太陽のように
その日は、月に一回の朝礼があった。
山本総隊長が、学院がいかにして作られただの、寮に入り学ぶことの大切さ、死神となるには云々・・・・・・・・・・ようは、話が長かった。
朝から、少し顔色の悪かった浮竹。尊敬する師の言葉を、感動のきもちで聞いているだろうが、やはり体調が芳しくないのか、少しふらついているのを、京楽は見逃さなかった。
学院に入って、3年が経とうしていた。
京楽も浮竹も、鬼道はともかく、剣術は、もうお互い以外相手にならないありさまだった。強くなったと、自分でも思う。
座学の成績と鬼道の成績こそ、浮竹に負けているが、剣術ではやや、京楽の方が上か。
上級貴族の家に生まれ、次男だからと、学院に押し込まれたのであるが、浮竹に出会って全てが変わった。
よい友人に恵まれたと思う。恋人でもあるが、その前に親友であった。
ああ、ほら倒れる・・・・・・
京楽の心配事が的中した。
ふらりと傾いだ体を、瞬歩で近寄った京楽が音もなく抱き留めた。
ざわり。
また。浮竹が倒れたと、他の生徒たちが心配そうに見てくる。
「見世物じゃないよ」
意識を手放した浮竹を軽々と抱き上げて、山本総隊長に手をふって、京楽は浮竹を医務室へと運んでいった。
浮竹の、白い髪はもう肩より長くなっていた。京楽が伸ばせというので、その通りにしていたら、髪にはさみを入れるタイミングを完全に失ってしまっていた。
「すいません、ベッドをかりていいですか?」
浮竹を抱き上げたまま、京楽は医務室の担当者に、そう言った。
「ああ、浮竹君がまた倒れたのか。吐血は?」
「いえ、熱はあるみたいだけど、吐血はしてません」
いつも、酷い咳をしたあと、吐血して意識を失うことの多い浮竹にしては、珍しい倒れ方だった。夏の暑い日差しにやられたのか、体温も高い。水分をきちんととっていないとすれば、この倒れ方は浮竹の不注意だ。
「夏の日差しにやられたのかな。浮竹君は、色素がないからね。直射日光は体に悪い」
肺の病のせいで、真っ白になってしまった髪。色素がぬけおちてしまったその色。白い肌に、翡翠色の瞳をもつ浮竹は、誰よりも強くありながら儚かった。
抱き上げていた体重の軽さに、また痩せたのかと、心の奥で呟く。
「奥のベッドに、寝かせてください。氷枕で体を冷やして、様子を見ましょう」
浮竹を奥ベッドに横たえると、京楽はその場を去ろうとせずに、浮竹の寝るベッドの近くの椅子を引き寄せた。顔色が真っ白で血の気のひいた、生きているのかも疑わしくなるような浮竹の様子に、呼吸をちゃんとしているのかと確認したくなる。
小さく上下に動いている薄い筋肉の動きが、浮竹がちゃんと生きているのだと、音もなく知らせてくれる。
「点滴をしておきますね。京楽君、授業はじまってますよ。浮竹君のことは私に任せて、教室に戻りなさい」
医務室の職員に、うるさいのだと、高めた霊圧をぶつけると、職員は顔を蒼くして、奥にひっこんでいった。
「浮竹・・・・」
起きたら、思いっきり叱ってやろう。
2時間ほどたつと、氷枕で体温を冷やし、点滴を受けたせいか、翡翠色の瞳が開いた。
「・・・・・ああ、また俺は倒れたのか」
「浮竹ぇ。夏場は、ちゃんと水分補給をしろっていったよね?この前、海水浴にいって日差しで倒れたこと、忘れたのかな?」
にっこりと微笑む、京楽の機嫌は悪そうだ。
浮竹が倒れると、看病するのは自然と京楽になった。
「水分補給はしたさ」
「じゃあ、なんで倒れるの」
「夏場の、直射日光がだめなんだ。太陽に嫌われているから」
ちゃんと水分をとって、熱射病対策をとれば、浮竹とてそうほいほいと倒れるわけではないだろうと思っていたのが、根本的な間違いだったのだろうか。
今日は、いつにも増して、暑い。太陽はギラギラと地上を焦がし、生き物の体力を奪っていく。
浮竹は、太陽のような温かく優しい男だ。でも、本物の太陽には嫌われているようだ。
太陽のように明るくて、同時に月のように儚い。
「授業、間に合うかな」
「もう昼休みだよ。午後の授業から、参加すればいいよ」
浮竹の額に手をあてると、熱は大分ひいて微熱程度になっていた。これくらいなら、授業に出ても倒れないだろう。
「意識がない間、ずっと傍にいてくれたのか」
「当たり前でしょう」
「ありがとう」
素直に礼をいう浮竹がかわいかった。
その白い髪を手ですいて、口元にもっていく。髪にキスをして、京楽は浮竹に冷えピタシートを投げた。
「これは?」
「現世で、熱をもったときに額に張って体温をさげるやつだよ」
「現世には、そんな便利なものがあるのか」
封をきって、額にはってみる。
「おお、冷たい!ヒンヤリする。これなら、酷い直射日光でもない限り、大丈夫かもしれない」
冷えピタシートを、大量に買い込みに現世にいくか・・・・・。
京楽は、浮竹の喜びように、自然と笑みがこぼれる。お説教をしまくろうと思っていたが、浮竹の体が弱いせいであるので、どうしようもない。
「京楽、いつもすまない」
「吐血したわけじゃあないんだから、そんなに気にすることじゃないよ」
本当に怖いのは、咳が止まらなくなって、血を吐き出すその真紅の色だ。
「俺の体が、もっと強ければ・・・・・」
「あんまり、気に病みなさんな」
京楽に、珍しく浮竹から触れるだけのキスがきた。
「浮竹?」
「感謝の、きもちだ」
「もっと、してもいいんだよ?」
「ばかいうな、恥ずかしい。ここの職員、いるんだろう?」
「僕が霊圧をぶつけたら、隣の部屋に逃げちゃったけどね」
医務室にいるのは、二人だけだ。
「午後の授業の前に、腹ごしらえをしにいこう。食堂で、なにかたべるか」
「ああ、そうだね。昼飯食べるの忘れてたよ」
学院の食堂は、安くてボリュームがある。
いつも残して、京楽がその残りを食べる羽目になるのだが、小食でもちゃんとした食事を、食べるだけましだ。放っておくと、簡単なものだけとかですませてしまう。例えば、お茶漬けとか。
「夏は始まったばかりなんだから、食って少しは元気をだしなさい」
「はいはい」
3回生の夏も、すぎていく。
平穏な日々は退屈であるが、穏やかだ。
また、浮竹を誘って甘味屋までいくかと、京楽は浮竹が喜びそうなのをことを思いついては、一人で浮竹の感情の揺れを思い出す。
ギラギラと、太陽が地上を焦がす。
その年の夏は異常気象で、尸魂界でも今までにないほどの高い気温を記録した。
浮竹は、なるべく直射日光をさけて、行動している。夏風邪も引きやすい彼が、倒れないように常に傍にいた。四六時中べったりというわけではないが、時間の許す限り愛しい恋人と過ごした。
太陽のように暖かい浮竹。強い日差しのように、芯が強い男だ。だが、月の光のように儚い。食べて、鍛錬しても薄い筋肉しかつかないようで、そのくせ細いのに剣術の稽古となると想像できない力を出してくる。
太陽の光に反射して、白い髪は銀色に輝いて見えた。
「髪、切らないでね」
「切ってないだろう。もう、肩より長くなってしまった」
浮竹を包み込むような優しさをもった京楽は、浮竹の白い髪が特にお気に入りだった。浮竹にとってはコンプレックスでしかないその髪を、綺麗だから伸ばせと囁く。
浮竹は、その甘やかな囁きに縛られて、はさみを入れたことがない。京楽が、毛先を揃えるくらいにしか髪は切ったことがない。
「こんな白い髪の、どこがいいんだか」
白い毛をつまんでいると、京楽の手が伸びた白い髪を指ですいてくる。サラサラと零れる、細い髪は手入れもちゃんとされているせいで、触り心地がよかった。
「雪のようで、純白だからいいんだよ。または、ふわふわした雲みたいに」
ふわふわした雲は、京楽だろうと浮竹は思う。つかみどころがなくって、そのくせ優しくて強くて、包み込むような愛をもっている。
「卒業しても、切らないでね?僕が切る以外は」
白い髪に口づけて、京楽は笑った。
「卒業か・・・・」
すでに、護廷十三隊入りは確実と、囁かれている彼ら。
その運命が、どうなるかは、まだ先お話しだ。
山本総隊長が、学院がいかにして作られただの、寮に入り学ぶことの大切さ、死神となるには云々・・・・・・・・・・ようは、話が長かった。
朝から、少し顔色の悪かった浮竹。尊敬する師の言葉を、感動のきもちで聞いているだろうが、やはり体調が芳しくないのか、少しふらついているのを、京楽は見逃さなかった。
学院に入って、3年が経とうしていた。
京楽も浮竹も、鬼道はともかく、剣術は、もうお互い以外相手にならないありさまだった。強くなったと、自分でも思う。
座学の成績と鬼道の成績こそ、浮竹に負けているが、剣術ではやや、京楽の方が上か。
上級貴族の家に生まれ、次男だからと、学院に押し込まれたのであるが、浮竹に出会って全てが変わった。
よい友人に恵まれたと思う。恋人でもあるが、その前に親友であった。
ああ、ほら倒れる・・・・・・
京楽の心配事が的中した。
ふらりと傾いだ体を、瞬歩で近寄った京楽が音もなく抱き留めた。
ざわり。
また。浮竹が倒れたと、他の生徒たちが心配そうに見てくる。
「見世物じゃないよ」
意識を手放した浮竹を軽々と抱き上げて、山本総隊長に手をふって、京楽は浮竹を医務室へと運んでいった。
浮竹の、白い髪はもう肩より長くなっていた。京楽が伸ばせというので、その通りにしていたら、髪にはさみを入れるタイミングを完全に失ってしまっていた。
「すいません、ベッドをかりていいですか?」
浮竹を抱き上げたまま、京楽は医務室の担当者に、そう言った。
「ああ、浮竹君がまた倒れたのか。吐血は?」
「いえ、熱はあるみたいだけど、吐血はしてません」
いつも、酷い咳をしたあと、吐血して意識を失うことの多い浮竹にしては、珍しい倒れ方だった。夏の暑い日差しにやられたのか、体温も高い。水分をきちんととっていないとすれば、この倒れ方は浮竹の不注意だ。
「夏の日差しにやられたのかな。浮竹君は、色素がないからね。直射日光は体に悪い」
肺の病のせいで、真っ白になってしまった髪。色素がぬけおちてしまったその色。白い肌に、翡翠色の瞳をもつ浮竹は、誰よりも強くありながら儚かった。
抱き上げていた体重の軽さに、また痩せたのかと、心の奥で呟く。
「奥のベッドに、寝かせてください。氷枕で体を冷やして、様子を見ましょう」
浮竹を奥ベッドに横たえると、京楽はその場を去ろうとせずに、浮竹の寝るベッドの近くの椅子を引き寄せた。顔色が真っ白で血の気のひいた、生きているのかも疑わしくなるような浮竹の様子に、呼吸をちゃんとしているのかと確認したくなる。
小さく上下に動いている薄い筋肉の動きが、浮竹がちゃんと生きているのだと、音もなく知らせてくれる。
「点滴をしておきますね。京楽君、授業はじまってますよ。浮竹君のことは私に任せて、教室に戻りなさい」
医務室の職員に、うるさいのだと、高めた霊圧をぶつけると、職員は顔を蒼くして、奥にひっこんでいった。
「浮竹・・・・」
起きたら、思いっきり叱ってやろう。
2時間ほどたつと、氷枕で体温を冷やし、点滴を受けたせいか、翡翠色の瞳が開いた。
「・・・・・ああ、また俺は倒れたのか」
「浮竹ぇ。夏場は、ちゃんと水分補給をしろっていったよね?この前、海水浴にいって日差しで倒れたこと、忘れたのかな?」
にっこりと微笑む、京楽の機嫌は悪そうだ。
浮竹が倒れると、看病するのは自然と京楽になった。
「水分補給はしたさ」
「じゃあ、なんで倒れるの」
「夏場の、直射日光がだめなんだ。太陽に嫌われているから」
ちゃんと水分をとって、熱射病対策をとれば、浮竹とてそうほいほいと倒れるわけではないだろうと思っていたのが、根本的な間違いだったのだろうか。
今日は、いつにも増して、暑い。太陽はギラギラと地上を焦がし、生き物の体力を奪っていく。
浮竹は、太陽のような温かく優しい男だ。でも、本物の太陽には嫌われているようだ。
太陽のように明るくて、同時に月のように儚い。
「授業、間に合うかな」
「もう昼休みだよ。午後の授業から、参加すればいいよ」
浮竹の額に手をあてると、熱は大分ひいて微熱程度になっていた。これくらいなら、授業に出ても倒れないだろう。
「意識がない間、ずっと傍にいてくれたのか」
「当たり前でしょう」
「ありがとう」
素直に礼をいう浮竹がかわいかった。
その白い髪を手ですいて、口元にもっていく。髪にキスをして、京楽は浮竹に冷えピタシートを投げた。
「これは?」
「現世で、熱をもったときに額に張って体温をさげるやつだよ」
「現世には、そんな便利なものがあるのか」
封をきって、額にはってみる。
「おお、冷たい!ヒンヤリする。これなら、酷い直射日光でもない限り、大丈夫かもしれない」
冷えピタシートを、大量に買い込みに現世にいくか・・・・・。
京楽は、浮竹の喜びように、自然と笑みがこぼれる。お説教をしまくろうと思っていたが、浮竹の体が弱いせいであるので、どうしようもない。
「京楽、いつもすまない」
「吐血したわけじゃあないんだから、そんなに気にすることじゃないよ」
本当に怖いのは、咳が止まらなくなって、血を吐き出すその真紅の色だ。
「俺の体が、もっと強ければ・・・・・」
「あんまり、気に病みなさんな」
京楽に、珍しく浮竹から触れるだけのキスがきた。
「浮竹?」
「感謝の、きもちだ」
「もっと、してもいいんだよ?」
「ばかいうな、恥ずかしい。ここの職員、いるんだろう?」
「僕が霊圧をぶつけたら、隣の部屋に逃げちゃったけどね」
医務室にいるのは、二人だけだ。
「午後の授業の前に、腹ごしらえをしにいこう。食堂で、なにかたべるか」
「ああ、そうだね。昼飯食べるの忘れてたよ」
学院の食堂は、安くてボリュームがある。
いつも残して、京楽がその残りを食べる羽目になるのだが、小食でもちゃんとした食事を、食べるだけましだ。放っておくと、簡単なものだけとかですませてしまう。例えば、お茶漬けとか。
「夏は始まったばかりなんだから、食って少しは元気をだしなさい」
「はいはい」
3回生の夏も、すぎていく。
平穏な日々は退屈であるが、穏やかだ。
また、浮竹を誘って甘味屋までいくかと、京楽は浮竹が喜びそうなのをことを思いついては、一人で浮竹の感情の揺れを思い出す。
ギラギラと、太陽が地上を焦がす。
その年の夏は異常気象で、尸魂界でも今までにないほどの高い気温を記録した。
浮竹は、なるべく直射日光をさけて、行動している。夏風邪も引きやすい彼が、倒れないように常に傍にいた。四六時中べったりというわけではないが、時間の許す限り愛しい恋人と過ごした。
太陽のように暖かい浮竹。強い日差しのように、芯が強い男だ。だが、月の光のように儚い。食べて、鍛錬しても薄い筋肉しかつかないようで、そのくせ細いのに剣術の稽古となると想像できない力を出してくる。
太陽の光に反射して、白い髪は銀色に輝いて見えた。
「髪、切らないでね」
「切ってないだろう。もう、肩より長くなってしまった」
浮竹を包み込むような優しさをもった京楽は、浮竹の白い髪が特にお気に入りだった。浮竹にとってはコンプレックスでしかないその髪を、綺麗だから伸ばせと囁く。
浮竹は、その甘やかな囁きに縛られて、はさみを入れたことがない。京楽が、毛先を揃えるくらいにしか髪は切ったことがない。
「こんな白い髪の、どこがいいんだか」
白い毛をつまんでいると、京楽の手が伸びた白い髪を指ですいてくる。サラサラと零れる、細い髪は手入れもちゃんとされているせいで、触り心地がよかった。
「雪のようで、純白だからいいんだよ。または、ふわふわした雲みたいに」
ふわふわした雲は、京楽だろうと浮竹は思う。つかみどころがなくって、そのくせ優しくて強くて、包み込むような愛をもっている。
「卒業しても、切らないでね?僕が切る以外は」
白い髪に口づけて、京楽は笑った。
「卒業か・・・・」
すでに、護廷十三隊入りは確実と、囁かれている彼ら。
その運命が、どうなるかは、まだ先お話しだ。
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