日帰り温泉旅行
お互い非番の日に、少し遠出して日帰りの温泉旅行にいくことになった。
「お菓子のわかめ大使もつめたし、着換えもいれた。よし準備は万全だ」
浮竹は、その日を心待ちにしていた。
京楽がやってきて、日帰りだというのにその荷物の量に苦笑する。
「浮竹、バスタオルやタオルはむこうで貸してくれるし、シャンプーとか石鹸もそなえつけだよ。もう少し、荷物減らした方がいいんじゃないかい」
「お、そうなのか。じゃあ少し待っててくれ」
バスタオル2枚と、タオルを数枚ぬいただけで、荷物はぐっと減った。
シャンプーとボディーソープはいれたままだ。
お気に入りのやつだだった。
「では・・・・瞬歩で出発!」
「ああ、そっちじゃないよ、こっちの方角だよ!」
瞬歩で踏み出した浮竹の手をとって、軌道修正させる。
そして、本来ならば数日かけてたどる道を3時間ばかりで踏破した。
露店風呂だった。
風邪とか大丈夫かなとか少し心配しながら、借りたバスタオルをきちんと腰にまいて、長い髪を結いあげて、温泉風呂に入った。
少しして、京楽がやってくる。
腰にバスタオルは巻いていなかった。
目のやり場に困って、天井を見つめていた。
「何してるの、浮竹」
「お前がまっぱだから、天井を見ている」
「僕の裸なんて、見慣れるでしょ。それよりも浮竹も腰のバスタオル外したら。どうせお互い、見慣れてるんだし」
「断固として拒否する!お前のことだ、風呂の中で盛りそうだ!」
「ちぇっ」
実際その通りだった。浮竹の裸身を見て、京楽は少しその気になっていた。あわよくば露店風呂の中でいただこうとしていたので、浮竹の警戒具合に、これは無理そうだと一人ごちる。
「おいで。髪を洗ってあげる」
素直に、浮竹は下心をなくしたであろう京楽の元にやってきた。
「君の髪は長いからね。僕も長いけど、洗うの大変だから」
シャンプーをつけて頭皮をごしごしあらう。あとは髪をブラシで梳いていく。リンスまでして、さっぱーんと湯をかぶせられて、浮竹の髪は洗い終わった。
「今度は、俺がお前の髪を洗ってやろう」
「頼むけど、手加減してね」
シャンプーをつけすぎて、泡泡だらけになった京楽の髪を、櫛でとこうとして、くせ毛がひどいせいでなかなか櫛が通らない。
「ふんぬ!」
無理やり櫛を通すと、べりっと数十本の髪が抜けた。
「あああ、だから手加減してっていったのに!」
「なに、まだまだ」
浮竹が満足するころには、毛玉になった抜けた髪が目立った。
「将来はげたらどうしよう・・・・・」
「その時は、かつらをつけたらいい!」
朗らかに笑う浮竹に、悪意はないのだ。天然なのだ。
そのせいで、怒るにも怒れない。
露店風呂からあがると、ちょうど昼餉の時間を回っており、お腹がすいた。
「お、魚介類の鍋か・・・・・アンコウがいる」
さすがにカニはなかったが、けっこうな海の幸が並んでいた。
海のない尸魂界では、高い魚はけっこう高い。あじやいわしといった、庶民が口にする魚は安いが、貴族を中心とした者は高級魚を好んで食べる。
別に、浮竹はそこまでの美食家ではないし、京楽も同じだった。
アンコウは、高級魚の一種だった。
「今日はアンコウ鍋だね」
京楽が、浮竹に聞く。
「食べたことある?」
「ない」
「そう。それならよかった。おいしいよ」
京楽は、長いこと上流貴族をしてきたせいか、数回食べたことがあるようだった。
まず、浮竹では食べることも躊躇しそうな値段であった。
全部京楽のおごりで、それに慣れてしまっている浮竹も、何も言わない。
あんこう鍋を食べ終わり、一息ついて、お茶を飲む。
浮竹は旅行鞄からとりだしたわかめ大使を食べていた。
「君好きだね、それ・・・」
「白哉いからいつももらうんだ。前は定期的に買っていたが、「兄から金はとれぬ」といって、最近はただでくれるから、結構食べてるな」
兄から金はとれぬという白哉の心にちょっと嫉妬心を覚えながらも、わかめ大使を食べる浮竹を優しい目で見つめていた。
「好きだよ、浮竹」
「どうした、京楽」
もっきゅもっきゅと、わかめ大使をほおばる浮竹の白い髪を手にとって、口づける。
「くすぐったい・・・・俺も好きだぞ、京楽」
二人の恋人は、キスだけ交わして、ごろりと横になった。
「食べた直後に横になると牛になるっていうよね」
「そうだな。まぁいいじゃないか」
「失礼します。鍋を下げにきました」
「ああ、おいしかったよありがとう」
「すまない、後片付けを頼む」
睦みあっていないでよかったと思う二人であった。
宿の人がきて、鍋を下げていった。
「あと3時間くらいはここにいれるけど、どうする?」
「だらだらする」
「そうだね。せっかくの非番なんだし、だらだらしようか」
京楽の腕の中にいたら、暖かくていつの間にか眠ってしまっていた。
気づくと、日も傾きかけていた。
「おはよう、浮竹」
「意外と寝てしまったようだ・・・・雨乾堂に帰るのは夜になりそうだな」
京楽がかけてくれたであろう毛布をぬいで、散らかった荷物をまとめて、外にでる。
「京楽、今日はありがとう」
「どういたしまして」
「また、日帰り旅行に何処かに行こう」
「そうだね。また計画立てておくから」
瞬歩で、雨乾堂に向けて走り出す。
たまに歩いたりしていたので、雨乾堂につくころには、星が見えていた。
「今日もいい天気だな。星が良く見える」
「そうだね」
「泊まっていくだろう?」
「うん」
手を握り合い、雨乾堂までの少しの距離を歩いた。
「こうやって、隊長になってまでお前とこういう関係を続けれるとは、思っていなかったんだ」
「そうなの?僕はその気満々だったけどね。お互い隊長になっても、お互い共在ろうと誓いあったし」
遠い昔の他愛ない約束。
院生時代、卒業前に、隊長にのし上がっても一緒にいようと誓い合った。
あの日のことは、記憶から抜け落ちることはない。
色あせない記憶の一つだ。
「夕餉は、食べるだろう?」
「その前に、浮竹を食べたいけどね」
「京楽!」
真っ赤になって怒る浮竹が愛らしくて、京楽は頭をぽかりと叩かれながら、星を見上げるのだった。
「お菓子のわかめ大使もつめたし、着換えもいれた。よし準備は万全だ」
浮竹は、その日を心待ちにしていた。
京楽がやってきて、日帰りだというのにその荷物の量に苦笑する。
「浮竹、バスタオルやタオルはむこうで貸してくれるし、シャンプーとか石鹸もそなえつけだよ。もう少し、荷物減らした方がいいんじゃないかい」
「お、そうなのか。じゃあ少し待っててくれ」
バスタオル2枚と、タオルを数枚ぬいただけで、荷物はぐっと減った。
シャンプーとボディーソープはいれたままだ。
お気に入りのやつだだった。
「では・・・・瞬歩で出発!」
「ああ、そっちじゃないよ、こっちの方角だよ!」
瞬歩で踏み出した浮竹の手をとって、軌道修正させる。
そして、本来ならば数日かけてたどる道を3時間ばかりで踏破した。
露店風呂だった。
風邪とか大丈夫かなとか少し心配しながら、借りたバスタオルをきちんと腰にまいて、長い髪を結いあげて、温泉風呂に入った。
少しして、京楽がやってくる。
腰にバスタオルは巻いていなかった。
目のやり場に困って、天井を見つめていた。
「何してるの、浮竹」
「お前がまっぱだから、天井を見ている」
「僕の裸なんて、見慣れるでしょ。それよりも浮竹も腰のバスタオル外したら。どうせお互い、見慣れてるんだし」
「断固として拒否する!お前のことだ、風呂の中で盛りそうだ!」
「ちぇっ」
実際その通りだった。浮竹の裸身を見て、京楽は少しその気になっていた。あわよくば露店風呂の中でいただこうとしていたので、浮竹の警戒具合に、これは無理そうだと一人ごちる。
「おいで。髪を洗ってあげる」
素直に、浮竹は下心をなくしたであろう京楽の元にやってきた。
「君の髪は長いからね。僕も長いけど、洗うの大変だから」
シャンプーをつけて頭皮をごしごしあらう。あとは髪をブラシで梳いていく。リンスまでして、さっぱーんと湯をかぶせられて、浮竹の髪は洗い終わった。
「今度は、俺がお前の髪を洗ってやろう」
「頼むけど、手加減してね」
シャンプーをつけすぎて、泡泡だらけになった京楽の髪を、櫛でとこうとして、くせ毛がひどいせいでなかなか櫛が通らない。
「ふんぬ!」
無理やり櫛を通すと、べりっと数十本の髪が抜けた。
「あああ、だから手加減してっていったのに!」
「なに、まだまだ」
浮竹が満足するころには、毛玉になった抜けた髪が目立った。
「将来はげたらどうしよう・・・・・」
「その時は、かつらをつけたらいい!」
朗らかに笑う浮竹に、悪意はないのだ。天然なのだ。
そのせいで、怒るにも怒れない。
露店風呂からあがると、ちょうど昼餉の時間を回っており、お腹がすいた。
「お、魚介類の鍋か・・・・・アンコウがいる」
さすがにカニはなかったが、けっこうな海の幸が並んでいた。
海のない尸魂界では、高い魚はけっこう高い。あじやいわしといった、庶民が口にする魚は安いが、貴族を中心とした者は高級魚を好んで食べる。
別に、浮竹はそこまでの美食家ではないし、京楽も同じだった。
アンコウは、高級魚の一種だった。
「今日はアンコウ鍋だね」
京楽が、浮竹に聞く。
「食べたことある?」
「ない」
「そう。それならよかった。おいしいよ」
京楽は、長いこと上流貴族をしてきたせいか、数回食べたことがあるようだった。
まず、浮竹では食べることも躊躇しそうな値段であった。
全部京楽のおごりで、それに慣れてしまっている浮竹も、何も言わない。
あんこう鍋を食べ終わり、一息ついて、お茶を飲む。
浮竹は旅行鞄からとりだしたわかめ大使を食べていた。
「君好きだね、それ・・・」
「白哉いからいつももらうんだ。前は定期的に買っていたが、「兄から金はとれぬ」といって、最近はただでくれるから、結構食べてるな」
兄から金はとれぬという白哉の心にちょっと嫉妬心を覚えながらも、わかめ大使を食べる浮竹を優しい目で見つめていた。
「好きだよ、浮竹」
「どうした、京楽」
もっきゅもっきゅと、わかめ大使をほおばる浮竹の白い髪を手にとって、口づける。
「くすぐったい・・・・俺も好きだぞ、京楽」
二人の恋人は、キスだけ交わして、ごろりと横になった。
「食べた直後に横になると牛になるっていうよね」
「そうだな。まぁいいじゃないか」
「失礼します。鍋を下げにきました」
「ああ、おいしかったよありがとう」
「すまない、後片付けを頼む」
睦みあっていないでよかったと思う二人であった。
宿の人がきて、鍋を下げていった。
「あと3時間くらいはここにいれるけど、どうする?」
「だらだらする」
「そうだね。せっかくの非番なんだし、だらだらしようか」
京楽の腕の中にいたら、暖かくていつの間にか眠ってしまっていた。
気づくと、日も傾きかけていた。
「おはよう、浮竹」
「意外と寝てしまったようだ・・・・雨乾堂に帰るのは夜になりそうだな」
京楽がかけてくれたであろう毛布をぬいで、散らかった荷物をまとめて、外にでる。
「京楽、今日はありがとう」
「どういたしまして」
「また、日帰り旅行に何処かに行こう」
「そうだね。また計画立てておくから」
瞬歩で、雨乾堂に向けて走り出す。
たまに歩いたりしていたので、雨乾堂につくころには、星が見えていた。
「今日もいい天気だな。星が良く見える」
「そうだね」
「泊まっていくだろう?」
「うん」
手を握り合い、雨乾堂までの少しの距離を歩いた。
「こうやって、隊長になってまでお前とこういう関係を続けれるとは、思っていなかったんだ」
「そうなの?僕はその気満々だったけどね。お互い隊長になっても、お互い共在ろうと誓いあったし」
遠い昔の他愛ない約束。
院生時代、卒業前に、隊長にのし上がっても一緒にいようと誓い合った。
あの日のことは、記憶から抜け落ちることはない。
色あせない記憶の一つだ。
「夕餉は、食べるだろう?」
「その前に、浮竹を食べたいけどね」
「京楽!」
真っ赤になって怒る浮竹が愛らしくて、京楽は頭をぽかりと叩かれながら、星を見上げるのだった。
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