始祖なる者、ヴァンパイアマスター21
星の精霊ドラゴン。
それはサーラという異界に存在する、星の精霊とドラゴンの間に生まれたハーフ。
通称、星の精霊ドラゴンと呼ばれ、その世界で神として崇められていた。
「創造神ルシエード」
星の精霊ドラゴンは、親しき友人の名を呼んだ。
創造神ルシエードは、自分を召還しようとしている、他の神によって生み出された魔族を、冷めた瞳で見下ろしていた。
「召還には、応じひんのか?」
「私が作った世界は、もう私の手を離れている。あの世界に戻ることはない」
「子を・・・寵児がいるんやろ。始祖のヴァンパイアの。お前さんが魂に愛を刻んだせいで、死ねない、かわいそうな子が」
「あれは私と同じ絶対存在。絶対者。世界を導く者。世界の中心」
「では、オレがお前さんの代わりにその召還に応じるわ。お前さんの作った世界を、見てみたいんや」
星の精霊ドラゴンは、そう言って、世界を渡った。
---------------------------------------------------
「醜い国やなぁ」
星の精霊ドラゴンは、魔族の国にあった。
藍染の言葉など無視して、ただそこに在った。
「星の精霊ドラゴンよ!始祖ヴァンパイアを滅ぼせ!」
藍染は、自分を魔族の神だと思っていた。星の精霊ドラゴンを、自分の召還に応じたのだから、言うことをきくのは当たり前だと思っていた。
「醜いわ。オレは、お前さんの召還に応じたんやない。我が友の子を、その世界を見たいから異界よりきただけで、ただの冒険者や」
「星の精霊ドラゴン、神であるならば、神の子を殺せるはず」
藍染は、狂った瞳で星の精霊ドラゴンを見つめていた。
「そういうお前さんも・・・いや、神に作られただけで、神と同じように作られた神の子ではないんか。絶対存在がある限り、お前さんは永遠に神になれんな」
「何を言う。私は神だ!」
「神の子に一度封印されておきながら、神を名乗るんかい。笑止」
「星の精霊ドラゴンよ。始祖の浮竹を殺せ」
「何度も同じことを言わせるなや。オレにその気はないねん」
星の精霊ドラゴンは怒り、天空を狂わせて星を落とした。
メテオストライク。
この世界では、そう呼ばれている禁呪。
星の精霊ドラゴンは、翼を広げた。
優に5メートルあるだろかという、白い純白の羽毛の翼だった。
藍染は、星落としをくらい、体をぐしゃりとつぶされていた。
でも、不死なので死なない。
始祖は不老不死。
厄介であるなどと、藍染は思ったことはない。神なのだから、当たり前だと思っている。
-----------------------------------------
星の精霊ドラゴンは、友人の子がいる古城にやってきて、扉を開けた。
そこは、煌びやかな世界だった。
黄金のハニワが並んでいたのが気になったが、調度品やシャンデリアが美しい、中世の佇まいを模倣した城だった。
「誰だ、お前は」
古城の主が、真紅の瞳で睨んできた。
「ちょと浮竹、やっぱ黄金のハニワなんて並べるから、変な人が・・・」
クスリと、星の精霊ドラゴンは笑った。
「オレは星の精霊ドラゴンの平子真子いうねん。お前さんの父、創造神ルシエードの友や」
その言葉に、浮竹は驚くのと同時に威嚇した。
「そんな高次元な存在が、俺になんの用だ」
「いや、ただ遊びにきただけやねん。害意はないで?その水晶のペンダントで、分かるんやろ?」
浮竹は、水晶のペンダントか一向に濁らないので、敵対心を解いた。
「平子真子といったな。我が父の友人であるならば、客人だ。心から、もてなそう」
そう言って、浮竹は京楽を連れて、古城の奥にきえてしまった。
----------------------------------------------
平子は、浮竹と京楽と酒盛りをはじめていた。
「君、飲めるほうだね」
「オレは酒に強いほうなんや」
「俺は、酒はあまり強くない。だからいつも、果実酒かワインだが、二日酔いするまでは飲まいはずなんだが、今日はなんだかたくさん飲めそうだ」
「オレには星の加護があるんや。お前さんたちにも与えとるで?」
「どんな効果だい?」
「うぃ~。まだまだ飲めるぞー」
酔っ払った浮竹を介抱しながら聞くと、平子は真面目な顔で。
「頭上に隕石が落ちひん加護や。オレが怒ると、何故か隕石が落ちてくるんや」
京楽は、ややびびりながら、聞いた。
「僕たちに、怒ったりはしないよね?隕石なんて、流石の僕や浮竹でも防ぎきれるかどうか」
「いや、浮竹には防げるやろ。我が友の子、絶対存在。それは果てしなく神に近い証や」
「浮竹って、やっぱり創造神ルシエードの子とか言われてるし、神様に近いの?」
「近いが、あくまでヴァンパイアや。神にはなれへん」
それを聞いて、京楽は安堵のため息を出した。
「浮竹が神様になったりしたら、僕のものじゃなくなっちゃう」
論点はそこかい。
平子は、つっこみたいのを我慢していた。
「星の精霊ドラゴンって何だい?」
京楽が、自分の膝枕で眠ってしまった浮竹の白い髪を撫でながら、平子に聞いた。
「星の精霊と、ドラゴンの間に生まれたハーフやから、星の精霊ドラゴンと呼ばれとるだけで、ドラゴンの能力を有した精霊やと思えばいい」
「ふーん」
「むにゃ・・・京楽、愛してるぞ」
「おーおー、お熱いこって」
「僕も愛してるよ、浮竹。ちょっと、浮竹を寝室に寝かしつけてくるよ」
「オレも行くで」
-------------------------------------------------
「あ?ええと、なんだ?」
浮竹は、目をあけると裸だった。
隣に裸の京楽がいた。そこまではよかった。
なぜか、平子まで裸だったのだ。
「ま、まさかの3P?」
浮竹は、自分の体をチェックした。どこも痛いところはないし、腰も普通だし、キスマークもない。
「浮竹、愛してるよ」
そんなことを言いながら、平子を抱き寄せるものだから、浮竹は怒って京楽の頭をハリセンで叩いていた。
「わ、何!?何が起こったの!」
「んー、もう朝かいな?」
「わぁ、平子、君なんで裸・・・って、僕も浮竹も裸!まさかの3P?」
「違う!」
浮竹はハリセンで京楽の頭を殴ってから、服を着た。
「いや、ベッドに入るなり服を脱ぎ出すから、この世界では服を脱いで寝るのが常識やと思ってなぁ。ほんと堪忍やわ」
平子も服を着た。
「京楽、いい加減お前も服を着ろ」
浮竹に指摘されて、京楽も服をきた。
「なんだ、何もなかったんだね。よかたった」
本当に心からそう思っているようで、京楽に浮竹も頷いた。
「異界の神と3Pなんて、笑い種にもならん」
「ほんとだよ」
「オレはそれでも別にかまへんねんけどな?」
浮竹と京楽は、それはないと、首を横にぶんぶん振った。
「平子、いつまでこの世界にいるんだ?」
「んー、特に決めてへんけど、あと1週間くらいやな」
「じゃあ、その1週間でこの世界を観光する?」
「それでもええなぁ」
平子は、召還されてから来た国といえば、魔国アルカンシェルくらいで、血の帝国にも行っていなかった。
「よし、じゃあミミックを探しにS級ダンジョンにもぐろう」
「浮竹、またミミックかい?平子クンに呆れられるよ」
「ダンジョンもこの世界の特徴だ。立派な観光だろ?」
「いいなぁ、面白そうやん。そのS級ダンジョンとや、いこか?」
こうして、異界の星の精霊ドラゴン、平子真子を巻き込んで、S級ダンジョンにもぐることになったのであった。
今回選んだS級ダンジョンは、全部で70階層だった。
念のためにと、1週間分の食料と水を3人分用意して、テントなどはアイテムポケットに入っているので、食料と水だけを確保して、S級ダンジョンに向かった。
少し遠かったので、竜化した平子の背にのり、空を飛びながらそのS級ダンジョンに向かった。
途中休息を挟んで宿に泊まり、3日かけてようやくS級ダンジョンに到達した。
辺境にあるせいで、あまり人気のないS級ダンジョンだった。だが、人気がないつまりはあまり人の手が入っていないので、宝箱も多そうだと、浮竹は上機嫌であった。
「さぁ、行こうか」
「へぇ、これがS級ダンジョンなんや。なんか、もっと暗いのイメージしとったわ」
「ダンジョンは、そのダンジョンによるけど、ほとんどが1階層ごとに地形が変わるからね」
1階層は荒れ地だった。
出てきたシルバーウルフの群れを、浮竹が炎の魔法で屠っていく。
「やっぱ強いんやなぁ。ルシエードの子だけあるわ」
「父は、元気だろうか?」
「ああ、すごい元気やで。今、新しい世界を違う神々と作っとる」
「元気なら、それでいい」
異界にいるという創造神と、会いたいとは思わなかった。
ただ、懐かしい気持ちだけが溢れた。
----------------------------------------------------
「ほんま強いなぁ。オレの出番があれへんわ」
「というより、君は戦う意思がないじゃない」
「だって、観光にきてるんやで。見てるだけでええやん」
「まあ、いいんだけどね」
京楽はそう言って、襲い掛かってくるモンスターを、火の魔法をエンチャントしたミスリル銀の魔剣で切り裂いた。
「なんや、酸をだすカエルか。でも、うまそうやな?」
「え、まさかこのモンスターを食べるつもりか?」
浮竹は、信じられないような表情で平子を見る。
敵は、酸を巻きちらすアシッドビッグフロッグだった。
「この世界では、モンスターの肉を食べる習慣はあらへんのか?」
「ドラゴンの肉なら分かるが・・・普通のモンスターの肉は食わないな」
「なんやて!ドラゴンの肉食うんかい!オレは星の精霊ドラゴンやで。ドラゴンでもあるけど、頼むから食わんといて!」
自分の体を抱きしめる平子に、浮竹も京楽も苦笑する。
「友人がドラゴンであるからって、そんなこと浮竹はしないよ」
「京楽の言う通りだ。俺は始祖ドラゴンと友人だが、その始祖ドラゴンを食べたいなどと考えたことはない」
「はぁ、ならええねん」
カイザードラゴンである恋次もドラゴンだが、それを食べたいなどと思ったことはない。
「ちょっと休憩や。このカエル、食べてええか?」
「え、調理するのか?調理器具はもっているが、アシッドビッグフロッグは体に酸をもつ。あまり食用には向いてるとは・・・・・」
平子は、竜化するとアシッドビッグフロッグの死体を、そのまま丸のみしてしまった。
「ぴりぴりするわ。酸の刺激がええかんじや。酸って聞いて、食いたなったんや。オレには酸は効かへんからな」
「だからって、丸のみ・・・腹壊しても、知らないぞ?」
「平気やて。元いた世界でもようポイズンスネークとかアシッドビートルとか丸のみにしとったわ」
想像して、浮竹も京楽顔を青くした。
「げてもの食いだな」
「そうだね」
「おい、聞こえとるで。半分ドラゴンやねんもん。モンスターはただの餌や」
「ヴァンパイアも、そちらの世界ではモンスターになるのか?」
「そうやで。モンスターの一種や」
「頼むから、俺たちを食べないでくれよ」
「食べてもおいしくないからね!」
くつくつと、平子は笑った。
「食べたいなら、最初におうた瞬間から食っとるわ」
人の姿に、平子は戻る。
ドラゴンの時の姿が、鱗の代わりに羽毛をもつ、白い翼が特徴的なドラゴンだった。
そんなドラゴンを見たことはなくて、浮竹と京楽は、平子が異界の存在なんだなと、改めて納得するのであった。
「あ、宝箱!」
「浮竹、それはミミック!」
「ミミックでも大歓迎だ!」
浮竹は、宝箱をあけた。宝箱はミミックだった。
「暗いよ~狭いよ~怖いよ~息苦しいよ~~」
「何やっとんの、あれ」
平子が、笑いながら浮竹を指さす。
「浮竹は、宝物があるとああやってあけるんだ。ほとんどがミミックで、かじられてあんな姿になるんだけど・・・・・」
「京楽、助けてくれ。平子でもいい」
「よし、オレが助けやろやないか」
平子は、浮竹をひっぱった。
その力は強くて、浮竹はミミックにかじられながらも脱出したかに見えて、頭をまだかじられていた。
「このミミック、殺してええんか?」
「いいけど、頼むから浮竹は傷つけないでよ」
「ほれ」
隕石が降ってきた。
京楽は驚いて、シールドを張る。
「ちょっと、僕たちを殺す気かい!?」
「あれ、難しいな」
「僕が助けるから、平子クン、君はモンスターも倒さなくていいから!見てるだけでいいから!余計なことはしないでね!?」
神の名を冠するだけあって、その力は絶大であった。
加減ができないようで、星の名ををつけられただけあって、隕石を降らしてくる。
京楽は、しつこく浮竹の頭をかじっているミミックにとどめを刺した。
「助かった、京楽。平子、お前は強すぎて力加減ができないんだな」
「いや、そうでもないで?小さい隕石落としたりもできるで?」
「どっちみち星の精霊ドラゴンというだけあって、隕石を降らすんだろう。隕石なんて小さくてもクレーターができる。大きいと、国ごと亡ぶ」
「オレ、そない強ないで?」
「それより、浮竹いいのかい?ミミックが、魔法書ドロップしたけど」
浮竹は、京楽の手から魔法書を受け取った。
「何々・・・ドラゴン退治の書3巻。おいしくドラゴンの肉を加工する魔法・・・・」
浮竹も京楽も、平子を見た。
平子は、顔を青くして数歩下がる。
「俺はドラゴンやないで!精霊ドラゴンやで!精霊でもあるんやで!」
「でも、竜化できるんだよな?」
「加工されるうううう」
平子の救いを求める姿に、浮竹と京楽は腹を抱えて笑った。
「いや、冗談だから。さすがに仲間のドラゴンを加工しようとなんて思わん」
「そうそう。浮竹はドラゴン倒すの好きだし、魔法も覚えるだろうけど、平子クンには使わないさ」
平子は、ほっと胸を撫で下ろした。
「ならええんやけど」
ダンジョンの40階層は、ミミックオンリーのフロアだった。
100体はいるであろうミミックに、浮竹が順番に齧られていく。
45体目までは我慢したが、流石に数が多すぎて、平子がメテオストライクを放って、ミミックを全滅させてしまった。
「ああ、まだミミック全部にかじられてないのに!」
浮竹の非難の声に、京楽も平子も、疲れ切った表情をしていた。
「君、ミミックに今日で45回もかじられて、どうってことないのかい?」
「俺はまだまだいけるぞ。今夜ここで寝て、またミミックが復活するのを待とう」
「えー。オレは嫌やで。ミミックから浮竹助けんのにどんだけ苦労することか」
「僕も、平子クンの意見に賛成だよ」
「いや、今日はここで寝る!」
浮竹の意思は固く、結局2日目は40階層のフロアで夜を明かすことになった。
朝になり、20体ミミックが復活していた。
待てばもっと復活するだろうが、時間が惜しい。平子がこの世界にいられるまで、あと4日だ。
仕方なく、浮竹はきっちり20体のミミックに齧られて、魔法書やら財宝をゲットして、41階層を攻略していくのであった。
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それはサーラという異界に存在する、星の精霊とドラゴンの間に生まれたハーフ。
通称、星の精霊ドラゴンと呼ばれ、その世界で神として崇められていた。
「創造神ルシエード」
星の精霊ドラゴンは、親しき友人の名を呼んだ。
創造神ルシエードは、自分を召還しようとしている、他の神によって生み出された魔族を、冷めた瞳で見下ろしていた。
「召還には、応じひんのか?」
「私が作った世界は、もう私の手を離れている。あの世界に戻ることはない」
「子を・・・寵児がいるんやろ。始祖のヴァンパイアの。お前さんが魂に愛を刻んだせいで、死ねない、かわいそうな子が」
「あれは私と同じ絶対存在。絶対者。世界を導く者。世界の中心」
「では、オレがお前さんの代わりにその召還に応じるわ。お前さんの作った世界を、見てみたいんや」
星の精霊ドラゴンは、そう言って、世界を渡った。
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「醜い国やなぁ」
星の精霊ドラゴンは、魔族の国にあった。
藍染の言葉など無視して、ただそこに在った。
「星の精霊ドラゴンよ!始祖ヴァンパイアを滅ぼせ!」
藍染は、自分を魔族の神だと思っていた。星の精霊ドラゴンを、自分の召還に応じたのだから、言うことをきくのは当たり前だと思っていた。
「醜いわ。オレは、お前さんの召還に応じたんやない。我が友の子を、その世界を見たいから異界よりきただけで、ただの冒険者や」
「星の精霊ドラゴン、神であるならば、神の子を殺せるはず」
藍染は、狂った瞳で星の精霊ドラゴンを見つめていた。
「そういうお前さんも・・・いや、神に作られただけで、神と同じように作られた神の子ではないんか。絶対存在がある限り、お前さんは永遠に神になれんな」
「何を言う。私は神だ!」
「神の子に一度封印されておきながら、神を名乗るんかい。笑止」
「星の精霊ドラゴンよ。始祖の浮竹を殺せ」
「何度も同じことを言わせるなや。オレにその気はないねん」
星の精霊ドラゴンは怒り、天空を狂わせて星を落とした。
メテオストライク。
この世界では、そう呼ばれている禁呪。
星の精霊ドラゴンは、翼を広げた。
優に5メートルあるだろかという、白い純白の羽毛の翼だった。
藍染は、星落としをくらい、体をぐしゃりとつぶされていた。
でも、不死なので死なない。
始祖は不老不死。
厄介であるなどと、藍染は思ったことはない。神なのだから、当たり前だと思っている。
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星の精霊ドラゴンは、友人の子がいる古城にやってきて、扉を開けた。
そこは、煌びやかな世界だった。
黄金のハニワが並んでいたのが気になったが、調度品やシャンデリアが美しい、中世の佇まいを模倣した城だった。
「誰だ、お前は」
古城の主が、真紅の瞳で睨んできた。
「ちょと浮竹、やっぱ黄金のハニワなんて並べるから、変な人が・・・」
クスリと、星の精霊ドラゴンは笑った。
「オレは星の精霊ドラゴンの平子真子いうねん。お前さんの父、創造神ルシエードの友や」
その言葉に、浮竹は驚くのと同時に威嚇した。
「そんな高次元な存在が、俺になんの用だ」
「いや、ただ遊びにきただけやねん。害意はないで?その水晶のペンダントで、分かるんやろ?」
浮竹は、水晶のペンダントか一向に濁らないので、敵対心を解いた。
「平子真子といったな。我が父の友人であるならば、客人だ。心から、もてなそう」
そう言って、浮竹は京楽を連れて、古城の奥にきえてしまった。
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平子は、浮竹と京楽と酒盛りをはじめていた。
「君、飲めるほうだね」
「オレは酒に強いほうなんや」
「俺は、酒はあまり強くない。だからいつも、果実酒かワインだが、二日酔いするまでは飲まいはずなんだが、今日はなんだかたくさん飲めそうだ」
「オレには星の加護があるんや。お前さんたちにも与えとるで?」
「どんな効果だい?」
「うぃ~。まだまだ飲めるぞー」
酔っ払った浮竹を介抱しながら聞くと、平子は真面目な顔で。
「頭上に隕石が落ちひん加護や。オレが怒ると、何故か隕石が落ちてくるんや」
京楽は、ややびびりながら、聞いた。
「僕たちに、怒ったりはしないよね?隕石なんて、流石の僕や浮竹でも防ぎきれるかどうか」
「いや、浮竹には防げるやろ。我が友の子、絶対存在。それは果てしなく神に近い証や」
「浮竹って、やっぱり創造神ルシエードの子とか言われてるし、神様に近いの?」
「近いが、あくまでヴァンパイアや。神にはなれへん」
それを聞いて、京楽は安堵のため息を出した。
「浮竹が神様になったりしたら、僕のものじゃなくなっちゃう」
論点はそこかい。
平子は、つっこみたいのを我慢していた。
「星の精霊ドラゴンって何だい?」
京楽が、自分の膝枕で眠ってしまった浮竹の白い髪を撫でながら、平子に聞いた。
「星の精霊と、ドラゴンの間に生まれたハーフやから、星の精霊ドラゴンと呼ばれとるだけで、ドラゴンの能力を有した精霊やと思えばいい」
「ふーん」
「むにゃ・・・京楽、愛してるぞ」
「おーおー、お熱いこって」
「僕も愛してるよ、浮竹。ちょっと、浮竹を寝室に寝かしつけてくるよ」
「オレも行くで」
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「あ?ええと、なんだ?」
浮竹は、目をあけると裸だった。
隣に裸の京楽がいた。そこまではよかった。
なぜか、平子まで裸だったのだ。
「ま、まさかの3P?」
浮竹は、自分の体をチェックした。どこも痛いところはないし、腰も普通だし、キスマークもない。
「浮竹、愛してるよ」
そんなことを言いながら、平子を抱き寄せるものだから、浮竹は怒って京楽の頭をハリセンで叩いていた。
「わ、何!?何が起こったの!」
「んー、もう朝かいな?」
「わぁ、平子、君なんで裸・・・って、僕も浮竹も裸!まさかの3P?」
「違う!」
浮竹はハリセンで京楽の頭を殴ってから、服を着た。
「いや、ベッドに入るなり服を脱ぎ出すから、この世界では服を脱いで寝るのが常識やと思ってなぁ。ほんと堪忍やわ」
平子も服を着た。
「京楽、いい加減お前も服を着ろ」
浮竹に指摘されて、京楽も服をきた。
「なんだ、何もなかったんだね。よかたった」
本当に心からそう思っているようで、京楽に浮竹も頷いた。
「異界の神と3Pなんて、笑い種にもならん」
「ほんとだよ」
「オレはそれでも別にかまへんねんけどな?」
浮竹と京楽は、それはないと、首を横にぶんぶん振った。
「平子、いつまでこの世界にいるんだ?」
「んー、特に決めてへんけど、あと1週間くらいやな」
「じゃあ、その1週間でこの世界を観光する?」
「それでもええなぁ」
平子は、召還されてから来た国といえば、魔国アルカンシェルくらいで、血の帝国にも行っていなかった。
「よし、じゃあミミックを探しにS級ダンジョンにもぐろう」
「浮竹、またミミックかい?平子クンに呆れられるよ」
「ダンジョンもこの世界の特徴だ。立派な観光だろ?」
「いいなぁ、面白そうやん。そのS級ダンジョンとや、いこか?」
こうして、異界の星の精霊ドラゴン、平子真子を巻き込んで、S級ダンジョンにもぐることになったのであった。
今回選んだS級ダンジョンは、全部で70階層だった。
念のためにと、1週間分の食料と水を3人分用意して、テントなどはアイテムポケットに入っているので、食料と水だけを確保して、S級ダンジョンに向かった。
少し遠かったので、竜化した平子の背にのり、空を飛びながらそのS級ダンジョンに向かった。
途中休息を挟んで宿に泊まり、3日かけてようやくS級ダンジョンに到達した。
辺境にあるせいで、あまり人気のないS級ダンジョンだった。だが、人気がないつまりはあまり人の手が入っていないので、宝箱も多そうだと、浮竹は上機嫌であった。
「さぁ、行こうか」
「へぇ、これがS級ダンジョンなんや。なんか、もっと暗いのイメージしとったわ」
「ダンジョンは、そのダンジョンによるけど、ほとんどが1階層ごとに地形が変わるからね」
1階層は荒れ地だった。
出てきたシルバーウルフの群れを、浮竹が炎の魔法で屠っていく。
「やっぱ強いんやなぁ。ルシエードの子だけあるわ」
「父は、元気だろうか?」
「ああ、すごい元気やで。今、新しい世界を違う神々と作っとる」
「元気なら、それでいい」
異界にいるという創造神と、会いたいとは思わなかった。
ただ、懐かしい気持ちだけが溢れた。
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「ほんま強いなぁ。オレの出番があれへんわ」
「というより、君は戦う意思がないじゃない」
「だって、観光にきてるんやで。見てるだけでええやん」
「まあ、いいんだけどね」
京楽はそう言って、襲い掛かってくるモンスターを、火の魔法をエンチャントしたミスリル銀の魔剣で切り裂いた。
「なんや、酸をだすカエルか。でも、うまそうやな?」
「え、まさかこのモンスターを食べるつもりか?」
浮竹は、信じられないような表情で平子を見る。
敵は、酸を巻きちらすアシッドビッグフロッグだった。
「この世界では、モンスターの肉を食べる習慣はあらへんのか?」
「ドラゴンの肉なら分かるが・・・普通のモンスターの肉は食わないな」
「なんやて!ドラゴンの肉食うんかい!オレは星の精霊ドラゴンやで。ドラゴンでもあるけど、頼むから食わんといて!」
自分の体を抱きしめる平子に、浮竹も京楽も苦笑する。
「友人がドラゴンであるからって、そんなこと浮竹はしないよ」
「京楽の言う通りだ。俺は始祖ドラゴンと友人だが、その始祖ドラゴンを食べたいなどと考えたことはない」
「はぁ、ならええねん」
カイザードラゴンである恋次もドラゴンだが、それを食べたいなどと思ったことはない。
「ちょっと休憩や。このカエル、食べてええか?」
「え、調理するのか?調理器具はもっているが、アシッドビッグフロッグは体に酸をもつ。あまり食用には向いてるとは・・・・・」
平子は、竜化するとアシッドビッグフロッグの死体を、そのまま丸のみしてしまった。
「ぴりぴりするわ。酸の刺激がええかんじや。酸って聞いて、食いたなったんや。オレには酸は効かへんからな」
「だからって、丸のみ・・・腹壊しても、知らないぞ?」
「平気やて。元いた世界でもようポイズンスネークとかアシッドビートルとか丸のみにしとったわ」
想像して、浮竹も京楽顔を青くした。
「げてもの食いだな」
「そうだね」
「おい、聞こえとるで。半分ドラゴンやねんもん。モンスターはただの餌や」
「ヴァンパイアも、そちらの世界ではモンスターになるのか?」
「そうやで。モンスターの一種や」
「頼むから、俺たちを食べないでくれよ」
「食べてもおいしくないからね!」
くつくつと、平子は笑った。
「食べたいなら、最初におうた瞬間から食っとるわ」
人の姿に、平子は戻る。
ドラゴンの時の姿が、鱗の代わりに羽毛をもつ、白い翼が特徴的なドラゴンだった。
そんなドラゴンを見たことはなくて、浮竹と京楽は、平子が異界の存在なんだなと、改めて納得するのであった。
「あ、宝箱!」
「浮竹、それはミミック!」
「ミミックでも大歓迎だ!」
浮竹は、宝箱をあけた。宝箱はミミックだった。
「暗いよ~狭いよ~怖いよ~息苦しいよ~~」
「何やっとんの、あれ」
平子が、笑いながら浮竹を指さす。
「浮竹は、宝物があるとああやってあけるんだ。ほとんどがミミックで、かじられてあんな姿になるんだけど・・・・・」
「京楽、助けてくれ。平子でもいい」
「よし、オレが助けやろやないか」
平子は、浮竹をひっぱった。
その力は強くて、浮竹はミミックにかじられながらも脱出したかに見えて、頭をまだかじられていた。
「このミミック、殺してええんか?」
「いいけど、頼むから浮竹は傷つけないでよ」
「ほれ」
隕石が降ってきた。
京楽は驚いて、シールドを張る。
「ちょっと、僕たちを殺す気かい!?」
「あれ、難しいな」
「僕が助けるから、平子クン、君はモンスターも倒さなくていいから!見てるだけでいいから!余計なことはしないでね!?」
神の名を冠するだけあって、その力は絶大であった。
加減ができないようで、星の名ををつけられただけあって、隕石を降らしてくる。
京楽は、しつこく浮竹の頭をかじっているミミックにとどめを刺した。
「助かった、京楽。平子、お前は強すぎて力加減ができないんだな」
「いや、そうでもないで?小さい隕石落としたりもできるで?」
「どっちみち星の精霊ドラゴンというだけあって、隕石を降らすんだろう。隕石なんて小さくてもクレーターができる。大きいと、国ごと亡ぶ」
「オレ、そない強ないで?」
「それより、浮竹いいのかい?ミミックが、魔法書ドロップしたけど」
浮竹は、京楽の手から魔法書を受け取った。
「何々・・・ドラゴン退治の書3巻。おいしくドラゴンの肉を加工する魔法・・・・」
浮竹も京楽も、平子を見た。
平子は、顔を青くして数歩下がる。
「俺はドラゴンやないで!精霊ドラゴンやで!精霊でもあるんやで!」
「でも、竜化できるんだよな?」
「加工されるうううう」
平子の救いを求める姿に、浮竹と京楽は腹を抱えて笑った。
「いや、冗談だから。さすがに仲間のドラゴンを加工しようとなんて思わん」
「そうそう。浮竹はドラゴン倒すの好きだし、魔法も覚えるだろうけど、平子クンには使わないさ」
平子は、ほっと胸を撫で下ろした。
「ならええんやけど」
ダンジョンの40階層は、ミミックオンリーのフロアだった。
100体はいるであろうミミックに、浮竹が順番に齧られていく。
45体目までは我慢したが、流石に数が多すぎて、平子がメテオストライクを放って、ミミックを全滅させてしまった。
「ああ、まだミミック全部にかじられてないのに!」
浮竹の非難の声に、京楽も平子も、疲れ切った表情をしていた。
「君、ミミックに今日で45回もかじられて、どうってことないのかい?」
「俺はまだまだいけるぞ。今夜ここで寝て、またミミックが復活するのを待とう」
「えー。オレは嫌やで。ミミックから浮竹助けんのにどんだけ苦労することか」
「僕も、平子クンの意見に賛成だよ」
「いや、今日はここで寝る!」
浮竹の意思は固く、結局2日目は40階層のフロアで夜を明かすことになった。
朝になり、20体ミミックが復活していた。
待てばもっと復活するだろうが、時間が惜しい。平子がこの世界にいられるまで、あと4日だ。
仕方なく、浮竹はきっちり20体のミミックに齧られて、魔法書やら財宝をゲットして、41階層を攻略していくのであった。
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