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新たなる霊王

俺は、死んだはずだった。

ミミハギ様を手放し、神掛を行った。

気づいた時には、集中治療室で目覚めた。

「よかった、浮竹、目覚めたんだね」

傍で、憔悴しきった様子の京楽が、ずっと浮竹の手を握っていた。

「ああ、もうこうして君に触れていれるのも終わりかな」

「俺は死んだんじゃなかったのか?」

「君は・・・霊王になったんだ。神掛が、君を霊王にした」

「俺が霊王に?」

信じられなくて、でも新しい零番隊が迎えにやってきた。

「新しい霊王様においては、ご機嫌麗しゅう。これより、世界を見守るために霊王宮にあがってもらいます。もう、尸魂界の、下界には戻ってこれません」

「え・・・・・・・」

つまりは、もう京楽と会えないということなのだろうか。

「それは困る。俺は、下界にいたい」

「だめです。霊王様なのですよ、あなたは!」

「じゃあ、許可を。京楽も、時折でいいから霊王宮に行ける許可を。それがないなら、俺は霊王にならない」

子供の我儘のように、浮竹は京楽の手を握って、霊王にならないと言い張った。

「霊王様が霊王宮にいらせられないのは問題だ。仕方ない、京楽春水、汝を特別に霊王様のおそばに時折居れるように、許可する」

「じゃあ、京楽・・・俺は、ちょっと霊王として霊王宮にあがるよ」

「浮竹!」

「別れじゃないから。また、会える」

零番隊に連れられて、浮竹は去ってしまった。


それから、どれくらい月日が流れただろうか。

半年は音信不通だった。

浮竹が生きているだけでいいと思っていたが、それでもやはり傍にいれないと寂しさが募る。

「浮竹・・・・今頃、何してるだろう」

ふと、地獄蝶がやってくる。

「霊王様がお呼びです。一番隊隊舎の裏にゲートを作るので、そこから霊王宮にあがりなさい」

京楽は、仕事を放りだしてゲートに入った。

「浮竹に会えるの・・・・?」

気づくと、そこは春の季節を保った霊王宮の入り口だった。

「お、京楽、久しぶり」

傍に侍女を従えて、霊王となった浮竹は美しい着物を着て、長い白髪を結い上げて花で飾り、まるで女性に見間違うような出で立ちをしていた。

「浮竹?」

「他の者は下がってくれ。京楽と二人きりになりたい」

「しかし霊王様!」

「この霊王の命令が聞けないのか?」

「申し訳ありません。退席いたします」

霊王となった浮竹に案内されて、霊王宮のいろんな場所を紹介された。

「ここが、俺の部屋だ」

広い部屋に、ぽつんと大きなベッドだけがある。

「霊王の君って、普段何をしているの?」

「下界を見てる。何かの命が生まれる時が、一番嬉しい。お前のことも、時折見ていた。総隊長として、立派にやっているんだな」

「浮竹!」

京楽は、浮竹に抱き着いた。

「どうしたんだ?」

「半年も、君に会えなかった。半年ぶりだよ。浮竹不足で死にそうだ」

「大袈裟だな」

「ねぇ、しばらくこの霊王宮に居てもいいのかな?」

「ああ。俺の我儘になるが、霊王を止めるって言いだせば、大抵のことは片がつく」

「浮竹、悪いいたずらっ子みたい」

「ふふ・・・・好きだぞ、京楽」

「僕も大好きだよ、浮竹」

霊王となった浮竹をベッドに押し倒して、体を重ねた。

半年ぶりなので、加減ができなくて浮竹は意識を飛ばしてしまった。

「ごめんね、浮竹。君が傍にいないと、僕はだめみたい」

浮竹の隣で、浮竹を抱きしめて眠った。

朝餉の時刻になり、浮竹も目を覚ます。

「京楽、たまってたな」

「ああ、うん。ごめん」

配膳係は、何も聞いていないように振舞う。

「ねぇ、肺の病は大丈夫なの?」

「ああ。霊王になったせいか、肺は健康そのものなんだ。体が弱いのは変わりないが。霊王宮の外までしか出れないが、外は春の季節が保たれていて、体にも心地よい」

「ごめん、昨日君にした行為は、君の体を蝕んでしまうかもしれない」

「いい。俺も、望んだことだ」

浮竹は、朝餉を食べ終えると、京楽を連れて霊王宮の外に出た。

「ここは、年中桜が咲いているんだ。この桜の大木が、俺のお気に入りだ」

「綺麗だね」

「そうだろう」

「うん。桜の花びら舞う下にいる君が、とても綺麗だ」

浮竹は、赤くなった。

「な、何を言っている」

「ふふふ。かわいいなぁ、浮竹は」

「からかうな。これでも、霊王なんだぞ」

「かわいい霊王様だね」

「むう」

浮竹は頬を膨らませる。

「僕は、いつまでここにいれるのかな?」

「1週間。その次は、また半年後だ」

「そう。じゃあ、明日ここで花見をしよう。酒を飲みかわそう」

浮竹と京楽は、離れていた時間を取り戻すように、お互い傍にいて寄り添い合った。

「じゃあ、また半年後に」

「京楽!」

「なんだい」

「これ、俺専用の伝令神機だ。話ならできるから」

「お、気が利くね。ありがたくもらって、活用させてもらうよ」

霊王となった浮竹は、暇をもてあましている。

霊王の存在は、世界が在るのを見届け、贄となって支えるもの。





「おはよう、浮竹」

「おはよう、京楽」

専用の伝令神機を利用して、毎日のように会話ができて、二人が離れている距離は、近いものになる。

「来月は、あれから半年が経つから会える。早く、お前に触れたい」

「僕もだよ。君を抱きたい」

「な、俺は、会いたいと・・・・・・」

「でも、抱かれたいでしょ?」

「知るか!」

浮竹は、伝令神機を畳にたたきつける。

「あははは。顔まで真っ赤な君が想像できる」

受話器ごしから聞こえてくる声に、真っ赤になりながら、浮竹は。

「俺も抱かれたい。早く、会いたい・・・・・・」

そう言って、伝令神機を切って、桜の大木があるところまでくると、下界を少し見た。

京楽の姿が見えた。

滞在は一週間になるので、ばりばり仕事をしているらしかった。

「ふふ・・・・・」

一生懸命な京楽を見ていると、こっちまで嬉しくなる。

「そんなに、俺に会いたいのか・・・・」

浮竹は、少し笑って、桜の大木の下で微睡みだす。

霊王は、ただ在ればいいだけなので、基本暇だ。

書物を読んだり、身の回りの世話をする者と囲碁や麻雀をしたり、花札とかトランプをしたり。

眠っている時間が、1日の3分の2を占めるようになっていた。

「京楽・・・早く、会いたい・・・・・」

眠りながら、京楽の夢を見る。

次に会えるまであと1カ月。

伝令神機で連絡を取り合ってるので、孤独ではないし、半年に一回ではあるが、実際に会える。

霊王となったことに、後悔はしていない。

一度死んだはずなのだ。

京楽と同じ時間を生きて、会えるなら、もうそれ以上の望みはないのだった。




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