始祖なる者、ヴァンパイアマスター31前編
「ラニ、レニ」
「はい、お父様」
「はい、父上」
「いいかい、始祖のヴァンパイア浮竹十四郎か、その血族である京楽春水を屠るんだ。それができなかったら、力を削り取るだけでもいい。がんばりなさい」
「「はい」」
ラニとレニ、藍染は愛娘も手ごまのように扱った。
だが、使い捨てにする気はなかった。
ちゃんと戻る意思を持たせておいたし、魔人ユーハバッハの血を注射して与えて、化け物化することもなかった。
使い捨てにできる手ごまなど、たくさんいる。
藍染は、藍染なりに娘を愛していた。
それが愛ではなく、ただの執着であることに、藍染が気づくことはなかった。
-------------------------------------------------------
ラニとレニは、逃げ出した。
ラニとレニは、肩まである金髪に青い目をした、人形のように整った顔立ちの双子だった。
始祖ヴァンパイアのところに行くふりをして、実際に古城にまでやってきた。
そして、浮竹の元にいくと、逃げてきたのだと説明し、魔人ユーハバッハの血液を凝固して作った赤い宝石を差し出した。
「私たちのお父様は、あなたとあなたの血族を狙っているの。私たちに、屠れと命令してきたわ。でも、私たちはお父様の操り人形じゃない。お母様は利用されて殺されてしまった。あんな風には、なりたくないの」
その母様とやらを殺したのは自分たちだとは、浮竹も京楽も言えなかった。
「しばらく古城で保護しよう」
「でもいいの、浮竹。藍染の子だよ。もしも藍染が取り返しに来たら・・・・・」
「その可能性は限りなく薄い。藍染は俺たちの力を知っている。だから、自分の力でなく他者を利用する」
「そうだけどさぁ。なんかきな臭いんだよねぇ」
「京楽の考えすぎだろう。それにまだ幼い少女だ。血の帝国に遣いを送って、血の帝国で保護してもらおう。それなら、京楽も安心だろう?」
「うん、それならいいよ」
こうして、浮竹と京楽と、藍染の双子の娘という奇妙な構図ではあるが、一緒に暮らす生活が始まった。
「ラニ、レニ、起きろ。朝だぞ」
「はい、浮竹様」
「はーい、起きます」
二人は、行儀正しかった。
本当に藍染の娘なのかと疑わしいほどに、似ていなかった。
魔女の血を濃く引き継いだせいか、魔族の匂いもなかった。
逆に魔女の匂いが濃くて、まるで猫の魔女乱菊と生活をしている錯覚に陥った。
双子は幼いなりに、よくできていた。
読み書きもできたし、難しい計算もできた。
特に姉のほうのラニには魔法の才能があるようで、浮竹が個人的に授業を開いて、ラニに魔法の使い方を教えた。
「ファイア!」
「わあ、姉さま上手!」
何もない空間を、凄まじい勢いの炎が宿る。
それを見て、ああ確かに藍染の血を引いているのだなと、おぼろげながらに実感した。
「レニにも魔法の才能はあるようだね。浮竹、レニにも教えてあげたら?」
「そうだな。レニ、明日からお前も授業に参加できるが、参加するか?」
「私も姉さまみたいに、魔法が使えるの?」
「ラニほどうまく魔法は使えないかもしれないが、そこそこ使えるようになると思うぞ」
「なら、私も明日から参加する!」
二人は、純心爛漫を絵に描いたような双子だった。
知識をより貪欲に吸収して、古城にきて1カ月は経という時期には、ラニはもう火と風と水の中級魔法まで使えるようになっていた。
レニのほうは、火と水の魔法の初級までだった。
「いいなぁ、姉さま。中級魔法が使えるなんて」
「学んでいけば、レニも使えるようになるさ」
浮竹も京楽も、すっかり敵対心をなくしていた。
ミミックのポチも、ラニとレニに懐いていた。
「D級ダンジョンに潜ろうと思う。ラニ、レニ、冒険者ギルドに行くぞ」
ラニとレニを、独立させるには冒険者が一番手っ取り早かった。
血の帝国から、保護するための使者が来ていたが、何かと理由をつけて、浮竹は先延ばしにしていた。
ラニとレニを気に入ったのだ。
ラニとレニを連れて冒険者ギルドにいくと、ギルドマスターが直々に来てくれた。
「なんだ、幼い魔女か。冒険者になりたいのか?」
「浮竹様が、それが一番手っ取り早いって」
「まぁそうかもしれないが、命の危険と隣り合わせなことを、忘れるなよ」
それだけ言い残して、ギルドマスターは去って行った。
ラニとレニは、ギルドの受付嬢から渡された書類に記入して、Eランクの冒険者となった。
Eランクなら、D級ダンジョンでもなんとかやっていけるだろう。そういう判断だったのだが、その判断は浮竹を迷わせた。
D級ダンジョンに出てくるモンスターを、レニだけの魔法でやっつけていた。
Sランクの浮竹と京楽は、一切手助けをしなかった。
「やあ!ファイア!」
炎の魔法を受けて、スライムがどろどろに溶けていく。
「レニだけで攻略できそうだな。ラニも、何か魔法を使うといい」
D級ダンジョンは20階層まであった。10階層のボスはリトルケルベロス。
ケルベロスを小さくした魔物だったが、炎をのブレスを吐いてくるしで、意外と強敵だった。
「ウォーターシールド!」
まず、レニがそう唱えて、水の盾を出してリトルケルベロスの炎のブレスを防いだ。
「ウォータープリズン!」
ラニは、リトルケルベロス全体を水の魔法に閉じ込めた。
リトルケルベロスは呼吸ができなくなり、じたばたとしばらくもがいた後で、動かなくなった。
「よくやった、ラニ、レニ」
「浮竹様の指導があってのものです」
「私もそう思います。浮竹様の教えがいいから、ここまで成長できました!まだ成長したいです!もっといろいろ教えてください!」
「ラニ、レニ・・・・・」
浮竹は、ラニとレニを引き取りたいと、京楽に言い出した。
「でも、一応藍染の子なんだし、それは無理だよ」
「だが・・・」
「浮竹様、最下層の20層が見えてきました」
「京楽様も、行くきましょう?」
ラニとレニに手を引っ張られて、京楽と浮竹は最後の20階層を進む。
ボス部屋があった。
中に入ると、プチドラゴンがいた。
「なんだ、プチドラゴンか」
浮竹には雑魚でも、ラニとレニには強敵だった。
「ファイア!」
「ウォーターランス!」
プチドラゴンは、ドラゴンブレスを吐いた。
二人が唱えた魔法は、ドラゴンブレスに相殺された。
「やあああ!!!」
レニが、短剣を取り出して、プチドラゴンの右目を刺した。
「ギィイイイイイイイ!」
プチドラゴンが、悲鳴をあげてレニを振り回す。
レニはそれでも短剣にしがみつき、割れた眼球めがけて、炎の魔法を放った。
「ファイア!」
「ギエエエエエエエエ」
悲鳴をあげて、プチドラゴンは倒れた。
「よくやったな。偉いぞ、ラニ、レニ」
「まさか、ここまでやるとは思ってなかったよ。二人の実力には、僕も脱帽だよ」
「京楽様、財宝の間が見えます!」
「浮竹様も早く早く!」
ラニとレニに追い立てられて、財宝の間にくると、100枚ほどの金貨と宝石がいくつかあった。
D級ダンジョンにしては、報酬は大きかった。
ダンジョンのランクが上がるほど、出てくる敵は強くなり、報酬の財宝の量も増える。
S級ダンジョンをクリアできれば、一生遊んで暮らせるような金が手に入るが、S級ダンジョンを踏破した者は、浮竹と京楽以外では数少ない者しかいなかった。
浮竹と京楽の存在が規格外すぎるのだ。
「ダンジョン踏破の報告に行こう。Dランクに昇格できるはずだ」
念のため、一切手伝っていないことを示す水晶玉を手にして、浮竹と京楽とラニとレニは冒険者ギルドへ帰還した。
「なんですって、その二人だけでD級ダンジョンを踏破したとういうのですか!?」
ギルドの受付嬢が、そんな新人冒険者は久しぶりだと喜んでいた。
「この宝石だが、買いとれるか?」
「あ、はい。金貨6枚になります」
浮竹が、D級ダンジョンでドロップした宝石を売った。
「ほら、ラニとレニ。金貨3枚ずつだ。報酬の金貨も、50枚ずつで分けておいたからな」
「ありがとうございます、浮竹様!」
「京楽様、帰ったS級ダンジョンを攻略した時の話を聞かせてください!」
ラニとレニは、無事Dランクへ昇格した。
このままいけば、半年以内にはCランクへの昇級もありえそうだった。
ラニとレニが寝静まったのを確認して、浮竹と京楽は今後のことについて話し合っていた。
「ラニとレニを、正式に娘にしたい」
「浮竹、君の気持は分かるし、ラニとレニはいい子だ。でも、何かがひっかかるんだ」
「藍染のことか?」
「そう。彼が、愛娘が脱走したのに、何もしてこないのはおかしすぎる」
「俺がいるからじゃないか。藍染は、一度俺に敗れている」
「それもそうなんだけど・・・・・」
京楽は、なんとも言えない表情を作った。
「血の帝国に、保護の必要はないと言っておいた」
「それは!」
つまりは、ラニとレニを手元に置くことを意味していた。
ラニとレニが、そんな二人の会話を聞いて、笑っているなどとは、浮竹にも京楽にも想像できなかった。
-------------------------------------------------------------------------
ラニとレニは、深夜になって古城を抜け出した。
一番近くの川の水を桶にはって、水鏡を作る。そして、呼びかける。
「藍染父様」
「やあ、愛しいラニとレニ。計画は順調かな?」
「始祖浮竹と血族京楽は、私たちを娘として迎えようとしているわ」
「それはいいことだ。いいかい、決して殺意を抱いちゃいけないよ。悟られるからね」
「父上、本当にこれでいいのでしょうか」
「レニ?」
「何を言っているの、レニ」
「だって、浮竹様はこんな私たちにとても優しくしてくれる。純粋にいい人に思えて・・・・」
パンと、ラニがレニの頬を叩いた。
「忘れたの、レニ。私たちのお母様を殺したのは、あの始祖浮竹とその血族京楽よ!」
「でも、ラニ姉さま!」
「いいわけは聞きたくないわ。もしも邪魔するなら、レニ、あなたでも殺すわよ?」
「ごめんなさい、ラニ姉さま。私にはラニ姉さまと父上だけなの。私を嫌わないで、ラニ姉さま」
「分かればいいのよ、レニ」
ラニは、レニの金髪を撫でた。
-------------------------------------------------------------------------
双子は、殺意を抱かずに浮竹と京楽との生活を楽しんだ。
まるで、浮竹と京楽を実の父親のように感じて、二人の娘であろうとして振る舞った。
ラニとレニに近づいても、水晶のペンダントはいつも濁ることなく、光に煌めいて輝いていた。
「ラニ、レニ、誕生日おめでとう」
「浮竹様、私たちの誕生日は私たちも知らないわ」
「だから、出会って2カ月経ってしまったけれど、今日をラニとレニの誕生日にしようと思う」
「嬉しい、浮竹様!」
ラニとレニは浮竹と京楽に抱き着いた。
「ほら、誕生日プレゼントだ」
そう言って、浮竹はラニとレニに大きな兎のぬいぐるみと、魔法使い用の杖をあげた。
「嬉しい、浮竹様!」
「今日から、父様と呼んでくれ。正式に家族になることにした」
ブラッディ・ネイの許可をとらず、浮竹はラニとレニを娘として迎えた。
「浮竹父様、京楽父様・・・・・」
「なんか、エメラルドを思い出すようで、懐かしいな」
かつて、浮竹と京楽には、エメラルドという名のヴァンピールの娘がいた。
今から100年以上前の話だが。
「今日から、君たちは僕たちの家族だよ」
京楽も、浮竹の熱意に負けて、ラニとレニを娘にすることを許可してくれた。
浮竹も京楽も、幸せだった。
その幸せを壊す足音は、静かに忍びよとうとしていた。
-------------------------------------------------------------------------------
それから更に一カ月が経った。
「レニ、起きて、レニ」
「ううん、ラニ姉さま?」
「今日が、藍染父様との約束の日よ」
「うん。浮竹父様と、京楽父様を殺す日ね?」
「そうよ。私たちの手で、血の帝国の歴史を変えるのよ」
ラニとレニは、就寝中の浮竹と京楽に近寄る。
浮竹と京楽は、よく眠っていた。
夕飯に混ぜた眠剤が、効いているようであった。
「さよなら、浮竹父様」
ラニは、特殊な銀の短剣で、浮竹の心臓を一突きした。傷口に、回収しておいた魔人ユーハバッハの血を結晶化したものを砕いて、浮竹の心臓に降り注がせる。
「ラニ、レニ!?」
「ぐ・・・・ごほっ」
浮竹は真っ赤な血を吐いて、苦しそうに身を捩った。
「ラニ、レニ!!!」
京楽は、血を暴走させていた。
今までにない、暴走だった。
愛していた者に裏切られた。
何より大切な浮竹を傷つけられた。
「ラニ、レニ、許さないよ」
京楽は、じわりと猛毒の血を滲ませ、まずはラニの手の短剣を砕いた。
次に浮竹の傷口を覆い、侵入していた魔人ユーハバッハの血を自分の血に変えて、浮竹の心臓を癒す。
「許さない。僕の浮竹を傷つける者は、誰であろうと許さない」
「はははは!手に入れたぞ!始祖のヴァンパイアの体だ!」
「浮竹?」
「違う。私の名はユーハバッハ。人は、私のことを魔人と呼ぶ」
「はい、お父様」
「はい、父上」
「いいかい、始祖のヴァンパイア浮竹十四郎か、その血族である京楽春水を屠るんだ。それができなかったら、力を削り取るだけでもいい。がんばりなさい」
「「はい」」
ラニとレニ、藍染は愛娘も手ごまのように扱った。
だが、使い捨てにする気はなかった。
ちゃんと戻る意思を持たせておいたし、魔人ユーハバッハの血を注射して与えて、化け物化することもなかった。
使い捨てにできる手ごまなど、たくさんいる。
藍染は、藍染なりに娘を愛していた。
それが愛ではなく、ただの執着であることに、藍染が気づくことはなかった。
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ラニとレニは、逃げ出した。
ラニとレニは、肩まである金髪に青い目をした、人形のように整った顔立ちの双子だった。
始祖ヴァンパイアのところに行くふりをして、実際に古城にまでやってきた。
そして、浮竹の元にいくと、逃げてきたのだと説明し、魔人ユーハバッハの血液を凝固して作った赤い宝石を差し出した。
「私たちのお父様は、あなたとあなたの血族を狙っているの。私たちに、屠れと命令してきたわ。でも、私たちはお父様の操り人形じゃない。お母様は利用されて殺されてしまった。あんな風には、なりたくないの」
その母様とやらを殺したのは自分たちだとは、浮竹も京楽も言えなかった。
「しばらく古城で保護しよう」
「でもいいの、浮竹。藍染の子だよ。もしも藍染が取り返しに来たら・・・・・」
「その可能性は限りなく薄い。藍染は俺たちの力を知っている。だから、自分の力でなく他者を利用する」
「そうだけどさぁ。なんかきな臭いんだよねぇ」
「京楽の考えすぎだろう。それにまだ幼い少女だ。血の帝国に遣いを送って、血の帝国で保護してもらおう。それなら、京楽も安心だろう?」
「うん、それならいいよ」
こうして、浮竹と京楽と、藍染の双子の娘という奇妙な構図ではあるが、一緒に暮らす生活が始まった。
「ラニ、レニ、起きろ。朝だぞ」
「はい、浮竹様」
「はーい、起きます」
二人は、行儀正しかった。
本当に藍染の娘なのかと疑わしいほどに、似ていなかった。
魔女の血を濃く引き継いだせいか、魔族の匂いもなかった。
逆に魔女の匂いが濃くて、まるで猫の魔女乱菊と生活をしている錯覚に陥った。
双子は幼いなりに、よくできていた。
読み書きもできたし、難しい計算もできた。
特に姉のほうのラニには魔法の才能があるようで、浮竹が個人的に授業を開いて、ラニに魔法の使い方を教えた。
「ファイア!」
「わあ、姉さま上手!」
何もない空間を、凄まじい勢いの炎が宿る。
それを見て、ああ確かに藍染の血を引いているのだなと、おぼろげながらに実感した。
「レニにも魔法の才能はあるようだね。浮竹、レニにも教えてあげたら?」
「そうだな。レニ、明日からお前も授業に参加できるが、参加するか?」
「私も姉さまみたいに、魔法が使えるの?」
「ラニほどうまく魔法は使えないかもしれないが、そこそこ使えるようになると思うぞ」
「なら、私も明日から参加する!」
二人は、純心爛漫を絵に描いたような双子だった。
知識をより貪欲に吸収して、古城にきて1カ月は経という時期には、ラニはもう火と風と水の中級魔法まで使えるようになっていた。
レニのほうは、火と水の魔法の初級までだった。
「いいなぁ、姉さま。中級魔法が使えるなんて」
「学んでいけば、レニも使えるようになるさ」
浮竹も京楽も、すっかり敵対心をなくしていた。
ミミックのポチも、ラニとレニに懐いていた。
「D級ダンジョンに潜ろうと思う。ラニ、レニ、冒険者ギルドに行くぞ」
ラニとレニを、独立させるには冒険者が一番手っ取り早かった。
血の帝国から、保護するための使者が来ていたが、何かと理由をつけて、浮竹は先延ばしにしていた。
ラニとレニを気に入ったのだ。
ラニとレニを連れて冒険者ギルドにいくと、ギルドマスターが直々に来てくれた。
「なんだ、幼い魔女か。冒険者になりたいのか?」
「浮竹様が、それが一番手っ取り早いって」
「まぁそうかもしれないが、命の危険と隣り合わせなことを、忘れるなよ」
それだけ言い残して、ギルドマスターは去って行った。
ラニとレニは、ギルドの受付嬢から渡された書類に記入して、Eランクの冒険者となった。
Eランクなら、D級ダンジョンでもなんとかやっていけるだろう。そういう判断だったのだが、その判断は浮竹を迷わせた。
D級ダンジョンに出てくるモンスターを、レニだけの魔法でやっつけていた。
Sランクの浮竹と京楽は、一切手助けをしなかった。
「やあ!ファイア!」
炎の魔法を受けて、スライムがどろどろに溶けていく。
「レニだけで攻略できそうだな。ラニも、何か魔法を使うといい」
D級ダンジョンは20階層まであった。10階層のボスはリトルケルベロス。
ケルベロスを小さくした魔物だったが、炎をのブレスを吐いてくるしで、意外と強敵だった。
「ウォーターシールド!」
まず、レニがそう唱えて、水の盾を出してリトルケルベロスの炎のブレスを防いだ。
「ウォータープリズン!」
ラニは、リトルケルベロス全体を水の魔法に閉じ込めた。
リトルケルベロスは呼吸ができなくなり、じたばたとしばらくもがいた後で、動かなくなった。
「よくやった、ラニ、レニ」
「浮竹様の指導があってのものです」
「私もそう思います。浮竹様の教えがいいから、ここまで成長できました!まだ成長したいです!もっといろいろ教えてください!」
「ラニ、レニ・・・・・」
浮竹は、ラニとレニを引き取りたいと、京楽に言い出した。
「でも、一応藍染の子なんだし、それは無理だよ」
「だが・・・」
「浮竹様、最下層の20層が見えてきました」
「京楽様も、行くきましょう?」
ラニとレニに手を引っ張られて、京楽と浮竹は最後の20階層を進む。
ボス部屋があった。
中に入ると、プチドラゴンがいた。
「なんだ、プチドラゴンか」
浮竹には雑魚でも、ラニとレニには強敵だった。
「ファイア!」
「ウォーターランス!」
プチドラゴンは、ドラゴンブレスを吐いた。
二人が唱えた魔法は、ドラゴンブレスに相殺された。
「やあああ!!!」
レニが、短剣を取り出して、プチドラゴンの右目を刺した。
「ギィイイイイイイイ!」
プチドラゴンが、悲鳴をあげてレニを振り回す。
レニはそれでも短剣にしがみつき、割れた眼球めがけて、炎の魔法を放った。
「ファイア!」
「ギエエエエエエエエ」
悲鳴をあげて、プチドラゴンは倒れた。
「よくやったな。偉いぞ、ラニ、レニ」
「まさか、ここまでやるとは思ってなかったよ。二人の実力には、僕も脱帽だよ」
「京楽様、財宝の間が見えます!」
「浮竹様も早く早く!」
ラニとレニに追い立てられて、財宝の間にくると、100枚ほどの金貨と宝石がいくつかあった。
D級ダンジョンにしては、報酬は大きかった。
ダンジョンのランクが上がるほど、出てくる敵は強くなり、報酬の財宝の量も増える。
S級ダンジョンをクリアできれば、一生遊んで暮らせるような金が手に入るが、S級ダンジョンを踏破した者は、浮竹と京楽以外では数少ない者しかいなかった。
浮竹と京楽の存在が規格外すぎるのだ。
「ダンジョン踏破の報告に行こう。Dランクに昇格できるはずだ」
念のため、一切手伝っていないことを示す水晶玉を手にして、浮竹と京楽とラニとレニは冒険者ギルドへ帰還した。
「なんですって、その二人だけでD級ダンジョンを踏破したとういうのですか!?」
ギルドの受付嬢が、そんな新人冒険者は久しぶりだと喜んでいた。
「この宝石だが、買いとれるか?」
「あ、はい。金貨6枚になります」
浮竹が、D級ダンジョンでドロップした宝石を売った。
「ほら、ラニとレニ。金貨3枚ずつだ。報酬の金貨も、50枚ずつで分けておいたからな」
「ありがとうございます、浮竹様!」
「京楽様、帰ったS級ダンジョンを攻略した時の話を聞かせてください!」
ラニとレニは、無事Dランクへ昇格した。
このままいけば、半年以内にはCランクへの昇級もありえそうだった。
ラニとレニが寝静まったのを確認して、浮竹と京楽は今後のことについて話し合っていた。
「ラニとレニを、正式に娘にしたい」
「浮竹、君の気持は分かるし、ラニとレニはいい子だ。でも、何かがひっかかるんだ」
「藍染のことか?」
「そう。彼が、愛娘が脱走したのに、何もしてこないのはおかしすぎる」
「俺がいるからじゃないか。藍染は、一度俺に敗れている」
「それもそうなんだけど・・・・・」
京楽は、なんとも言えない表情を作った。
「血の帝国に、保護の必要はないと言っておいた」
「それは!」
つまりは、ラニとレニを手元に置くことを意味していた。
ラニとレニが、そんな二人の会話を聞いて、笑っているなどとは、浮竹にも京楽にも想像できなかった。
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ラニとレニは、深夜になって古城を抜け出した。
一番近くの川の水を桶にはって、水鏡を作る。そして、呼びかける。
「藍染父様」
「やあ、愛しいラニとレニ。計画は順調かな?」
「始祖浮竹と血族京楽は、私たちを娘として迎えようとしているわ」
「それはいいことだ。いいかい、決して殺意を抱いちゃいけないよ。悟られるからね」
「父上、本当にこれでいいのでしょうか」
「レニ?」
「何を言っているの、レニ」
「だって、浮竹様はこんな私たちにとても優しくしてくれる。純粋にいい人に思えて・・・・」
パンと、ラニがレニの頬を叩いた。
「忘れたの、レニ。私たちのお母様を殺したのは、あの始祖浮竹とその血族京楽よ!」
「でも、ラニ姉さま!」
「いいわけは聞きたくないわ。もしも邪魔するなら、レニ、あなたでも殺すわよ?」
「ごめんなさい、ラニ姉さま。私にはラニ姉さまと父上だけなの。私を嫌わないで、ラニ姉さま」
「分かればいいのよ、レニ」
ラニは、レニの金髪を撫でた。
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双子は、殺意を抱かずに浮竹と京楽との生活を楽しんだ。
まるで、浮竹と京楽を実の父親のように感じて、二人の娘であろうとして振る舞った。
ラニとレニに近づいても、水晶のペンダントはいつも濁ることなく、光に煌めいて輝いていた。
「ラニ、レニ、誕生日おめでとう」
「浮竹様、私たちの誕生日は私たちも知らないわ」
「だから、出会って2カ月経ってしまったけれど、今日をラニとレニの誕生日にしようと思う」
「嬉しい、浮竹様!」
ラニとレニは浮竹と京楽に抱き着いた。
「ほら、誕生日プレゼントだ」
そう言って、浮竹はラニとレニに大きな兎のぬいぐるみと、魔法使い用の杖をあげた。
「嬉しい、浮竹様!」
「今日から、父様と呼んでくれ。正式に家族になることにした」
ブラッディ・ネイの許可をとらず、浮竹はラニとレニを娘として迎えた。
「浮竹父様、京楽父様・・・・・」
「なんか、エメラルドを思い出すようで、懐かしいな」
かつて、浮竹と京楽には、エメラルドという名のヴァンピールの娘がいた。
今から100年以上前の話だが。
「今日から、君たちは僕たちの家族だよ」
京楽も、浮竹の熱意に負けて、ラニとレニを娘にすることを許可してくれた。
浮竹も京楽も、幸せだった。
その幸せを壊す足音は、静かに忍びよとうとしていた。
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それから更に一カ月が経った。
「レニ、起きて、レニ」
「ううん、ラニ姉さま?」
「今日が、藍染父様との約束の日よ」
「うん。浮竹父様と、京楽父様を殺す日ね?」
「そうよ。私たちの手で、血の帝国の歴史を変えるのよ」
ラニとレニは、就寝中の浮竹と京楽に近寄る。
浮竹と京楽は、よく眠っていた。
夕飯に混ぜた眠剤が、効いているようであった。
「さよなら、浮竹父様」
ラニは、特殊な銀の短剣で、浮竹の心臓を一突きした。傷口に、回収しておいた魔人ユーハバッハの血を結晶化したものを砕いて、浮竹の心臓に降り注がせる。
「ラニ、レニ!?」
「ぐ・・・・ごほっ」
浮竹は真っ赤な血を吐いて、苦しそうに身を捩った。
「ラニ、レニ!!!」
京楽は、血を暴走させていた。
今までにない、暴走だった。
愛していた者に裏切られた。
何より大切な浮竹を傷つけられた。
「ラニ、レニ、許さないよ」
京楽は、じわりと猛毒の血を滲ませ、まずはラニの手の短剣を砕いた。
次に浮竹の傷口を覆い、侵入していた魔人ユーハバッハの血を自分の血に変えて、浮竹の心臓を癒す。
「許さない。僕の浮竹を傷つける者は、誰であろうと許さない」
「はははは!手に入れたぞ!始祖のヴァンパイアの体だ!」
「浮竹?」
「違う。私の名はユーハバッハ。人は、私のことを魔人と呼ぶ」
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