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払い屋京浮シリーズ2-1

「憑かれたか」

ゆらりと、少女に憑依した妖怪は、少女とは思えない速度で走り出し、浮竹の首を締め上げてきた。

「浮竹!」

「きょうら・・・・これいくらい、なんてことはない」

ギリギリと首を締めあげられるが、浮竹は少女の額に手を添えて、清浄な気を流した。

「ふしゅるるるるる・・・・・」

少女に憑いていた妖怪が、少女から離れる。少女の体が頽れる。それを、京楽が支えた。

少女から離れた妖怪めがけて、浮竹は呪符を投げた。

呪符は清浄なる力を発揮して、燃え上がる。

「ぎゃん!」

妖怪は、子狐だった。

「山へお帰り。ほら、母狐が待っているよ」

「コンコン」

母狐は、人の姿をとって、浮竹に助けを求めてきた。

かわいい我が子が、不浄なる穢れた気に当てられて、人に憑りついていると。

子狐は、母狐に首をくわえられて、山に帰っていった。

「今回の報酬は・・・・・魚だ。一応札束も用意してくれてたみたいだけど、木の葉でできていたから、使えないな。まぁ、妖(あやかし)からの依頼だから、ボランティアみたいなものだ」

鮎を3匹。

普通、払い屋は人からの依頼しか受けない。

浮竹は、妖怪や霊の依頼も受けた。

報酬はあまり期待できないが。

妖同士のいざこざも依頼されるが、あくまで人間が関係している依頼しか受けない。

妖同士のいざこざは、人間に被害が出る恐れがある時だけ引き受けた。

「ああ・・・・今年も、桜が狂い咲いてるな。花鬼(かき)が、出そうだな」

花鬼。

特に桜の花鬼は、人を桜で惑わし、養分を吸い取って殺してしまう。



ある村からの依頼があった。

花鬼が出たのだ。

もう3人の若い男性が襲われていて、死んでいる。

花鬼が出るという桜の大樹の下で、浮竹と京楽は、花鬼が出るのを待った。

ふわり。

甘い香がして、それは浮竹を包みこんだ。

式である京楽も、甘い香に包まれたが、浮竹が姿を消していることに気づき、狼狽する。

「浮竹?浮竹どこだい!?」

浮竹は、花鬼にさらわれて、異界の地に足を踏み入れていた。

「ふーむ。魅入られたか・・・ここは、妖の、花鬼の世界か」

浮竹は物珍しげにきょろきょろ視線を彷徨わせる。

一面桜だらけで、桜の狂い咲きだった。

「こっちにきて、愛しいあなた」

「あいにくと、俺は花鬼と番う気も、魅了されて生気を絞られる気もない」

「愛しい・・・愛しい人。美しい白い人」

「名はあるか?」

「桜花(オウカ)」

現れた花鬼は、桜色の着物をまとった美しい女性だった。額に、鬼の証である角があった。

「名のある花鬼に出会えたことは嬉しいが、普通に人の生気を少しずつ吸い取って生き永らえようとは思いいたらなかったのか。死に追いやれば、払い屋や退治屋に調伏される」

「美しい白い人・・・・どうすれば、私のものになってくれるの?」

「お前のものになんてならない」

浮竹は、呪文を唱え出す。

風を使って、桜の絨毯に円陣を描き、清浄なる力を注ぎ込む。

「あああ、私の世界があああ!!!」

清浄すぎる空気に満たされて、花鬼の空間は壊れ去った。

桜花と名乗った花鬼は、浮竹と共に現実世界に戻っていた。

「おのれ、払い屋か!それとも退治屋か!」

「払い屋だ。おとなしく、滅されろ」

「浮竹!」

京楽は、浮竹が帰ってきてくれたことに喜び、抱き着いた。

「ええい、京楽、今はそんなことしてる場合じゃない。花鬼だ!」

京楽は、水を操って花鬼の体を呪縛した。

「なに、こんなもの!」

花鬼は、ざぁぁあと花びらとなって散った。

そしてまた、形をとる。

「じゃあ、これはどうかな?」

花びらごと水全体で包みこみ、閉じ込めた。

「払い屋あああぁぁぁぁ!」

花鬼は、桜の花びらを鋭利な刃物にかえて、浮竹に降り注がせた。それは、京楽がはった結界で弾き飛ばす。

「一気にいくぞ」

「うん、分かってる」

京楽と浮竹は、二人で聖なる気を練りあげて、花鬼にぶつけた。

「ああああ・・・・私は、もっと、もっと喰ってもっと生きて・・・・・・」

花鬼が、桜の花びらとなって散っていく。

花鬼が浄化されたとたん、咲き狂っていた桜の大樹は、しおれて枯れてしまった。

はらはらと、桜の花びらを散らせながら。

「花鬼の本体は、この大樹だったんだな」

大樹には呪符がいくつも張られていて、花鬼が大樹の中に逃げ込むのを阻止していた。

「いきなり消えるから、本気で心配したんだよ!」

ぎゅっと、京楽に抱き着かれて、浮竹は京楽の結われた長い黒髪を撫でた。

「花鬼の世界に閉じ込められたんだ。自力で戻ってこれたが」

「心配したんだから」

「ああ、すまない」

京楽は、浮竹の頬に口づけしながら、次に文鳥の姿になって浮竹の肩に止まった。

「村の人に、退治したと知らせなければ」

「そうだね。僕は力を使ったので、ちょっとこの姿でいるよ」

他人が見れば、チュンチュンと文鳥が鳴いて、飼い主に懐いているようにしか見えなかったが。

桜の咲く時期は、花鬼退治の依頼が多い。

1週間前も、花鬼を退治したばかりだ。

その花鬼は、男で、幼い少女ばかりを生気を奪って殺していた。

問答無用で滅した。

名のある妖は、力が強い。

だから、前の花鬼は普通に退治できたが、今回は花鬼の世界に誘われた。

奪った命の数だけ、力は増す。

遠い昔から、あの花鬼は若い男を生気を奪って食い殺してきたのだろう。

花鬼は、血肉は食わない。

生気だけを好む。

なので、死体が残る。

だから、花鬼のしわざだと分かる。

ミイラのようにしおれた死体が見つかるたびに、花鬼だと騒がれた。

「また、花鬼の依頼くるかな」

「僕は当分もうきてほしくないね。浮竹の生気が少し抜かれてる。だるいでしょ?」

「現役の払い屋だ。この程度で音をあげているようじゃ、やってけない」

肩に文鳥の京楽を乗せて、浮竹は村の長に報告をして報酬をもらった。

現金の他に、鏡をもらった。聖なる力をためておけるらしく、元は祭具であったという。ありがたく、ちょうだいしておいた。

古い鏡で、浮竹が聖なる力をこめると、キラリと輝いた。

邪を払う効果があり、ポケットに入るサイズなので、京楽に持たせた。京楽は元は水龍神である。正確にいえば、水龍神の次男坊だが、水龍神の血族であることには変わりない。

神の力をもっている。

ちょっとやそっとのことではやられないが、浮竹よりは邪を払う力が弱いので、念のために持たせることにした。

「はぁ・・・・春は、凄しやすい季節だが、桜の花鬼がよく出るから、よく依頼が舞い込んでくる。稼ぎ時だが、花鬼に魅入られると妖の世界に閉じ込められるからな」

「だから、浮竹の姿が消えたの」

「そうだ。あの花鬼の世界に引きずりこまれていた。力がなければ、生気を吸い取られてミイラだな」

「ミイラの浮竹は嫌だ」

「俺も嫌だよ」

クスリと笑い合いながら、帰宅するために車に乗りこんだ。

さらさらと、桜の花びらが散っていく。

花鬼は、生気を少しだけもらって生きる者がほとんどだが、中には今回のように全ての生気を貪り食って殺すことがある。

払い屋や退治屋が出番の季節でもあった。

春は、うららかだが、稼ぎ時でもあった。





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