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払い屋京浮シリーズ 1-1

払い屋。

それは金を払って、力ある者が妖怪や霊を払うという仕事。

時には命の危険さえある。そんな払い屋の中に、浮竹十四郎という名の者がいた。

もつのは、式神を6体。

人型を4体と、猫、後は鴉の式神。

人型といっても、式神であるのだから変化は自由自在で、猫と鴉の式神はあくまでその形が基本なのであって、たまに違う形になる。

「京楽、あの家に憑いているのは・・・・何か、分かるか?」

浮竹の問いに、浮竹のもつ人型の式神の一人である京楽は、頷いた。

「人形だよ。人形の中に宿った霊魂が、悪さをしている。負の魂が入り混じって、人の形をして現れて、あの家の住人を害そうとしている」

「見せてもらったが、日本人形でまさに呪われてますってかんじだったな。あれが本体と見ていいだろう。結界を張る。京楽は、その補佐を頼む」

「ああ、任せてよ」

浮竹は、今回依頼された人形を払うのに、家全体が人形の思念に汚されていて、清浄にしないとまた何か悪いものが憑きそうなので、結界を張って人形ごと家中の悪いものをなくすための、払いをしようとしていた。

(ああああああああ)

人形の呪いの声が聞こえる。

(殺してやる・・・・・血に染めてやる・・・・・・)

人形の元の持ち主は、すにで人形の呪いで交通事故にあい、入院している。残された妻と子供が心配で、払い屋浮竹に人形の払いを依頼したのだ。

本来なら、人形などは寺で供養するものなのだが、今回の人形は負の感情を集めすぎて半ば妖怪化していて、人の姿を形どっては残された妻と子供たちを怖がらせ、殺そうとしている。

「浮竹、結界は完璧に張ったよ」

「ああ。ありがとう」

浮竹は、呪文を唱え出した。

庭の地面に円陣を描き、そこに思い切り力を注ぎこむ。


ぱぁぁぁぁぁぁ。

結界の中で、庭の円陣を中心に、光が家中を満たしていく。

(ああああああ、ああ、口惜しや、口惜しや・・・・あと少しで、主人だけでなく、妻も子も呪い殺せたものを・・・・・・)

呪いの人形が、光に包まれて、粉々に散っていく。

光が収まった時、その家は穢れを払われた、ただの普通の家に戻っていた。

「ふう、お疲れさま!」

浮竹は、払いを終えて、額を手で拭った。それほど力は消費していないが、結界を張るのは少し骨が折れる。

「浮竹、僕はもういいの?」

「ああ、うん。今回は俺だけの力で払えたから」

「じゃあ、いつもの姿になるね」

人型が基本であるが、京楽は常に主である浮竹の傍にいるのが好きで、桜文鳥の姿になると、ちょんちょんと浮竹の肩に止まった。

「浮竹、今日はもう払い屋の仕事はないんでしょ。家に帰ろう」

「うーん。明日、払い屋の会合があるんだよなぁ。俺のところは代々続く名門じゃないから、一応声はかけられてはいるが、欠席しよう」

「それがいいよ。払い屋の多くは、浮竹の代だけで有名になった浮竹のこと、よく思っていない奴らが多いから」

他人から見れば、文鳥が浮竹の肩にとまり、チュンチュンとかわいげに鳴いているようにしか見えなかった。

京楽は、式神であるが、移動する時などは文鳥の姿をとって、常に浮竹の傍にいた。

ついでに、式神であるが他の人間にその姿は見える。それほど強い力を注がれていたし、自前で強い力をもっていた。

元々、京楽は浮竹の式神ではなかった。

代々、生贄をと求めてくる、水龍神の次男坊だった。

その水龍神を浮竹が払い清め、普通の水龍神に戻した後に、浮竹に一目ぼれしたといって、眷属から抜け出して、浮竹の下につく契約を交わし、式神となった。

水龍神の式神。

水を操るのが得意で、清らかな力ももっているため、結界を張ることもできるし、浮竹に代わって小物の妖怪や霊なら、払うこともできた。


浮竹は、払いを終えたので車に乗り込んだ。

「京楽?どうした、いきなり黙り込んで」

「うん・・・・なんか・・・・視線を感じる」

「ああ、昨日譲り受けた、付喪神のついた壺のせいだろ」

車の後部座席には、ガタガタと音を鳴らす壺があった。

「付喪神自体は、あまり悪くはないんだ。ただ、恐れられるから、よく捨てられる。結界を張られた俺の屋敷の物置にでも、入れておくさ」

付喪神を払うことは基本ない。

悪い付喪神もいるが、その時は問答無用で払うが、付喪神は物に魂が宿ったもの。大切に使われてきたものに魂が宿ったもので、妖怪の一種ではあるが、神の名がつく通り、基本は悪いものではないのだ。

「家についたぞ」

京楽は、人型に戻って車から降りると、浮竹と並んで屋敷とも呼べる広い家に入っていった。

「おかえりなさいませ」

「おかえりなさい」

「ああ、ありがとう」

浮竹は、迎えにきてくれた式神に、礼を言う。

式神である海燕とルキアは、主人の帰りを待っていたのだ。

屋敷というほどに広い浮竹の家を管理しているのは、この2体の式神であった。

他に、夜一という式神をもつが、夜一は気分屋で、めったなことでは召還に応じてくれず、実質浮竹がもっているのは3体の人型式神と、猫と鴉の式神だ。

「主、食事の用意が整っています」

ルキアがそう言ってきた。

「ああ、もう夕飯の時間だな。いただくとするか」

食堂で、浮竹と一緒に京楽も夕飯をとった。

普通、式神は食事を必要としないのだが、京楽は水龍神が元であるので、食事もとれた。他の式神も、食事をとろうと思えばできた。

浮竹の式神は食べることが好きで、ルキアと海燕も、主である浮竹の食事が終わった後に、自分たちの食事をする。

「浮竹、何考えてるの」

食事も終わり、ソファーの上でぼーっとしている浮竹に、風呂からあがった京楽が、浮竹の白く長い髪を撫でた。

「いや、明日の会合のことをな。欠席にするにも、どれか式を飛ばさないといけないから、誰にしようかと・・・・」

「僕は嫌だよ。君の傍を離れたくない」

「ああ、うん。京楽は会合に行くとそのまま交じって酒飲んで帰ってきそうだから、はじめから除外してある」

「僕ってそんなに信用ない?」

「うーん。酒の誘惑に弱いからな。よし、マオを飛ばすか」

猫型の式神の名であった。

「にゃーん」

「マオ、この書状を会合のある屋敷まで運んでほしい。住所はここだ。わかるな?」

「なーお」

猫の式神は、書状を首輪の隙間に入れられると、ふっと消えてしまった。

「よし、俺も風呂に入るか」

「僕も風呂に入る」

「お前は、さっき入ったばかりだろう。言っとくが、一緒に入るつもりはないぞ。文鳥姿なら、一緒に入ってもいい」

「じゃあ、文鳥になる」

ぼふんと音をたてて、文鳥の姿になった京楽は、浮竹と一緒に風呂に入った。

洗面器の中で、水浴びならぬ湯浴びをして、上機嫌だった。

「ああ、風呂はいいなぁ」

何度も湯を浴びながら、京楽は浮竹の頭に止まった。

チュンチュンと、鳴いているようにしか見えないが、文鳥の姿でも人語を解すし、話す。

力ある者が見れば、この文鳥がただのかわいい小鳥ではなく、強い式であると分かるだろう。

風呂からあがって、掃除や洗濯をしてくれている海燕とルキアを手伝って、浮竹はその日の一日を終えようとしていた。

「京楽は、今日はどこで寝る?」

「もちろん、君の上・・・・」

ばきっ。

人型だった京楽は、浮竹の拳で顎を殴られて、涙目だった。

「チュン」

文鳥の姿になって、文鳥の鳴き真似をする。

「うっ・・・・・」

浮竹も、文鳥姿の京楽に、これ以上の暴力はふるえなかった。

「卑怯だぞ、京楽。こんな時ばかり変化して」

「チュン」

「分かった、俺の隣で寝たいんだろ。許可するから、文鳥の真似はやめろ」

「大好きだよ、浮竹!」

ぼふんと人型に戻った京楽は、浮竹に抱き着いた。

「んっ・・・・・」

浮竹の唇を奪い、そのまま押し倒そうとする。

浮竹が、鴉の式を出して、京楽の頭をつつかせた。

「痛い!」

「盛るな!」

「えー。だって、もう2週間もしてないじゃない」

背後には、ルキアと海燕が控えていた。

真っ赤になって、浮竹は京楽の頭を、はいていたスリッパで殴る。

「そういうことは、他の式がいる前で言うな!」

「えー。別に知られてるから、いいじゃない」

「よくない!」

浮竹は、京楽の頭をすっぱーんとスリッパで殴って、呼吸を落ち着かせた。

「もう寝るぞ」

「おやすみなさい、ご主人様」

「おやすみなさいませ、主」

海燕とルキアは、下がっていく。

浮竹のもつ人型の式神は、京楽以外は基本館の中で過ごしていた。

京楽だけが、浮竹と共に外の世界によく出て、払いの仕事を補佐する。海燕やルキアを連れていくこともある。夜一を呼ぶ時は、よほど切羽詰まった時以外ありえない。


浮竹は、明日は仕事がないのでゆっくりしようと、キングサイズのベッドに横になる。

その隣に、当たり前のように京楽がいた。

始めは寝所は別々に分けていたのだが、式でもであるのに、京楽と情交を交わしてしまうことがあるので、京楽は浮竹の隣で眠るようになった。

京楽は水龍神である。

もてあましている力を、霊力という形で、浮竹に注ぎこむ時があった。

「今日はしないからな」

「ケチ」

こんなでも、元は水龍神。神様だ。

でも、浮竹と二人きりの時は、すけべえになるのであった。

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