夕方にかけて生活していた。

ヴァパイアは夜の住人であるが、京楽が人の名残で、朝方に目を覚ましてしまうので、浮竹もそんな生活に付き合っていると、すっかり昼型のヴァンパイアになってしまった。


梟がもってきた手紙を読む。

浮竹は、頭を抱えた。

向かい側の大陸にある、血の帝国。女帝ブラッディ・ネイが治める、ヴァパイアだけの楽園。

ブラッディ・ネイは浮竹の実の妹だ。

本当の名を、浮竹白(しろ)。

始祖である浮竹の次に生まれた、ヴァンパイアであった。浮竹を生み出した神は、この世界を創造してから間もなく、異界に旅立ってしまった。

浮竹は、その神の寵児。

同じ寵児である、ブラッディ・ネイは始祖ではないので、何度か死んだ。

死ぬ度に転生を繰り返し、ヴァンパイアの皇族の中に生まれ、芽吹き、女帝となる。女帝となるために、10歳以上の少女の中に転生して、元の少女の意識を丸ごと飲みこんで、女帝として君臨した。

女帝、ブラッディ・ネイがいないのは、死後の数日だけ。

数日かけて、ブラッディ・ネイは復活する。

我が子がブラッディ・ネイになるのを、少女の元の母親と父親であった者は喜んだ。神でもあるブラッディ・ネイの血を与えられて。

ヴァンパイアは不老であるが、不死ではない。

その寿命は、個体にもよるが大体千歳程度だった。

千歳以上を生きるのヴァンパイアは、時にヴァンパイアロードとも呼ばれる、始祖の血を口にした者。

ブラッディ・ネイは、10代前半の少女を好き好んで、ヴァンパイアロードにした。その少女たちは、ブラッディ・ネイのお気に入りとして、可愛がれた。

ブラッディ・ネイは同性愛者だ。始祖の浮竹もまた、男を愛する傾向にあった。

生まれた頃は、姿形もほとんど同じで、よく間違われた。

そして、互いに子を成すことはできない、不完全品であった。だが、ヴァンパイアは血を与えればその相手を同じヴァンパイアにできるので、問題はなかった。


今のブラッディ・ネイは・・・・確か、6代目か。8千年続く血の帝国の、6代目女帝、ブラッディ・ネイ6世。

そのブラッディ・ネイが死去した。

半年も経つのに、次のブラッディ・ネイが覚醒しない。

手紙の内容は、そんなことを書いてあった。他にも続きがあった。

これまた厄介なことで。

(どうか、7代目ブラッディ・ネイを見つけてください。実の兄である始祖のあなたなら分かるはず。もしもブラッディ・ネイが本当に死んだのであれば、皇族の少女の一人を血族にして血を分け与えてやってください。始祖のあなたの血をもらった者が、新たなブラッディ・ネイとなり、先代のブラッディ・ネイの残した膨大な記憶を受け継いで女帝となります)

簡潔に書いてあったが、内容は複雑だ。

ブラッディ・ネイが本当に死んだとも思えない。

あれは、少女の、ヴァンパイアの形をしたモンスターだ。

同胞の血肉を喰らう。

死なない程度に血肉を喰らい、再生させた。

ブラッディ・ネイの食事は生きたヴァンパイアであった。

だが、食われるヴァンパイアはそれを名誉として受け入れ、嬉しがる。

ブラッディ・ネイは1日に3人のヴァンパイアを食べた。命までは奪わない。再生をさせて、礼としてブラッディ・ネイの涙をもらえる。

ブラッディ・ネイの涙は血と同じで、寿命を延ばす。

ヴァンパイアロードほどではないが、大幅に寿命が延びるので、ブラッディ・ネイに食べられたがる者は多かった。

「ああ、関係ないと、しらをきりたいんだがなぁ。そうはいかんだろうなぁ」

実の兄である、浮竹のところに手紙がやってきたのだ。

ブラッディ・ネイは多分死んでいない。

なんらかの方法で、覚醒を邪魔されている。もしくは、自分から覚醒をしていないか。

神の寵児である始祖とその血脈をもつ者を、殺せる者は存在しない。

例え、それがヴァンパイアハンターでも。

死しても、浮竹は生き返る。灰となっても、復活する。それは、始祖の呪い。永遠の生命。

親であった創造神は、浮竹に世界の在り方を学ばせた。

今の浮竹にはうろ覚えの記憶だったが。

神代(かみよ)の時代から生きる浮竹に、昔の記憶はあまりない。情報量が多すぎるので、古い順から欠落していくのだ。

ブラッディ・ネイは、その欠落していく古い記憶を、魔法を使って水晶に封じ込めて、覚醒してから水晶を使い、前世の記憶を呼び覚まさせる。

血の帝国は、その名の通り、血の幕を帝国中の空にはっていて、太陽の日光が当たらない。そんな安全な世界で、ヴァンパイアたちは人工血液を口にして、偉大な統治者の女帝を崇め、与えられた職につき、一生を終える。

食事も賃金も住むところも、全部用意されていた。

浮竹は、血の帝国が嫌いだった。

何処へ行っても、真紅の瞳をしたヴァンパイアで満ちていた。自由がなかった。自由に生きようとするヴァンパイアがいなかった。

血をくれと、せがまれた。

女帝の兄として、女帝ブラッディ・ネイの補佐をしていたが、ある日嫌気がさして出奔した。

血の帝国をふらふらして、そして人間の世界に出た。血の帝国では人間は生きれないので、血の帝国から出るヴァンパイアは少なかった。

浮竹が眷属にした者たちが、ヴァンパイアとなって世界中に散っていった。始めは、浮竹一人だった。浮竹が血を与えて血族したヴァンパイアが、また次の人間に血を与えてヴァンパイアにした。

そんな方法で増えていったヴァンパイアは、人工血液を血の帝国から得ることができず、人を襲って血を啜った。そして殺した。

そして、ヴァンパイアハンターは生まれた。

ある一人のヴァンパイアは、千人の処女の生き血を啜り、始祖の血なしでヴァンパイアロードへと至った。

冷酷なヴァンパイアが増えた。

血の大陸から、人工血液を輸入できるようになったのに、ヴァンパイアたちは人間を襲った。

浮竹が飲む人工血液も、血の帝国から輸出されたものだ。

もうかなり古い友人である、朽木白哉からもらっていた。

白哉の両親が、浮竹から血を分け与えられたヴァンパイアロードだった。皇族ということになっている。

血の帝国に、妹の朽木ルキアという皇女がいる。その守護騎士が、黒崎一護。

驚いたことに、黒崎一護は人間とヴァンパイアの間に生まれたヴァンピールだった。

人間とヴァンパイアが愛し合う世界もあるのだと、その存在を知った時、感銘を受けた。


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浮竹は、京楽に全てを話し、血の帝国に旅立つことにした。

「君の妹か~。きっと、君に似てかわいくて綺麗なんだろうなぁ」

「想像するのは簡単だが、死んでは転生を繰り返して、10代の少女に命を宿らせて女帝として復活する化け物だぞ」

「僕たちだって、人間から見れば立派な化け物じゃない」

「あれは・・・もう、俺の手には負えない、はっきり言って。まぁ、匂いだけはわかるから、一応探してはみるが、封印されているとしたら、誰が封印しているかだ。あれは、一応始祖の次に長生きの、神の寵児だからな」

浮竹が化け物というブラッディ・ネイに、京楽はますます会いたくなった。

浮竹と京楽は、使者としてやってきた、黒髪の美しい青年と一緒に、馬車で揺られていた。

「それで、この子は?」

「朽木白哉。俺たちを、血の帝国まで案内してくれる」

「朽木白哉だ。名乗るのが遅れた。すまぬ」

「二人旅を想像してたんだけどねぇ。新婚旅行みたいな」

「兄は、そんな気持ちで血の帝国に行くのか?」

「いや白哉、こいつは俺と一緒に生活してただけで、ヴァンパイアとしての常識とか欠落してるから、多めに見てやってくれ」

「ふん」

白哉は、面白くなさそうに、浮竹のほうを見ていた。

「兄の趣味は変わったか?前は、もっと純粋そうなのを血族にしていたであろう」

「いや、死にかけてたから血族にしたんだけど。まぁ、俺は白哉も好きだけど、京楽のことも大好きだから」

その言葉に、京楽が文句を垂れる。

「何、この白哉って子のこと好きなの?」

「血族の子だからな。俺にとっては実の息子のようなものだ。血の帝国にいた頃からの付き合いでな。一応皇族だから、あまり文句を垂れないように。不敬罪として切り捨てられても、知らないぞ」

「何それ怖い」

京楽は、浮竹の後ろに隠れた。

普通なら、浮竹が京楽の後ろに隠れるのだが、今回ばかりは血の帝国に行くためには、血の帝国内部からの手助けがいった。

この大陸では、血の帝国に向かう船がない。

なので、白哉が血の帝国を出て、わざわざ迎えの船のをよこしてきてくれたのだ。

「手紙は、受け取ったのであろう?」

「ああ」

「ブラッディ・ネイは本当に死んだと思うか?あのマザーが」

「いや・・・どこかで、封印されていると思う。7代目が必要だとすると、次のブラッディ・ネイに選ばれるのは、聖女であるお前の妹だろう」

白哉には、妹がいた。

名を、朽木ルキアという。

どんな病も癒せる聖女として崇められていた。皇女であるが、言葉遣いは男のようであったが、気品あふれる姫君だった。かなりのお転婆ではあるが。

「さぁ、船の乗るぞ」

浮竹が、馬車から降りて、大きな船を見上げた。それを、京楽も見上げた。

「うわ、この大きな船に?」

「人工血液の輸出も兼ねてきていたからな。最近では、人間の血も扱っている。血の帝国のヴァンパイアの間では、人間の世界でいうワインのようなものだ。
人間社会も少し変わった。
血の帝国のヴァンパイアの血を欲しがる者も増えた。もっとも、ヴァンパイアの血を飲んでも、直接ヴァンパイアから血を与えられない限り、ヴァンパイア化することはない。まぁ、ヴァンパイアの血を飲むと、病や傷が癒えるから、今ではエリクサーと同等の扱いだ」

浮竹の説明に、京楽がぽかんとしていた。

エリクサーは、怪我や万病に効くという、珍しく高価な聖なる薬だ。

その代用品として、血の帝国のヴァンパイアの血が求められた。

普通のヴァンパイアの血では駄目なのだ。人語を理解しない、グールという低級なアンデットになる。

血の帝国、マザー、女帝であるブラッディ・ネイに守られた、ヴァンパイアだけの楽園にも、変化が訪れた。

血を売って、住み着く人間が増えたのだ。

血の帝国では、人間は住めないわけではないが、人間には住みにくい土地だ。

人間はよく食事をしなければ死んでしまう。

ヴァンパイアは、別に食べなくなくても、人工血液があれば生きていける。それでも、よく嗜好として食事はとられていた。

なので、人間も食べていけることはできる。

人間の新鮮な血は高いが、ヴァンパイアが人間をさらって、血を抜いて売るような真似をする者はいなかった。

最初にその罪を犯した者はいたが、女帝によって裁かれ、太陽の下で焼け焦げて死ぬまで晒された。

浮竹や京楽もそうだが、白哉もまたヴァンパイアロードの血をもっているので、昼でも活動できた。

「これからは、夜が活動時間の大半になる。今のうちに、夜行型に慣れておくことだ」

「ああ、そうだな」

白哉のもっともな言葉に、浮竹は頷いて、京楽の手をとって船に乗った。

カモメが飛んでいる。

太陽は眩しいほどに輝いていた。


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血の帝国に向かって出発して、1週間が過ぎようとしていた。

京楽と浮竹は、まだ船の中にいた。

夜型に慣れるようにと、徹夜を繰り返して、寝不足気味だった。

最近、ようやく夜目覚めて朝に眠るようになってきた。

「ねぇ、喉が渇いた。血をちょうだい」

「少しだけだぞ・・・・んんっ」

京楽に吸血されて、その快感に全身がピリピリする。本当なら交わりたいが、旅の途中であるから我慢していた。

浮竹は、人工血液剤をかみ砕いた。

人工血液剤は、最近開発されたもので、一錠で一回分の血を吸ったことになる。

人工血液を飲むより手軽で、だが味が最悪なので、服用する者と、今まで通り人工血液を飲む者で別れていた。

「兄ら、もうすぐ着くぞ。下船の準備をしておけ」

「あ、分かった」

「荷物まとめないと」

浮竹と京楽は、荷物をまとめると、停泊した船から降りた。

夜なので、血の帝国は寝静まることなく、活気にあふれていた。

何処を見ても、ヴァンパイアだらけだった。

「さすが、血の帝国。夜が、ヴァンパイアたちにとっての昼だな」

「あそこで血を売ってるよ。買ってきていいかい?」

(新鮮、人間の血あります)という看板を指さして、京楽が浮竹に強請った。こうやって強請るのはいつもは浮竹なので、新鮮であった、

「いいぞ」

「浮竹も、飲む?」

「いや、俺はいい。人間の血を口にすると、魔力が溢れて暴走しがちになるから」

浮竹は魔法が使えた。

主に、火属性の魔法だった。いつもは、暖炉に火をおこすくらいで使わないが、その気になれば人をたくさん焼き殺すこともできた。

「兄の判断は正しい。人間の血など、口にするだけ穢れる」

「いや、いいすぎだろ、白哉」

「血の帝国はヴァンパイアだけの楽園。そこに人間が入り込むなど・・・・駆除すべきだと女帝に進言したが、取り合ってもらえなかった」

「そりゃね。ブラッディ・ネイ・・・・妹にも、妹なりの思惑があるんだろうさ」

その、ブラッディ・ネイは今神隠れしている。

早急に探さないと、白哉の妹に浮竹が血を与えて、7代目ブラッディ・ネイとして、人未御供よろしくになってしまう。

浮竹と京楽は、白哉に案内されて、血の帝国の後宮に入った。後宮が、一番怪しいのだという。

十代前半の少女たちが、肌も露わにして過ごしていた。

「ここは、ブラッディ・ネイの後宮か」

「かわいい子がいっぱいだね」

「死にたいのか、京楽」

「いや、僕の浮竹が一番かわいくて綺麗だよ」

目をキラキラして見つめてくるので、とりあえず目つぶしをかましておいた。

「目が、目がああぁぁあ!」

「うるさい」

「兄は、どう思う?この後宮に満ちた魔力・・・・・。女帝のものだと、私は思うのだが」

「うーん、ブラッディ・ネイの魔力は特殊だからなぁ。愛された少女たちにも宿っているようだし・・・・・・」

ブラッディ・ネイは、長い研究の末、未婚の年若い、十代の少女を自らの手で懐妊する方法を見つけた。

懐妊した少女は、ブラッディ・ネイに愛されて後宮から解放され、離宮へと移される。

現在、懐妊したのは3人。

うちの一人は、皇族だった。二人はすでに子を産んで育てている。残りの皇族の姫が、まだ後宮に留まっていた。

「あの子の体・・・・ちょっと、宿っている魔力がけた違いじゃないか」

「どれどれ・・・ほんとだね。まるで、浮竹みたいだ」

「間違いない。あの子の腹に、ブラッディ・ネイは宿っている」

懐妊して、まだ離宮に移されていない、皇族出身の姫だった。

「ねぇ、君のお腹にいる子・・・・女帝でしょ」

びくり。

少女は顔をあげて、泣きだした。

「ブラッディ・ネイ様が・・・・私を、私を失いたくないと。私の腹の中の子に宿って、女帝になるまで、育ててくれと・・・・・・・」

「ブラッディ・ネイはそんな甘い女じゃない。聞こえているんだろう、ブラッディ・ネイ。出てきたらどうだ」

少女は、少し大きくなった腹を撫でて、クスクスと笑いだした。

「いやだなぁ、兄様。ボクのことを兄様が探すなんて。この子の子供、凄く器にいいんだよ。でも男の子でさ・・・・・ボク、男の子にはなりたくないから、この子が胎児であるうちに器を支配して、この子の体をもらおうと思ってさ・・・・・・」

「ブラッディ・ネイ。後宮は、確かにお前の遊び場だが、普通に転生できないのか」

「それが、ルキアちゃんの術で防がれちゃっててさぁ。ボク、ルキアちゃんが欲しいんだよね。ルキアちゃんの中に転生しようとしたら、結界を張って防がれちゃって。行き場をなくしたボクは、自分の愛する少女の子供に宿ちゃったの」

「で?」

「女の子なら、そのまま育つまで待つのもいいかなぁって思ったんだけど、他の女の子と遊べないじゃない。だから、この子の体、いただこうと思ってさ」

「浅ましい欲でできた妹だな」

「兄様だって、欲にまみれているじゃない。その鳶色の目の青年、兄様のものでしょ」

「京楽は、俺と対等だ」

「あはははは!対等?神の寵児であるこのボクらと対等だって?」

白哉は、自分の愛しい妹が、ブラッディ・ネイに狙われていたのだと知って、蒼い顔をしていた。

「兄に、ルキアはやらぬ。たとえ、女帝でも」

「なんだ、ルキアちゃんのお兄さんか。ルキアちゃんのお兄さんは、兄様の血族の血を引いているんだよね。兄様を抱いたことはある?」

「そのような低俗な行為、したことなない」

「はじめはみんな、そう言うんだよ。でも兄様は、ボクよりも美人だから。みんな、兄様を見ていた。それが悔しくて、ボクは兄様が血の帝国から出て行ってほっとしたよ。でも、ボクを探しに戻ってくるなんて」

「ブラッディ・ネイ。ルキア姫は俺が説得するから、その子を解放しろ。無論、ルキアにも宿るな。念のための、空の器を用意してあるのだろう。それに宿れ」

「何、兄様、それはお願い?」

「命令だ。従わないのなら、妹であっても、消す」

「ひっ」

凄い魔力を向けられて、ブラッディ・ネイはガタガタと震え出した。

「ごめんなさい、兄様。兄様、兄様。いや、いや・・・・。ボクを、置いていかないで。ボクは、兄様がいれば他の女の子だっていらないんだ」

「また嘘をつく」

クスクスと、少女は笑った。

「もう、遅いんだよねぇ、兄様。術式は完成してるんだ。この子は、もうボクのもの。そうだ、この体に宿る男の子に、兄様が転生するってのはどう?兄様は、8千年も同じ体だから、いろいろとガタがきて、苦労してるでしょう?」

ブラッディ・ネイの言葉に、浮竹は首を横に振った。

「お前のように、魔力を無駄に食い散らかして、器の体をだめにしたりしてない。あれほど、魔力調整は練習しておくようにといったのに」

「それができないから、ボクは転生するんだよ。神の寵児は、そんなことも許される」

「それは、お前がそう思っているだけだ」

ふらりと、浮竹はふらついた。

「大丈夫、浮竹!?」

「ブラッディ・ネイ・・・・・俺から、魔力を奪う気か」

「アハハハハ。兄様が出奔してからの7千年で、ボクもいろんな魔法を身に着けたんだ。神の寵児は便利だね。神しか使えない、魂の魔法も使える」

ブラッディ・ネイは浮竹を見えない縄でしばりあげた。

「やめろ!」

「兄様、ボクと一つになろうよ。きっと、気持ちいいよ。吸血されたり、セックスなんかより、もっときもちいいこと、しよ?」

「浮竹を離せ!」

京楽が、ブラッディ・ネイの体を水の魔法で拘束した。

「こんな魔法・・・・あれ。解けないよ兄様、どうして?こんな下等な、兄様の愛人なんかに、ボクがいいようにされていいわけがない」

ブラッディ・ネイは、その愛らしい顔を歪ませて、じたばたともがいた。

「だめだ、これ以上はダメだ!子が!ボクが、流れてしまう」

「えっ」

京楽の拘束が解ける。

少女は、局部から血を流していた。

「流産か!医者を呼べ!」

白哉が、叫んだ。

自由になった浮竹を抱きしめて、京楽は震えていた。

「僕の魔法のせいで・・・・・」

「違う。あの少女の魂が、本体に戻ってきてたんだ。ブラッディ・ネイの体に入って、でも器に魂は一つしか入らないから。妊娠していた男児にブラッディ・ネイは移ろうとしていたけれど、俺が邪魔をした」

「え、浮竹が?」

「念のための空の器に、今頃ブラッディ・ネイは宿っているはずさ」

少女は、結局男児を流産した。

しばらくして、くすんだ灰色の髪と、浮竹と同じ翡翠色の瞳をした少女が、自分はブラッディ・ネイだと言い出した。

「ボクはブラッディ・ネイ。マザーだよ」

神代の魔法を披露して、皆頭を下げて敬礼した。

浮竹と京楽は、ただ黙してそれを見ていた。

--------------------------------------------------------------------------

「ああ、兄様のせいで、こんな冷凍していた器に宿ってしまった。次に転生の魔法が使えるまで八百年はいるね。兄様がきたら、ろくなことにならない」

「お前は、また後宮に少女を集めさせているそうだな」

「それの何が悪いの。ボクの趣味まで、とやかく言われる筋合いはないよ」

「お前がこの国に必要でなかったら、お前を消せるのになぁ」

「止めておいたほうがいいよ。太陽の光を遮る、血の結界はボクの魔力で維持されている」

「だから、俺はお前が死んだなどと、思っていなかったんだ」

「そうなの、浮竹」

「兄様、趣味悪くなった?そんなもじゃもじゃな男、兄様にはふさわしくない。白哉みたいな、美しい男が、美しい兄様には似合うと思う」

「もじゃもじゃ・・・・・・」

「京楽俺は気にしてないぞ。お前がもじゃもじゃでも、好きだぞ」

「あは、趣味わるっ」

「うるさい!」

ばちっと、火が散った。

「兄様、怒ると火が爆発するよ。愛しいもじゃもじゃを焼かないように、気をつけることだね」

「ブラッディ・ネイ。いや、浮竹白(しろ)。お前は、本当に嫌な奴だな」

「ありがとう、兄様、最高の褒め言葉だよ」

白哉は、ルキアの無事を確かめるために、ルキアを守るために宮殿のルキアの部屋で、ルキアをずっと見守っていた。

「ルキアちゃん、欲しかったなぁ」

「諦めろ。聖女に手を出したら、流石のお前でも無事ではいられないだろう」

「そうなの、兄様」

「ルキアって子は、魂に神格を宿している。俺たちの父であった、創造神と立ち位置は同じだ」

「うわー。ルキアちゃん、そんなにすごいんだ。後宮に閉じ込めちゃおうかな」

「やめておけ。どんな手を使ってでも、白哉が止める」

「ああ、ボクって愛されてないなぁ。ボクは愛する少女たちも、僕の体液が目当てで、ボクを真剣に愛してくれないし」

「ほいほい、乗り換えるからだ。そもそも、女の身でありながら後宮をつくり、少女を閉じ込めること自体が間違っている」

「兄様が皇帝だったら、そのもじゃもじゃを閉じ込めるんでしょ。それとも、もっといい男を探す?」

「なんで男限定なんだ」

「だって兄様、女抱けないでしょ。男に抱かれるのが、兄様は好きでしょ」

「浮竹、浮気は許さないよ?」

「きょうら・・・・・・ぎゃあああああああああああああ」


----------------------------------------------------


無事、七代目ブラッド・レイは即位した。

たまっていた仕事をさっさと片付けて、後宮でお気に入りの女の子を抱いて、好き放題しているらしい。

浮竹と京楽は、自分たちの住む古城へ戻った。

戦闘人形たちが城を維持していたお陰で、古城には塵一つなかった。

「ねぇ、浮竹。君、処女じゃなかったんだ」

「いや、悪い。昔、遊んでた」

はっきりと言って、浮竹は京楽に謝った。

「神代(かみよ)の時代から生きてるもんね。彼氏や彼女が、数百人いても、不思議じゃないよね」

「俺は、ブラッド・レイのような遊び方はしていなかったぞ。ちゃんと、1人の相手と恋愛していた」

「過去に、何人いたの?」

「5人くらい・・・・・・・・・」

「誰が一番好きだった?」

「京楽、お前が一番好きだ」

「こんなもじゃひげを?」

「そのもじゃもじゃが、これまたいいんだ」

「浮竹って、けっこう悪趣味だよね」

京楽は、からからと笑って、人間の血をいれたワイングラスの中身を飲み干した。

「人間の血って、ワインみたいだね。酔う」

「俺は飲まない。魔力が乱れる。昔、生き血を飲んで、城をふっとばした。引っ越しを余儀なくされた」

「神代の頃は、何を口にしていたの。人工血液がなかった時代」

「普通に、人間の食べ物を食べて生活していた。あと、魔力を維持するために、精霊を体に取り込んでいた」

「精霊。そんなのいるんだ」

「いるぞ。炎の精霊なら呼べるから、呼んでみようか?」

「うん。見てみたい」

「サラマンダーよ、わが呼び声に答えよ!」

じゅわあああああ。

ワインの中の血が沸騰する。

「うわぁ、熱い!」

「熱量を下げてくれ、サラマンダー」

「きゅいいい」

炎を纏わせた人のサイズくらいのトカゲは、身に纏う炎を小さくして、浮竹の頬を舐めた。

「きゅいいい」

「あ、浮竹舐めるなんて、ずるい!僕も舐める!」

「おいおい」

「ついでに、啼かす」

浮竹は、サラマンダーを精霊界に返した。

京楽に横抱きにされて、寝室まで運ばれると、キングサイズのベッドに押し倒された。

「京楽」

「血を吸って、いいかい?」

「最近ご無沙汰だったしな。好きにしろ」

浮竹の衣服を脱がしながら、キスをして、舌に少しだけ噛みついて流れる血を啜った。

「ん・・・・」

ヴァンパイアに吸血されるのは、大きな快楽を伴う。

「あ、首筋を、噛んでくれ。そのほうが、感じる・・・・」

浮竹の服を脱がせて、薄い筋肉のついた胸板を撫で、先端を口に含んだ。

「んっ」

潤滑油に手を伸ばして、浮竹にキスをする。

舌の傷は再生していた。

舌を絡め合わせる。

「ん」

蕾に指を侵入させて、早急に解していく。

「ああ、我慢の限界だ。挿れるよ」

「あああああ!!!」

熱い熱に引き裂かれて、浮竹はいってしまっていた。

同時に、首筋に噛みついてやった。

「ひあああああ!!!」

浮竹は、白い体液を弾けさせながら、びくんびくんと痙攣した。

「きもちよかった?」

こくこくと頷く浮竹は、快楽が強すぎて涙を浮かべていた。

「あ、お前もいけ。俺の中で」

「うん」

京楽のものを締め付けて、浮竹は目を閉じた。

最奥にごりごりと入ってきたものに、目を開ける。

「あ、ああ、深い!」

「ここ、好きでしょ?奥にいっぱい出されるの、好きだよね?」

「あ、あ、好きだからいっぱい出して。血も吸って」

「いただきます」

浮竹の最奥に精液を叩きつけながら、京楽は浮竹の首筋にまた噛みついて、吸血していた。

「あああ・・・あ・あ」

「君の血は、美味しいね。君の体も美味しい。甘いよ。本当に、毒があるみたいに病みつきになる」

「あ、いく、またいく・・・・・」

「何度だっていっていいよ」

「ああああーーーーー!!!」

がくっと、浮竹は意識を失った。

「はぁ。浮竹、大丈夫?」

ぺちぺちと頬を叩くと、浮竹は気が付いた。

「中で出したな」

「君が中で出せっていったんだよ」

「風呂に連れていけ。あと、人工血液剤を5つほど、頼む」

「はいはい」

京楽は、言われるままに動く。


血の帝国から帰ってくるまでの間、吸血行為だけで抱くことをしなかった。

京楽もたまっていたのだ。

互いに発散させあった。

半月ぶりだったので、快感は大きかった。

「たまに禁欲みたいな生活送ってみるのも、悪くないね」

「それじゃあ、吸血もなしだな」

「そんなぁ」

京楽のがっかりした顔を見て、笑う浮竹であった。






















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