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払い屋京浮シリーズ1-2

「ん・・・・・」

「起きた?朝食、それとも朝風呂、それとも僕?」

ふりふりのエプロンをつけた京楽をみて、浮竹は眠気もふっとんだ。

「なんて恰好してるんだ、京楽!」

「いや、現代ではこういうのが流行ってるって聞いて・・・・・」

「誰から」

「夜一から」

「あー。夜一の奴、帰ってきてたのか」

「猫に変化して、マオ用のキャットフード食べてどっかにふらりと消えちゃったよ」

マオとは、浮竹が所有している猫の式神の名前だ。

式神は、食事など必要としないのだが、京楽をはじめとして、浮竹の式神は食事を楽しむ傾向があった。

夜一もまた、浮竹が所有している式神の一人だが、自由すぎていつも気ままにふらふらと現世とあの世を彷徨い、召還に応じることは稀だった。

人型でいる時もあるが、黒猫に変化する時が多くて、金色の目が特徴的な黒猫の姿をとる。

「主、今日は休みではないのですか」

ルキアが、掃除機をかけ終わって、起きてきた浮竹にホットコーヒーを渡した。

「ルキア、今日は急に仕事が入った。お前の力もかりたい」

「はい。私は主の式。主の思うままに、使役してください」

「ほんと、どこかの誰かさんと違って、いい式神になったなあ」

「どこの誰だろうね」

京楽は、嫌味のつもりで文鳥の姿になっていた。

「チュン」

「お前は、一人、小鳥の餌でも食ってろ」

「ああ、そんな殺生な!」

朝食の用意がされてあった。

浮竹と京楽の分の他に、今日力を借りると言われたので、ルキアもまた朝食をとった。

浮竹の持つ式神は、食事をするのが好きだ。

「今日は廃病院にとりつく、屍鬼を払う。屍鬼だが、半分霊体で、ちょっとややこしい」

「屍鬼なんて、珍しいね。平安時代なんかにはよくいたけど、こんな現代にいるなんて」

屍鬼。

人の血肉と魂を喰らう化け物。

アンデットの一種である。

分類すれば、妖怪ではあるが、一応西洋の妖怪ということになる。

「廃病院が、これまた広いんだ。結界を張るにも一苦労だ」

「じゃあ、依頼受けなきゃいいじゃない」

「いや、俺が受けなきゃもう受ける相手がいないって泣きつかれてな・・・・・・」

西洋の妖怪を相手にしたがる払い屋は、まずいない。

「主、今回は屍鬼が相手であるなら、聖水もいるのでは?」

「そうだな、ルキア。一応、用意しておいてくれるか」

「承知しました」

ルキアは、聖水を作りにキッチンに下がっていった。

教会の、正式な祈りを受けた聖水でなくてもいい。

塩を含んだ水に、力をこめても、聖水はできあがる。

払い屋独自の聖水であった。

西洋の妖怪を払うには、特にアンデット系には聖水が効く。

浮竹は、食事をとり終わると、京楽とルキアを連れて、その廃病院までやってきた。

まだ日は高いので、いたるところに聖水を振りまき、結界を構築する。結界を生み出すのは浮竹の力で、維持はルキアに頼んだ。

そのまま、夜を待った。

「うヴぁぁぁぁぁ」

屍鬼が出た。

こっちにくるように、浮竹は自分の手を切って、血を数的垂らした場所に、円陣をチョークで描き、結界内で清浄な力を解き放つ。

呪文を唱えるが、その屍鬼にはあまり効かないようで、この前の人形なんかより数段に各上の相手だった。

「京楽、ルキア、頼む!」

「任せてよ」

「主の御心のままに」

京楽とルキアは、京楽は水の刃で、ルキアは氷の刃で屍鬼を切り刻んだ。

「ヴぁああああ」

屍鬼の傷は、再生されていく。

「京楽、ルキア、細切れになるまで頼む!」

「分かったよ」

「はい!」

京楽がまずは水で屍鬼を包み込み、ルキアが凍らせて、それを京楽の力で砕いて粉々にした。

肉片は、うねうねと動き、また再生しようとしていた。

その核となっているものに、浮竹は聖水を振りかける。

そして、呪文を唱えて、呪符を張った。

屍鬼の再生はなくなり、静かになったかと思うと、ゆらりと屍鬼から人の魂が、食われた魂たちがあふれ出す。

「調伏!」

浮竹は、いっそう力をこめて、聖水に自分の力を乗せて、その穢れた魂たちを浄化していった。

「あああーーーー」

「うああああ」

「きもちいい・・・・・」

「自由になれる・・・・」

穢れた魂たちは、浮竹の力で浄化されて、天に昇っていった。

「屍鬼は一体だけと聞いたが、念のために調べるぞ」

「もう、ここは清浄な空気に満ち溢れているよ。いても害のない霊だけじゃないかな」

「念のためだ」

浮竹は、ルキアを伴って、廃病院の中を歩きまわった。

京楽は、結界内にある廃病院の外を見回ることにした。

「ふむ、異常なし。聖水が余ったな・・・・作りすぎたか」

ルキアが、どばどばと中身を廃病院の外に氷にして行き渡らせた。

「ルキア、別に使わなくても」

「でも、せっかく作ったのに、もったいないので」

浮竹は、苦笑しながら、ルキアの黒髪の頭を撫でた。

「結界の維持で、けっこう力使っただろう。帰ったら、白玉餡蜜を作って食べてもいいぞ」

ルキアの顔が、ぱぁぁと輝いた。

ルキアの好物は白玉餡蜜である。食べることを好む浮竹の式神たちは、好物を持っている。

ルキアを先に帰らせて、京楽と浮竹は二人で、ぶらぶらと居酒屋に入った。

「生ビール2つ。あと日本酒を。おつまみはこれを」

適当に頼んで、二人で乾杯した。

廃病院の屍鬼の依頼は、いつもより高額を支払われたので、ちょっとお洒落な高い店に入った。

そこで2人は飲みまくって、べろんべろんになった浮竹を、京楽がタクシーを拾って、屋敷まで一緒に帰宅した。

「んー、もう飲めない・・・・」

浮竹をベッドに寝かせる。

「浮竹、愛してるよ」

「京楽、俺も愛してる」

愛を確かめ合おうをして、浮竹にキスをするが、浮竹はすでに眠ってしまっていた。

「ちょ、浮竹、そりゃないんじゃない?」

「ZZZZZZ・・・・・・・」

慣れぬ西洋の妖怪の退治で、少し疲れたのかもしれない。

キングサイズのベッドの中心で眠る浮竹をパジャマに着替えさせてやり、毛布をかけて、もってしまった熱を発散するために、京楽は熱いシャワーを浴びた。


次の朝。

「うーん。頭がガンガンする・・・・」

「飲みすぎだよ、浮竹」

京楽は、またふりふりのエプロンをつけていた。

「朝食にする、それとも朝風呂、それとも僕、それとも二日酔いの薬?」

「お前でいい」

「え?まじで?」

浮竹は、呪文を唱えると、呪術に入る術で、京楽に二日酔いを移した。

「あああ、頭が痛い!?」

「ふう、すっきりした。朝風呂入ってくる。京楽は、二日酔いの薬でものんどけ」

「酷い!僕を愛してないんだね!」

「お前は式だろう。頭痛くらい治せるはずだ。治るとイメージしてみろ」

「あ、ほんとだ。治った」

けろりとなった京楽は、浮竹の朝風呂に怒られないように、文鳥の姿でついていくのだった。

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