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果たし状

「果たし状。今日の午後3時に、屋上に来られたし。重要な話がある」

「なんだ、京楽。果たし状なんてもらったのか?」

浮竹と京楽共通の友人の一人が、それを見て古風だなと笑った。

「誰だからだよ?」

「さぁ・・・・・名前が書いていない。でもこの文字の形何処かで見覚えが」

「そういえば、浮竹は?」

「なんか用事があるとかで先に帰っちまったぜー」

京楽は、果たし状を無視しようかとも思ったが、文字の形を見てもしかしたらと思い、授業が終わって3時に屋上にやってきた。

風が強かった。

京楽の、短い黒髪が乱される。

「やっぱり、君か。どうしたんだい、果たし状なんて」

浮竹が、肩より長くなった髪を風に遊ばせて、佇んでいた。

「人生の果たし状だから」

「どうしたの」

「お前のことが好きだ」

「え」

京楽は、もっていた果たし状の紙を風にさらわれていってしまった。

「浮竹?」

「冗談じゃないんだ。恋愛感情でお前のことが好きなんだ。付き合ってくれとは言わない。ただ、好きだということを知っていてほしい」

「僕は女の子が好きなんだよ?浮竹が僕を好きだって言っても、蔑ろにして女の子と付き合うよ?」

「それでも構わない。お前の傍にいれるなら、それだけでいい」

ああ。

浮竹は美しい。これで女性だったら、何の問題もないのだが。

「君の気持ちはわかった。でも、今まで通り、友人でいいね?」

「構わない」

それは院生3回生の出来事。

相変わらず、京楽は女遊びが激しいし、廓で花魁や遊女を買っていた。

ある日、浮竹を連れて花街に遊びにいった。中性的な衣服を着ていた浮竹を、遊女や色子に間違えられて、京楽の想い人に間違われた。

「京楽、何処に行くんだ?」

「君も、女の子の味を知ると、きっと僕なんて好きでなくなるよ。この花街で一番の廓へいく。椿亭だ」

椿亭につくと、上客である京楽を、店の主人と女将が出迎えた。

「僕には椿姫を。この子には、手慣れた遊女がいい・・・・そうだね、桜花なんてどうだろう」

「失礼ですが、この方は?京楽坊ちゃんの想い人ではないのですか?」

「違うよ。友人さ」

浮竹は、京楽があげた服に髪飾りをつけていた。花街に入ってからは、容姿のせいで背の高い遊女か、色子に間違われた。

「初めでですかい?」

「うん、そうなんだ。桜花なら、安心して任せれるかなって思って」

「そうですか。お名前は?」

「浮竹だ」

そのまま、京楽は椿姫という花魁と、そして浮竹は桜花という遊女と一晩を過ごした。

「どうだったい、初めての経験は」

浮竹は朱くなりながらこう言った。

「最後まで、できなかった。その、たたなくて」

「はは、まぁそういう時もあるよ。僕も最初の時はたたなくて、苦労したものさ」

結局、初体験はできないまま、花街を去った。

そのまま時だけが過ぎていく。

5回生になった頃、ある日京楽は珍しいことに酔っぱらって帰ってきた。同じ寮の部屋の浮竹は、京楽を介抱しとうとして、押し倒された。

「僕と、こういう関係を望んでいるんでしょう?」

「京楽?んっ・・・・・・」

京楽にキスされて、浮竹は上ずった声をあげた。

「優しくしてあげるから」

そのまま、酔った勢いで京楽に抱かれた。

朝起きると、隣に裸に近い浮竹がいて、昨日のことを思いだす。すごい快感だった。今まで味わってきたどの女よりよかったし、浮竹はとても愛らしかった。
でも、ほぼ酒の力を借りた無理やりだった。

「はー。可愛かったなぁ」

浮竹の肩より長い白髪を撫でる。

「んっ・・・京楽?」

「浮竹、そのごめん!君に対して、誠実じゃなかった。酒の力でなんて、最悪だ」

「俺は別に、それでも構わない。京楽に抱かれて嬉しかった」

はにかむように笑う浮竹を抱き締める。

「ごめん。責任はとるから」

「責任?」

「君の初めてをいただいてしまった。付き合おう、浮竹」

「無理していないか?俺は、今まで通りの友人関係でも構わない」

「はっきりいうと、もう一度抱きたい」

かっと、浮竹が朱くなった。

「京楽・・・・・んっ」

ディープキスをされて、浮竹は京楽を抱き締めた。

「俺でいいなら、付き合ってくれ」

「今の彼女とは別れる。廓にもいかないようにする。その上で浮竹と付き合う。それでいいね?」

「ああ・・・・・・」

浮竹は微笑んだ。

とても愛らしいと思った。

それからの京楽は、浮竹ばかりを見て、追いかけていた。5回生の終わりに正式に付き合いだした。

友人にもその関係を知られるが、ごく普通に受け入れられた。浮竹と体を重ねるのが好きで、浮竹の行動に支障が出ない程度に、また病弱で肺の病をもつことを念頭に、浮竹を抱いた。

花魁や遊女のように、体の関係だけではない。精神的にも愛していた。

ある時、99本の黒い薔薇をもってこられて、プロポーズを受けた。

「99本の薔薇は、永遠の愛。黒薔薇の花言葉は変らない愛。全てを、君に」

エンゲージリングをさしだすと、浮竹は泣きだしてしまった。

「浮竹、どこか具合が悪いの?」

「違う。嬉しすぎて、泣いている」

永遠の変わらぬ愛を誓って。

やがて、学院を卒業するときがやってきた。

「あの時、果たし状みたいなバカな真似をしてよかったと思う」

「僕も、あの字を見て、君だろうなと思ったんだ。でも、なんで果たし状?」

「人生をかけた、選択だから」

「お互い、死神の席官になることが決まっている。暇ができたら、飲みにいったりしよう」

「ああ、二人で隊長にまで昇りつめよう」

その数年後、若くして二人は隊長となった。

その二人が、逢瀬を重ねているのは秘密だった。

だけど、副官あたりには気づかれているようだった。

「隊長の今もいいけど、院生時代にもう一度戻りたいなぁ。自由に遊べたから」

「せっかく隊長になったんだ。昔は懐かしむだけでいい」

「浮竹、髪伸びたね」

「お前が切るなというから・・・」

腰まで伸びた髪を一房すくいあげて、口づける。

「どうか、この関係がずっと続きますように」

「永遠があればいいのにな・・・・・・・」

その後、数百年を共に生きた。

想いは永遠に似ていて。

世界は廻っている。

いつか、別れが来るときまで。

永遠を胸に抱いて、生きる。



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