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03 2024/04 29 30 05

始祖なる者、ヴァンパイアマスター31前編

「ラニ、レニ」

「はい、お父様」

「はい、父上」

「いいかい、始祖のヴァンパイア浮竹十四郎か、その血族である京楽春水を屠るんだ。それができなかったら、力を削り取るだけでもいい。がんばりなさい」

「「はい」」

ラニとレニ、藍染は愛娘も手ごまのように扱った。

だが、使い捨てにする気はなかった。

ちゃんと戻る意思を持たせておいたし、魔人ユーハバッハの血を注射して与えて、化け物化することもなかった。

使い捨てにできる手ごまなど、たくさんいる。

藍染は、藍染なりに娘を愛していた。

それが愛ではなく、ただの執着であることに、藍染が気づくことはなかった。

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ラニとレニは、逃げ出した。

ラニとレニは、肩まである金髪に青い目をした、人形のように整った顔立ちの双子だった。

始祖ヴァンパイアのところに行くふりをして、実際に古城にまでやってきた。

そして、浮竹の元にいくと、逃げてきたのだと説明し、魔人ユーハバッハの血液を凝固して作った赤い宝石を差し出した。

「私たちのお父様は、あなたとあなたの血族を狙っているの。私たちに、屠れと命令してきたわ。でも、私たちはお父様の操り人形じゃない。お母様は利用されて殺されてしまった。あんな風には、なりたくないの」

その母様とやらを殺したのは自分たちだとは、浮竹も京楽も言えなかった。

「しばらく古城で保護しよう」

「でもいいの、浮竹。藍染の子だよ。もしも藍染が取り返しに来たら・・・・・」

「その可能性は限りなく薄い。藍染は俺たちの力を知っている。だから、自分の力でなく他者を利用する」

「そうだけどさぁ。なんかきな臭いんだよねぇ」

「京楽の考えすぎだろう。それにまだ幼い少女だ。血の帝国に遣いを送って、血の帝国で保護してもらおう。それなら、京楽も安心だろう?」

「うん、それならいいよ」

こうして、浮竹と京楽と、藍染の双子の娘という奇妙な構図ではあるが、一緒に暮らす生活が始まった。

「ラニ、レニ、起きろ。朝だぞ」

「はい、浮竹様」

「はーい、起きます」

二人は、行儀正しかった。

本当に藍染の娘なのかと疑わしいほどに、似ていなかった。

魔女の血を濃く引き継いだせいか、魔族の匂いもなかった。

逆に魔女の匂いが濃くて、まるで猫の魔女乱菊と生活をしている錯覚に陥った。

双子は幼いなりに、よくできていた。

読み書きもできたし、難しい計算もできた。

特に姉のほうのラニには魔法の才能があるようで、浮竹が個人的に授業を開いて、ラニに魔法の使い方を教えた。

「ファイア!」

「わあ、姉さま上手!」

何もない空間を、凄まじい勢いの炎が宿る。

それを見て、ああ確かに藍染の血を引いているのだなと、おぼろげながらに実感した。

「レニにも魔法の才能はあるようだね。浮竹、レニにも教えてあげたら?」

「そうだな。レニ、明日からお前も授業に参加できるが、参加するか?」

「私も姉さまみたいに、魔法が使えるの?」

「ラニほどうまく魔法は使えないかもしれないが、そこそこ使えるようになると思うぞ」

「なら、私も明日から参加する!」

二人は、純心爛漫を絵に描いたような双子だった。

知識をより貪欲に吸収して、古城にきて1カ月は経という時期には、ラニはもう火と風と水の中級魔法まで使えるようになっていた。

レニのほうは、火と水の魔法の初級までだった。

「いいなぁ、姉さま。中級魔法が使えるなんて」

「学んでいけば、レニも使えるようになるさ」

浮竹も京楽も、すっかり敵対心をなくしていた。

ミミックのポチも、ラニとレニに懐いていた。

「D級ダンジョンに潜ろうと思う。ラニ、レニ、冒険者ギルドに行くぞ」

ラニとレニを、独立させるには冒険者が一番手っ取り早かった。

血の帝国から、保護するための使者が来ていたが、何かと理由をつけて、浮竹は先延ばしにしていた。

ラニとレニを気に入ったのだ。

ラニとレニを連れて冒険者ギルドにいくと、ギルドマスターが直々に来てくれた。

「なんだ、幼い魔女か。冒険者になりたいのか?」

「浮竹様が、それが一番手っ取り早いって」

「まぁそうかもしれないが、命の危険と隣り合わせなことを、忘れるなよ」

それだけ言い残して、ギルドマスターは去って行った。

ラニとレニは、ギルドの受付嬢から渡された書類に記入して、Eランクの冒険者となった。

Eランクなら、D級ダンジョンでもなんとかやっていけるだろう。そういう判断だったのだが、その判断は浮竹を迷わせた。

D級ダンジョンに出てくるモンスターを、レニだけの魔法でやっつけていた。

Sランクの浮竹と京楽は、一切手助けをしなかった。

「やあ!ファイア!」

炎の魔法を受けて、スライムがどろどろに溶けていく。

「レニだけで攻略できそうだな。ラニも、何か魔法を使うといい」

D級ダンジョンは20階層まであった。10階層のボスはリトルケルベロス。

ケルベロスを小さくした魔物だったが、炎をのブレスを吐いてくるしで、意外と強敵だった。

「ウォーターシールド!」

まず、レニがそう唱えて、水の盾を出してリトルケルベロスの炎のブレスを防いだ。

「ウォータープリズン!」

ラニは、リトルケルベロス全体を水の魔法に閉じ込めた。

リトルケルベロスは呼吸ができなくなり、じたばたとしばらくもがいた後で、動かなくなった。

「よくやった、ラニ、レニ」

「浮竹様の指導があってのものです」

「私もそう思います。浮竹様の教えがいいから、ここまで成長できました!まだ成長したいです!もっといろいろ教えてください!」

「ラニ、レニ・・・・・」

浮竹は、ラニとレニを引き取りたいと、京楽に言い出した。

「でも、一応藍染の子なんだし、それは無理だよ」

「だが・・・」

「浮竹様、最下層の20層が見えてきました」

「京楽様も、行くきましょう?」

ラニとレニに手を引っ張られて、京楽と浮竹は最後の20階層を進む。

ボス部屋があった。

中に入ると、プチドラゴンがいた。

「なんだ、プチドラゴンか」

浮竹には雑魚でも、ラニとレニには強敵だった。

「ファイア!」

「ウォーターランス!」

プチドラゴンは、ドラゴンブレスを吐いた。

二人が唱えた魔法は、ドラゴンブレスに相殺された。

「やあああ!!!」

レニが、短剣を取り出して、プチドラゴンの右目を刺した。

「ギィイイイイイイイ!」

プチドラゴンが、悲鳴をあげてレニを振り回す。

レニはそれでも短剣にしがみつき、割れた眼球めがけて、炎の魔法を放った。

「ファイア!」

「ギエエエエエエエエ」

悲鳴をあげて、プチドラゴンは倒れた。

「よくやったな。偉いぞ、ラニ、レニ」

「まさか、ここまでやるとは思ってなかったよ。二人の実力には、僕も脱帽だよ」

「京楽様、財宝の間が見えます!」

「浮竹様も早く早く!」

ラニとレニに追い立てられて、財宝の間にくると、100枚ほどの金貨と宝石がいくつかあった。

D級ダンジョンにしては、報酬は大きかった。

ダンジョンのランクが上がるほど、出てくる敵は強くなり、報酬の財宝の量も増える。

S級ダンジョンをクリアできれば、一生遊んで暮らせるような金が手に入るが、S級ダンジョンを踏破した者は、浮竹と京楽以外では数少ない者しかいなかった。

浮竹と京楽の存在が規格外すぎるのだ。

「ダンジョン踏破の報告に行こう。Dランクに昇格できるはずだ」

念のため、一切手伝っていないことを示す水晶玉を手にして、浮竹と京楽とラニとレニは冒険者ギルドへ帰還した。

「なんですって、その二人だけでD級ダンジョンを踏破したとういうのですか!?」

ギルドの受付嬢が、そんな新人冒険者は久しぶりだと喜んでいた。

「この宝石だが、買いとれるか?」

「あ、はい。金貨6枚になります」

浮竹が、D級ダンジョンでドロップした宝石を売った。

「ほら、ラニとレニ。金貨3枚ずつだ。報酬の金貨も、50枚ずつで分けておいたからな」

「ありがとうございます、浮竹様!」

「京楽様、帰ったS級ダンジョンを攻略した時の話を聞かせてください!」

ラニとレニは、無事Dランクへ昇格した。

このままいけば、半年以内にはCランクへの昇級もありえそうだった。


ラニとレニが寝静まったのを確認して、浮竹と京楽は今後のことについて話し合っていた。

「ラニとレニを、正式に娘にしたい」

「浮竹、君の気持は分かるし、ラニとレニはいい子だ。でも、何かがひっかかるんだ」

「藍染のことか?」

「そう。彼が、愛娘が脱走したのに、何もしてこないのはおかしすぎる」

「俺がいるからじゃないか。藍染は、一度俺に敗れている」

「それもそうなんだけど・・・・・」

京楽は、なんとも言えない表情を作った。

「血の帝国に、保護の必要はないと言っておいた」

「それは!」

つまりは、ラニとレニを手元に置くことを意味していた。

ラニとレニが、そんな二人の会話を聞いて、笑っているなどとは、浮竹にも京楽にも想像できなかった。

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ラニとレニは、深夜になって古城を抜け出した。

一番近くの川の水を桶にはって、水鏡を作る。そして、呼びかける。

「藍染父様」

「やあ、愛しいラニとレニ。計画は順調かな?」

「始祖浮竹と血族京楽は、私たちを娘として迎えようとしているわ」

「それはいいことだ。いいかい、決して殺意を抱いちゃいけないよ。悟られるからね」

「父上、本当にこれでいいのでしょうか」

「レニ?」

「何を言っているの、レニ」

「だって、浮竹様はこんな私たちにとても優しくしてくれる。純粋にいい人に思えて・・・・」

パンと、ラニがレニの頬を叩いた。

「忘れたの、レニ。私たちのお母様を殺したのは、あの始祖浮竹とその血族京楽よ!」

「でも、ラニ姉さま!」

「いいわけは聞きたくないわ。もしも邪魔するなら、レニ、あなたでも殺すわよ?」

「ごめんなさい、ラニ姉さま。私にはラニ姉さまと父上だけなの。私を嫌わないで、ラニ姉さま」

「分かればいいのよ、レニ」

ラニは、レニの金髪を撫でた。

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双子は、殺意を抱かずに浮竹と京楽との生活を楽しんだ。

まるで、浮竹と京楽を実の父親のように感じて、二人の娘であろうとして振る舞った。

ラニとレニに近づいても、水晶のペンダントはいつも濁ることなく、光に煌めいて輝いていた。

「ラニ、レニ、誕生日おめでとう」

「浮竹様、私たちの誕生日は私たちも知らないわ」

「だから、出会って2カ月経ってしまったけれど、今日をラニとレニの誕生日にしようと思う」

「嬉しい、浮竹様!」

ラニとレニは浮竹と京楽に抱き着いた。

「ほら、誕生日プレゼントだ」

そう言って、浮竹はラニとレニに大きな兎のぬいぐるみと、魔法使い用の杖をあげた。

「嬉しい、浮竹様!」

「今日から、父様と呼んでくれ。正式に家族になることにした」

ブラッディ・ネイの許可をとらず、浮竹はラニとレニを娘として迎えた。

「浮竹父様、京楽父様・・・・・」

「なんか、エメラルドを思い出すようで、懐かしいな」

かつて、浮竹と京楽には、エメラルドという名のヴァンピールの娘がいた。

今から100年以上前の話だが。

「今日から、君たちは僕たちの家族だよ」

京楽も、浮竹の熱意に負けて、ラニとレニを娘にすることを許可してくれた。

浮竹も京楽も、幸せだった。

その幸せを壊す足音は、静かに忍びよとうとしていた。


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それから更に一カ月が経った。

「レニ、起きて、レニ」

「ううん、ラニ姉さま?」

「今日が、藍染父様との約束の日よ」

「うん。浮竹父様と、京楽父様を殺す日ね?」

「そうよ。私たちの手で、血の帝国の歴史を変えるのよ」

ラニとレニは、就寝中の浮竹と京楽に近寄る。

浮竹と京楽は、よく眠っていた。

夕飯に混ぜた眠剤が、効いているようであった。

「さよなら、浮竹父様」

ラニは、特殊な銀の短剣で、浮竹の心臓を一突きした。傷口に、回収しておいた魔人ユーハバッハの血を結晶化したものを砕いて、浮竹の心臓に降り注がせる。

「ラニ、レニ!?」

「ぐ・・・・ごほっ」

浮竹は真っ赤な血を吐いて、苦しそうに身を捩った。

「ラニ、レニ!!!」

京楽は、血を暴走させていた。

今までにない、暴走だった。

愛していた者に裏切られた。

何より大切な浮竹を傷つけられた。

「ラニ、レニ、許さないよ」

京楽は、じわりと猛毒の血を滲ませ、まずはラニの手の短剣を砕いた。

次に浮竹の傷口を覆い、侵入していた魔人ユーハバッハの血を自分の血に変えて、浮竹の心臓を癒す。

「許さない。僕の浮竹を傷つける者は、誰であろうと許さない」


「はははは!手に入れたぞ!始祖のヴァンパイアの体だ!」

「浮竹?」

「違う。私の名はユーハバッハ。人は、私のことを魔人と呼ぶ」





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