桜のあやかしと共に 外伝3
恋次が、亡くなったはずの自分の妻であった、梅のあやかしの緋真の生まれ変わりだと分かって、白哉は恋次と行動することが多くなった。
まだ、パートナー契約はしていないが、近いうちにする予定だった。
京楽あてに、人を殺して食う土蜘蛛の退治依頼がきたのだが、あいにく留守だった。
「土蜘蛛とは‥‥また物騒な。早急に対処せねば、人が食われる」
白哉は、もっていたスマホで、恋次を呼び出した。
恋次は遠くに住んでいたのだが、白哉に会いたくて近くに引っ越してきていた。
祓い屋として有名な名家の跡取りで、恋次は歴代の能力者の中でも極めて優秀な術者だった。
白哉が住んでいる、京楽の家に、合鍵を使って恋次は入っていく。
「白哉さん、どうしたんですか」
とにかく、自分の元に来いとしか言っていなかったので、恋次は嬉しげにしていた。
「土蜘蛛がでて、家族が食われた者からの依頼が、京楽にきていたのだ。だが、京楽は浮竹と一緒に温泉旅行に行ってしまっている。恋次、そなたと私で、代わりに討伐しよう」
「デートのお誘いじゃなかったんすね。でも、土蜘蛛は確かに急いだほうがいいっすね。京楽さんはなんて?」
「あのアホウ、スマホの電源を切っておる。よほど浮竹との旅行を邪魔されたくないらしい。だが、土蜘蛛のような人を食うあやかしは、早めに対処しないと次の犠牲者が出る」
「そうっすね。今回は代理で討伐にいきますか」
「うむ。そのために呼んだのだ」
土蜘蛛が出るという大阪まで、白哉は昔気まぐれに一人旅をしたことがあったので、異界を通ってすぐに到着できた。
恋次が異界で迷い子にならぬように、手をつなごうというと、まるで犬が尻尾をふっているかのように喜んで、こやつに任せて大丈夫だろうかと、心の中で思う。
だが、恋次はすぐれた術者であるのは、白哉にも感じ取れた。
「住所ではここだな」
大阪城公園の近くの団地に、依頼者の家があった。
訪ねてみると、泣きはらした顔の女性が出た。
「ああ、京楽様ですか!」
「いや、朽木白哉という。こっちは術者の阿散井恋次だ」
「京楽様ではない‥‥‥でも、阿散井様といえば、あの阿散井一門のお方ですか!?」
「あってます。土蜘蛛は、いつ誰を襲ったんですか」
「4日前、夫が襲われて食われました。一週間後には、娘を食べにくると言い残して去っていきました」
白哉は、浮竹から教わった桜の術をためす。
桜の花びらを手のひらにのせて、ふっとふくと、桜の花びらは土蜘蛛のいる方角と場所を示した。
「この団地の近くにいるな‥‥‥距離からすると、あの廃工場あたりだろう」
「おし、退治にいきますか、白哉さん!」
「どうか頼みます!夫だけでなく、娘まで失ってしまうと、私は生きていけません」
「任せてください。ばっちり退治して、旦那さんの仇とりますから」
白哉と恋次が、廃工場に向かう。
「あやかしと人の血の匂いがする」
「間違いありません。この廃工場に、土蜘蛛がいますね」
「広いから、探すのが面倒だ‥‥‥」
白哉は、桜の花びらを手のひらに乗せて、ふっと息をふきかけた。
すると、廃工場の奥から、悲鳴が聞こえた。
「ぎゃあああ、桜の花びらが!誰だ、俺の眠りを妨げるのは!」
桜の花びらは、土蜘蛛を襲って、いぶり出してきた。
「白哉さんの力、いろいろすごいっすね」
「浮竹のほうがはるかに上だがな」
土蜘蛛が、白哉と恋次の前に姿を現す。
「貴様らか!むう、そっちは俺と同じあやかしだな」
「人食いの化け物に、同じあやかしだと思われたくない」
「取引をしようではないか。そっちの人間を渡せば、お前に危害を加えない」
「笑止。来たれ、千本桜」
白哉は、大量の桜の花びらから、美しい一本の刀を顕現させた。
「出た、白哉さんの千本桜」
白哉は、これまでも何回か恋次の依頼を手伝って、あやかし退治をしたことがあった。
その時に、千本桜を出した。
浮竹の前でさえ、出したことがないのに、なぜか恋次の前なら出すことができた。
「散れ、千本桜‥‥‥」
「きけけけけ、桜の花びらごときで‥‥‥ぎゃあああああ」
億の数になった桜の花びらは、鋭利な刃物となって土蜘蛛を襲う。
「行け、式たち。土蜘蛛にとどめをさせ!」
恋次が、十数体の式神を召喚して、土蜘蛛にとどめをさしていく。
式の雪女が、つららで土蜘蛛の腹に大穴をあけて、それがとどめになった。
「このまま置いとくと、瘴気が出て小鬼なんかがわいてしまう。水連、浄化を頼む」
「かしこまりました、主」
浄化を得意とするその式は、土蜘蛛の亡骸を塵にして、あたりに飛び散った血痕までも浄化していった。
「恋次、そなたの式は数が多いな。いったい、何体いるのだ?」
白哉の唐突な質問に、恋次は答える。
「35体っすかね。普通の術者がもつ式は2~3。多くても5~10ですね。俺の場合、複数の式を同時に操れます。阿散井家始まって以来の天才だとか言われてますけど、白哉さんのほうががはっきり言って強いっすね。その桜の術‥‥すごいです」
「これは、浮竹に習ったものだ。千本桜は、浮竹にも見せたことがないが」
「俺がはじめてっすか?」
「そうなるな」
恋次は、白哉を抱きしめた。
「俺の記憶の中にも千本桜があります。前世の記憶っすか?」
「そうなるな。緋真には見せたことがあるからな」
「白哉さんは、前の緋真か、生まれ変わりの俺、どちらが好きっすか?」
「そのようなこと‥‥‥‥答えれぬ」
苦しそうな白哉の表情に、恋次は謝った。
「すんません。悩ませるつもりじゃなかったんす」
「私は、恋次、そなたを愛している。恋次が望むのであれば、あやかし退治もするし、必要と感じれば恋次を呼ぶ。こうやって、一緒にいるのも私にとっては大切な時間だ」
「でも、俺は人間だから‥‥‥先にいってしまいますよ?」
「桜の王の浮竹が、京楽と契約を交わしている。私も、そなたと契約を交わそうと思う」
「そ、それっプロポーズ!」
「違うが、同じ時を生きてくれという願いだな」
恋次は、華奢な白哉の体を抱きしめる腕に力をこめてから、触れるだけのキスをした。
「契約、しますよ?あんたと同じ時間を生きれるなら」
「あまり強く抱きしめるな。痛い」
「あ、すんません。俺、けっこう力あるんで」
「恋次なら、あやかしを素手でも殺せそうだな」
「あ、ありますよ?素手で、人を食ったろくろ首殺しました」
「あったのか。冗談のつもりだったのだが」
「祓い屋の稼業上、一族に恨みをもつあやかしもいますからね。自衛として護身術も習ってました。まぁ、俺は式を大量に操れるんで、あんま護身術とか必要ないんすけど」
「私を、ルキアのように式にはしないのか?」
「するわけないっす!ルキアの場合、社会勉強とか言って式になりたがったんで、式にしましたが、白哉さんが想像してるかもしれないような危ない真似はさせてません。白哉さんは、あやかしだけど俺は愛してます。愛してる人を式にしたりできません」
「そうか‥‥‥」
白哉は、恋次に自分から触れるだけのキスをすると、少しだけ笑った。
「明日、契約をしよう。同じ時を生き、死すら同じという。恋次が嫌でなければ」
「嫌なわけないっす。契約します!」
依頼人に、土蜘蛛を倒したことを報告して、報酬金をもらって、異界を通って京楽のマンションまで戻る。
「通行時間短縮できたんで、時間あまってますね。よければ、その、えっと、俺とデートを‥‥‥」
「よいぞ」
「え、まじっすか」
ぱぁぁと、顔を輝かせる恋次の姿があった。
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「京楽、急な依頼を私と恋次で片付けた。いくら浮竹と一緒に旅行だからといって、スマホの電源を切るのをやめろ。私は兄のしりぬぐいをするのはごめんだ」
「え、嘘、土蜘蛛!?人食いのやばいあやかしじゃないの。それを、恋次君と白哉君でやっつけたの?」
「京楽、白哉は強いぞ」
「え、まじで」
「白哉がその気になれば、俺も苦戦する」
「褒めすぎだ、浮竹」
白哉に、恋次の分のお土産も渡すと「渡しに行ってくる」と言って、白哉は35階のベランダから飛び降りて、近くにある恋次の家まで風を操って、飛んでいくのであった。
まだ、パートナー契約はしていないが、近いうちにする予定だった。
京楽あてに、人を殺して食う土蜘蛛の退治依頼がきたのだが、あいにく留守だった。
「土蜘蛛とは‥‥また物騒な。早急に対処せねば、人が食われる」
白哉は、もっていたスマホで、恋次を呼び出した。
恋次は遠くに住んでいたのだが、白哉に会いたくて近くに引っ越してきていた。
祓い屋として有名な名家の跡取りで、恋次は歴代の能力者の中でも極めて優秀な術者だった。
白哉が住んでいる、京楽の家に、合鍵を使って恋次は入っていく。
「白哉さん、どうしたんですか」
とにかく、自分の元に来いとしか言っていなかったので、恋次は嬉しげにしていた。
「土蜘蛛がでて、家族が食われた者からの依頼が、京楽にきていたのだ。だが、京楽は浮竹と一緒に温泉旅行に行ってしまっている。恋次、そなたと私で、代わりに討伐しよう」
「デートのお誘いじゃなかったんすね。でも、土蜘蛛は確かに急いだほうがいいっすね。京楽さんはなんて?」
「あのアホウ、スマホの電源を切っておる。よほど浮竹との旅行を邪魔されたくないらしい。だが、土蜘蛛のような人を食うあやかしは、早めに対処しないと次の犠牲者が出る」
「そうっすね。今回は代理で討伐にいきますか」
「うむ。そのために呼んだのだ」
土蜘蛛が出るという大阪まで、白哉は昔気まぐれに一人旅をしたことがあったので、異界を通ってすぐに到着できた。
恋次が異界で迷い子にならぬように、手をつなごうというと、まるで犬が尻尾をふっているかのように喜んで、こやつに任せて大丈夫だろうかと、心の中で思う。
だが、恋次はすぐれた術者であるのは、白哉にも感じ取れた。
「住所ではここだな」
大阪城公園の近くの団地に、依頼者の家があった。
訪ねてみると、泣きはらした顔の女性が出た。
「ああ、京楽様ですか!」
「いや、朽木白哉という。こっちは術者の阿散井恋次だ」
「京楽様ではない‥‥‥でも、阿散井様といえば、あの阿散井一門のお方ですか!?」
「あってます。土蜘蛛は、いつ誰を襲ったんですか」
「4日前、夫が襲われて食われました。一週間後には、娘を食べにくると言い残して去っていきました」
白哉は、浮竹から教わった桜の術をためす。
桜の花びらを手のひらにのせて、ふっとふくと、桜の花びらは土蜘蛛のいる方角と場所を示した。
「この団地の近くにいるな‥‥‥距離からすると、あの廃工場あたりだろう」
「おし、退治にいきますか、白哉さん!」
「どうか頼みます!夫だけでなく、娘まで失ってしまうと、私は生きていけません」
「任せてください。ばっちり退治して、旦那さんの仇とりますから」
白哉と恋次が、廃工場に向かう。
「あやかしと人の血の匂いがする」
「間違いありません。この廃工場に、土蜘蛛がいますね」
「広いから、探すのが面倒だ‥‥‥」
白哉は、桜の花びらを手のひらに乗せて、ふっと息をふきかけた。
すると、廃工場の奥から、悲鳴が聞こえた。
「ぎゃあああ、桜の花びらが!誰だ、俺の眠りを妨げるのは!」
桜の花びらは、土蜘蛛を襲って、いぶり出してきた。
「白哉さんの力、いろいろすごいっすね」
「浮竹のほうがはるかに上だがな」
土蜘蛛が、白哉と恋次の前に姿を現す。
「貴様らか!むう、そっちは俺と同じあやかしだな」
「人食いの化け物に、同じあやかしだと思われたくない」
「取引をしようではないか。そっちの人間を渡せば、お前に危害を加えない」
「笑止。来たれ、千本桜」
白哉は、大量の桜の花びらから、美しい一本の刀を顕現させた。
「出た、白哉さんの千本桜」
白哉は、これまでも何回か恋次の依頼を手伝って、あやかし退治をしたことがあった。
その時に、千本桜を出した。
浮竹の前でさえ、出したことがないのに、なぜか恋次の前なら出すことができた。
「散れ、千本桜‥‥‥」
「きけけけけ、桜の花びらごときで‥‥‥ぎゃあああああ」
億の数になった桜の花びらは、鋭利な刃物となって土蜘蛛を襲う。
「行け、式たち。土蜘蛛にとどめをさせ!」
恋次が、十数体の式神を召喚して、土蜘蛛にとどめをさしていく。
式の雪女が、つららで土蜘蛛の腹に大穴をあけて、それがとどめになった。
「このまま置いとくと、瘴気が出て小鬼なんかがわいてしまう。水連、浄化を頼む」
「かしこまりました、主」
浄化を得意とするその式は、土蜘蛛の亡骸を塵にして、あたりに飛び散った血痕までも浄化していった。
「恋次、そなたの式は数が多いな。いったい、何体いるのだ?」
白哉の唐突な質問に、恋次は答える。
「35体っすかね。普通の術者がもつ式は2~3。多くても5~10ですね。俺の場合、複数の式を同時に操れます。阿散井家始まって以来の天才だとか言われてますけど、白哉さんのほうががはっきり言って強いっすね。その桜の術‥‥すごいです」
「これは、浮竹に習ったものだ。千本桜は、浮竹にも見せたことがないが」
「俺がはじめてっすか?」
「そうなるな」
恋次は、白哉を抱きしめた。
「俺の記憶の中にも千本桜があります。前世の記憶っすか?」
「そうなるな。緋真には見せたことがあるからな」
「白哉さんは、前の緋真か、生まれ変わりの俺、どちらが好きっすか?」
「そのようなこと‥‥‥‥答えれぬ」
苦しそうな白哉の表情に、恋次は謝った。
「すんません。悩ませるつもりじゃなかったんす」
「私は、恋次、そなたを愛している。恋次が望むのであれば、あやかし退治もするし、必要と感じれば恋次を呼ぶ。こうやって、一緒にいるのも私にとっては大切な時間だ」
「でも、俺は人間だから‥‥‥先にいってしまいますよ?」
「桜の王の浮竹が、京楽と契約を交わしている。私も、そなたと契約を交わそうと思う」
「そ、それっプロポーズ!」
「違うが、同じ時を生きてくれという願いだな」
恋次は、華奢な白哉の体を抱きしめる腕に力をこめてから、触れるだけのキスをした。
「契約、しますよ?あんたと同じ時間を生きれるなら」
「あまり強く抱きしめるな。痛い」
「あ、すんません。俺、けっこう力あるんで」
「恋次なら、あやかしを素手でも殺せそうだな」
「あ、ありますよ?素手で、人を食ったろくろ首殺しました」
「あったのか。冗談のつもりだったのだが」
「祓い屋の稼業上、一族に恨みをもつあやかしもいますからね。自衛として護身術も習ってました。まぁ、俺は式を大量に操れるんで、あんま護身術とか必要ないんすけど」
「私を、ルキアのように式にはしないのか?」
「するわけないっす!ルキアの場合、社会勉強とか言って式になりたがったんで、式にしましたが、白哉さんが想像してるかもしれないような危ない真似はさせてません。白哉さんは、あやかしだけど俺は愛してます。愛してる人を式にしたりできません」
「そうか‥‥‥」
白哉は、恋次に自分から触れるだけのキスをすると、少しだけ笑った。
「明日、契約をしよう。同じ時を生き、死すら同じという。恋次が嫌でなければ」
「嫌なわけないっす。契約します!」
依頼人に、土蜘蛛を倒したことを報告して、報酬金をもらって、異界を通って京楽のマンションまで戻る。
「通行時間短縮できたんで、時間あまってますね。よければ、その、えっと、俺とデートを‥‥‥」
「よいぞ」
「え、まじっすか」
ぱぁぁと、顔を輝かせる恋次の姿があった。
-****************************************
「京楽、急な依頼を私と恋次で片付けた。いくら浮竹と一緒に旅行だからといって、スマホの電源を切るのをやめろ。私は兄のしりぬぐいをするのはごめんだ」
「え、嘘、土蜘蛛!?人食いのやばいあやかしじゃないの。それを、恋次君と白哉君でやっつけたの?」
「京楽、白哉は強いぞ」
「え、まじで」
「白哉がその気になれば、俺も苦戦する」
「褒めすぎだ、浮竹」
白哉に、恋次の分のお土産も渡すと「渡しに行ってくる」と言って、白哉は35階のベランダから飛び降りて、近くにある恋次の家まで風を操って、飛んでいくのであった。
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