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小鳥の雛

「あちゃ~。どうしようこれ」

京楽の手の中には、傷ついた雀の雛が一羽いた。

8番隊の執務室の前に落っこちていた。周囲を探しても親鳥らしき鳥はいなかったし、猫が狙っていたのでつい拾ってしまった。

「自然に任せるのがいいんだけどねぇ。でも拾っちゃったものは仕方ないか」

京楽は、雀の雛を小さな入れ物にいれて、浮竹のところへやってきた。

「浮竹、ちょっと相談があるんだけど」

「なんだ」

浮竹は仕事をしていた。

「これなんだけど」

小さな箱をあける、ぴよぴよとえさをねだる雀の雛が一羽。

「かわいいな。どうしたんだこれは」

「それがねぇ・・・・」

事情を話すと、浮竹が世話するといって引き取ってくれた。

「こういう雛は、泡玉を食べさせるんだ。俺も子供の頃、小鳥の雛を育てていたことがあるから、少なくともお前よりは扱いは長けているとは思う」

清音にいって、小鳥の餌をうっている店まで泡玉を買ってきてもらった。

泡玉を湯に混ぜて、雀の雛に食べさせると、雛はよく食べた。

「うむ。この調子なら、すぐに巣立つだろう。怪我も自然治癒できる範囲だしな。一番困るのは、餌を食べてくれない子だ。無理やりあげていても、死んでしまうからな」

子供時代を振り返る。小鳥の雛を、親が持って帰ってきたことがあった。売っていた雛だったが、売れ残りで体が悪く、餌もなかなか食べなかった。

まるで自分を見ているようで、必死になって世話をした。その子は大人になって、籠の中で9年は飼っていた。

文鳥の雛で、手乗りになった。

春にやってきたので「ハル」という名前をつけた。

今は初夏だが、名前はもう決まっていた。

「名前は昔かってた子と同じ「ハル」にしよう。俺が臥せってる間は、仙太郎と清音に世話を任すことにする」

「はぁ。君がいてくれて助かったよ。僕じゃあ、小鳥の雛の面倒なんて見切れないからね」

2~3時間おきに、餌をやらなくてゃならない。そんな時間はないとは断言できないが、それが毎日と考えるだけで、無理だと思った。

ハルはぴよぴよ鳴いていたが、お腹が満腹になって満足したのか眠りだした。

「入れる箱を買わないとな」

小さな箱に入っている状態はあまりよくない。

今度は仙太郎にいって、プラスチックの透明な昆虫ケースを買ってきてもらい、そこに木材をくだいた小動物の敷布団かわりになる、ウッドチップをひろげて、雛をいれた。

ヒーターがないので、ウッドチップで体温を保てるようにした。

「よし、これで完璧だ」

寒い夜がある場合には、下に湯たんぽをしいてやるといい。

「君って、意外と小動物飼うのにむいてる?」

「んー。病弱だったからな。妹や弟がいたが、猫とか兎も飼ってた時期もある。全部、両親が俺が寂しくないように、生きる糧になるようにと」

「へぇ、意外だね」

「でも、俺たちは長い時間を生きるからな。どんなペットでも、死別があるから、ある程度年齢を重ねたら、ペットはもう飼わなくなった。妹や弟たちの世話でいっぱいいっぱいだったしな」

「8人兄弟ならねぇ。僕の実家では、見得のためか狼を飼っていたね。よく懐いていい子だったけど、やっぱり先に死んでしまって悲しかったのを覚えているよ」

犬を飼うより、狼のほうが珍しい。珍しい動物も平気で買える金があるのだと、主張するように飼われていた。

敷地内を自由に出入りするようにしていると、よく京楽に走ってきてアタックをかまして、地面
でごろごろと一緒になって戯れた。
泥だらけになって、家人に一緒になって怒られてたものだ。

「僕の家で飼われていた狼も、ちゃんと天国にいけただろうか」

「行けたさ。俺が飼っていた小鳥も兎も猫も、みんな天国にいったと信じている」

死ねば、その屍は土へと還る。

やがてそこから植物が芽吹き、小動物が食べ、それを人間か肉所動物が食べて、また死んで屍は土へと還り、循環する。

尸魂界の住民は長い時を生きる。愛玩動物も、それに合わせて長くいきるように品種改良が進んでいるが、それでも人が生きる時間まで共に生きてくれる愛玩動物はいない。

今は、12番隊の技術開発局で開発された、霊子でできた、疑似愛玩動物が流行っている。犬や猫の義骸の中に犬や猫の義魂丸をいれて、半永久的に生きるペットだ。
主に上流貴族の間ではやっていて、まだまだ庶民には手が出せない。

浮竹も京楽も、そんなペットを欲しいとは思わなかった。でも、この前の京楽の誕生日に、上級貴族の知り合いが疑似愛玩動物の犬をくれた。

疑似愛玩動物とはいえ、生きている犬とほぼ同じなために、京楽はそれを従妹に譲った。従妹は大変喜んでいた。もらっておいて悪いが、とてもペットの世話をする時間なんて作れそうになかった。

「さて、仕事の続きをするか」

ハルは眠っている。あと3時間前後は起きないだろう。

「ここで、見守っていてもいいかい」

「好きにしろ。何も面白いことはないぞ」

「ハルでも見とく」

「寝るの、邪魔するなよ」

2時間ほどがたって、ハルがぴよぴよ鳴き出した。

「僕も、餌をあげてもいいかな?」

見ている間に愛しくなって、餌のやり方を教えられた。

泡玉を口元にもっていくと、美味しそうに啄んでいく。

「かわいいねぇ。浮竹と同じくらいかわいい」

「ばか!」

頬を朱くした浮竹にどつかれたが、それさえ甘い。

ひとしきり餌をやると、ハルは静かになった。

それから2週間ばかりがあっとう間に過ぎて、巣立ちの次期を迎えた。

「本当なら、親鳥が巣立ちまで見守ってくれるんだがな」

「僕らで見守ろうよ」

飼育ケースから、籠にうつっていたハルは、入口をあけられると浮竹の肩に止まった。それから京楽の肩にとまって糞をして、大空にかえっていった。

「僕には最後までこれか・・・・・」

がっくりと項垂れる京楽を見て、浮竹は笑った。

数日後、雨乾堂の庭に小鳥の餌をまいていたら、それを啄む中にハルの姿があった。頭のところが白くて、すぐに分かった。

「無事、巣立ったみたいだ。雛の頃に人間い育てられた小鳥は、巣立ちに失敗して死んでしまうことがあるからな」

「よかったよかった」

自分が拾った責任もあったのだ。

無事巣立ちを確認して、二人ともほっとした。それから長い間、庭に小鳥に餌をまいていると、季節は移り変わり、ハルは番をとヒナを連れてやってくるようになったそうだ。












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