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始祖なる者、ヴァンパイアマスター54


キララは、そのドラゴンを見ていた。

「これが、始祖竜族の血脈・・・・」

真っ赤に燃え上がる鱗に、金色の瞳をつ恋次の子種から生まれた神と始祖竜の子は、シアンと名付けられた。

「シアン、遊びましょ」

「ぎゃう!」

「シアン、竜のふりはやめてよ。人の言葉、分かるんでしょ?」

7メートルはある巨体が、人型をとる。

「けっ、俺は始祖竜の子だ。あんな醜い肉便器から出てきなんて知られたら、恥だ」

「シアン、あれは女神アルテナ様よ?」

その言葉に、シアンはどこか恋次の面影のある赤い長い髪を結びあげた。

「あの肉便器が女神?はっ、女神も落ちたものだな」

シアンはアシッドブレスを肉便器にかけた。そのブレスは、肉便器をじゅわっと溶かしたが、肉便器はすぐに再生した。

「俺のアシッドブレスで溶けないなんて、やるじゃねぇか」

「シアン、やめて。それは女神アルテナ様よ。藍染様が子を作りやすくするために、女神アルテナ様をそんな姿に変えたの」

「藍染を怒らすなってことか?」

「そうよ。藍染様は神。邪神よ」

「たかだか邪神でいばれるようなことかよ?」

シアンは毒づく。

「シアン」

名を呼ばれて、びくっとシアンは振り返った。

「あ、藍染様・・・」

「怒られたくなければ、素直に始祖ヴァンパイア浮竹と血族の京楽の首をとっておいで。君は始祖竜の子だ。強いだろう?」

「当たり前だ!俺は強い!」

果たして、その強さは今の浮竹と京楽のどこまで通じるのか。

藍染にも、分からなかった。

--------------------------------------------------

そのダンジョンは、B級ダンジョンだった。敵は弱かったが、普通のダンジョンではなく迷宮ダンジョンだった。

まだ踏破したことがないので、浮竹が選んだダンジョンであったが、どこまで広がる迷宮に、浮竹は髪をかきむしった。

「おおい、浮竹?」

「ふふふ・・・・エターナルフェニックス!」

ダンジョンの壁を、炎の禁呪で破壊してしまった。

「ああああ、そんなことしたら罠が!」

ごろごろと転がってくる大きな岩を、浮竹は。

「アースクェイク!」

大きな地震を転がってくる岩にあてて、粉砕してしまった。

「うわあ、次は槍がふってきた!」

浮竹は、京楽の体を使って避けた。

「ちょっと浮竹、痛いんだけど」

「ヴァンパイアロードだろう。それしきの傷、すぐに再生するはずだ」

「でもねぇ、痛いものは痛いんだよ」

ガコン。

次は落とし穴だった。

「ウィングフライ」

飛翔の呪文で、なかったことにする。

「きいいいいい」

声がして、見るとダンジョンマスターである古代のエルフが、浮竹を睨んでいた。

「ちょっとこっちまできなさい。あんたもよ」

浮竹でなく、京楽までダンジョンマスターに呼ばれて、最下層より更に地下にある、ダンジョンマスターの空間にきていた。

「あなたねぇ、迷宮は謎をといてクリアすることに意味があるのよ!それを、いきなり壁を破壊するなんて!!」

古代エルフは、見た目は少女だったが、5千歳は生きているだろう。

古代のエルフやドワーフの命は長い。

「いいこと、次壁を破壊したら、ダンジョンから出てもらいますからね!」

ぱっと、元いた空間に戻される。

また迷宮が続いていた。

「エターナル・・・・むぐぐぐぐ」

「だめだよ、浮竹!壁の破壊はだめ!このダンジョン、踏破したいんでしょ?」

こくりと、浮竹は頷いた。

「じゃあ、ちゃんとマップをかいて、探索しよ?」

1階層で、すでに半日をかけてしまっていた。

宝箱は毒ガスの罠で、中身は偽物だった。

「もういい。エターナルフェニックス」

浮竹は、再びダンジョンの壁を破壊していた。

「ちょっとあなたねぇ!」

「エターナルフェニックス。サンダーボルテックス。エターナルアイシクルワールド」

浮竹は、こともあろうかダンジョンマスターに魔法を浴びせていた。

「やってくれるじゃないの」

ダンジョンマスターは怒っていた。

「今後百年、このダンジョンの出入りを禁止するわ!去りなさい!」

ぱっと、空間が変わる。

元の、ダンジョンの入り口に戻っていた。

「浮竹?」

「ダンジョンマスターのバーカバーカバーカ」

浮竹は、子供のようにダンジョンマスターをばかにする。

「あなたねぇ!」

出てきたダンジョンマスターに、浮竹は。

「エクスプロージョン!!」

爆発の魔法をお見舞いして、浮竹は走り去る。

「迷宮ダンジョンは性に合わない。戻ろう」

諦めるのも、早かった。

「浮竹、そもそもダンジョンはマッピングしながら、罠を解除して進んでいくものだから・・・・」

「そういうのは、初心者向けのダンジョンだろう。S級ダンジョンは敵が強すぎて罠なんてミミックくらいしかない」

「だからって・・・・」

「どのみち、百年の出禁を食らったんだ。このダンジョンは諦める」

「はあ。浮竹らしいというかなんというか・・・・・」

一階層さえクリアできなかった。

さすが迷宮ダンジョン。

未だに誰も踏破できないはずだ。

B級ダンジョンの割には、未踏破で不思議だと思っていたが、まさかたかが1階層で半日も迷うことになるなんて。

あの調子では、ダンジョン踏破に1カ月はかかりそうだった。

ワープの魔法を使って一度攻略したフロアを省略しても、敵は雑魚で素材になりそうにないし、宝箱はミミックじゃなくて偽物だし、浮竹の興味を刺激するものが何もなかった。

「気晴らしにドラゴンのS級ダンジョンでもいくか」

もう何回踏破したかも分からない、出てくるモンスターがドラゴンだらけのダンジョンに潜り、財宝を手に二人は古城に帰還するのであった。

「はぁ。B級ダンジョンには参ったな。クリアできるものと思っていたら、1階層から半日かかってもクリアできないなんて」

「まぁ、あのダンジョンは浮竹向きじゃないね。さすがにダンジョンマスターに魔法を放ったのには驚いたけど」

「ダンジョンマスターはダンジョンにいる限り、不老不死だ。ダンジョンの入り口でぶっぱなしたエクスプロージョンの魔法は効いたようだが」

その言葉通り、B級ダンジョンのダンジョンマスターの古代種のエルフは、髪をアフロにしていた。

「頼もう!」

リンリンリン。

鈴の音がして、来客を告げる。

「はいはい、今出るよ」

やってきたのは、見事だった長い金髪を、アフロにしたダンジョンマスターの古代エルフの少女だった。

「え、ダンジョンマスターさん?なんの用だろう」

「決まってるでしょ!このアフロになった髪の責任をとってもらうわよ!」

「ちっ、ここまできたか。そのアフロ似合ってるぞ」

「あなた!いい度胸ねぇ。他のダンジョンマスターに知らせて、S級ダンジョンに出入りできないようにしてあげようかしら」

「俺が悪かった」

その切り替わりの早さに、京楽が苦笑した。

「俺の血だ。飲むといい。元の髪形に戻れるだろう」

浮竹は、自分の血が入った小瓶をダンジョンマスターに渡した。

「始祖ヴァンパイアの血?あたしをヴァンパイアにしようって気じゃないでしょうね」

「お前みたいな生意気そうで乳臭いガキの血族なんていらんな」

「キイイイ」

「ふん」

ダンジョンマスターと浮竹はそりが合わないようだった。

ダンジョンマスターの古代エルフの少女は、小瓶の中の浮竹の血を口にした。

サラサラと、流れる滝のような、くるぶしまである自慢の金の髪に戻って、ダンジョンマスターは嬉しそうに手鏡で自分の髪を見ていた。

「治ったのなら、さっさとダンジョンに帰れ」

「きいいい。言われなくても帰るわよ!この馬鹿始祖が!」

「ふん」

「べーっだ」

そのまま、二人は喧嘩をして別れた。

「ねぇ、いいの浮竹。あんなにダンジョンマスターを怒らせて」

「まさか、本当にS級ダンジョンの出入り禁止になどできないだろう。B級ダンジョンなら分かるが。B級とS級じゃ差がありすぎる。それにS級ダンジョンの管理者は、古代のエルフではなく古代のドワーフだ。ドワーフとエルフが仲良くないのは知っているだろう」

「うん。犬猿の仲だよね」

森と自然を愛するエルフと、大地と鍛冶を愛するドワーフ。

別に敵対しているわけではないが、神々が決めたのか、存在した時から仲が悪かった。それはダンジョンマスターになっても変わっていないだろう。

「あーあ、また腹立ってきた。近くのS級ダンジョンいくぞ。ボスいじめてお宝奪ってやる」

もはや、冒険者というより賊のような言い方だった。


「しゃおおおおおおお」

倒れたアイスドラゴンに魔剣ラグナロクでとどめをさして、京楽は一息つく。

「ふう、今日はB級ダンジョンにいったり違うS級ダンジョンに2回行ったりして疲れたね」

「財宝の間が開くぞ」

「ごごごごご。そこにあったのは、巨大な宝箱だった」

「巨大宝箱発見!!」

「浮竹、危ないよ!」

ミミックだった。ビッグミミックに体ごと食われた。

「うわー出れない~。京楽、助けてくれ~~~~」

「全く、君は学習能力がないね」

ため息をつきながら、京楽が魔剣ラグナロクでビッグミミックの体を突き刺す。

でも、ビッグミミックは痛がりもしなかった。

「だめだ、通常攻撃が効かない。魔法ぶっとばすよ。中でシールドはってね」

「わかった」

「ゴッドフェニックス!」

炎の魔法を受けて、ビッグミミックは「ぎええええええええ」と叫び声をあねがら消えていった。

どさどさどさ。

出てきた宝物は、全部魔法書だった。

浮竹はめちゃくちゃ嬉しそうな顔をしていた。

「こんなに魔法書が!」

京楽は出てきた魔法書の1冊を読んでみる。

「何々・・乾ききった井戸水に水を再生させる方法。ふむ、聖帝国に売れそうだね」

「俺はこれが気に入った!」

浮竹は赤い魔導書を握りしめた。

「何々・・・・楽しいミミックの飼い方。人食いミミック編・・・浮竹、没収」

「何をする!」

「人食いミミックは、本当に食べるからだめ。それを飼いならすことができても、浮竹のことだから噛まれて血まみれになるに違いない」

「ええ、でもポチやタマはあんなに懐いてくれているぞ?」

「あれはミミックでも変異体だよ。人に懐くミミックなんて、普通はいないよ」

「ぶーー」

「ふてくされてもだめ。これは燃やすよ」

「あ、いくらなんでも燃やさなくても」

「ファイア」

炎の基礎魔法で、赤い魔導書は灰になっていった。

「あああああ、古代の貴重な魔法書が」

浮竹は涙を流していた。

「ほら、他にいっぱい魔法書あるでしょ。後、式がきて白哉クンの魔法書が今日届くそうだよ」

この前に、白哉に家になる魔法書をやらんでもないと言われて、欲しいと浮竹は言っていた。

「わお、じゃあ早く帰らないとな」

財宝の間に転がっているほとんど使えない民間魔法の魔法書を拾い集めて、アイテムポケットに入れていく。

「髪をモヒカンにする魔法・・・・これも没収!」

京楽は、実験台にされてたまるかと、ファイアの魔法で燃やしてしまった。

「今日の京楽は意地悪だ」

「はいはい、僕が悪かったよ。夕飯にジャンボパフェ出すから、機嫌直して?」

「それなら許す」

やっぱり浮竹ってちょろい・・・・・。そう思う京楽だった。

---------------------------------------------------------

S級ダンジョンからの帰り道、後ろから追ってくる巨大な影があった。

浮竹と京楽はヴァンパイアの翼を折りたたみ、巨大な影と対峙する。

「恋次クン?こんなところで、何やってるの」

真っ赤に燃え盛る鱗は、始祖竜である恋次だけが持っているものだった。

「恋次君にしては、少し小さくないか?あれは竜帝だ。15メートル以上ある。このドラゴンは8メートルくらいだ」

「俺はシルル。その竜帝とやらと、女神アルテの肉便器の子だ」

シルルと名乗ったドラゴンは、竜化を解いた。

真っ赤な髪に真っ赤な瞳の、恋次によく似た少年だった。

「恋次クンの子供!?」

「恋次君は無事だろうな!」

「俺は親父の顔なんて見たこともねぇ。ただ、裏ルートで始祖竜の子種を手に入れたとかで、藍染様に作られただけだ」

京楽は今日何回目になるかも分からないため息をついていた。

「やっぱり、藍染の手下か」

「恋次君の許可を得るか?」

「そんなことしてる間に、このドラゴンにやられてしまうよ。報告は後回しにして、倒してしまおう」

「なんだと!この竜帝の息子を殺すだと!笑わせてくれる、たかがヴァンパイアの始祖とその血族如きが!」

シアンは、ふんと笑って、ドラゴンブレスを京楽に浴びせた。

この前やっつけたシルルという名のドラゴンより強烈なブレスだった。

「シールド展開してるのに、突破された。流石は恋次クンの血を引いているだけはあるね」

京楽は僅かに焦げた体を再生させていく。

「俺のドラゴンブレスが通じないだと!?」

「なんで、ドラゴンはドラゴンブレスだけで倒そうとするんだろうな?」

浮竹は勝手に京楽から魔剣ラグナロクを引き抜いて、シアンの右腕を切り落としていた。

「あああ!許さん、死ね!」

右腕を瞬時再生させながら、シアンはアシッドブレスを吐いた。

「「ウォーターシールド!!」

沢山の酸を浴びた水は邪魔なので、炎の魔法で蒸発だせた。

「なんなんだ、お前らのその異常な強さ!」

「なんなんだって言われてもねぇ。始祖ヴァパイアの浮竹と、その血族である神喰らいの魔神京楽だよ」

「神喰らいの魔神だって!聞いてないぞ!」

「それはご愁傷さま」

京楽は、魔神の咢を出して、シアンの魂を食べようとする。

「やってられるか!!」

そう言って、シアンは強烈なアシッドブレスを吐いて、去ってしまった。

「逃げられちゃったよ。どうする?」

「放置しておけ。どうせ、また藍染のところでパワーアップでもして帰ってくるんじゃないか。その時に叩けばいい」

「あはは、パワーアップしようが平気そうだね」

「お前もな」

お互い、まだ全力を出して暴れたことなど、数回しかない。

今度またシアンが襲ってきても、大丈夫だろうと思っていた。

-----------------------------------------


そこは、食事の席だった。

「で、逃げてきたってわけかい」

「でも藍染様、あいつらの強さ、もしかしたらあんたより・・・・・」

シアンの腹を藍染は蹴り上げた。

「ぐはっ・・・・」

「私より、なんだって?」

「何でも、ありません・・・・・」

「君には、特別に邪神になった私の血をあげよう」

藍染は、爪をとがらすと、手首を切って流れ出す血をワイングラスに注いだ。

「さぁ、飲みなさい」

「はい・・・・・」

逆らうことは死を意味するので、シアンは藍染の血を口にした。

「おおおおおお」

のたうちまわるが、直に発作はおさまり、邪神の匂いをさせた竜帝がいた。

「今度こそ、討ち取ってみせる」

「いい子だね。さぁ、お行き」

「藍染様、食事をおもちしました」

食事をもってやってきたのは、女神アルテナに憑依されたメイドの少女だった。

藍染は、豪華な食事を適当に食べて、突然苦しみだした。

「あはははは!モレ草の毒よ!1週間はトイレから出れないわ!」

アルテナは、殺しても藍染は死なないので、嫌なほうに効く毒草を盛った。

「モレ草だけにもれそう!なんちゃってね!」

「連れていけ・・・ぐっ」

藍染はピーゴロゴロになった。

それから1週間、藍染は本当にトイレの住人と化すのであった。

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