桜に溶ける
寒波もおさまり、大分春らしくなってきた。
ぽかぽかした太陽の日差しを浴びて、野花も綺麗に咲いていた。無論、桜も。
白哉は、朽木邸の庭にいた。
今年も朽木邸の庭の桜は、狂ったように見事に咲き誇っている。
「隊長」
白哉を迎えにきた恋次は、白哉が散ってく桜の中に佇んでいるのを見ていた。
「隊長!」
ふいに、抱き寄せる。
「恋次?」
「隊長が・・・・桜に奪われてしまう気がする」
「なんだそれは。私はただ、桜が美しいから見ていただけだ」
「あんたは見ていると危なっかしいんです。強いのは知ってるけど、桜に溶けていきそうだ」
「桜に溶けるか。それはそれでよさそうだ」
「よくありません!」
恋次は、白哉を抱き締める腕に力を入れる。
「恋次、苦しい」
「あんたは俺のものだ。たとえ桜にだって一欠片もやりませんよ」
「んっ・・・・・・・」
唇が重なった。
「恋次・・・・」
「好きです、隊長。桜なんかに奪われたくない」
「本当に、お前は焼きもち焼きだな」
「そうだぞ!兄様に失礼だ!兄様は純粋に桜を愛でておられただけだ。恋次の嫉妬は桜にまで向けられるのか」
気づけば、ルキアがいた。
「ルキア」
白哉が名を呼ぶと、ルキア嬉しそうに朝の挨拶をした。
「おはようございます兄様!朝から盛りのついた犬にまとわりつかれて、苦労していませんか?」
「いや、大丈夫だ」
「そうですか。恋次が邪魔になったら言ってください!引き離してみせます」
「ルキア、お前なぁ。人の恋路の邪魔すんな」
「そういう恋次は、兄様の一人の時間の邪魔をするな」
そう言われて、はっとなった。
白哉とて、一人で物思いにふける時間が欲しいだろう。
「隊長・・・・その、俺邪魔ですか?桜、一人で見ていたかったとか・・・・・」
「気にするな、恋次。お前がいてもいなくとも、桜の美しさは変わらぬ」
「もう、6番隊隊舎にいきましょう。桜の中の隊長は、散っていってしまいそうで不安になる」
恋次が、白哉の手をとり歩きだす。
「私が散るか・・・私の代わりに、千本桜が散るだろうな。千本桜も喜んでいる。桜の、同胞の季節がやってきたと」
「隊長・・・・・」
「私が桜が好きだ。己の斬魄刀を千本桜にするほどに」
ひらひらと舞う花びらを受けとめて、白哉は笑った。
綺麗な笑顔だった。
桜に負けないくらい、美しいと思った。
「隊長って、やっぱ美人ですよね」
「男に使う台詞ではない」
「でも美人です。人形みたいに綺麗で、時折本当に生きているのか疑わしくなるくらいに綺麗だ」
白哉の少し長い黒髪に手をやり、絹のような手触りのそれを一房手にとって、口づけした。
「桜、6番隊の執務室に飾りましょう。それなら、ずっと見ていられるでしょう?」
「ああ、そうだな」
「庭の桜の枝、もらいますよ」
「ああ」
白哉の許しを得て、見事の咲いている枝の一本を手折り、6番隊の執務室に行くと花瓶に飾った。
白哉は、たまにぼんやりとその桜を見ていた。
「隊長、手が止まってすよ」
「すまぬ」
心、ここにあらずといったかんじだった。
桜の季節になると、白哉は桜ばかりを見ている。本当に桜に攫われそうで怖い。
でも、それも2週間ばかりの辛抱だ。
桜の花はすぐに散ってしまう。
「今年も桜の季節はもう終わりか」
「隊長には千本桜があるじゃないですか」
「ふむ・・・それもそうだな」
美しい、桜。奥の刃になる千本桜は、桜の花びらとなって敵を襲う。千本桜と名付けたのは白哉だ。
千本の桜の花が散るが如くの桜の奔流。
また、来年も春がくればよいと、白哉は思うのだった。
ぽかぽかした太陽の日差しを浴びて、野花も綺麗に咲いていた。無論、桜も。
白哉は、朽木邸の庭にいた。
今年も朽木邸の庭の桜は、狂ったように見事に咲き誇っている。
「隊長」
白哉を迎えにきた恋次は、白哉が散ってく桜の中に佇んでいるのを見ていた。
「隊長!」
ふいに、抱き寄せる。
「恋次?」
「隊長が・・・・桜に奪われてしまう気がする」
「なんだそれは。私はただ、桜が美しいから見ていただけだ」
「あんたは見ていると危なっかしいんです。強いのは知ってるけど、桜に溶けていきそうだ」
「桜に溶けるか。それはそれでよさそうだ」
「よくありません!」
恋次は、白哉を抱き締める腕に力を入れる。
「恋次、苦しい」
「あんたは俺のものだ。たとえ桜にだって一欠片もやりませんよ」
「んっ・・・・・・・」
唇が重なった。
「恋次・・・・」
「好きです、隊長。桜なんかに奪われたくない」
「本当に、お前は焼きもち焼きだな」
「そうだぞ!兄様に失礼だ!兄様は純粋に桜を愛でておられただけだ。恋次の嫉妬は桜にまで向けられるのか」
気づけば、ルキアがいた。
「ルキア」
白哉が名を呼ぶと、ルキア嬉しそうに朝の挨拶をした。
「おはようございます兄様!朝から盛りのついた犬にまとわりつかれて、苦労していませんか?」
「いや、大丈夫だ」
「そうですか。恋次が邪魔になったら言ってください!引き離してみせます」
「ルキア、お前なぁ。人の恋路の邪魔すんな」
「そういう恋次は、兄様の一人の時間の邪魔をするな」
そう言われて、はっとなった。
白哉とて、一人で物思いにふける時間が欲しいだろう。
「隊長・・・・その、俺邪魔ですか?桜、一人で見ていたかったとか・・・・・」
「気にするな、恋次。お前がいてもいなくとも、桜の美しさは変わらぬ」
「もう、6番隊隊舎にいきましょう。桜の中の隊長は、散っていってしまいそうで不安になる」
恋次が、白哉の手をとり歩きだす。
「私が散るか・・・私の代わりに、千本桜が散るだろうな。千本桜も喜んでいる。桜の、同胞の季節がやってきたと」
「隊長・・・・・」
「私が桜が好きだ。己の斬魄刀を千本桜にするほどに」
ひらひらと舞う花びらを受けとめて、白哉は笑った。
綺麗な笑顔だった。
桜に負けないくらい、美しいと思った。
「隊長って、やっぱ美人ですよね」
「男に使う台詞ではない」
「でも美人です。人形みたいに綺麗で、時折本当に生きているのか疑わしくなるくらいに綺麗だ」
白哉の少し長い黒髪に手をやり、絹のような手触りのそれを一房手にとって、口づけした。
「桜、6番隊の執務室に飾りましょう。それなら、ずっと見ていられるでしょう?」
「ああ、そうだな」
「庭の桜の枝、もらいますよ」
「ああ」
白哉の許しを得て、見事の咲いている枝の一本を手折り、6番隊の執務室に行くと花瓶に飾った。
白哉は、たまにぼんやりとその桜を見ていた。
「隊長、手が止まってすよ」
「すまぬ」
心、ここにあらずといったかんじだった。
桜の季節になると、白哉は桜ばかりを見ている。本当に桜に攫われそうで怖い。
でも、それも2週間ばかりの辛抱だ。
桜の花はすぐに散ってしまう。
「今年も桜の季節はもう終わりか」
「隊長には千本桜があるじゃないですか」
「ふむ・・・それもそうだな」
美しい、桜。奥の刃になる千本桜は、桜の花びらとなって敵を襲う。千本桜と名付けたのは白哉だ。
千本の桜の花が散るが如くの桜の奔流。
また、来年も春がくればよいと、白哉は思うのだった。
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