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子守歌

すうすうと、浮竹はよく眠っていた。

隊首会で血を吐いて倒れ、回道をかけられて安静に、という浮竹を京楽が雨乾堂まで抱き上げて運んだ。

「全く、君は無茶をする」

血で汚れた死覇装と隊長羽織を脱がして着替えさせて、布団に横にさせた。

はじめは苦しそうにせきをしていたが、薬がきいたのか、今は静かに眠っていた。

浮竹の発作は、突然訪れる。

先刻まで元気だったのに、急に具合が悪くなって、血を吐いたりする。

その姿を見るたびに、京楽は自分の寿命が縮むような気持ちを味わった。

おまけに体が弱く、気温が寒すぎたり暑すぎたりすると、熱を出した。体を冷やすのはよくないとあれほど言っているのに、雪が積もった日には薄い着物一枚で、雪遊びをしたりする。

「ん・・・・京楽?」

ふっと、浮竹が目を開けた。

「起きたの?まだ夜だよ。血を吐いて倒れたんだ。安静にって言われてるから、もっかい寝なさいな」

「京楽も、一緒に寝よう」

「僕は湯たんぽか何かかい?」

そう言いながらも、京楽も嬉しそうだった。

1つの布団で寝るには狭すぎて、2組目の布団をしいて、浮竹を抱き込むようにして京楽は子守唄を歌い出した。

「京楽の、声、安心する・・・・。温度もあったかくて・・・ああ、眠い。すまない、今日は、もう・・・・」

そう言って、浮竹はまた眠ってしまった。

京楽も、浮竹を抱きしめたまま、いつの間にか微睡みの海へ意識を手放した。


「京楽、起きろ!朝だぞ!」

「んー、もう少し・・・・・」

「見ろ、雪が降ってる!」

「浮竹?安静にって言われてたでしょ。動き回っちゃだめだよ」

「でもな、雪が・・・」

起き上がった京楽は、動き回る浮竹をふわりと抱き上げて、布団に横にさせた。

「食事はとれそう?」

「ああ。京楽も食べていくだろう?」

「うん。お言葉に甘えるよ」

3席が食事を用意してくれて、二人で食べた。

浮竹の分は、念のためにおかゆになっていた。京楽は普通の食事だった。

デザートに白玉餡蜜がついていて、それを食い入るように見つめる浮竹に、仕方なく「あげるよ」と言うと、浮竹は「やった!」と喜んだ。

浮竹は、薬を飲んで、また布団に横になることを京楽に強いられた。

「こんなに元気なんだがな・・・・」

「だめだよ。血を吐いて倒れたんだよ?もっと、体を大切にしないと」

「ああ、心配をかけてすまない」

布団に横になりながら、もう眠れそうにないと、浮竹は京楽の髪をひっぱった。

「どうしたの」

「昨日の子守歌、歌ってくれ」

「あんまり上手じゃないよ」

「聞いてるだけで、安心できるんだ」

「仕方ないねぇ」

京楽は、子守唄を歌い出した。

その声に耳を傾けて、浮竹は遠い故郷の母親が、幼い頃によくこうやって子守唄を歌ってくれていたことを思い出した。

「京楽の子守歌、俺は好きだぞ」

「君くらいだよ。僕に子守唄を強請るなんて」

「雪、つもるといいな」

「つもっても、雪遊びするならちゃんと着こむんだよ。あと、あんまり長い時間外にいないように」

火鉢が、パチッと爆ぜた音を出した。

室内の気温はある程度暖かいから、安心できた。

会話をしながら、子守唄を歌ったり、他愛ない話をしたりしていると、いつの間にか浮竹は眠っていた。

「君の寝顔だけで、僕はとても幸せになれる」

手をぎゅっと握ると、温かくて、浮竹が生きているんだと分かった。

長く白い髪は、いつから腰に届くようになるまで伸ばすようになったんだっけ。

京楽が、浮竹に君の白い髪は綺麗で長い方が似合ってると、院生時代に言った頃から、浮竹はそういえば髪を伸ばし始めたなと、京楽はふと思う。

「僕は君がいれば、それだけでいい。愛してるよ、十四郎」

いつか、ミミハギ様を解放する時がきたとしても。

浮竹を愛する心は変わらない。

例え、その存在が遠くなったとしても。

君を想う、この気持ちは誰にも消せない。


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