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始祖なる者、ヴァンパイアマスター38

浮竹は、魔国アルカンシェルの離島ハンニバルの、古城にいた。

伴侶にすると言われたが、乱暴に扱われることはなく、古城にはちょっと風変わりな、極東の島国の昔の着物であった、十二単を着させられていた。

魔王アレスも、浮竹のように血でメイドを作り出し、浮竹の世話をそのメイドたちに任せていた。

首飾りに触れる。

豪華な翡翠のあしらわれた首飾りであったが、魔封じの首飾りでもあった。

普通の魔法どころか、血の魔法さえ操れず、浮竹は魔王の元で軟禁されて、ただ時が過ぎていく。

「京楽・・・・・」

今頃、あの愛しい血族は、躍起になって浮竹を救いにくる手はずを整えているだろう。

魔国アルカンシェルと、自分の古城のあるガイア王国は遠い。

「京楽・・・早く、俺を助けにきてくれ。俺は、籠の中の小鳥だ・・・・」

魔法を封じられて、魔王アレスはよく浮竹に歌を歌えと命じた。

適当に、知っていた子守唄を歌うと、魔王アレスは眠っていた。

今だと、外に出ようにも、扉はびくともしなくて、窓にも結界が張ってあって、古城の外には出られなかった。

「汝は、我が花嫁。次の月が満ちる時、汝には我の子を授ける」

次の満月まで、あと半月。

浮竹は、捕らわれの姫のように、ただ京楽が助けにきてくれることを祈るのだった。

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「というわけなんだ。平子クン、力を貸してくれないかい」

「お安いごようやで。友人のためや、人肌脱ごうやないか」

血の帝国で、古代の遺跡を守護していた星の精霊ドラゴン、平子真子は竜化して、白い羽毛が生えた10メートルほどのドラゴンになると、京楽を乗せて魔国アルカンシェルまで向かった。

魔国アルカンシェルに行くには、いくつもの山脈を越えねばいけず、天候の悪い時は飛ぶことができずに、休憩をとりつつ、一週間かけて京楽と平子は、魔国アルカンシェルに到着した。

そこで地図を買い、離島のハンニバルまで更に飛んだ。

「ここが、魔王の居城・・・・・・」

「ほんとに、俺は手助けせんでええんか?」

「これは僕と浮竹に降りかかった試練だ。ここで待っていてくれないかい」

「分かったで。ここで待機しとくわ」

平子は、ドラゴンの姿のまま、離島ハンニバルにある魔王アレスの古城の中庭に待機するのであった。

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「浮竹、助けにきたよ!」

扉ごと魔法で破壊して中に入ると、魔王アレスが奥の間の玉座にいた。

「よくきたな、勇者京楽」

「はぁ?誰が勇者だって?」

「魔王が連れ去った姫を助けるのは、勇者の役割であろう」

「そんなことはどうでもいい。浮竹を返してもらう!」

「あれは、もう我が子を孕んだ。汝の元に帰しても、我が子を産むだけだぞ」

京楽の顔が一気に青くなった。

「たとえそうだとしても、浮竹は返してもらう!子は、僕の子として育てる!」

その言葉に、魔王アレスはさも愉快そうに笑った。

「此度の勇者は、魔王討伐よりも姫のことに、夢中のようだ」

「当たり前でしょ!僕は浮竹の血族!僕は浮竹のもので、浮竹も僕のものだ!」

ゆらりと、魔王アレスが魔力を揺らめかせた。

「決着をつけようぞ。我は2千年前に人間の勇者に封じられし魔王アレスである」

ぐらりと空間が歪んだ。

「我の空間だ。古城を傷つけたくないのでな。さぁ、どこからでもかかってこい」

京楽は、まずは小手調べだと、炎の魔法を放つ。

再覚醒してから、魔法が自分で使えるようになっていた。

「フレイムロンド!」

「アイスエッジ」

京楽が唱えた火の魔法を、魔王アレスが氷で相殺した。

「なるほど。魔王って名乗るのも、嘘じゃないみたいだね」

渦巻くその魔力の本流に、京楽は好敵手を見つけたかのように、笑んだ。

「我は、あくまで魔王ぞ。そこらの魔族と一緒にしないでもらおうか」

「フレアサークル!」

「アイシクルランス!」

二人の魔力は、ほぼ互角であった。

魔王は余裕をもって、京楽の相手をする。そこに隙を見つけた。

「うおおおおおお!!」

猛毒の血の刃をいくつも作りあげて、魔王アレスに放つ。

魔王アレスはいくつもの血の刃に斬り裂かれて、血を滲ませていた。

「我を傷つけるとは、なかなかやるな。だが、我はこの程度では倒れんぞ?」

傷を再生させながら、魔王アレスは手を伸ばした。

その手は、巨大な影となって、京楽の喉を締め上げた。

「ぐっ・・・・」

血の魔法で、影を切ろうにもすり抜ける。

本体に向けると、血は蒸発した。

「うぐっ・・・・」

「もう終わりか?」

「まだだ・・・エターナルアイシクルワールド!」

絶対零度の氷が、魔王アレスに襲いかかる。

「ほお、氷の魔法の禁呪か。だが、それなら我も使える。エターナルアイシクルワールド」

お互い、氷になりながら、魔力をうねらせていく。

まず、京楽が氷の魔法を割って、アイテムポケットからミスリル銀の魔剣を取り出すと、炎の魔法をまとわせて、魔王アレスに切りかかった。

魔王アレスは全身を炎で焼かれた。

「我はこの程度では死なぬ!」

けれど、魔王アレスは炎に飲まれたまま、京楽の体をその腕で握りつぶしにかかった。

「うおおおおおお」

魔王アレスを包みこむ炎が、京楽にも遅いかかる。

「く、ウォーターワールド!」

水の世界を作りだして、お互い鎮火する。

「ウォーターランス!」

「エアリアルエッジ!」

水と風の魔法がぶつかりかあう。

京楽は、炎の最高位精霊フェニックスを呼び出した。

「ゴットフェニックス!」

それに対して、魔王アレスもまた氷の最高位精霊フェンリルを呼び出す。

「ゴッドフェンリル!」

炎の不死鳥と氷の魔狼は、お互いの属性をぶつけ合いながら、消滅した。

京楽は、ニタリと笑った。影を潜めていた残酷さが滲み出てくる。

「ブラッディ・サークル!」

自分の血を円形状にして、その中にいた魔王アレスをずたずたにした。

「まだ、生きてるの。しぶといね」

魔王アレスは、傷を再生しながら、笑った。

「ふはははははは」

「あはははははは」

二人は笑いあいながら、お互いの隙を狙っていた。

「そこだ!」

魔王アレスが、魔法で作り出した槍で、京楽の胸を貫いた。

「ぐふっ」

吐血しながら、京楽も自分の血の槍で、魔王アレスの胸を貫いていた。

「ごふっ・・・・」

お互い、倒れる。

「よくぞ、我にここまでダメージを負わせた。エターナルアイシクルワールド・・・」

ああ、駄目だ。

僕はここで負けるのか。

そう思った瞬間、浮竹の声が聞こえた気がした。

「京楽、俺を助けにきたんだろう!そんな奴に負けるな!」

浮竹は涙を流していた。

浮竹の涙を見るのは、嫌だだった。

「エターナルアイシクルフィールド!」

さっき唱えた氷の禁呪の魔法よりも、更に高位の禁呪の魔法を繰り出す京楽。

「ぬおおおおお!!!」

魔王アレスは、氷に閉じこめらられていく。

「エターナルアイシクル・・・・・」

呪文の途中で、完全に凍り付いた。

凍り付いた両足をぱきんと割って、上半身でなんとか空間の歪みから脱出すると、目の前には涙を流している浮竹がいた。

「京楽、京楽!」

「僕は大丈夫」

「大丈夫なものか。足がないじゃないか!」

「ああ、魔封じをされているんだね。今、とってあげるから」

魔力を流し込むと、魔封じの首飾りはパキンと割れた。

「今、治癒してやるからな!」

浮竹は自分の血を大量に使い、京楽の足を形成してくっつけた。

「だめだよ、君の血が足りなくなってしまう」

「念のために、血液製剤を服に忍ばせておいた」

それを不味そうにがりがりとかじり、血を補給して、浮竹は京楽に抱きついた。

「バカ!俺のために無茶をしやがって!」

「でも、僕はお姫様を助ける勇者だからね」

「勇者なら、魔王くらい簡単にやっつけて、俺を迎えに来い!」

浮竹は、無茶難題を言ってきた。

「厳しいことを言うねぇ」

「本当に、心配したんだからな!」

「それはこっちの台詞だよ!子を孕まされてはいないね?」

「ああ、何もされていない」

完全に回復した体で、京楽は浮竹を抱き上げた。

「その恰好、どうしたの?」

「魔王アレスが似合っているって、俺にくれた」

「確かに、凄く似合ってるよ。ちょっと重いけどね」

浮竹は真っ赤なった。

十二単を着た浮竹を抱きあげて、古城を出ようとすると、封印されたはずの魔王アレスが立っていた。

「僕の後ろに隠れて」

浮竹は、言われた通り京楽の後ろに隠れた。

「汝は、見事に我に打ち勝った。金銀財宝はないが、代わりにこれをやろう」

すーっと、京楽の手の中に、赤く輝く魔法石のようなものがやってきた。

「これは?」

「世界の賢者や錬金術士たちが欲しがる、本物の賢者の石だ」

「本物の賢者の石だって!」

京楽の背後から浮竹が出てきて、賢者の石を手にとった。

「うわぁ、本物だ。はじめて、本物の賢者の石を見た・・・・」

別名、神の血。

神々でも最高ランクの上位神が流した血が、賢者の石となった。

錬金術でも作れるが、それは仮初の賢者の石であった。

最高位神・・・たとえば、浮竹の父である創造神ルシエードクラスの神が流した血のみが、本物の賢者の石になりえた。

「お前は、これを使わなかったのか」

「我にはいらぬものよ」

賢者の石を使うと、なんでも願いが叶うと言われていた。

例えば、王になりたいとか、世界を支配したいとか、神になりたいとか。

どんな望みでも叶うと言われている。

浮竹は、賢者の石を手に取ると、砕いた。

「何を!?我が秘宝は本物だぞ!?」

「だからだ。こんなもの、世界にあっちゃいけないんだ」

「ふむ・・・・・・」

「もしも藍染の手に渡ると、奴は神になるだろう」

「そうやも知れぬな」

魔王アレスは、同意する。

「だから、こんな賢者の石なんていらない」

「浮竹・・・・」

「俺には、血族の京楽が傍にいてくれる。それだけで、満足だ」

京楽は、感動していた。

錬金術士でもある浮竹なら、喉から手が出るほどに欲しいだろう、賢者の石を砕くとは。

自分がいてくれたら、それだけでいいと言ってくれた。

それだけで、京楽は満足だった。

「お前はこれからどうするんだ?」

「我か?我は、また長い時を眠る。いつか封印が解けた時、また魔王としてこの世界に君臨しようぞ。だから我が嫁にならぬか、浮竹。汝なら、我が封印も解けるはず」

「お断りだ。京楽以外の子を産みたくない。もっとも、俺も男だから子供なんで欲しいとも思わないが」

「賢者の石があれば、可能だったのだぞ。汝らに子を授けることもできただろう」

「それでも、いらない。俺は京楽さえいれば、それでいい。それに育児なんて大変だし、母親の苦労なんてしたくない」

「そうか。引き留めて悪かった。さぁ、いくといい。魔王を倒した勇者として、世界中がお前たちの存在を歓喜するだろう」

魔王アレスの言葉に、浮竹は首を横に振った。

「俺たちは古城でひっそり暮らしている。騒がしいのは、ご免だ」

「つくづく変わった者よ。勇者京楽」

「なんだい」

「この姫の浮竹を、大事にするのだぞ」

「もちろんだよ」

「姫ってなんだ姫って!」

ぷんぷん怒る浮竹がかわいくて、京楽は魔王アレスの前で口づけていた。

「ちょ、京楽、お前!」

「熱いのう。いつか我にも、そのような存在が欲しいものよ。我はまた眠りにつく。始祖ヴァンパイアは悠久を生きる。いつか、また会おうぞ」

「ばいばい」

「じゃあね」

魔王アレスの魂は封印の眠りについていった。

「外の中庭で、平子クンを待たせてあるんだ。彼に乗って、帰ろう」

「ああ、分かった」

中庭に出ると、平子が目を開いた。ドラゴンの姿をしていた。

「なんや、けったいな恰好してるなぁ、浮竹」

「ほっとけ。俺に趣味じゃない」

「でもようにおうとるで。まるで勇者に助けられたお姫様やな」

「どいつもこいつも俺を姫だと・・・・」

浮竹は、怒りそうなったが、平子もわざわざ自分を助けるのに力をかしてくれたので、礼を言った。

「平子、俺を助けにきてくれてありがとう」

「どういたしてましてやな。京楽、あんたは魔王を討ち取ったんやろ?」

「うん。封印だけどね。一応討ち取ったことにはなるのかな」

「血の帝国中で、祝い事せなな。勇者京楽の誕生や!」

「おい、平子、そういう騒がしことは!」

「たまにはええやんか。血の帝国の民はお祭り好きやのに、肝心の祭りがないって嘆いとったで」

「仕方ない。血の帝国に凱旋だ!」

-------------------------------------------------

始祖浮竹の血族、京楽が魔王を討伐したという話は、すぐに血の帝国中に広まった。

新しい勇者として、正式にブラッディ・ネイから勇者王の名を与えられて、皇族に叙された。

「あの京楽が、俺と同じ皇族か・・・・・」

「不満なのか、浮竹」

「ああ、白哉か。別に不満はないが・・・・」

白哉は、恋次を伴って、その戴冠式に出ていた。

「これで、キミも皇族だ。兄様以外の伴侶をとるべきだ」

「いやだね。そこはなんと言われても、僕は浮竹以外の伴侶をとることはないよ」

「勇者の血は、残さなければいけない」

「ブラッディ・エターナルがいるでしょ」

「ああ、それもそうだね」

ブラッディ・エターナルは、浮竹が魔女の秘薬で女体化した時に、そのままの京楽に抱かれたことでできた、受精卵から生まれた子供であった。

だが、公式に浮竹と京楽の子であるとは言われていなかった。

「ブラッディ・エターナルを、今この瞬間をもって、正式に始祖浮竹と血族京楽の子として、皇族にするものとする」

「ああ、また勝手に・・・・あの愚昧は」

浮竹も京楽も、ブラッディ・エターナルを愛していないし、ブラッディ・エターナルも両親として認めたわけではなかった。

「まぁ、勝手にしてくれ。京楽の勇者の血族として必要なら、連れていけばいい」

ブラッディ・エターナルはブラッディ・ネイの寵姫であるが、皇族ではなかった。その存在が皇族に変わったところで、さしたる変化もないであろう。

「帰るぞ、京楽」

「うん、ちょっと待って」

「今をもってこの日を、勇者記念日として、毎年祭りを開催するものとする」

ブラッディ・ネイの言葉に民衆はわああああと、歓声をあげた。

「やってられない。帰るぞ」

「じゃあ、僕は戻るから。あとはそっちで勝手にやっておいて」

「浮竹さん、ほんとにいいんすか!京楽さんも!」

恋次が、二人を呼び止める。

「俺たちには、もう関係のないことだ。勇者記念日とかいうが、ただ祭りをしたいだけだろ」

「そりゃそうでしょうけど」

「だから、ブラッディ・ネイに任せるといいよ。あの子は、性格は歪んでて僕の浮竹に伴侶としての愛を囁くけど、統治者としては有能だから。なんとかしてくれるでしょ」

そうして、浮竹と京楽は古城に戻っていった。


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