最後の冬 ルキアの病、5か月の命
憔悴した顔で、一護が帰ってきた。
「全部、兄様から聞いたのであろう?」
「ルキア・・・・なんで、黙ってた?」
「こんな残酷なこと・・・・私の口からは言えぬ。私とて生きたいのだ!最後の最後まで、可能性を模索して足掻いてやる!」
ルキアの細い体を、抱き締める。
「なんか・・・前より、痩せたか?」
「少しな・・・だが、茶虎と石田と井上には内緒だぞ」
「そうだ、井上!井上に診てもらえば・・・・!」
「だめだ。井上の能力は、怪我を治すもの。病気は治らぬよ」
「でも、そんなのやってみなくちゃわかんねーだろ!?」
一護は必死だった。
やっと手に入れた愛しい存在が、あと5か月もすれば消えてなくなってしまうのだ。
「日曜、井上の家にいこう。事情は俺が話すから・・・・・」
「それで貴様の気が紛れるのであれば、行こう・・・」
こうして、次の日は日曜だったので、井上のマンションに出かけた。
「え・・・嘘。朽木さん、嘘だよね?ねぇ、こんなの嘘だよね!?」
井上に事情を話すと、井上はボロボロと大粒の涙を零しながら、それが真実だと知ると、泣き叫んだ。
「いやあああああ!朽木さんがいなくなるなんていや!」
抱き着いてくる井上の背中をぽんぽんと叩き、ルキアは安心させてやった。
「まだ、5か月あるのだ。4番隊で、今この病を治す特効薬を作ってもらっている。状況は芳しくないが、私は最後まで可能性を捨てない」
「双天帰盾、私は拒絶する!」
井上が、回復術でもあるその力を使う。
「どう!?朽木さん、病は!」
「ありがとう、井上。だが、双天帰盾は病を治すための術ではない。私とて、兄様が財を投げ打って、4番隊に特殊な治療を施してくれたのだ。だが、病の進行を遅らせるだけで、完治には至らなかった」
「そんな・・・・・」
茫然とした様子で、井上が泣きじゃくる。
「いや、朽木さん、私たちを残して逝かないで!」
「井上は泣き虫だな、あとまだ5か月はある。なるようになるさ」
ルキアの言葉に、井上が顔をあげる。涙でぐしゃぐしゃだった。
「朽木さんは、死ぬのが怖くないの!?」
「死には、慣れてしまった。自分が死ぬことは恐くはない。ただ、残していく者のことを思うと、悲しみで心が押しつぶされそうになる」
「ルキア、なんでお前はこうやって平然としていられるんだ!」
いつの間にか、一護も泣いていた。
「ふふ・・・私を思ってくれるのか、二人とも。私は、幸せ者だな・・・・」
ルキアを背後から抱き寄せて、一護は止まらない涙を零していた。
「好きなんだ・・・愛してるんだ・・・死ぬな!」
「ああ、私も一護、貴様を好きだし愛している。多分、もう5か月も持たないかもしれないが・・・・私を、愛してくれ」
ルキアは背後から一護に抱き締められながら、艶やかな笑みを浮かべていた。
「ずるいよ、朽木さん!死んじゃったら、黒崎君をとっていかれた意味がないじゃない!」
「井上・・・貴様も泣き虫だなぁ。まだ時間はあるのだ。そのように泣くな。一護もだ」
「馬鹿やろう!恋人の余命が5か月って宣告されて、平気でいられるかよ!」
「そうだよ、朽木さん!あと5か月しかないんだよ」
「反対に言えば、あと5か月はあるのだ。せいぜい、足掻くさ。月に二度は尸魂界に戻って、痛み止めと病気の進行を遅らせる治療を受ける」
ルキアは、自重的な笑みを浮かべていたが、やがて耐えきれなくなったのか、涙を零し始めた。
「ああ・・・一護と、高校を卒業しても歩んでいきたかったなぁ。井上は、きっと一護を好きなまま、誰かを好きになるのだと思っていたが・・・一護のことを頼んでもいいか、井上」
井上は首を横に振った。
「嫌だよ!そんなの嫌!朽木さんのいない世界なんて嫌!」
ルキアは、井上を抱き締めた。
井上も抱き締め返してくれた。
一護は、その様子を涙を滲ませて見ていた。
「ルキア・・・生きよう。なんとしても、5か月の間に、病を克服する方法を見つけよう!」
一護は、井上との抱擁をやめたルキアを抱き上げた。
「どうしたのだ、一護」
「俺が、命に代えても絶対お前を死なせねぇ!」
一護の決意は固かった。
一護も、井上も、もう泣いていなかった。
「私も、尸魂界にいって、4番隊の人達と相談する!絶対、朽木さんを死なせない!」
「貴様ら・・・・・・・」
じわりと、ルキアの涙腺が緩む。
悲しいのではない。
嬉しいのだ。
ああ。ここまで、愛する者と友人に思われているだけでも、もう心残りはない。
そうとさえ思った。
食後に痛み止めを飲む。
もう、慣れてしまった。
味のないカプセル状のものだ。
本来なら、痛みで体を動かせないのを、痛み止めで無理やり動かせていた。
特効薬ができたとしても、末期だ。助かるかどうかは分からない。
それでも、ルキア自身諦めていなかった。
一護は、ルキアの負担にならないように、できるだけルキアを丁寧に扱った。
「よいのだぞ?そのように、優しく扱わずとも」
「無理だ。俺がそうしたいんだ」
ルキアにキスをすると、ルキアはそれに応えてくれた。
「んんっ・・・・・はっ・・・・・ん・・・・・・」
息をつぐ暇を与えず、ルキアの唇を貪った。
「たわけ、苦しいわ!」
一護の頭を殴ると、一護は嬉しそうにしていた。
「ちょっとは、元気でたか?」
「たわけ。薬を飲んでいる間は、元気だ。だがそろそろストックが切れる。食後だけでは足りなくなってきた・・・もっと強い薬に変えるか」
「大丈夫なのか?お前が飲んでるのその痛み止め・・・・・・」
「依存性がある。あまりよくない。だが、痛み止めがないと、動くこともままらなぬ」
その言葉を聞いて、一護が辛そうにしていた。
「ルキア・・・辛いなら、学校休んでもいいんだぜ」
「たわけ!そんなことをしたら、何故私が現世にきたのか・・・その意味がなくなるではないか!」
「それはそうだけど・・・ああ、まぁ一日中ベッドの上にいるのも暇だしな」
「そうだぞ。検査入院の時など、虎鉄隊長から1週間の入院を強制されて、とてもつまらなかった。伝令神機でネットサーフィンをしていたが、充電がしょっちゅう必要で、充電中のつまらないことこの上ない。おまけに、出される飯はまずいし味も薄いし・・・・散々であった」
ルキアは、そこで言葉を区切った。
「明日、一度尸魂界へ戻る。痛み止めをもらいに・・・あと、病の進行を少しでも遅らせるために」
「俺もいく」
「貴様がいっても、何も楽しいことなどないぞ?」
「それでも、一緒にいく。片時も、お前の傍を離れたくない」
「貴様は・・・子供か」
ルキアは溜息を零した。
一護は随分と過保護になっていた。
やはり、病気のことは隠しておいたほうが良かったのだろうか・・・・・そうとも思った。
だが、いきなり死なれるよりも、ちゃんと告知しておいて死んだほうが、悲しみは少ないだろうと思って、わざわざ白哉に話してもらったのだ。
自分の口から言う勇気が、出なかったからだ。
「分かった。明日、貴様と尸魂界へ行こう」
「ああ、ルキア」
一護は、その日もルキアを抱き締めるようにして眠った。
―-------------------------一護とルキアの終わりの冬は、音もなくかけ足で過ぎ去ろうとしていた。
「全部、兄様から聞いたのであろう?」
「ルキア・・・・なんで、黙ってた?」
「こんな残酷なこと・・・・私の口からは言えぬ。私とて生きたいのだ!最後の最後まで、可能性を模索して足掻いてやる!」
ルキアの細い体を、抱き締める。
「なんか・・・前より、痩せたか?」
「少しな・・・だが、茶虎と石田と井上には内緒だぞ」
「そうだ、井上!井上に診てもらえば・・・・!」
「だめだ。井上の能力は、怪我を治すもの。病気は治らぬよ」
「でも、そんなのやってみなくちゃわかんねーだろ!?」
一護は必死だった。
やっと手に入れた愛しい存在が、あと5か月もすれば消えてなくなってしまうのだ。
「日曜、井上の家にいこう。事情は俺が話すから・・・・・」
「それで貴様の気が紛れるのであれば、行こう・・・」
こうして、次の日は日曜だったので、井上のマンションに出かけた。
「え・・・嘘。朽木さん、嘘だよね?ねぇ、こんなの嘘だよね!?」
井上に事情を話すと、井上はボロボロと大粒の涙を零しながら、それが真実だと知ると、泣き叫んだ。
「いやあああああ!朽木さんがいなくなるなんていや!」
抱き着いてくる井上の背中をぽんぽんと叩き、ルキアは安心させてやった。
「まだ、5か月あるのだ。4番隊で、今この病を治す特効薬を作ってもらっている。状況は芳しくないが、私は最後まで可能性を捨てない」
「双天帰盾、私は拒絶する!」
井上が、回復術でもあるその力を使う。
「どう!?朽木さん、病は!」
「ありがとう、井上。だが、双天帰盾は病を治すための術ではない。私とて、兄様が財を投げ打って、4番隊に特殊な治療を施してくれたのだ。だが、病の進行を遅らせるだけで、完治には至らなかった」
「そんな・・・・・」
茫然とした様子で、井上が泣きじゃくる。
「いや、朽木さん、私たちを残して逝かないで!」
「井上は泣き虫だな、あとまだ5か月はある。なるようになるさ」
ルキアの言葉に、井上が顔をあげる。涙でぐしゃぐしゃだった。
「朽木さんは、死ぬのが怖くないの!?」
「死には、慣れてしまった。自分が死ぬことは恐くはない。ただ、残していく者のことを思うと、悲しみで心が押しつぶされそうになる」
「ルキア、なんでお前はこうやって平然としていられるんだ!」
いつの間にか、一護も泣いていた。
「ふふ・・・私を思ってくれるのか、二人とも。私は、幸せ者だな・・・・」
ルキアを背後から抱き寄せて、一護は止まらない涙を零していた。
「好きなんだ・・・愛してるんだ・・・死ぬな!」
「ああ、私も一護、貴様を好きだし愛している。多分、もう5か月も持たないかもしれないが・・・・私を、愛してくれ」
ルキアは背後から一護に抱き締められながら、艶やかな笑みを浮かべていた。
「ずるいよ、朽木さん!死んじゃったら、黒崎君をとっていかれた意味がないじゃない!」
「井上・・・貴様も泣き虫だなぁ。まだ時間はあるのだ。そのように泣くな。一護もだ」
「馬鹿やろう!恋人の余命が5か月って宣告されて、平気でいられるかよ!」
「そうだよ、朽木さん!あと5か月しかないんだよ」
「反対に言えば、あと5か月はあるのだ。せいぜい、足掻くさ。月に二度は尸魂界に戻って、痛み止めと病気の進行を遅らせる治療を受ける」
ルキアは、自重的な笑みを浮かべていたが、やがて耐えきれなくなったのか、涙を零し始めた。
「ああ・・・一護と、高校を卒業しても歩んでいきたかったなぁ。井上は、きっと一護を好きなまま、誰かを好きになるのだと思っていたが・・・一護のことを頼んでもいいか、井上」
井上は首を横に振った。
「嫌だよ!そんなの嫌!朽木さんのいない世界なんて嫌!」
ルキアは、井上を抱き締めた。
井上も抱き締め返してくれた。
一護は、その様子を涙を滲ませて見ていた。
「ルキア・・・生きよう。なんとしても、5か月の間に、病を克服する方法を見つけよう!」
一護は、井上との抱擁をやめたルキアを抱き上げた。
「どうしたのだ、一護」
「俺が、命に代えても絶対お前を死なせねぇ!」
一護の決意は固かった。
一護も、井上も、もう泣いていなかった。
「私も、尸魂界にいって、4番隊の人達と相談する!絶対、朽木さんを死なせない!」
「貴様ら・・・・・・・」
じわりと、ルキアの涙腺が緩む。
悲しいのではない。
嬉しいのだ。
ああ。ここまで、愛する者と友人に思われているだけでも、もう心残りはない。
そうとさえ思った。
食後に痛み止めを飲む。
もう、慣れてしまった。
味のないカプセル状のものだ。
本来なら、痛みで体を動かせないのを、痛み止めで無理やり動かせていた。
特効薬ができたとしても、末期だ。助かるかどうかは分からない。
それでも、ルキア自身諦めていなかった。
一護は、ルキアの負担にならないように、できるだけルキアを丁寧に扱った。
「よいのだぞ?そのように、優しく扱わずとも」
「無理だ。俺がそうしたいんだ」
ルキアにキスをすると、ルキアはそれに応えてくれた。
「んんっ・・・・・はっ・・・・・ん・・・・・・」
息をつぐ暇を与えず、ルキアの唇を貪った。
「たわけ、苦しいわ!」
一護の頭を殴ると、一護は嬉しそうにしていた。
「ちょっとは、元気でたか?」
「たわけ。薬を飲んでいる間は、元気だ。だがそろそろストックが切れる。食後だけでは足りなくなってきた・・・もっと強い薬に変えるか」
「大丈夫なのか?お前が飲んでるのその痛み止め・・・・・・」
「依存性がある。あまりよくない。だが、痛み止めがないと、動くこともままらなぬ」
その言葉を聞いて、一護が辛そうにしていた。
「ルキア・・・辛いなら、学校休んでもいいんだぜ」
「たわけ!そんなことをしたら、何故私が現世にきたのか・・・その意味がなくなるではないか!」
「それはそうだけど・・・ああ、まぁ一日中ベッドの上にいるのも暇だしな」
「そうだぞ。検査入院の時など、虎鉄隊長から1週間の入院を強制されて、とてもつまらなかった。伝令神機でネットサーフィンをしていたが、充電がしょっちゅう必要で、充電中のつまらないことこの上ない。おまけに、出される飯はまずいし味も薄いし・・・・散々であった」
ルキアは、そこで言葉を区切った。
「明日、一度尸魂界へ戻る。痛み止めをもらいに・・・あと、病の進行を少しでも遅らせるために」
「俺もいく」
「貴様がいっても、何も楽しいことなどないぞ?」
「それでも、一緒にいく。片時も、お前の傍を離れたくない」
「貴様は・・・子供か」
ルキアは溜息を零した。
一護は随分と過保護になっていた。
やはり、病気のことは隠しておいたほうが良かったのだろうか・・・・・そうとも思った。
だが、いきなり死なれるよりも、ちゃんと告知しておいて死んだほうが、悲しみは少ないだろうと思って、わざわざ白哉に話してもらったのだ。
自分の口から言う勇気が、出なかったからだ。
「分かった。明日、貴様と尸魂界へ行こう」
「ああ、ルキア」
一護は、その日もルキアを抱き締めるようにして眠った。
―-------------------------一護とルキアの終わりの冬は、音もなくかけ足で過ぎ去ろうとしていた。
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