始祖なる者、ヴァンパイアマスター外伝
彼ら二人は、知る人ぞ知る退治屋だった。
東洋の浮竹と京楽であった。彼らは元々神々である。浮竹は浄化が得意で光と水の力を使えた。一方の京楽は、元が邪神なので瘴気を出し、それを力に変えることができて、影と闇を得意としていた。
二人は蛇の召還をできて、それぞれ白蛇と黒蛇を操った。
蛇だけに、二人とも毒の攻撃が得意だし、自分たちには毒どころか病気もきかなかった。
さて、そんな彼らに依頼が迷いこんだ。
ある村で、妖狐が暴れて人を食っているというのだ。
さっそくその村で聞き込みを行っていた二人の前に、意外な人物が現れた。
西洋の浮竹と京楽だった。
「おんやまぁ、退治屋さんは双子でしたか」
驚く村民を無視して、東洋の京楽は西洋の二人を怒った。
(こんなどこまできて、どういうつもり!?)
「いやな、お前たちには助けてもらったし、俺たちも助けてやろうと思って」
(気持ちはありがたいが、これは俺たちの仕事だ)
しゅんとなる西洋の浮竹の頭を、東洋の浮竹が撫でる。
(とにかく敵は妖狐だ。逃げられる前に、叩こう)
最もなと東洋の浮竹の言葉に、また村民から話を聞きながら、被害者が共通して参った神社があると知り、そこが怪しいとなった。
「よし、まずは俺が囮として行ってみよう」
「ちょっと、浮竹、本気かい?こっちの国のモンスターは僕らは知らないから、何かあったらどうするの!」
(まぁ、始祖ヴァンパイアだし、なんとかなるんじゃない?)
ぽっ、ぽっ、ぽっ。
神社の周りに、鬼火が灯った。
「何もなかった」
出てきた西洋の浮竹はそう言った。
「正体を現せ、この化け狐が!君が浮竹であるはずがない。魂の色が違うし、匂い違う」
(え、そうなのか?)
(流石に伴侶の違いは分かるようだね)
東洋の浮竹と京楽は武器を構えた。
(妖狐!追い詰めたぞ!)
「あたしに手を出したら、神社の奥にいったあの人間が死ぬわよ?」
「勝手に殺してごらん」
「ちっ。おい、お前ら、その人質を殺しちまいな!」
「ぎゃおう!」
「うぎゃああ!!」
「ぎゃひんん!」
凄い悲鳴が重なって、妖狐が訝しんだ。
「お前ら・・・・まさか、人間程度にやられたんじゃ・・・・・」
でてきたのは、真紅の瞳をして、妖怪の血を飲みつくしてしまった西洋の浮竹だった。
「東洋の妖の血の味・・・・悪くはない」
「まさか、ヴァンパイア!?」
妖狐はがたがたと震えだした。
屍鬼なら分かるが、本物西洋のヴァンパイアだとしたら、敵うはずもない。
「逃げてやる!」
(待て!)
東洋の浮竹が、呪符を飛ばすと、それは白い蛇になって妖狐の体をがんじがらめにした。
(今だ、春水!)
「僕も春水なんだよね。浮竹だけずるいよ。僕もこの国の妖の味を知りたい」
西洋の京楽は、魔神の咢で妖狐に噛みついた。
「ぎゃっ!魂が、魂が食われていく、ぎゃあああ!!!」
「へぇ。けっこうおいしいね」
そうやって、西洋の京楽は妖狐の魂を食べてしまった。
後に残されたのは、尾が9つに別れた狐の死体だった。
(美味しいところもっていかれた~~)
東洋の京楽は、妖刀を構えていたのに、自分の出番が全くなくて、しょげていた。
その頭を東洋の浮竹が撫でる。
(春水、いつもは春水が活躍するとこだが、たまにはこんなことが起きる時もあるさ)
(いや、西洋のボクらに仕事をとられたのにかわりはないよ!)
「なんだ、やる気か東洋の京楽」
(む、そっちがやる気ならボクだって)
「はいはい、二人ともそこまで」
西洋の京楽が止めに入った。
「とりあえず、その死体なんとかしないと、また悪いものにでも憑かれちゃうんじゃない?」
(そうだな)
東洋の浮竹は、死体を浄化しようとした。
「ゴットフェニックス!」
それを、西洋の浮竹が物凄い炎の鳥を出して、燃やして灰にしてしまった。
「俺の活躍の場が~~)
今度は、東洋の浮竹がしょげた。
東洋の京楽に頭を撫でられて、いじけていた。
「東洋の俺、すまん。でも、東洋のモンスターの血はうまかった・・・・」
ぺろりと唇についていた血を舐める西洋の浮竹に、東洋の浮竹が赤くなった。
(西洋の俺、なんかエロい・・・・・)
「そうか?」
西洋の浮竹はきょとんとしていた。
(確かにエロいね。あれが十四郎だと考えると・・・)
(いらん想像をするな、春水!)
東洋の浮竹と京楽はじゃれていた。
「報酬が発生するのだろう。そっちの方でもらっておいてくれ」
(え、いいのか)
「俺たちは、この世界で金に変えれものをいっぱい持ってるしな。金貨とか。あとこのマンドレイクとか」
西洋の浮竹がアイテムポケットからマンドレイクを取り出すものだから、みんな慌てた。
「大丈夫だ、すでに死んでいる。乾燥させたマンドレイクだ」
(よかった~~)
(生きたマンドレイク出された日には、村人が死んじゃうよ)
妖狐の退治の報酬金を受け取って、4人は雑貨ビルへと戻っていく。
「そうそう、ここにつく途中ラブホテルなるものに泊まってみたんだが、面白かったぞ」
(うわあああ、西洋の俺!!)
「ベッドが回転するんだ。風呂がジャグジーつきで、鏡が至るところにあった。証明ガキラキラしてた・・・あのラブホテルって、何をするところなんだ?」
(それはね・・・・)
東洋の京楽の口を、西洋の京楽と東洋の浮竹が止めた。
「なんかわからんが、面白かった。また泊まってみようと思う。ああ、金貨を換金したんだが、この国の一万円札?とかが100枚以上になって、いらんしお前たちにやる」
(いやいや、さすがにもらえない)
(僕も、さすがにもらうわけにはいかないね)
「そうか。じゃあ邪魔だから燃やそう。ファイ・・・・・・・」
ぎりぎりとのところで、東洋の浮竹が百万円札の札束をキャッチした。
(燃やすくらいなら、もらう!)
(燃やすのはやりすぎでしょ)
「そうか?この国は全くおかしいな。金貨で買い物をしようとしたら、高すぎるとか、お金に変えてこいとかいうんだ」
「浮竹、この国には金貨はあるけど、お金としてじゃなくて、貴金属の一部になってるから」
「むう。ますますわからん世界だ」
アイテムポケットから、元の世界の通貨である金貨をジャラジャラ出してくる西洋の浮竹に、東洋の浮竹と京楽は天を仰いだ。
(とりあえず止めてやってよ、西洋のボク)
(金貨が大量すぎて眩暈がする)
「浮竹、こっちの世界では金貨を出しちゃダメだよ。換金する時以外に、使っちゃだめ」
「むう、分かった」
その日は、雑居ビルの狭さが懐かしいという西洋の浮竹と京楽が、ダイニングルームの開いているスペースに布団をしくものだから、急いで4人分の食事を作った。
クリームパスタを夕飯にして、西洋の浮竹と京楽は一晩泊まると、元の世界へ帰っていった。
テーブルの上には、「世話になった」と書かれた紙と、金貨が2枚と、乾燥させたマンドレイクが置かれてあり、金貨は別として、乾燥マンドレイクの処理に困る二人であった。
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